財団攻略Wikiミニストーリー集!

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財団攻略Wikiミニストーリー集!

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第1話 憂鬱な昼下がり

「暇じゃあ」
「そうですか」

ある昼過ぎ。アルテミシア学園最上階にある執務室。そのソファに寝転んだ蒐集院が天井を見上げながら独り言を漏らした。話しかけられた張本人である財団は蒐集院に目を向けることなく、手に持ったペンを動かしながらそっけない返事を返す。蒐集院はその姿を黙って睨み付けていたが、数秒の沈黙ののち、再び口を開いた。

「……暇じゃあ!」
「生憎、私は暇ではありませんので」

蒐集院の言葉を受け流し、財団が淡々と答える。

「些細な生徒間のトラブルから施設の破損、果ては教職員の失踪まで──とにかく面倒な案件の報告が絶えないんですよ。先輩もわかるでしょう?」

財団が溜息を吐く。財団のつれない素振りを見た蒐集院は、寝転んだ姿勢から体を起こし、ソファの背に上半身を乗り上げて財団の方へ向き直った。

「仕事ばっかりしとるとそのうち馬鹿になるぞ」
「私も好きで仕事をしているわけではありませんので、休みを頂けるならそうしたいのですがね」
「なら休んだらええじゃろうが」
「誰かさんの引継ぎがしっかりしていればこんなことにはなっていないんですけどね」

う、と蒐集院が小さな声を漏らす。財団はペンを走らせていた手を止めると、一枚の紙を取り上げ、笑みを浮かべた。

「では、そんな暇を持て余している先輩のためにお伺いしますが……こちらの書類について教えてください。私の方には全く情報が来ておらず、困り果てていたのですが」
「んー?ああ、それか。それはじゃな……」

蒐集院は掲げられた資料を覗き込む。資料の内容を目で読みながら、納得したように何度か頷くと、親指を立てながら満面の笑みを浮かべた。

「いい感じにしてくれ!」
「はぁ。どうぞ。先輩はそちらのソファを満喫していてください」

財団が溜息を吐き、書類に目を落とした。それを見た蒐集院が不貞腐れたようにソファに仰向けになる。蒐集院は天井の染みを眺めながら呟く。

「まったく、ワシも悪いが、文句なら財団*ディヴァージの方に言っとくれ。仕事を投げ出して急にいなくなってからに」
「……」
「そんな責任感のないやつではなかったと思うんじゃがの」

蒐集院の小さな言葉に、財団は小さく頷いた。

ペンを走らせる音が室内に響く。しばらく会話のない時間が執務室の中を流れていた。蒐集院は手持ち無沙汰に立ち上がると、背を伸ばしたり腰をひねったりして暇をつぶし始めた。そんな蒐集院の様子を眺めながら書類を手際よく片付けていた財団だったが、ふと引き出しを開けたところでその動きが止まる。唐突に動きの止まった財団の様子を訝しむ蒐集院だったが、財団は引き出しを覗き込んだまま、ぽつりと言葉を口にした。

「先輩、折角ですし、少し一緒に体を動かすことにしましょうか」

その言葉を聞いた蒐集院が顔を明るくした。ソファの背に飛びつき、財団に話しかける。

「ほう!どうする!?トライアスロンか?フルマラソンか!?」
「そこまで時間と体力を消費する者はやりませんよ。そうですね……運動場を使いたいところでしたし、先輩の好きな模擬戦闘演習でもやりましょうか。」
「くぅ!分かっとるのぅ!」

財団の言葉に蒐集院がこぶしを握りこみガッツポーズをする。そのままニヤついた顔で、財団の顔を覗き込む。

「しかし、わしと戦闘訓練なんて無謀なことを言い出すのう?ハンデでもいるか?」
「いいえ、必要ありませんよ。代わりに私が勝ったら一つお願いしたい仕事がありまして」

財団は微笑みを崩さずに言葉を返す。その様子に違和感を抱く蒐集院だったが、運動への高揚感が勝ったのか、上機嫌に財団の頼みを受け入れた。

「ふむ、面倒じゃが一つぐらいなら請け負ってやろう。なんじゃ?」

蒐集院の問いかけに、財団はくしゃくしゃになった一枚の書類を取り出した。その皺を伸ばし、表面を蒐集院に見せて言う。

「この運動場の更衣室とシャワールームの改修申請についてお伺いします」
「なるほど、その程度ならなんとかなると思うが……」

書類を覗き込み、詳細を確認しようとする蒐集院。財団はその顔に書類を突き付けた。

「そうですか。助かります。何せこの書類、申請日が昨年の6月だったもので」

蒐集院が財団の顔を見上げる。財団の顔は笑ったままだったが、その顔には確かに怒りが滲んでいた。

「引き出しの奥の方に挟まっていました。先輩が副議長を務めていた時期ですから、もちろんご存じですよね?」

ずいと顔を近づけてくる財団に対し、蒐集院が身を引き、両手を前に出しながら弁明する。

「ま、待て!今思い出す!今思い出すから!」
「さて、運動場の使用許可は今取りましたから、すぐにでも移動しましょうか」

財団は蒐集院の肩をがっちりと掴む。蒐集院は財団の腕を振りほどこうと体を捩ったが、力を込めた財団からは逃れられなかった。財団は無理やり蒐集院の体をドアの方に向きなおらせると、その体を押して出口の方へと無理やり歩かせた。

「1時間の利用時間なんて"更衣室"で運動着に着替えて、訓練後の汗を"シャワールーム"で流したらすぐ終わってしまいますからね。それではさっさと移動しましょうか。蒐集院先輩?」


第2話 高架橋下のアーティスト

「う~ん、今日もいい出来!」

AWCY?は目の前に書きあがった絵を見てそう口にした。

「やっぱ高架下と言えばグラフィティアートだよね」

AWCY?が絵をかいていたのは一般的なキャンパスではなかった。高架橋の柱や街中の壁。そういった公共の一部が彼女が絵を描く場所だった。この日も彼女は学園のから少し離れた高架橋の柱にスプレーで絵を描いていた。

「こんなに存在感がある建物なのに、表面がコンクリートむき出しなんて華がなさすぎるよね。行政は何考えてるんだろ?」

むしろこんなに華やかにしてるんだから社会貢献みたいなものだよね。とAWCY?が独り言を呟く。手にしたスプレー缶を壁に向けながら、次に描く絵をイメージし、スプレー缶の動きをシミュレーションする。そして何度かその動きを繰り返し、にやりと笑みを浮かべた。

「うんうん、どんどんアイデアが湧いてくる!今日はこの壁全体を一つのアート、いや、何なら向かいの壁まで一つにして大きなアートを……」
「おい、こんなところで何してんだ?」
「あひゃ!?」

突然後ろから聞こえた声に驚いたAWCY?が悲鳴を上げる。おそるおそる後ろを振り返ると、そこにはカオス・インサージェンシーが立っていた。AWCY?は思わず逃げ出そうとしたが、カオス・インサージェンシーにパーカーのフードを掴まれ、その目論見はあえなく失敗する。無理やりに引き留められたAWCY?は喉が締め付けられ、小さな悲鳴を上げた。

「ぐぇっ」
「おいおい逃げんなよ。別にアタシは今何してたのかって聞いただけだろーが」

カオス・インサージェンシーがAWCY?の体を引き寄せる。AWCY?は一瞬たじろぐも、逃亡が無理だと悟り、AWCY?は小さな声でその質問に返答した。

「しゃ、社会貢献、みたいな……?」
「社会貢献だぁ?アタシには壁に落書きしてるようにしか見えねぇけど」
「いやこれはグラフィティ……い、いや。すみません。落書きしてました……」
「ふーん」

AWCY?の返答を聞き、カオス・インサージェンシーは掴んでいたフードを離した。突然の動きにAWCY?は思わず前のめりに倒れこむ。喉の痛みで軽く咳き込みながら立ち上り、カオス・インサージェンシーの動きを警戒するが、意外にも相手は胡坐をかいてその場にに座り込んだ。

驚いてきょとんとした表情を浮かべるAWCY?に、カオス・インサージェンシーが柱の方を顎で示しながら語り掛ける。

「んだよ。描かねぇのか?続き」
「……へ?」
「そのグなんたらートって奴は描かないのかって聞いてんだよ。いちいち質問に対して回答が遅い奴だな」

予想外の言葉にAWCY?の表情が固まる。カオス・インサージェンシーの意図を測りかねたAWCY?がおそるおそる彼女に語りかける。

「ええっと……カオス・インサージェンシー……ちゃんってSCoPの所属じゃなかったっけ……?収容保全派とかの……」
「あぁ?あんな堅苦しいとこもう抜けちまったよ」
「へ、へぇ。そうなんだ」

確か最近、SCoPから脱退者が出て少し話題になっていたはずだ。とAWCY?は思い出す。どうやら彼女がその張本人らしい。

「つーかそもそも、まだあそこにいたとしてお前みたいな小悪党捕まえるほどアタシは暇じゃねぇよ」
「ええと……それはそれで問題な気がするけど」

AWCY?の呟きにカオス・インサージェンシーは鼻を鳴らして返答した。そうして彼女は再び壁の絵の方を見つめる。それ以上相手の方から会話を切り出す様子もなかったので、AWCY?は気まずさを紛らわすために壁の方に向き直った。

