法螺吹き達は吊るされた天の杯を語る

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ヴァスコ・ロマネッリ、元・RIDIA1異常研究部門 管理官の述懐

いいだろう。今までにも色んな奴に何度もしてきた話だがな、お前さんたちにも同じように聞かせてやろう。

時は1942年6月、沢山の同胞たちと共にナポリの地下深くに潜伏していた俺は、軍事部門Divisione Militareからの度重なる督促状を前にして頭を抱えていた。彼等の前線は北アフリカのエルアラメイン、干上がった湿地帯を前にして常勝策の迂回戦術を取れなくなったアフリカ装甲軍が、来たる英国連合軍との正面衝突に向けて少しでも多くの戦術物資を要求していたんだ。しかし、俺の机の上に広げられたアノマリーの総覧は見渡す限り、既に黒のチェックマークで覆い尽くされていた。

天から齎される人智を超えた存在・アノマリーに対し、粛然とした研究者の矜持に拘っていた往年のRIDIAはこの頃にはもうなかった。足掛け20年くらいの世界情勢の目まぐるしい変化のせいですっかり荒れ果てていたんだ。王とドゥーチェ2の名の下に、イタリア中から超常物品がRIDIAの手元に集められ、「研究」という名の分析を済まされた後に適当な戦術的用途のために加工され、国家防衛と勢力拡大の狭間でせめぎ合う現場へと配備されていった。その前線の一つが、イタリア領リビアと英国領エジプト間で1940年から続いていた北アフリカ戦線だったというわけだ。

最初はローマ帝国の再来もかくやという勢いで攻め上がったイタリア軍は、しかし翌年にはイギリスの猛反撃を受けて一転窮地に立たされ、ドイツ帝国のロンメル将軍率いる鋼鉄の騎士団の助けによってどうにか戦線を立て直したという状態だった。敵国のバックに付いているのは英国神秘情報部、エジプトの地に眠る夥しい数の超常物品をむざむざ他国に奪わせることを奴等が決して容認しないのは考えるまでもなく当然のことだ。常勝将軍ロンメルの手腕を持ってしても、人理を外れた攻撃にまともに晒されれば無事では済まないだろう。それで、前線の陸軍部隊を支援するために、RIDIAで最も強大な軍事部門は他のディヴィジオーネに対して一刻も早いアノマリー兵器の投入を強要していた、というわけさ。ま、問題だったのはその強要に対する「適切な対応」は今までにもう何度も取られてきてたはずだって点だな。

俺はひとしきり悪態をつきながら、せめて俺の顔を立たせられる策はないか、どうにか余り物に見えない物品を送りつけられないか考えに考えた。読める欄が残り少なくなってきたアノマリー便覧をもう一度隅から隅まで読んで、俺はようやく次に前線へ投入する異常物品を発見することができた。“オブスクラ軍団”、この頃には非公認になっていたドイツの超常組織が、パリから奪取したものだと記した上で数点のアイテムを送りつけてきていたのだ。これを俺たちからの寄贈品だということにしてやろう。アーネンエルベの超常活動成績は色々な意味で目覚ましかったにしろ、当のヒトラー総統閣下はその手の分野にはあまり口煩く突っ込まないと聞いていたし、ましてや本国から離れたアフリカ戦線の兵士たちがこれらのアイテムの真の出自に気付くとも思えなかったからな。

だがな。オブスクラ軍団が送ってきたアイテムには明らかな軍事利用の痕があったばかりか、そのエネルギーを引き出す詳細な手段すらも併せて俺たちに寄越していたんだ。信仰を具現化させる炉とかいうのは機構を見たところ確かにまともに動作しているようだったし、試運転した限りでは出力も兵器として十分に見えた。となるとだ。軍団はなぜこれを手放すことを選択したんだろうな?彼等の手にはこのレベルの兵器は既に溢れんばかりに満たされているということか、それとも他の理由があったのか。オブスクラの手稿に記されている少しばかり精気の欠けた筆跡を思い返しながら、俺は静かに木製の杯を所定の場所へ送る作業へ移ったのさ。


フェリーチェ・マラスピーナ、元・RIDIA軍事部門 輸送官の述懐

忘れもしない1942年の7月初頭、私はフィレンツェ郊外の嵐の空ボーラを北西に向かって飛んでいた。行先は第三帝国ドイツのエルディング、アーネンエルベからRIDIAに対して要求された所定の物資を届けるのが私のその日の任務だった。当時のイタリア空軍は既に斜陽、正規軍にしろ超常組織間の構想にしろ、大局で生き残るためには帝国の高配を仰ぐのが適切な手段だったのだ。ヴァスコにはいつも謝っていることだが、お前に無理を言って送ってもらった超常聖杯は、エルアラメインで壊滅の憂き目にあった前線兵力に届くことはなかったのだ。そして、私の本当の目的地であったドイツ本土にすらも、な。

