ルドルフ・ヘスの遺産

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karkaroff 2023/02/10 (土) 17:29:11 #72416532


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Mihail Kogălniceanu:1941

そういえばしばらく前になるんだがドナウ川が干上がって二次大戦の頃に沈んだ船がいくつも出てきたっていう話覚えているか?水分不足とか異常気象でひどいことになってた時期の話さ。仕事であそこの船を調べる羽目になったので行ってきたんだがお前らも大好きなナチスのお宝についての情報があったから共有したいと思う。

どのくらいのお宝がどんだけあるか分からないし、実際にあるかどうかもわからないから陰謀論とかオカルトじみた与太話の一つになってしまうのだが聞いてほしい。

ドナウ川に沈んだモニター艦にルーマニア軍のミハイル・コガルニセアヌっていう船があった。これ自体は120㎜砲をいくらか積んだ川と海の両用で100人ぐらいが乗り込む小型艦艇なんだがドナウ川を移動できる船ってことで1940年代に重宝されてあちこちの支援に駆り出されて1944年までこき使われたのさ。

この船はルーマニアがソビエトと休戦した『翌日』にドイツの将校なんかがルーマニアから離脱しているところを空爆を食らって沈められたって記録はあったのだが正確な地点を記録していなかったせいでドナウ川が干上がって船が露出するまで延々とその行方が分からなくなっていた。

それが今回の川の露出で発見されたわけなんだが、どうにも誘爆した痕跡なんかがなかったらしくて船にまだ爆薬や弾薬が残されている可能性があったっていうのでうちの会社のセルビア法人が爆薬の回収や調査のために依頼を受けて乗り込むことになった。

よくあるってわけじゃないが別に変わった仕事でもないしおかしな事もなかったから最初のメンバーは軽い気持ちで船に乗り込んだらしい。

そして……面白いものを見つけてきた。見つかったのは隔離されたおかげか浸水を免れた艦長室に眠るナチスの暗号の束だった。そして面白いことに面白いおまけがついていた……トゥーレ協会に所属していたらしき誰かさんのマミーが一つ、朽ちた体をそのままに眠りについていた。

karkaroff 2023/02/10 (土) 18:04:44 #72416532


この時代のナチス、特にトゥーレ協会っていうのは非常に重要な意味があった。
ナチスのお宝にお前たちも大好きなアーティファクトの『聖杯』、魔女にドルイドにオカルティスト、そういうあらゆる胡乱な奴らが集まってアーリア人がどうとか、神秘がどうとか研究していた当時の研究機関がトゥーレ協会だ。

トレジャーハンターなら奴らがかき集めた聖遺物のありかに沸き立つし、宗教家や政治家どもは失われた美術品だの、歴史的な価値のある様々な資料に色んな価値を見出す。特にナチスがユダヤ人からかき集めた金についての所在が出てくれば諜報機関が出てくるほどだ。

それでうちの部署が呼び出された。こんな面白いネタを横取りされたくなかったのもあるが、結局のところ、それを持ち出すにはセルビア政府の目を盗む必要があって、信用のおける”外国人”が必要になったからだ。

それで私は川がまだ干上がっているうちにはるばる飛行機でセルビアくんだりまで行ってあの船に乗り込むことになった。なってしまったんだ……

karkaroff 2023/02/10 (土) 18:24:11 #72416532


セルビアの空港について久々に飛行機から降りたって感じたのは日本の夏みたいなじめっとした、汗が張り付くような暑さだった。わざわざ日本のサラリーマン風の格好をして、アタッシュケースをもって、銃の一丁も携行せずに真夏の東京で会社に通勤するようなノリであの船に乗り込む羽目になった。

美しく青きドナウとまで評されてオーストリアの国家にもなる雄大な大河は見るはてもなくなっていて、わずかに戻りつつある川の最中に傾いた状態で鎮座する錆だらけのモニター艦はサイレントヒルにでも自分が迷い込んだみたいな嫌なものを脳裏に浮かべさせるには十分だった。

セルビア人から見たらサラリマンが地獄に引き込まれるようで、滑稽な様子だっただろうが、私はさっさと帰りたい一心で急ぎ足で船に乗り込んでいった。

karkaroff 2023/02/10 (土) 18:35:53 #72416532


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First one

船の中は思った以上にひどい世界だった。80年誰も足を踏み入れることがなかった船内は錆に侵食されきっていてあちこち穴だらけのぼろぼろだった。歩けばギシギシと音を立て、気を付けていても足場が抜ける。下手に落ちたり、はまり込んだらけがは必須なので、他のスタッフと一緒にゆっくりと目標の部屋へと歩いて行った。

全てが崩れかけていて、今にも忘却の彼方に消え去ってしまいそうな船の中を嫌な予感を感じながら進んでいく、多分10分もたたないうちに目標の船長室にたどり着いた。そこは、錆び切ったバルブの扉が中途半端に開かれており、中はなぜかまるで当時の時をそのまま封じ込めた船長室が当時の雰囲気そのままで広がっていた。床に散らばった書類、かぎの掛かったケース、椅子に座ったままこと切れた、壁にもたれかかるカバンを抱えたミイラなんというべきか、終わったその時を、そのままにして封じ込めたようなそんな部屋だった。

何かこう、すごく嫌な感じがした。第六感がこの部屋からさっさと出て何の影響もない国外にさっさと出国しちまえって言っているようだった。しかし仕事としてはこの部屋から書類をさらっていく必要がある。それも会社の資産状況を考えればがっつり金になるような情報を精査していく必要があった。