「じゃ、じゃあお言葉に甘えまして……」

カオス・インサージェンシーを脇目で伺いながら、AWCY?が絵を描き始める。最初のうちは悩んでいる風を装いながら相手の様子をうかがっているAWCY?だったが、実際に描き始めても、カオス・インサージェンシー全く動く様子がなかった。

描き始めて少し時間が経ってもカオス・インサージェンシーは動き出さない。むしろ、手持ち無沙汰なのか、じっとAWCY?の絵を見ていた。それから少し時間をおいて、突然質問を投げかけてくる

「なぁ。それ描いてんだ?」
「えっと……今日見た夢をモチーフにしたグラフィティ……かな」

AWCY?の言葉にカオス・インサージェンシーがほう、と息を吐く。それから皮肉を浮かべた笑みで笑うと

「なるほど?だからそんな意味不明なのか」

と言った。

「そ、そんなことないよ!こことかわかりやすいんじゃない?」

AWCY?が書いたグラフィティの一部を指さす。カオス・インサージェンシーは身を乗り出して目を細めながらそれを眺めていたが、やがて元の姿勢に戻るとあきれた表情で両手を上に掲げた。

「わかんねぇ。落書きの夢か?」
「ぐっ……ここは人々が戦う様子を……!」
「あー結構。ゲージツの説明ほど頭に入んないものはねぇんだよ」
「ぐぐぐ……」

右手を前に出し、AWCY?の説明を断るカオス・インサージェンシー。自分のアートが理解されず悔しそうに唸るAWCY?だったが、カオス・インサージェンシーが目を閉じ、話を聞こうというそぶりを全く見せないため、泣く泣く再び作業を再開した。文句を言う割にはずっとその場にとどまっているカオスインサージェンシー。いなくなるでもなく、かといってあまり干渉もしてこない時間が5分ほど続く。そこでふと、カオス・インサージェンシーのことについて疑問を抱いたAWCY?が再び彼女に尋ねる。

「えっと……カオス・インサージェンシーちゃんは元々SCoP所属だったんだよね?」
「あぁ。なんか文句でもあんのか?」

ぶっきらぼうにカオス・インサージェンシーが答える。

「そういうわけじゃないんだけど、なんで抜けちゃったのかな~って……」
「あぁ?失礼な奴だな。アタシの初手柄にしてやろうか?」
「つ、捕まえたことなかったんだ……」

脱退前のカオス・インサージェンシーの仕事ぶりを想像し、苦笑いするAWCY?。その様子を見たカオス・インサージェンシーが鼻を鳴らして答える。

「まぁ別に大した理由でもねぇよ。アタシには活動方針合わなかったから抜けた。そんだけだ。部活でもなんでもそんなもんだろ。唯一尊敬した先輩もいなくなっちまったしよ」

憮然とした様子でカオス・インサージェンシーが答える。その答えに対して、AWCY?が続ける。

「じゃあ、そもそもなんでSCoPに?その先輩の影響?」
「いや。つまんねえ理由だよ。オヤジがカタブツでお前も議会に入れって……」

言いかけたところで怪訝な顔をしてカオス・インサージェンシーが怪訝な顔をして口を閉じる。その様子を見て、AWCY?は不思議そうな顔をして首を傾げた。

腕を組み、背中を丸めたカオス・インサージェンシーが呟く。

「おかしいな。アタシにオヤジなんて……」


第3話 商店街の大戦闘!?

「んん~!やっとテスト終わった~!」

ある日の昼下がり、ビビットは学校近くの商店街を歩いていた。ビビットは立ち並ぶ店を覗き込みながら入り口から奥の方へと歩みを進めていく。

「やっぱり早上がりの日と言えば、こうやって街ブラするに限るよね~」

上機嫌に話しながら店を覗き込むビビット。その後ろから落ち着いた声の問いかけが投げかけられる。

「ところでお嬢様、テストの手ごたえの方はいかがでしたか?」
「う……それはその、そこそこ~……みたいな?」
「なるほど、であればこれまでの傾向から言って、赤点の可能性が高いですね。ご愁傷さまです。」
「ま、まだ分かんないから!今回こそは大丈夫なはずだから!」
「大丈夫だった試しはないですね」

冷たく言い放つ彼女にビビットはふくれっ面をしながら言い返す。

「そういうレドゥの方はどうなの!?今回のテストはみんな難しかったって言ってるはずだけど!」
「そうですね……私も"そこそこ"、と言ったところですね」
「ふ、ふーん?私のことばっかり言ってられる立場じゃないみたいだね!」
「まぁ私の"そこそこ"は80点ほどですけどね」
「そ、そんな……」

うなだれて膝をつくビビット。そんな彼女を見下ろしながら、手持ち無沙汰に背中のスナイパーライフルを撫でまわすレドゥは無表情に告げる

「赤点なら来週は補講ですね。念のため、予定はすべてキャンセルしておきます」

手帳を取り出すレドゥにビビットが飛びつく。

「ま、待ってよ!来週はお茶会の予定が……」
「ダメです。キャンセルします」
「何とかなるから!予定のページにバッテンつけようとしないで!」
「いえ、来週の予定欄はすべて白紙……いや、破り捨てます」
「て、手帳ごと持っていかれる……!」

手帳のページを引き裂こうとするレドゥの腕をつかみ、必死に静止するビビット。2人がそんな工房を続けていると、遠くから呼びかけることが聞こえた。

「あれー?ビビっちとレドゥっちじゃん!何してんのー?」

手を振りながら派手な格好をしたギャルが近付いてくる。ビビットはその姿を見て声を上げて助けを求めた。

「い、いいところに……!レドゥ止めるの手伝って!」
「えー?なんかよくわかんないけど、レドゥっちもとりあえずやめてあげたらー?」

第五教会の呼びかけに、レドゥは視線を動かさず答える。

「いえ、お嬢様に主従関係を叩きこんでやらねばいけませんので」
「それ言うとしたら私のやつ!」
「誰が従者か思い知らせてやります」

なおも手帳の攻防を続けるビビットとレドゥ。第五教会はそんな2人に歩み寄る。

「まーまー。よくわかんないけどいったん休戦ってことで!」

第五教会がレドゥの手から手帳を取り上げる。強く掴んでいたはずの手帳をいとも容易く奪われたことにレドゥは一瞬驚きの顔を浮かべるが、すぐに小さくため息をついた。

「……まぁいいでしょう。お嬢様も立場を弁えたことかと思いますので」
「た、助かった……」
「あはは~なんかよくわかんないけど相変わらず2人とも仲いいね~」

あっけらかんとした様子で笑う第五教会。上がった息を整え、大きく深呼吸したビビットは彼女に向きなおって問いかける。

「そういえば、第五教会ちゃんはなんでここに?」
「えー?そういえばなんだっけ?誰かと待ち合わせしてたと思うんだけど」

顎に指を当て、上を向きながら考えこむ第五教会。

「うーん。ビビっちは何だと思う?」
「いや、こっちに聞かれても」
「じゃあレドゥっちは?」
「私に聞かれてもですが」

唸る第五教会をビビットとレドゥが眺める奇妙な時間が続く。2人がどうしようかと顔を見合わせていると──

突如、大きな爆発音が響き渡った。

背後から聞こえた巨大な音にビビットが思わず振り返る。見ると先ほどまであったレストランの1つが爆発によって崩れ落ちていた。顔を引きつらせるビビット。レドゥは彼女の前に躍り出て両手を前に広げる。何が起きたのか、警戒を強める二人だったが、ふとその後ろから第五教会が出来事に不似合いな明るい声を上げた。

「あー!思い出したー!」

崩れた店先。舞う粉塵の中にゆらりと人影が姿を現した。

「せ、石榴倶楽部さん!?」

舞い散る砂ぼこりに咳き込みながら姿を現したのは石榴俱楽部だった。

「そうそう!あの子と待ち合わせしてたんだ!くらぽよ~!何してんの~?」

大声で呑気に語り掛ける第五教会に呆れた様子の石榴俱楽部が返答する。

「こっちのセリフですわ。貴方にはこういうことが起きないようにと鍋の番をお願いしていたはずなのですけれど」
「ごめーん!表でファイブ・ファイブの音楽が流れてたもんでついー!」
「まったく……貴方が私の料理を見に来たいとせがむから、しょうがなく連れてきたのに」

あっけらかんとした返事で悪びれる様子のない第五教会に石榴俱楽部が溜息を吐く。するとその前にレドゥが立ちはだかった。レドゥが石榴倶楽部を睨みつける。

「それで、どんなことをしていればこんな惨事が起きるんですか?」
「あら、ただお料理をしていただけよ?失敗してしまったのだけれどね」

石榴倶楽部がくすりと笑う。その様子にレドゥは一層警戒心を強めるが、むしろ石榴俱楽部はその顔を覗き込むように顔を近づけた。

「そんな怖い顔をしないで頂戴。食べちゃいたいくらいかわいい顔が台無しよ?」
「あなたとそんな関係になるなんて、ぞっとしませんね」
「そういう間柄になりたいって意味ではなかったのだけれど……まぁいいわ。長居できる雰囲気じゃなさそうだしね」