それは予定された飛行ルートの半ばを過ぎた時に始まった。停滞する黒雲に覆われた空模様の中に、遽に天から光の帳が降りてきたかのように見えたのが最初だ。眩い大気の束は私の進路を僅かに逸れた位置に現れたようだったので、私はそれを無視して先を急いだ。次に私の目に映ったのは、光の中にぽつり、ぽつりと現れ始めた点のように小さい黒影だった。ちょうど、窓の桟に止まった羽虫のような…ああ、もちろん知っているとも、いま私たちがいる部屋には一匹の邪魔な虫も居ない、見事なセキュリティだ。それで、黒影はたちまちのうちに数を増していった。それら一つ一つが何枚もの鳥の翼を一つに集めたかのような歪んだ姿形を有していることを認識するまで、そう時間は掛からなかったな。

さて、私は後年まで語り草にするような明らかな異常事態の出現に気がつくことなく…いや、正確には気がついていたにもかかわらず、だな…正しい荷物の受け渡しを完遂させることを優先して飛行を続けた。そうこうしているうちに嵐は凄まじく足早に過ぎ去り、辺りは却って少しの風も吹かない穏やかな空に早変わりした。そしてそこには、私と共に空を駆けるギブリ3よりも更に遥かな高みから、ワイヤーに見える細い何かが大量に垂れ下げられているのが見えた。位置が近過ぎた…私はそのワイヤーの群の中に突っ込んだ。さながら劇場の舞台の天井裏のような、作り物の世界をぶら下げる糸だ。そして私は翼を切断された愛機と共に、そしてかつてのRIDIA本部…いま私たちがいる場所…から託された聖なる木杯と共に、明らかに地上ではない世界へと落下していったのだ。今思い返しても不思議に思うのだが、不時着の態勢をとったときの私は死の恐怖というものを全く覚えなかった。まるで夢の中の話だと思ったのか?それとも、私を迎え入れる世界が未知でも何でもない慣れっこの場所だとでも感じたのだろうか?今となっては分からない。ともかく確実なのは、私がこうしてこの体験を生きて語れているという、ごく単純な事実だ。

結論から言うと、私は見知らぬ土地の地面に激突することはなかった。先ほど軽く触れた鳥の翼の塊の群れが素早く私とギブリを取り巻き、落下する飛行機の胴体を支え、吊るされた天の土地へと静かに軟着陸させたのだ。ひとまず墜落死は避けられた私だったが、コクピットから外を見渡すと何やら鳥の塊たちに囲まれているではないか…ああ、済まない、決して君の容姿を貶しているわけじゃない。この時のことは後で君からも話しておくれよ…さて、その鳥の塊というのはどうということはない、それらは天使Angeliだったのだよ。由緒正しきトスカーナの言葉で流暢に挨拶をしてくれたのが、いま私の横にいる…うむ…君はいつになったら名前を教えてくれるんだ?…とにかく1体の天使だ。貴方たちが彼をAO-00290-ITと呼んでいるのは知っているが、生憎私も彼自身の名前をそれ以外に知らないんだ。まあ、千の千倍ともいう天使の群の中のたった一人だ、名前を貰っていなくても仕方なかったのだろう。

さて、私とヴァスコの話だけで貴方たちにこの出来事を真実だと思ってもらうのが難しいことはよく理解しているつもりだ。この話の続きは翼の友人から聞いてやってはくれないか…証人は多ければ多いほど良いだろう。


AO-00290-IT、1945年9月13日にフィレンツェ郊外の森林で発見されたAnomalousオブジェクトの述懐


[下書きここまで]
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tale-jp チームコン20 聖杯を仰ぐ翳 ridia

プロット

①後年から第七次オカルト大戦中のRIDIAの様子を振り返っているという前置き。トーカーは酒飲みで、酒によって昔を思い出そうとしている

②1942年6月26日、エルアラメインの戦いに備えるという名目でドイツ軍にRIDIAのアノマリーが再三に渡って接収される。最後の方で苦し紛れに送られたのが、パリからオブスクラが回収していた「サンジェルマンの聖杯」を使った炉である

③RIDIAの軍事部門が空路で聖杯をドイツへと運んでいる最中、異常な攻撃を受ける。行き先は「吊るされた天」、かの神曲にも綴られた奇妙な生物がひしめく地。天使とも悪魔ともつかぬ勢力からの攻撃を掻い潜りながら進んでいく輸送機だが最終的には聖杯を奪われてしまう

④天界遥か高く、永遠の花がある地に聖杯が返される。聖なるもの須く昇天すべし。しかしこれが「サンジェルマンの聖杯」だったせいで、後に天界そのものを揺るがす大事件につながっていくことを天使たちはまだ知らない

⑤振り返りの場面に戻る。天使の非実在は当然のことだが、しかしこれらの事件は確かにあった…今では酒の力によってしか想起できない、朧げな記憶にのみ残されて。天使は何処に消えたのか?それはまた別の機会に明かすとしよう。

  • ギブリ:輸送/爆撃機 カプロニ社製 スタジオジブリの語源
  • 吊るされた天:SCP-014-IT参照 神曲の異常なコピーの最終盤に記されている、既知のオブジェクトが多数暮らす世界
  • 北アフリカ戦線の話をしようとしているけど現場は出てこない。聖杯はイタリアから一旦ドイツ国内に持ち込まれそこから戦線へ送られる予定であった(がフィレンツェ郊外の『天国』で紛失)。

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