今は国外への身売りがあったから若干ましだったが当時は戦争でカツカツだった。少なくとも巻き返すだけの金が手に入るアテがあるなら是が非でも材料が欲しい時期だった。
我々はそれこそファラオの墓をあさる盗掘者のように彼らの遺品や書類をあさった。

そして、あれを見た。それは木製の箱に収められた数枚の羊皮紙、それに1枚の写真だった。

karkaroff 2023/02/10 (土) 18:47:02 #72416532


箱に収まった最初の1枚は何か、多分ニーベルングの堕落について……なにかの終わりを示唆する特に意味を見出せないものであった。それについてはいい、内容はおおよそ現代の言語で書かれていたことを考えれば警告か、解説か、この先の書類を示す表紙のようなものなんじゃないかと思っている。

問題はその先だ、書かれていたのは物語であった。要約をするとはるか昔、十字軍がキリストの血を受けた聖杯を見つけたが、その聖杯は汚染されていた。だからドナウ川の何処かでそれを清めて正常な聖杯の権能を再び取り戻す事にした。そして、それは恐らくうまくいったらしい。だが、それに伴って聖杯を汚染していた何かが分離されて大地に染み付いたらしい。そしてそれは、いつか何かをきっかけに噴出してくるらしい、だから備えろ。

そういう話だった。それだけなら、大したことがない与太話だろう。よくあるオカルティストが十字軍の略奪記録に自分たちの解釈を付け加えただけなんだと、笑い飛ばすことができた。しかし、羊皮紙と一緒に収められていた幾枚かの写真が、その与太話に嫌な説得力を与えていた。

1枚は1916年の日付とドナウ・デルタと記載された不明瞭な写真だった。地面から突き出したナツメ・ウナギのような何かが一人の兵士を地面に引きずり込もうとしている写真。質の悪い特撮のようなのに、まるで本当にその怪物が存在するかのような存在感があった。

1枚は1940年11月10日、ルーマニア、ヴランチャと書かれた写真だった。崩れて崩壊した建物が続く街の様子……その廃墟のあちこちから巻き髭のような細い何かが突き出しているのが分かる。まるで地下にいる何かが餌を巻き取ろうとしているようなそんな印象があった。

最期の1枚はあの、ルドルフ・ヘスが何処かの洞窟でSSの連中と箱に収められた何かを封印する様子だ。
無駄に幾重にも鎖がまかれた棺を埋めている様子が映っており、こんなことが書いてあった。

聖杯の雫こぼれた地、ドナウを支える汚れた地
トゥーレの残り火を埋める

箱に収まった資料はそれですべてだった。

karkaroff 2023/02/10 (土) 19:25:54 #72416532


普段なら笑い飛ばしてさっさと資料を持ち出して上層部に報告して終わり。
そういう仕事になるはずで、少なくとも今まではそうだった。

ナチスが厳重に封印して埋めるような何かだ、副葬品としてお宝か何かが一緒に埋まっていれば御の字だし、この部屋で見つかった情報と合わせればそれらしい地点を絞り込めるだろう、だから上層部のご機嫌伺いをして情報性差が出来たら発掘チームを送って会社の利益を確保する。

それで部署には実績が、会社にはほどほどの利益が出てWinWinになる、そういうはずだった。
だが何か気になった……こう、このお宝は見つけちゃいけない気がしたんだ、だが重ねて言うが会社は金を必要としていた。私は、この部屋にあった資料をカバンに詰め込んで、詰め込んで……そしてその懸念をそのままに仕事だからって上層部にすべてを報告した。上層部はルドルフ・ヘスとトゥーレ協会の宝だって、喜び勇んで情報を調べ、人をかき集めて調査隊を組織した。

そして、そして去年の12月、情報を分析し終わった別部署のやつらがドナウデルタに飛んだ。

誰一人戻らなかった。探しに行ったやつらも、不審に思った現地の捜査隊も、誰一人戻ることはなかった。

karkaroff 2023/02/10 (土) 19:33:51 #72416532


上層部はこの話を握りつぶすことにした。上司の一人がインフラ部門に左遷させられ、私は別の調査案件に部署ごと割り当てられてセルビアでは何も見つからなかった。そういう事になった。私は恐らく見逃されたのだと思っていたが社内の立ち位置が日に日に悪くなっているのを感じる。おそらく、私が他の業務に飛ばされたら、このことを知る人間はもう、二度と表れないだろう。だからお前らに頼みがある。

あの、ドナウ・デルタには起こしちゃいけない何がいる……もしくは何か信じられないものが眠ってる。人を狂わす美術品かもしれないし、人類の歴史を伝える聖遺物か、はたまたナチスが黄金を隠していたっていうだけなのかもしれない。だが、私が見つけたあれはそういうものではないような気がしてならない。何かをこの世界に解き放ってしまったような、そんな気がしてならないんだ。

誰か、このトピックを見てドナウ・デルタで探し物をしたいっていうクソ・トレジャーハンターでもいるなら頼みがある。もしも、その封印された何かにまつわる情報があったら教えてほしい。誰かが、あそこにあるナニカを永遠に封印しなおさなくちゃいけない、そう思うんだ。

荒唐無稽な話なのは分かってる。だが、もしもだれか協力してくれるロマン野郎がいたら連絡をくれ。
あのナニカについての情報はこの部屋で永遠に秘められたまま朽ちていくべきだった。

この事象の時を、止めに行かなきゃならない。

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