困ったような表情で微笑む石榴俱楽部。その意味深な言葉にレドゥが問いかける。

「──それはどういう……」

突如、レドゥの言葉が終わるより先に、再び爆発音が鳴り響いた。思わず身構えるレドゥとは対照的に、石榴俱楽部は落ち着いて言葉を続ける。

「お店の中でさっきの爆発に巻き込まれちゃった子がいるみたいでね。怒らせちゃったみたいなのよねぇ」

石榴倶楽部が頬に手を当てながら溜息を吐く。

「そ、その爆発に巻き込まれた子は大丈夫なの?」

冷や汗を流しながらビビットが尋ねる。石榴俱楽部はそんな彼女とは対照的に軽い調子で返答した。

「なんか頑丈そうな子だったから、多分大丈夫だと思うけれど」
「な、なんか頑丈そうって……」

事故の重大さを理解していなさそうな石榴俱楽部の返答に、ビビットは戸惑いの声を上げた。その様子を見ていたレドゥはなるほど、と小さく手を叩いてから、ビビットの方を向いた。

「つまり、お嬢様みたいな感じですね」
「うん、大体そんな感じかしら」
「だそうです。よかったですね」
「なんかよくわからないけど急激に馬鹿にされた感じが……!」

頷きあう石榴俱楽部とレドゥ。その様子をビビットが納得いかない表情で眺めていると、不意に第五教会が石榴倶楽部の肩を叩いた。

「いろいろあったみたいだけどさ、とりあえず爆発させちゃったんだし、その子にくらぽよが謝っといたら?」
「だからそうならないように貴方にお願いしたのだけどね?」
「それはごめんって~」

手を合わせて謝る第五教会。その姿を呆れ顔で見つめていた石榴俱楽部だったが、すぐにビビットとレドゥに向きなおって言う。

「というわけで、私たちはお暇させていただくわね。かわいいメイドさん、また会いましょう」

離れていく第五教会と石榴俱楽部を見送ったビビットが呟く。

「……石榴俱楽部さん、あんまり話したことないけどやっぱり変わってるなぁ……」
「ああいう手合いとは関わらないのが吉ですよ」

忠言するレドゥ。それを聞いたビビットは頬を書きながら苦笑いを浮かべる。

「で、どうしようか」
「どうしましょうかね」

2人が困り顔で顔を見合わせていると、ガラガラと瓦礫が動く音がした。音の発生源の方に目を向けると、新たな人影が砂ぼこりの中に姿を現していた。

「あー、大丈夫ですかー?ケガとかしてないですか?」
「……」
「さっきの人はもうどっか行っちゃったし、もう心配いりませんよー!」

ビビットが砂ぼこりの中に立つ人影に大声で問いかける。相手はそれに応じず、ただ現れた姿勢のまま沈黙を保っていた。

「なんか様子が変だよ。やっぱりケガとかしてるんじゃないかな?」
「相手は銃を持っています。もし何か問題が発生しているなら、沈黙せずにこちらに助けを求めるのでは?」
「じゃあそれができないぐらい深刻ってことなのかも!」

そう言ってビビットが手を振りながら相手の方に近づいていく。レドゥはそんな彼女に呆れ顔を浮かべながらも、ゆっくりとその後をついていった。そして歩みを進めるビビットが相手との距離を半分まで詰めたかというところだった。

突如、煙の中から閃光が瞬いた。

「危ない!」

レドゥがビビットを抱きかかえるようにして突き飛ばし、2人の体が石畳の上を転がる。

「大丈夫ですか。お嬢様」

ビビットに覆いかぶさったレドゥが問いかける。

「う、うん。大丈夫。レドゥは?」
「私も大丈夫です」

レドゥはそう答えると、先ほど銃撃してきた相手の方に振り返った。背中に掛けていたスナイパーライフルを手に持ち、砂煙の方に照準を合わせながら告げる。

「先ほども言いましたが、爆発の犯人はもういなくなりましたよ」

少しの静寂ののち、相手が答える。

「その手には乗らない。こんな事件を起こした罪、償ってもらう」

そう言うと相手の姿は煙の奥へと消えていった。その様子を見つめながら、返答を聞いたレドゥが溜息交じりに呟く。

「まったく、なかなかに思い込みの激しい方のようですね」

2人の様子を眺めていたビビットだったが、相手の姿が消えたのを見ると、すぐに体を起こし、膝をついて這いながらレドゥの元へと近寄った。

「は、早く逃げよう!」
「いえ、相手の姿が見えないままでは動く的になるだけです。お嬢様は後ろの屋台に身を隠してください。弾は防げませんが、目くらましにはなるでしょう」

レドゥに促され、ビビットが屋台の裏へと隠れる。少ししてレドゥが付いてこないことに気が付き、物陰から顔を出して叫ぶ。

「レドゥも一緒に隠れて!」
「私はここで牽制を続けます」

ビビットが前を向いたまま答える。そのまましばらく前を見つめていたレドゥだったが、何か言いたげなビビットの雰囲気に気が付いたのか、視線をそらさずに返答した。

「大丈夫です。私も様子をうかがいながら隠れますから」

そう語るレドゥの横顔は、ビビットからは見えなかったがわずかに笑っているように見えた。

衣擦れの音一つしない静寂が辺りを満たす。姿が見えずともにらみ合いを続ける2人。

実時間にすれば短いはずの数十秒。その膠着を切り裂いたのは予想外の乱入者だった。

「砲撃用意!撃て!」

掛け声とともに爆音が鳴り響く。それとほぼ同時に破壊されたレストランから再び爆発が起こった。最初の爆発を超える衝撃が辺りを包み、物陰にいるはずのビビットも思わず体を丸める。

爆撃を行った主が高らかに叫ぶ。

「GOCだ!この一帯で異常にまつわるテロがあったと通報を受けやってきた!」

ビビットが爆撃を行った方へ目を向けると、ホワイトスーツで武装した集団がこちらを向いて立っているのが見えた。その先頭にはGOCが立っている。彼女らの視線はレストランに向けられていた。爆撃を受けたレストランから一人の少女が転がり出てくる。

「居たぞ!事件の首謀者だ!」

GOC率いる軍勢が少女の方へと歩みを進める。その様子を見ていたビビットが声を上げる。

「待って!爆発事件を起こしたのはその子じゃない!」

しかし、GOCの軍勢にはその声は届かない。なおも声を上げようとするビビットに、レドゥが駆け寄る。

「チャンスです。今のうちに私たちも逃げましょう」
「でも!」
「私たちは事件に巻き込まれた単なる被害者です。それにあちらはこちらの言い分も聞かず攻撃してきている。手助けするどおりはないと思いますが」
「でも!」

レドゥの冷静な発言に言葉を詰まらせるビビット。しかし、今にも攻撃を受けそうになっている少女を見て、ビビットは再び言葉を口にする。

「ああやって何も悪くない人が困ってるのに、見捨てるなんて私にはできない!」
「お嬢様!」

駆け出していくビビット。レドゥは深く息を吐くと、フードで顔を隠しながら呟いた。

「まったく、私の主人は底抜けの善人でほとほと困り果てますね」

レドゥが背中に背負ったレールガンを上に向け、勢いよく空に向かって砲撃する。その巨大な発射音でビビットの存在に気付いたGOCに向かい、彼女は大きく名乗りを上げた。


黒の女王のビビット!ここからは私も相手になるよ!困ってる人を見つけたなら──お嬢様、私の射線に入らないでください。邪魔です。


名乗りを遮ったレドゥが無表情に言い放つ。気色ばんだ表情のビビットが大声で反論する。

「い、今いいところだったと思うんだけどぉ!?」
「いいから後ろに下がってください。そんなところにいたら私の格好の的ですよ」
「私じゃなくて相手の方を狙うようにしてね!?」
「前向きに善処させていただきます──

あ、蛇の手のレドゥです」

「そ、それは私の特権のはず……!」

名乗りの妨害にとどまらないレドゥの乱入に、思わず追及を始めるビビットだったが、当の本人は『そういえばまだ所属をはっきりさせていませんでしたので』と涼しげな様子で言葉を返した。

「で、何かしら勝算はあるんですよね?こちらは彼女を入れても3人ですよ」
「そ、その……」

レドゥに問われたビビット気まずそうに答える。

「……お恥ずかしながら、さっきの威嚇射撃でレールガンのエネルギーをだいぶ使ってしまい……」
「は?」

苦笑いするビビット。レドゥは目を細めて彼女を睨むと、冷徹に告げた。

「あの、差し出がましいことを言いますが、早く下がってください」
「それは全部が許される魔法のワードじゃないからね!?」
「チッ、聞き分けの悪い主人ですね」
「また舌打ちした!?」
「ご心配なく、この戦闘音ならお嬢様以外には聞こえていないはずです」
「むしろ一番聞かれちゃいけない相手に聞かれてるんだけど!」

ビビットが悲鳴を上げている間にも、敵の銃撃音は激しくなっていく。本当に誰にも聞かれていませんようにと、ビビットは心の中で願いながら、目の前の戦いの衝撃から逃れようと、慌てて後ろに引き下がった。頭を抱えて走るビビットのすぐ横を弾丸が通過する。

「あの、本当に気を付けてください。当たるところでしたよ」
「もしかして今のって敵じゃなくてこっち!?」
「逃げ惑う時まで私の射線を邪魔しないでください。さっきから差し出がましいですよ」
「完全に主従逆転──!?」

悲鳴をあげるビビットの首根っこを掴み、物陰に飛び込むレドゥ。GOC達の攻撃の様子を伺いながら、隣のレドゥに語りかける。

「とりあえず、エネルギー切れが原因なら、エネルギーさえ貯めればそのレールガンは使えますね?」
「い、一応」
「どのぐらいかかりそうですか?」
「半分は残ってるから……最大限チャージするなら、10分ほどお時間を頂けないかな〜と……」
「……」

