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ニックス・メトカーフ、ASCI所属エージェントによる述懐

オグデンが私に遺書をよこした時のことを思い出す。曰く、娘ももう独り立ちできる歳になったから、思い残すことはもうないという。彼がRIDIAに単身で潜入してからかれこれ20年になるが、彼は毎月の私との文通を最後まで欠かすことはなかった。今思えば、よくムッソリーニ率いるイタリア超常組織の監視網を掻い潜れてこれたものである。

オグデンが遺書を書いた日、 RIDIAを表社会から支配していた彼らが国のドゥーチェは、数万人の祖国の民と共に死んだという。下手人は連合軍の精鋭隊でも、血気盛んなレジスタンスでも、ましてやドイツの裏切りでもない。オグデンによれば、奴の死因は字義通りの天災だった…遥か高くの空中にあった陸地が崩壊し、それが今のコモ湖の辺りへと墜落したのだという。ヒトであるもの、ヒトでないもの、人智の及ぶもの、及ばないもの、全てが折り重なって死んでいた、とオグデンの報告にはある。その中で辛うじて息の残っていた者たちは、進駐した連合軍に同行する各国の超常組織のエージェントにより回収されていったという。

オグデンの遺書と共に、一つの小箱が送られてきた…彼はその中身を「空から落ちた天使より採集した羽」であると書き添えていた。しかし箱の中身は全く空のようであった。私は彼がジョークを使うところをそれまでに見たことはなかったので、何かが隠されていると考えた。兄に相談してみたところ、研究中の非実体反射力場に箱を入れてみることを提案された。試したらビンゴだった…確かに箱の中には1本の白い羽毛が現れたのだった。

恐らくは、オグデンの遺書の情報は全てが真実なのだろう。少なくとも、彼と私とにとっては。彼が私に最後の手紙を送ったあと、どのようにしてこの世を去ったのかは、私は知らない。しかし、彼が実際に天使に触れ、実体を持たないはずの超常生命から素手で羽毛を手に入れたのが真実であるとするのなら、果たして天の上の陸地というものも、過去の伝承や詩に残されるものだけでない、確かな形を持ったものだったのだろうか。今や、それらは永遠に私達の世界と袂を分かたれてしまったのだろうか。オグデン・ギアーズと私の他に誰もその存在を知らない、コモ湖の水に覆われているはずの地域に住んでいた20万の犠牲者は、どこに消えたのだろうか。謎は尽きない。

AO-00290-ITによる述懐

ええ、私に名前はありません。必要とされなかったからです。無数の同胞と、神前に列せられるに値する聖の者たちと共に、私は永遠の花の前に座し、全て神の御心のままに生きてまいりました。

十天に数えられることのない天の存在を、貴方たちはご存知でしょうか。およそ地上の全ては神が創りたもうた箱庭です。しかし、かの御方が創りたもうた全てを平等に愛したのではございません。箱庭に置くことを良しとされなかったものは、天へと留め置かれました。そこは聖なる魂の暮らす世からは切り離された、言うなれば禁忌の地。奇異なる姿形を持つ者たちが乗せられた大地は幾筋もの糸によって吊り下げられ、天国から遠い場所へと堕ろされてゆきました。

ある時、吊るされた天の近くを聖なる物体が通り過ぎました。私たちは神の御心のままに聖なる物を拾い上げ、至高天へと昇らせました。箱の中には、一つの木製の杯が納められていました。神の御子が自らの一部を収めたという聖なる杯を模して作られたと思しきその杯は、やはり聖なる物品でした。故に私たちはそれを永遠の花の前に昇らせることを許しました。しかし、思い返せばこれこそが私たちの犯した唯一の、そして最大の過ちだったのです。

木の杯が不浄なものをその中に湛え始めたのは、私たちが聖杯を得てから暫しの時を経た後でした。私たちは時というものを知らないゆえ、貴方たちの単位で語ることが出来ないことをお許しください。不浄なものはたちまちのうちに杯から溢れ出しました。地獄の亡者達の肉体と見紛うような、赤黒く粘りのある液体でした。およそ聖なるものとは呼べないそれは、永遠の花より下の天上を覆い始めました。私たちは神の御心のままに、不浄の杯を至高天から投げ落とし、吊るされた天の方角へと放逐したのです。私のほかに、少なくない数の同胞が犠牲になりました…汚泥を浴び、翼を失い、天の魂の軽やかさを失い、私たちは杯と共に創り物の天へと落ちました。泥は地上に相応しくない者たちの上へと落ちかかり、神の糸をグズグズと腐り落とし、結果としてもはや吊るされるだけの力を失った世界は…堕天したのです。

O5-1より「管理者」に宛てた私信

SCP-2983-JPの実在性に係る疑義を抱いている職員は数多く存在する。一つ一つの資料は、記載されている内容の信憑性を殆ど有していない、単なる噂話に過ぎないようなものだ。我々はこれらの資料は愚か、それらの記載者の実在すら、確認していない。確認する必要がないからである。

1940年代、世界各国に点在していた小規模な超常存在収集組織は、融合して現在の財団へと移り変わる過渡期にあった。しかし、それら小組織の所属者に、自分の組織の全体像を把握している者は誰一人として存在しなかった。元より秘密主義のオカルト団体たちが、大戦の最中で繰り広げられる敵対勢力の情報奪取から身を守るため、一職員が得られる情報量を組織が機能する最低限までとどめたことが理由の大半を占めていた。そして我々、各組織の指導者達であっても、例外ではなかった。自身の組織がどれほどの構成員を有し、何種類のアノマリーを所持し、そしてそれらの維持に投入可能な資産の総量を如何ほど抱えているのか、それを確実に認識していた指導者は、実のところ居なかったのである。

事実無根の噂話に過ぎないかもしれないSCP-2983-JP-1を、我々がなぜ維持しているか。新規に雇用された職員が最初に必ずこの流言を覚え込まされるのは何故か。それはこの資料が我々の強さの証明として機能するからである。オカルト大戦の全貌を知る人間が居なくとも、オカルト大戦の結果として生まれた我々の組織は、今ここに確かに存在しているからである。財団のルーツを知る人間が居なくとも、信憑性を持たない形とはいえそれらの僅かな断片を残すことができた者たちは存在するからである。見て確認することが出来ずとも、その存在を信じることはできるからである。

1945年の春、我々は確かに神をこの世から追い払った。それが事実として存在し続けるために、我々は自身の過去の武勇伝を残し、それを信仰し、伝奇として霧散することのないように世界に留め続ける必要がある。その標的として選ばれたのが、SCP-2983-JPである。

貴方であれば、超常的因果反転に対して我々が施行している現在の対応に理解を示して頂けると思う。財団の本当の成り立ちを、貴方が我々に話すことを許す日は恐らく来ないであろうということは我々も理解している。しかし、貴方の思考に依ることなく、我々の思考に依ることもなく、我々の組織は生まれ、存続している。財団という実物が、胡乱な流言の群れの存在を逆説的に肯定するのである。

結局は、神は空想上の思考に宿るのではなく、実物を持つ肉体にこそ宿るのであろう。

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