昼食

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研究の成果を入力し、エンターキーを押す。四角いモニターに集中していた視界が広がった。椅子をギィ、という音を鳴らせて立ち上がり、両腕を上げて背筋を伸ばす。達成感。壁の時計に目をやると、12時30分を指していた。すなわち、昼休みだ。IDカードが首からぶら下げられているのだけを確認してから、研究室を出た。

サイト-81ABはそれなりに大きい施設だ。たくさんの研究者がここで働き、たくさんのオブジェクトが収容されている。そのため昼時の食堂は混雑しやすい。いつもであれば時間をずらし13時ぐらいに向かうところだが、今日は午前中にかなり頑張ったので、すぐに休憩を取ることにした。いつもより軽い足取りで、サイトの廊下を進む。

やはり、といったところだろうか。食堂には長蛇の、とまではいかないがそこそこの長さの列が形成されていた。いつもの私であればそこで引き返すが、今日の私は特別だ。確固たる意思を持って最後尾に並ぶ。

……やめておくべきだったのかもしれない。並ぶのは確かに退屈であった。暇を潰すすべもないので、しょうがなく仕事のことでも考えようかと思案したとき、前から声がかけられた。

「あれ?田中さんですよね?」

「えぇ、そうですが、って、高橋くんか!久しぶりじゃあないか!」

その声の主はエージェント・高橋であった。以前あるオブジェクトを収容する際に、一緒に仕事をしたことをきっかけにして、交流を深めている人物である。中肉中背の男性で、性格は温厚。

「そうですね、最後に会ったのは多分半年ぐらい前ですかね?」

「半年前!いったい長い間何をしていたんだ?」

私がその空白の期間について飛びつくと、高橋くんは一歩下がって私の隣に立って言った。

「ある要注意団体に潜入してまして。最初はヤバい案件って言われてたんですが、結果は徒労に終わったので、楽な仕事ではありましたね!」

「ちなみにその要注意団体っていうのは?」

え〜、と彼は困ったようにはにかんだ笑顔を見せて、いろんな理由で言えないです、と答えた。セキュリティの問題だろう。当然といえば当然だ。

「そういう田中さんは何されてたんですか?田中さんってキャリア積まれてますし、結構大変なオブジェクト任されたりするんじゃないですか?」

高橋くんに聞き返された私は言葉に詰まる。思い返せば同じようなことの繰り返しだ。新しく発見された低危険度のオブジェクトを研究し、特別収容プロトコルを確立させることをずっと行っている。

「今までと何も変わらないさ。確保、収容、保護!」

「はは、であれば良かったです!」

茶化した返答は、二人の間に笑顔を生んだ。そうだ、変わらないということはこの財団で働く上で、何の悪いことでもない。人間を喰らい尽くすようなモンスターや、世界の根本を変えてしまうかもしれないような異常現象なんてない方がいいに決まっている。私のところにそのような話が舞い込んでこないのは喜ぶべきことであるのだ。少し気が楽になった私は、高橋くんとの会話を楽しんだ。

気づけば、券売機の前までたどり着いていた。私が頼むのは間違いなく日替わり定食。主菜のメニューが毎日変わり、それ以外の品は固定だ。カウンターから渡された皿の上を見ると、カツが乗っていた。子どもっぽいかもしれないが、好きな料理の一つだ。

近くの席を選んで座ると、高橋くんが私の分の水も注いできてくれた。感謝を述べると、いえいえ!と元気な返事をして、彼も向かいの席に座った。なんだか嬉しい気分だ。今日は列に並んで良かったな、と口元を緩ませて思う。それでは手を合わせて。

いただきます。

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