レドゥが顎に手を当てて考え込む。少ししたのち、顔を上げてビビットの方を向いた。

「良い考えがあります。5分ほど私が時間を稼ぐので、残りの5分はお嬢様が全ての弾丸を受けきるというのはどうでしょうか」
「絶対に蜂の巣──!」

「……うるさい連中」

ビビットとレドゥが身を隠す瓦礫から少し離れた店の中、最初のGOC達の攻撃を凌ぎ切った彼女は1人小さく呟いた。

「騒がしい奴らはいつ見ても頭に来る」
「まぁまぁ、後ろのも一応味方連中ですよ。女王」

自身のの背後から聞こえた聞き馴染みのある声に少女は振り返る。

「どうも、蛇の手のシアンです。遅くなりました」

これまで姿を見せなかった従者。その相手が笑いながら名乗る姿を見て少女は不満そうに呟いた。

「……遅い。シアン、何やってたの」
「瓦礫の下敷きになってたんですよ。むしろ置いていかないでください」

服についた汚れを落としながらシアンが答える。少女はその様子を眺めながら、シアンに語りかけた。

「ともかく、良いところに来た。あの面倒な頭でっかちなGOCを追い払うのに協力して」
「ああ、それなら向こうの2人組が何やら策を練っているようですけど。乗りますか?」
「……あの2人、信用できそうには見えないけど」
「まぁ自分も同意見です。とはいえ女王も案はないでしょう?」
「……それはそう」

顔を顰めながら答える。その様子を見てシアンは頷いた。

「とはいえ、そんな特別な仕事は必要なさそうです。時間があればなんとかなるそうで」
「……よかった。共闘なんかしたらむしろあっちの方からどうにかしてやりそうだった」
「こっちもなんとか丸く収まりそうで安心ですよ」

──では、自分は自分の方で、と言いながらその場を離れるシアン。少女にとっても想定通りの行動だったのか、その姿を一瞥することすらしない。

「あ、そうそう」

シアンが歩みを止めて振り返る。

「女王はアレ、やらないんです?」
「アレ?」
「ほら、あの2人がやってた名乗るやつですよ」
「……やらない。面倒だから」

そう言って少女はスコープを覗き込み、静かに呟く。


「名前なんて意味がない。私は黒の女王のクロ。私がそれを知っていればそれで十分」


「──では残りの5分はお嬢様が頑張って逃げるというのは……」
「とりあえず一回私を囮にする方向性から離れようか!」
「失礼、ちょっとお邪魔しますよ」

物陰に隠れて言い争いを続けていたビビットとレドゥの元に人影が滑り込んでくる。突然の来訪者に面食らう二人だったが、その顔を確認したレドゥが苦々しい表情で返答する。

「……チッ、あなたですか」
「いやぁ、レドゥさんに好かれていないことは知っていましたが、いきなり舌打ちとは心に来ますね」
「今のはあなたに向けたものではありませんので、ご心配なく」
「それ消去法的に私に向けてない?」

目を見開くビビットとそれを気に留めないレドゥ。2人の様子を苦笑いしながら眺めていたシアンだったが、手を叩いて2人の意識を自分に向けると、話を再開した。

「さて!お喋りはそこまでにして話を戻しましょう。先ほどこちらの女王とも話をしたのですが、自分らもそちらの作戦に乗せていただこうかと思いまして」
「えっ!他の子もいるの!?」
「煙幕の中の彼女も女王の一人でしたか。まぁここにあなたがいるということはそうなんでしょうね」

驚くビビットに対して、レドゥが冷静に答える。2人の反応を見て頷くシアンに対し、レドゥはそれで、と前置きしながら続ける。

「協調と言いますが、こちらには何をさせるつもりですか?」
「先ほどの相談通り、レールガンを最大限貯めていただければ。先ほどの威力を見ましたが、あれぐらい威力があれば戦況は十分に変えられるでしょう」
「なるほど理解しました。ではこっちはこっちでやるので、そちらはそちらで時間を稼いでください」

そう言ってシアンから顔をそらすレドゥ。しかしシアンはそれに動じず、いやいや、と前置きして続ける。

「レドゥさん、人を守りながら戦うのは得意じゃないでしょう?」
「……」
「他人を守りながら10分も耐え凌ぐ自信はあります?」

俯くレドゥ。シアンは続ける。

「自分がそちらの黒の女王を連れて敵の攻撃から守ります。こっちの方が可能性は高いと思いますよ?」
「それは……」

レドゥが隣の方へ目をやる。ビビットは眉にぎゅっと集めると、力強く答えた。

「私なら大丈夫だよ」
「お嬢様……」
「レドゥが否定しないってことは、多分この人も強い人なんでしょ?なら、私は大丈夫だよ」

俯きながら逡巡を顔に浮かべるレドゥ。しかし、少しして顔を上げ、シアンの方へ向きなおる。

「お嬢様に何かあったら容赦しません」
「では、お2人にご承諾いただけたということで」

レドゥの言葉を聞いたシアンが微笑み、ビビットの方へ手を伸ばす。

「では、行きましょうかビビットさん。私があなたを連れて逃げますので、その間にレールガンの充電をお願いします」
「お嬢様に傷一つでも付けたら許しませんので」
「だ、そうです。転んだりしないでくださいね?」
「さ、流石にそんなどんくさくない!……はず!」

ビビットに移動を促すシアン。レドゥは動き出そうとするが、少しだけ迷って、それからレドゥに声をかけた。

「レドゥもケガとかしないように気を付けて!」

そう言うと、2人はレドゥの元から離れていった。2人が見えなるのを確認してから、1人残されたレドゥは小さく呟いた。

「本当に私の気に障ります。あの口調も、……私が出来ないことばかり得意なことも」


ビビットとシアンは近くの路地裏に逃げ込んでいた。行く先を先導するシアンにレドゥが尋ねる。

「周りのお店に逃げ込んだりはしないの?」
「GOCから身を隠すだけならそれも案の1つですが……最初にやられたような大規模砲撃をされてしまったら、逆に逃げ場を失ってしまいますからね」

後ろを歩くビビットの方を振り返りながら、シアンが答える。

「まぁ、いざとなったらそれも視野に入れなければなりませんが、最終的な合流の手間、攻撃場所の確保のことを考えると、今のところは逃走ルートを確保しやすい路地裏にいるのがよいかなと……おっと」

話を続けていたシアンが、突然立ち止まる。不審に思い、その顔を覗き込もうとしたビビットだったが、それより先にシアンが振り返ったため、慌ててその顔を後ろに引いた。

「び、びっくりした……急にどうしたの?」
「いや、こっちの道は少々良くないようです。少し引き返して曲がりましょう」

シアンに促され、隣の細い路地に入る2人。少し進んだところで立ち止まり、シアンが元の道の様子をうかがう。その様子を疑問に思い、ビビットが問いかけようとするが、その動きをシアンが片手で制す。

「なんでこっちに……」
「静かに」

シアンの言葉でビビットが手で口を押える。数十秒後、元居た路地をGOCの部下が走り去っていくのが見えた。

「失礼しました。もう大丈夫ですよ」
「いや、ありがとう。よくわかったね」
「昔から人より感覚が鋭い方でしてね」

シアンが肩をすくめる。その様子を見たビビットが、"昔"という言葉につられて、1つの疑問を浮かべ、シアンに問いかける。

「そういえば、シアンさんってレドゥと知り合いだったみたいだけど何かあったの?」
「シアンで構いませんよ……積極的に話すほど面白い話でもありませんが、隠すほど重要性のある話でもありませんので、言いますが」

そう言ってシアンは続ける。

「とはいえ、特別なことはありませんが。単に同郷というだけですよ」
「へぇ、そうなんだ。レドゥはあんまり昔のこととか話さないし、知らなかった」

ビビットが感嘆する。

「ねぇ、昔のレドゥってどうだったの?」
「どうと言われても。まぁ、昔からあの通り優秀でしたよ。むしろ私の方がよく足を引っ張っていたので、彼女にはよく思われていないみたいですが」

シアンの言葉を聞いたビビットが顎に指を当て、上を向く。

「ふーん?別にそんなこともないと思うけどなぁ。ああ見えて結構優しいし」
「そうですか?さっき舌打ちとかされてましたけど」
「そ、それは実際には違うやつだから……!」
「一番最初のは?」
「まずい秘密が公然に……!」

思わぬ事実に頭を抱えるビビット。それを見て、苦笑いをしながらシアンは続ける。

「冗談ですよ。ま、相性が良くないのは昔からですね。私はこの通り、戦闘が得意とか、そういう目立つ特技があるわけではないですから。ほら、自分は彼女と違ってライフルなんか持ってないでしょ?」
「そうかなぁ、さっきのとかすごかったよ?」
「彼女に比べたら取るに足らない特技ですよ」

そう言ってシアンは笑った。後ろを歩いていたビビットからはその顔はよく見えなかったが、何故だかその表情は少し悲しげに見えた。

「おっと、また引き返しましょう。そこの曲がり角からまたGOCの連中が来そうです」

そう言ってシアンが踵を返す。ビビットは慌ててそのあとをついていった。


「これはもうダメですね」

レドゥはそう呟くと、弾痕で穴だらけになった弾除けのキッチンカーを離脱し、少し後退して別の場所へ移動する。小さな花壇の後ろに滑り込んだレドゥは静かに深呼吸して呼吸を整えた。

「あまり後ろに引きすぎるのは好ましくないですが、仕方ありません」

後ろの方ではビビットが逃げながらレールガンをチャージしているはずだ。GOCの集団も既に裏路地の捜索を始めているだろうが、可能な限りこの大路地で相手の注意を引き付けておく必要がある。

不意にレドゥを狙っていた銃撃の音が止む。レドゥはその一瞬を見逃さず、素早く身を乗り出して相手に標準を定めた。発射音と同時にGOCの一人が倒れる。強化装甲の関節部を破壊された相手は、意識はあるもののうまく立ち上がれないようだ。相手の離脱を確認したレドゥは身を隠し、銃に弾を込める。

再び相手の隙を伺うレドゥ。しかし、その僅か後ろの建物の屋上にGOCの兵士が回り込んでいた。レドゥは焦りからかそれに気づけない。相手がスコープを覗き込み、レドゥに銃口を合わせる。撃鉄を引くわずかな音に気が付いたレドゥが振り返るのと、銃撃音がしたのはほとんど同時だった。

咄嗟に顔を両腕で覆い、目を閉じたレドゥだったが、予想していたはずの衝撃は訪れなかった。恐る恐る目を開けると、少し離れた地面にGOCの兵士が倒れ、唸り声をあげていた。

呆然としてそれを眺めていると、再び銃撃音がした。倒れていた兵士の頭部が跳ね上がり、完全に沈黙する。銃弾は頭部のヘルメットを貫いていなかったが、衝撃を与えて相手を気絶させるには十分だったらしい。

レドゥが銃撃音のした方向を見ると、停められていたトラックの陰からクロがひょっこりと頭を出した。

「私が居なかったら撃たれてた」
「……失礼、助かりました。思っていたより周りが見えているんですね」
「そっちこそ、大きな眼鏡は飾り?」

軽口をたたきあう2人。しかしその会話は長くは続かない。クロを狙った銃弾が身を隠していたトラックのタイヤに直撃し、車体が大きく揺れる。クロが身をかがめ、再びレドゥの視界から消えた。

「あなたのせいで見つかった!」
「隠れてやり過ごそうとしていたところを申し訳ありませんね」
「貸し1つだから、絶対に忘れないで」
「お嬢様を狙った分を帳消しにするにはまだまだ足りないかと」

再び攻撃が激しさを増す。レドゥは見えないクロに呼び掛けた。

「奥の大型装甲は私が何とかします。取り巻きの小さいのを頼めますか」
「いちいち命令しないで。必要なら勝手にやる」
「わかりました。私も自由にやらせてもらいます」

溜息を吐いたレドゥが再び前方の敵を警戒する。不意にクロが「あ」と声を漏らした。脇目でレドゥがいた方を見ると、指だけ遮蔽物から出してレドゥに言った。

「左の赤いの、私からじゃ狙えないから、撃って」
「ご自分で勝手にお願いします」


「あー、まずいですね」

ビビットを先導していたシアンが顎に手を当てて唸る。ビットはその顔を覗き込むようにして前に出た。

「どうかした?」
「いや、ここ一本道じゃないですか」
「うん」
「挟まれてしまいまして」
「それってかなりまずくない……!?」

シアンの言葉を聞き、ビビットが青ざめる。シアンも顔色は変わらないものの、顎に手を当てたまま深く唸っている。

「後方からは30秒後、前方からは60秒ほどで相手と鉢合わせる感じですね」
「ど、どうする!?私全然戦えない……いや、戦えはするけど……あともう少しなのに、ここで一発撃ったらまた溜め直しになっちゃう!」
「自分も戦うのはからっきしなんですよねぇ……」

困り顔で頭を掻くシアン。申し訳なさそうな表情をしながら、ビビットに向きなおって言う。

「ビビットさん……」
「うん」
「4、5発ぐらいだったら、当たっても大丈夫だったりしません?」
「私って基本そういう印象なのかなぁ!?」

無理ですか……と呟くシアン。そのうちに相手の足音がビビットにも聞こえるほどの距離になり、2人は後ろを振り返った。意を決したビビットがレールガンを構え、これから現れるであろう相手を見据えた。

「おー、こんなところにおったんやね。良かったわ見つけられて」

しかし、道の先から出てきたのは意外な人物だった。GOCのパワースーツではなく、学園の制服を着た普通の生徒。しかし戦いが始まって人気のなくなったこの場所には不釣り合いな雰囲気で、笑顔を浮かべながら気さくに話しかけてくる。ビビットが困惑して固まっている中、シアンが口を開く。

「あー、あなたでしたか……少し妙な足音だとは思ったんですが」
「し、知り合い?」
「何故ここに……と言いたいところですが、まぁ、居てもおかしくはないですね」

頭を掻きむしりながらシアンが深くため息を吐く。状況が呑み込めないビビットに対し、相手は手を伸ばし、名前を名乗った。

「ボクの名前はヘビ。ま、よろしくやね。ビビットちゃん」

「え、えっと……私名乗りましたっけ?」
「まぁまぁそんなことはええやん。それより前の方から敵が来るんやろ?逃げた方がええんちゃう?」

ヘビの問いかけにシアンが答える。

「あなたと合流すると後で女王が怖いですが……仕方ないですね」
「よし、ほなビビットちゃんも行こか」
「は、はぁ。分かりました」

ヘビに手を引かれ、レドゥが付いていく。シアンもそれに続いて、路地を後にする。

黙って進んでいく3人だったが、少し進んだところでヘビが口を開いた。

「そういえばボクの足音ってどう変なん?この靴どこでも売ってる既製品やと思うんやけど」


「はははは!撃て撃て!そして進め!」

集団の先頭に立つGOCが高らかに笑う。彼女の歩みはゆっくりではあるが着実に前に進み続けており、自身気な表情も相まってさながら大通りを散歩しているようにも見えた。

「なんなのアイツ。硬すぎ」

クロが忌々しげにつぶやく。GOCは一切の強化装甲を身に着けていないにも関わらず、明らかに強化装甲を身に着けた他の兵士よりも頑丈だった。

「あれ止めて」
「無茶言わないでください。あれが止まるなら、今頃家に帰ってゆっくりしてますよ」

そう言いつつ、クロが何度目かの銃弾をGOCに打ち込む。銃弾は狙い通りにGOCの頭に直撃し、彼女の体が少しバランスを崩した。

「ぐあっ!」
「やった?」
「今のでダメになりました」

目元を抑えたGOCが唸る。

「目が、目が見えない……!」
「大丈夫ですか隊長!」
「ま、まつ毛が、目の中に……!」
「射撃標的の方が穴が開く分可愛げがありますね」
「許さん、許さんぞ……!」

目に涙を浮かべたGOCが足元の何かを取り上げ、2人の方向へ向かって投げつける。幸いというべきか、視界がはっきりとしないGOCの投擲物は二人のはるか後方へと飛んでいき、爆発音を響かせた。後ろを振り返ったレドゥは粉々になった石畳を見て、小さく呟く。

「今投げたのは……」
「見間違えでなければ、ただの石。大丈夫、彼女は爆発物を持っていない」
「なにも安心材料がなかったですよ?」
「文明が滅んでも彼女だけは元気にやりそうね」

クロの返答に青ざめた表情のレドゥが返答する。とはいえ、危機感を感じたのは彼女も同じようで、こめかみには一滴の汗が流れていた。

「手加減はもうやめだ!私が直接相手をしてやろう!お前らは衝撃波に飲まれないよう後ろに下がれ!」
「貴方のせいで怒らせた!例のレールガンはどうなってるの!」
「そっちが撃てと言ったんでしょう!そろそろチャージも終わるころ合いだと思いますが!」
「止めてほしいと頼んだだけで撃てとは言ってないから!」
「位置について……!」

GOCが腰を深くかがめ、クラウチングスタートの姿勢を取る。

「何をする気ですかあの女!」
「多分体当たりのぶちかましでもするんでしょう!あの頑丈さなら合理的!」

GOCの引いた後ろ足が低い音を立て、石畳を削りながら力を溜める。

「用意……!」

GOCの腰が高く上がる。レドゥは次に来る合図と、それに伴うであろう衝撃波を予想し、スナイパーライフルを強く抱いて目を閉じた。


呼吸を荒げながら、暗い階段を駆け上がる。最上階に辿り着いた彼女は、扉を強く両手で叩き、勢いよく光の中へ飛び出した。


「ドォ!」
「ス、ストーーーップ!」
「ン!──ん、んん?」

掛け声とともに勢いよく飛び出そうとしたGOCが静止の声を聞き、その動きを止める。顔に困惑を浮かべた彼女が声の方へ顔を上げると、その先には時計台の屋上で、息を切らしたビビットが立っていた。

「ま、間に合った……!」
「そこの彼女は……一番最初に何やら叫んでいた……」

ビビットは大きく深呼吸して息を整える。

「さっきも言ったけど、その子は爆発事件の犯人じゃないよ!」
「しかしその少女が爆発現場から出てきたのは事実だろう!それに彼女には数多くの余罪もある!」
「そ、そうなの!?」

ビビットがクロの方を見る。クロは黙ってビビットから視線を逸らした。

「あー、えーと……」
「……」
「と、とにかく!今回の件には無関係だよ!それは確実!」
「信用に値しないな!」

ビビットの言葉にGOCが叫び返し、再びクラウチングスタートの姿勢に戻る。

「レディ……セッツ……!」
「やめてくれないなら、やっぱりやるしかない……!」

走り出そうとするGOC、ビビットはレールガンを空高く掲げ、大きな声で叫んだ。


私は黒の女王のビビット!やる時はやるタイプ!ちょっと痛いかもだけど、ごめん!

広場に向けられたレールガンがまばゆい閃光を放ち、あたりを真っ白に染めた。


耳をつんざくような金属音が漸く鳴りやみ、白く染められていた視界が開ける。ビビットは強く閉じていた目を開く。目下の大路地では、多くのGOCの兵士が倒れ、呻き声をあげていた。

「う、上手く行った!?」
「ぐおお、何たる痛み!ボディーブローのようにじわじわと……!」
「あれ!?じわじわもしない一撃必殺的な奴なんだけど!?」

腹を抑えて膝をついたGOCだったが、戦闘不能になるほどのダメージはないようだった。ゆっくりと手をついて立ち上がる。

「他の隊員は倒れてしまったが、ここからは私一人で続けよう!」

GOCが屋上にいるビビットを指さし叫ぶ。慌てた様子のビビットはこめかみに指を当て、必死に思考を巡らす。

「も、もう一回10分チャージして攻撃してみるのはどうかな!?」

レドゥが返答する。

「ナイスアイデアですお嬢様。私もお嬢様にすべての攻撃を耐えてもらう案を再度提案するところでした」
「よし!やっぱなし!」

レドゥの言葉にビビットが素早く言葉を撤回する。とはいえ、他に案があるわけでもない。GOCは今は動いていないが、痛みが収まってくればすぐにでも行動を再開するつもりだろう。ビビットが必死に考えていると、いつの間にかヘビが隣に立っていた。

「なあなあ!今日のところはここで勘弁したってや!みんな悪気があったわけやないと思うんよ。多分やけど」
「貴様……!またお前か!」

屋上の作から身を乗り出したヘビが叫ぶ。その姿に気が付いたGOCは忌々しげに舌打ちした。

「顔馴染みのちょっとしたお願いやん?ちょっと頼むわ」
「毎度毎度現場に現れる不審者め!見知った口をきくな!」
「こんなに顔合わせとるのに?」
「だから勝手に現場に来るな!」

眉間にしわを寄せ、ヘビを怒鳴りつけるGOC。その一方的なにらみ合いは十秒近く続いていたが、背後からの爆音によってそれは中断された。

「なっ──」

GOCが振り返る。ここから遠く離れた街の方で、煙が上がっているのが見えた。

「おー、すごい騒ぎになってるやん」

ヘビが事態に不釣り合いな気楽さで呟く。呆然としていたGOCだったが、通信機の着信音に気づき、我に返る。慌てて通信機を手に取って応答した。

「どうした!?」
「突然街中で爆発テロが!応援を……うわあ!」

通信機の向こうから悲鳴が響く。通信機を見つめているGOCにヘビが語り掛ける。

「そっちに行った方がええんちゃう?ほら、この子らのことは僕が見とるし」
「……」
「それにこっちの方は君以外さっきので壊滅しとるやん。ここに時間をかけるのはあんまり得策やないと思うけど?」

苦々しい表情をしていたGOCだったが、やがて振り返り、味方の兵士たちに指示を出した。

「一時撤退だ!動けるものは負傷者を抱えていけ!」

騒がしく撤退していくGOC達。ビビットはその様子を呆然と眺めていた。

「……はぁ、とりあえず終わりましたね」
「う、うわ!シアンさんいたの!?ってかなんで小脇に!?」
「いやぁ、下で待ってようとしたら連れてこられまして」

突然シアンの声がして驚くビビット。見ると、ヘビに抱えられるようにしてシアンが腕の中に収まっていた。ヘビが笑う。

「いやぁ、だって一人だけこのフィナーレにおらんのはおかしいやん?」
「だとしてもこんな丸太みたいな運搬しますかねぇ……」

シアンがため息交じりに答える。

「お嬢様!大丈夫ですか!」
「私は大丈夫!レドゥの方は……ううん!今降りるから待ってて!」

レドゥに声をかけたビビットが下に降りようと階段の方へ向かう。それを見たヘビは手を上げると、ビビットを呼び止めた。

「ちょい待ち!そんな長い階段降りてたら日暮れるわ。こっちに来な。さっと降りよう」
「はぁ……でもどうやって?」

疑問を浮かべたレドゥがヘビの方に近づいていく。にっこり笑うヘビは手を伸ばすとビビットの体を持ち上げた。

「え?う、うわっ!」

ヘビが地面を蹴って飛び上がる。そのまま柵を越え、3人の体は宙へと飛び出した。次に来るであろう衝撃を想像し、ビビットは目を閉じる。しかし、ヘビの体はふわりと地面に落ち、予想していた衝撃も音もビビットの体には訪れなかった。

「うんうん、やっぱこっちの方が楽でええわ」
「お嬢様!」

声を上げたレドゥが走り寄ってくる。その後ろから、クロも歩きながらゆっくりと近づいてくるのが見えた。ヘビの前に辿り着いたレドゥはライフルをヘビに向けて、ゆっくりと言った。

「お嬢様を離しなさい」
「おおこわ、ボクは何もしとらんよ?」
「いいから離しなさい!」

レドゥの剣幕に押され、苦笑を浮かべたヘビがビビットの体を離す。戸惑っていたビビットだったが、すぐにヘビの元を離れ、レドゥの後ろに身を隠した。

「……あのー、自分も解放してもらってもいいですか?」
「あ、忘れてたわ。ゴメンゴメン」

黙っていたシアンが不意に声を上げる。ヘビは本当にシアンの存在を忘れていたようで、慌ててその体を地面に降ろそうとしたが、その動きをクロが静止した。

「いらない。持って帰って」
「自分は女王の所有物ではないんですが」
「そんなのと仲良くしてるシアンは嫌い」
「ボクも勝手に持って帰ったら怒られてまうわ。ちなみにこの子、何食べるん?」
「トマトが嫌いだから気を付けて」
「そこは好きなもの言いましょうよ。パンとか食べますよ。人間なんで」

その後もシアンの食事内容について話を続けていた3人だったが、その会話にも飽きたのか、途中でヘビがシアンから手を離した。シアンの体が石畳に叩きつけられ、小さく呻き声をあげる。

「いてて、放すなら優しくお願いしますよ……」
「……しょうがない。気が向いたら持って帰る」
「だから自分は女王の所有物ではないんですよ」

立ち上がったシアンが体についた砂を払いながら答える。身軽になったヘビは、銃を向け続けてるレドゥに向きなおると、穏やかな声色で話しかけた。

「で、レドゥちゃんやね。キミも銃を下げてくれると助かるんやけど。そんなもん向けられてたらおっかなくて敵わんわ」

レドゥは微動だにしない。後ろに立ったビビットがレドゥに語り掛ける。

「だ、大丈夫!多分ヘビさんは悪い人じゃないよ!確かに怪しいオーラとかもぷんぷんだけど!私のことも助けてくれたし!」
「ボクってそんなに信用ないん?」

呆れ笑いを浮かべるヘビ。レドゥはすぐそばにいるビビットに向かって小さく呟く。

「こいつはそんな善人じゃありませんよ。こいつの真意はもっと別の……」
「ま、そこんとこはええやん!積もる話は積もらせとこ?」

ヘビがビビットの持っているライフルの重心を手で掴む。傍にいた誰もがその動きに気づくことができず驚愕するが、最も驚いたのは眼前にヘビを捉えていたはずのレドゥだった。

「──ッ!」
「こんな"オモチャ遊び"なんかしてたら『姫』がおかんむりや。ちょっとでいいからボクの顔も立ててくれへん?」

ヘビが銃身を握った手に力を籠める。今にも暴発しそうな一触即発の雰囲気を破ったのは、クロの呟きだった。

「……馬鹿らしい」
「……なんですか?」

全員の視線がクロに向く。彼女は大きくため息を吐くとあきれ顔で続けた。

「お嬢様がどうとか姫がどうとか、本当に馬鹿らしい。人間は所詮一人、各々が好きなようにやればいい。違う?」
「僕はええとして、姫様について語られるのは納得いかんなぁ。てかキミのところは違うん?ずいぶん仲良しに見えるけど」
「私たちはそんな子供がやるような仲良しごっこの関係じゃない。私とシアンは単に利益があるから行動を共にしているだけ」

そう言うとクロは腕をまっすぐあげ、前を指さして言った。

「いうなればそう──オトナの関係」
「女王女王、それだと変な意味になります」

まっすぐ前を見据えて言い切ったクロの言葉をシアンが訂正する。クロは前を見たまま少し黙っていたが、少し調子を取り戻して言い直す。

「冗談で言っただけ。ええと、そう──プライスレスの関係」
「それも変です。女王」
「これはこれで特別に聞こえないこともないですね」
「確かになぁ。オトクな感じがして思わず心が揺さぶられてまうわ」
「た、多分言いたいのはビジネスなんじゃないかな……?」

クロの言葉にそれぞれ自由な言葉を発する面々。間違いを訂正されたクロは少し顔を赤らめるも、不服そうにふくれっ面をして続けた。

「とにかく、変にベタベタするのを見せられるのはうんざり。今日はもうこれでおしまい。シアン、帰ろう」
「はいはい、ご主人様の仰せとあれば」
「私はあなたの所有者じゃない。やめて」
「自分の立場がいまだはっきりしないんですが」

背を向け歩き出すクロと、それについていくシアン。少し歩いたところで、クロが手を上げて言う。

「一応、そこのメイドさんとお嬢様、あと嫌だけどヘビも、今日は助かった。ありがとう」

やがて二人の姿が見えなくなる。ヘビは呆れ顔で溜息を吐くと、握っていたライフルの重心から手を離した。

「なーんかこっちまで毒気抜かれたわ。ま、別に本気ケンカしよ思ってたわけやないし」
「……」
「レドゥちゃんもやろ?"こんなん"でボクに勝とうなんて本気で思っとるわけないもんね?」
「私、は……」

レドゥが呟く。ヘビはその言葉の続きを待っていたが、言葉の続きがレドゥから得られなかったため、しばらくして両手を上げ、笑みを作った。

「ほな、今日はここまでってことで!また会ったらよろしく頼むわ!」
「……」
「アカン!こんな時間や!門限破ったら姫に怒られてまう!」

ヘビが走り去る。その姿が見えなくなったのを見送ったビビットは銃を降ろしているレドゥの肩に触れて語り掛けた。

「ね、ねぇ……」

レドゥの肩は小さく震えていた。ビビットは必死に言葉を紡ぐ。

「あ、ヘビさんはもう行っちゃったから大丈夫だよ!」
「……お嬢様、申し訳ありませんでした」

レドゥが謝罪の言葉を口にする。意図しない返答にビビットは慌てながら返答する。

「な、なんでレドゥの方が謝るの!?私の方が足を引っ張ってばっかりだったし、そもそも全然戦えなくて……」
「私がお嬢様を守るべきなのに……私は何の役にも……」

レドゥが左腕を反対の手でぎゅっと抱き込む。レドゥに返す言葉が見つからず、沈黙するビビットだったが、右手の甲に擦り傷があるのを見つけ、思わずその手を取った。

「わわっ、ケガしてるじゃん!」
「いえ、この程度は……」
「ダメだよ!手当しないと跡になっちゃう!ケガしないようにって私に言ったのはレドゥの方なんだから!」

ビビットがレドゥの手を引き歩き出す。逡巡していたレドゥだったが、そのままビビットに引っ張られるようにして歩き歩き出した。

日が暮れ始める。人がいなくなった商店街には2人の足音だけが響いていた。


第4話 さがしもの

「……ない」

同日の夜中、爆発のあったレストランに戻ったクロは元々キッチンがあったであろう場所に立っていた。瓦礫の山をひっくり返しながら探し物を続けるクロに、シアンがあきれた様子で問いかける。

「女王、まだ探すんですか?」
「探す。せっかくあのヘビが戻ってこないようこうして夜まで待ったんだから」
「はぁ。もう爆発で吹き飛んじゃったんじゃないですか?」
「だとしてもその残骸でいいから手に入れて帰る」

シアンは近くの瓦礫に座ってクロの様子を眺めていた。頬杖をついて面倒臭そうに言葉を発するシアンにクロが命令する。

「シアンも探して」
「はいはい……と言っても、自分は女王が何を探しているかよくわかってないんですが」

シアンの言葉にクロが驚いた顔をする。それに対し、シアンは悪びれもせずに「だって、何も言わずに探し始めたじゃないですか」と答えた。溜息を吐くクロ。シアンに探し物について伝えようとしたその瞬間、横から入ってきた声が彼女の動きを止めた。

「──動かないでください」

冷たい声が動きを制す。2人が後ろを振り返った先にはSMGを構えた財団が立っていた。

「そのまま、銃をおいて手を上げてください」

財団が2人に命令する。シアンは思わず隠し持っていた銃に手をかけようとしたが、それをクロに止められてしまう。

「女王!」
「やめて」
「しかし……」
「いいから!彼女の言うとおりにして」

クロの言葉に従うべきか迷うシアンだったが、やがて諦めたように溜息を吐くと、クロの言葉に従って両手を上げた。

「いい判断ですね。私としても手間が省けて助かります」
「それはどうも。ところであなたは何故ここに?」
「単なる残業ですよ。事件があったのは聞いていましたが、既にGOCが出向いてる場所に行くほど私も余裕がなかったもので。他の仕事を終えた後、念のため通りかかってみたのですが、むしろそれが功を奏したようですね。こうして嫌いなあなたに会えたのですから」

クロの答えに財団が答える。丸腰で銃を突きつけられている状態なのに、クロの表情はむしろ落ち着いたものだった。財団が続ける。

「さて、逃げ惑うあなたを見つけられたのは幸運でした。申し訳ありませんが、私と一緒に来てもらいます」
「その前に、あなたに聞きたいことがある」

焦りを見せないクロの受け答えに財団は違和感を抱いた。しかし、この状況が財団にとって圧倒的に有利であることに変わりはない。財団はあくまで冷静に聞き返す。

「……なんでしょう」
「あなたは何故、私を嫌っているの?」

クロの問いかけに財団が笑みを浮かべながら答える。

「あなたのような危険人物を私が好きになる道理がありますか?」
「それは確かにそう。じゃあ聞き方を変える。あなたは何故私を嫌いなの?」
「わざわざ言うまでもないと思いますが?活動の妨害、押収品の略奪。それから……」
「──そうではなくて!」

意図が分からないといった様子で笑いながら答える財団。クロはその言葉に被せるようにして声を上げた。そして、虚を突かれた財団に畳みかけるようにして再び問いかける。

「そうではなくて、あなたが私を"嫌った"理由は、なに?」
「私があなたを嫌っている理由……?」

財団がクロの言葉を繰り返す。その間もクロは首を後ろに少し傾けながら、財団を見つめ続けていた。財団は小さく呟きながら考える。

「多くの不法行為……いや、彼女が聞きたいのはそうじゃない?嫌う、違う、嫌った理由……他の危険人物ではなく、彼女を嫌った理由……」

思考を続ける財団を静かに見守る2人。財団は困惑した様子だったが、やがて独り言を止めると、静かに銃を下ろした。

「は、はぁ。助かった?」

状況を理解できず困惑するシアン。財団は手に持った銃を見つめながら小さく呟く。

「……なるほど、確かにこれは妙ですね」
「よかった。分かってもらえたみたい。あなたが頭の固い破壊屋じゃなくて助かった」
「確かに、GOCならあなたが手を上げるまでもなく撃たれていたでしょうね」

手を下ろしたクロが振り返り、財団の方へと向き直る。シアンは先ほどまであった緊張感が失われたことについていけず、思わず2人に問いかけた。

「あの、銃を下ろしてもらったことはいいんですが、つまりどういうことなんですかこれは?自分全然理解できてないんですが」
「……確かに、あなたの視点からは理解できない問答でしたね」

納得がいっていない表情のシアンに財団が答える。少し考えてから、クロを指さし答えた。

「端的に言えば、私の記憶の中には彼女のあるべき記憶がありません」
「……は?」
「そして、恐らくはあなたの方がより影響の大きい記憶を失っている。違いますか?」
「その通り」

財団の言葉にクロが静かに頷く。そして、理解できていない様子のシアンに向かって続ける。

「最初に気が付いたのはおそらく偶然。いつかの財団との抗争中、財団を嫌うきっかけになった出来事の記憶がないことに気が付いた」
「……私も同様です。彼女ほど大きな記憶ではありませんが、一番最初に顔を合わせた時の記憶がありません」

財団がシアンに向かって続ける。

「もちろん、私もあらゆる出来事を記憶しているわけではありませんから、偶然なのかもしれません。しかし、クロの女王に指摘されて思い返してみると、その時の記憶だけが完全に抜け落ちているのです」
「私の方はもっと大きな記憶が抜け落ちている。財団との初邂逅……それと同時に、私がここに来た理由、それまでもが思い出せない」

シアンが顎に手を当て、考え込む。

「ここに来た理由、とはなんだか、詩的な表現ですが、そういうことではないんでしょうね」
「おそらく、私がここに来た理由は財団に深く関係している。それがどういうことかはわからないけど」

クロが財団の方を横目で見て言う。

「私は彼女が嫌い。それはいいとしても、その理由が分からないというのは、どうも変」

2人の会話を眺める財団。不服そうな表情をしていたが、やがて決心を固めたのか、銃を仕舞うと2人に向かって言葉を発した。

「……ともかく、あなた方のおかげで何か岩が発生していることに気が付けました。ありがとうございます。とりあえずこの場は見逃しましょう」
「ええと、ありがとうございます」
「もちろん、不法行為のすべてを見逃すというわけではないので、今後怪しい活動があれば話は別ですが」
「見つからないよう気を付ける」
「法を破らないよう気を付けてください」

腕を組んだ財団が眉間に皺を寄せる。クロはその様子を見ると、特に財団の方をこれ以上気にする様子もなく瓦礫の山をあさり始めた。シアンが慌てて近づいてしゃがみ込み、クロに尋ねた。

「えっと……そういえば結局女王は何を探していたんでしたっけ?」
「ヒツジ」
「ヒツジ?」

場に合わない予想外の言葉にシアンが聞き返す。黒は小さく頷くと、言葉をつづけた。

「正確にはアミルスタン、という品種の羊らしい。その脳が私が今探しているもの」
「一応聞きますが、それは合法的なものなんですよね?」
「違法な羊は見たことないし多分そう。多分」

クロのはっきりとしない返答に財団は顔をしかめた。一方、その言葉を聞いて苦々しい顔をしたのはシアンだ。

「脳、ですか……」

瓦礫の山をどかそうとしていたシアンが両手を上げ、動きを止める。

「やっぱり自分はキャンセルで」
「いいからやる」

クロはシアンの右手を掴むと無理やり瓦礫を握らせた。動かず黙っていたシアンだが、溜息を吐いて作業を再開する。

「で、なんでそれが必要なんです?」
「理由によっては厳しい判断をしますよ」

2人の問いかけに、クロは涼しい表情で答える。

「詳しいところは私もよく分かってない。でも、私の目的に役立つもののはず」
「それは一体?」

シアンの問いかけに、クロは目の前に人差し指を突き出して言う。

「曰く、すべての人の夢を生み出す根源」
「夢、ですか。それは何ともロマンチックというか、荒唐無稽というか……」
「まさか、異常事物ということですか?」
「さぁ?私もそれ以上のことは知らない」

あっけにとられた表情のシアンと財団。信じられないといった表情でさらにクロに尋ねる。

「いったいどこの誰がそんな話を……」
「ディヴァージ」
「それは……失踪したSCoPの議長の?」
「そう」
「ディヴァージ先輩が……?」

クロの言葉を聞いた財団が顎に指を当てて考え込む。ゆっくりと記憶の糸を辿っていくが、彼女の頭の中には該当するものは見当たらない。

「……少なくともSCoPでは認知していないものです。あるいは蒐集院先輩ならリストにないものも知っているかもしれませんが……」
「SCoPが全く知らないってことがありますかね?」

疑問を浮かべる2人。クロはその二人には目もくれず、手元の瓦礫をひっくり返しながら答える。

「夢と私の記憶の齟齬、それがどう関係しているかはよくわからない。でも、ディヴァージはそれこそが私に置き大変を解決するカギだといっていた」

クロは、探し物をしていた手を止めると、2人の方を見てはっきりと言った。

「夢から覚めたいなら、アミルスタン羊について知るしかない。いくらいい夢でも、いつかは起きて現実に向き合わないといけないから……だって。なんのことかさっぱり」


第5話 少女の夢

夜10時、ヘビはホテルの一室のソファで、窓から街の様子を眺めていた。月光がヘビの足元を照らす。その膝の上には6歳ぐらいの少女がヘビの膝を枕にして寝ていた。

「おじゃましまーす!」

不意に扉が開かれ、快活な声が部屋に飛び込んでくる。ヘビは後ろを振り返ると、声の主の方を向いて、人差し指を立て口に当てた。

「シーッ、やで。姫が寝とるんやから」
「あーっごめんなさい!声抑えます!」
「もうちょい声抑えてもらえる?君の声はデフォで大きいんよ。第五教会ちゃん」

照れ笑いを浮かべた第五教会がヘビの元へ近づいていく、そしてソファの後ろまでたどり着くと、後ろ側からヘビの膝で寝ている少女の顔を覗き込んだ。

「相変わらずかわいい顔で寝てますねぇ、そちらの女王様は」

ヘビが後ろを振り返り笑う。

「せやろ?まぁ四六時中寝とるんやけど」
「寝る子は育つって言いますからねー」
「運動と食事も大切やけどね。習い事させるなら何がええと思う?」

ヘビの真剣な顔つきの質問に、まぁまぁ。と両手を前に出した第五教会が苦笑いをして少し後ろに下がる。

「しかし……」

短い時間少女の寝顔を眺めていた2人だったが、頬に指をあてた第五教会が不意に呟いた。

「こうして姫ちゃんを見ると、なおのこと信じられませんねぇ。この世界が全部姫ちゃんの夢の中だなんて」

第五教会の言葉にヘビが頷く。

「正直ボクも同じ気持ちやわ。現場にいたから知っとるけど、実感はない」

ヘビが少女の頭を撫でながら続ける。

「父親……あっちの世界ではギアーズって名前やったかな。父親を失ったとある少女は、特別な力を持っていた。少女はまだ幼く、その事実を受け入れられなかった」
「それで夢の世界に逃げ込むうちに、世界を本物の夢で飲み込んでしまった。ですかぁ」
「大筋はそんなところやね。最初は近くにいたお茶会友達を。そして次の瞬間には世界を丸呑みして」

第五教会の合いの手をヘビが肯定する。

「少女が作った世界では、悲劇はない。すべて喜劇に作り替えられる。仲良しの女の子しかいない。いじわるな大人は見えないどこかに行ってしまう」
「そして何より、誰も死なない」

第五教会がヘビを指さし答える。ヘビは笑いながら頷く。

「その通り。姫が一番忌むものがそれやからね。と言っても、もう死ぬってのが何なのか分からんわ。辞書的な意味なら理解できるんやけど」
「正しい世界からしたら、それは歪なことなんでしょうね。まぁ、私からしたら押しが布教できればなんでもいいんですけどね!」

第五教会が笑い、持っていたスマートフォンをヘビの顔に近づける。

「そうそう!この間送った第五イズムの動画見ました?100秒でわかるっていうshort動画のやつ!」
「アレ?見たけどなんも分からんかったわ。意味不明」
「えー?学校のみんなはあれで第五のこと大好きになってくれたんだけどなー」
「仮に目覚めたとして、姫には絶対に見せんといてな?いい予感しないわ」

ヘビが溜息を吐きながら第五教会のスマートフォンを手で払う。第五教会は頬を膨らませて不満げな表情をしていたが、やがて手に持っていた機器をポケットの中にしまい込んだ。

「キミが秘密に協力してくれるからこうして話しているとはいえ、相変わらずキミの考えは理解できんわ。別の生き物と話してるみたいや」
「あはは、でも私も姫ちゃんのことはかわいいって普通に思いますよ?」
「アホぬかすな。1+1を2じゃないって言い張るのは常識以前の問題やろ」
「姫ちゃんのかわいさってこの世の真理だったんですねー?」

ヘビが第五教会を睨みつける。しばらくその表情を保っていたヘビだったが、微笑みを浮かべる彼女には効果がないと判断したのか、呆れ顔をしながら前を向きなおした。

黙るヘビを見た第五教会は静かに失礼しましたと告げると、部屋を出ていこうとした。そんな彼女に、ヘビはそういえば、と言葉を投げかける。

「最後の爆発、キミやろ?」
「はい?何の話ですか?」
「とぼけても無駄……というほど証拠はないわ。でもキミやろ?だってあんまりにタイミングが良すぎるやん」

後ろを向いたヘビが問いかける。一度とぼけて見せた第五教会だったが、意外にもすぐその言葉を肯定した。

「まぁ罪滅ぼし?みたいな感じですよ。ほら、あの事件って私もかかわってたから、その張本人が知らんぷりなのはどうかなー?と」
「どうだか。なんならきっかけの爆発も怪しいもんやけど」
「あれは本当にたまたまですよ~」

第五教会が苦笑いを浮かべる。そんな彼女の様子を見たヘビは、これ以上追及することは無駄だと感じたのか、鼻を鳴らすと前に向きなおった。

「なんでもええけど、キミとボクが協力しとるのはあくまで姫のためってこと忘れんなや?姫になんかあったら覚悟しとき?」
「はいはーい。わかってまーす」

軽い調子で部屋を出ていく第五教会。

再び、部屋には静寂が満たされた。ヘビは静かに寝息を立てる少女の髪を撫でる。

「僕の願いは本当にただ一つ……君がずっと幸せな夢を見続けられること、それだけなんやから」

ヘビが不意に呟く、その呟きは無意識に漏れたもので、ヘビ自身も気づかなかった。

「ホンマ、姫はかわいいなぁ」


第5.5話 羊の脳

ホテルを出て、路地を歩く第五教会は呟く。

「ほんと、ヘビさんは変わらないなぁ。姫ちゃん一筋!って感じ?まぁ実際とんでもなく可愛いもんね」

先ほどの話の内容を反芻しているのか、笑顔で歩く第五教会。しかし不意にその眉間に皺が寄る。カバンから小さなビニール袋を取り出すと、顔の前に持ってきて呟く。

「しかし……一応持って来たりはしたけど、見せなくて正解だったなぁ。これ」

ビニール袋にはピンクのぶよぶよとした肉質の物体が詰められていた。それを指でつつきながら、第五教会は言う。

「アルミスタン羊の脳……いや、本当は"人間"の脳か。いやー、石榴俱楽部ちゃんが手に入れたって聞いたときはびっくりしたなー」

放課後に偶然石榴俱楽部と出会った時の会話を思い出す。

「念のため見せてほしいってお願いして行ってみたら、本物なんだもん。しかも他の子まで来ちゃうし」

石榴倶楽部が鍋番を買って出て脳の監視についたところで、黒の女王のうちの一人が借りていた店に現れた。第五教会は咄嗟に、料理が失敗したふりをして爆発を起こし、相手をかく乱した。その後、飛び散った残骸は夜に現場に戻って回収。ちょうどあの時の黒の女王も戻ってきていたタイミングだったので、危機一髪だった。

「それにしても、これが夢の世界を壊す鍵、かぁ。理屈は何となくわかるけど、どう使うんだろ?」

顎に手を当てて考え込む第五教会。

「というかそれより、この脳はどこから持ってきた奴?この人が死なない世界で」

腕を組んで深く唸る第五教会。しかし、少し考えたところで考えるのをやめ、高らかな声で言う。

「ま、いっか!私は押しが布教できればいいんだし!」

両腕を高くつき上げ、叫ぶ。

「よぉーし!この世界を第五主義でいっぱいにするぞー!」

鼻歌を歌いながらスキップを刻む彼女の姿は、夜の街へと消えていった。



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