叫ぶ鷲と暗闇へ 後編
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視点を変えれば不可能が可能になる


それはバックラッシュの応酬だった。代償に代償を重ね押し付けあうことでお互いを攻撃する太古の魔術戦。鉛の雨を浴びせ、鉄の制圧を行う遥か昔から行われていた魔術師たちの戦いがそこで行われていた。空間がさく裂し、凍結し、破砕する。今の代償を操作し臨んだ結果をぶつける奇蹟術の前身となった魔術の戦い……私は、少なくとも私はその戦いをそこで初めて見た。


1944年6月6日 ノルマンディー サント=メール=エグリーズ ウォーターズ OWI 調整官/中尉

戦闘が終わった後、我々は農場のバリケードを立て直し、セント=メール=エグリーズにようやく到達した陸軍の補給隊から補給を受けて農場に落ち着いていた。我々を助けてくれた連中は我々が弾薬を補給し、奇跡術を行使するための触媒と爆発物を調達している間に聖痕野郎の死体を焼き、集めた灰をバックラッシュか何かでこの世から永久に葬り去った。

穴だらけの聖痕野郎をぶちのめしたのは合流するはずだったレジスタンスの奴らだった。魔術結社、連合のオカルトイニシアチブに所属する一派で薔薇十字弾、いわゆる俺たちが探す聖杯の基礎を作った連中らしい。何百年も前にそれをやったっていうのだから大したものだ。リーダーはエディット・シモン、錬金術師とウィッチクラフトの専門家でカリオストロ伯爵の系譜に属するとか話していた。なんでも本来俺たちと合流する奴らがSSにブロックごと灰にされたから引き継いで駆け付けたという事らしい。私は死体を葬って一息ついていた整った顔立ちの青い目の魔女に肩をすくめながら話しかけた。

「それで、勇猛な魔法使いに率いられた騎士団様は我々を何処へ導いてくれるんだ?おとぎの国か?」

「ええ、聖杯のまがい物を作ってエネルギーを捻りだしてくるアーネンエルベのお城へ招待してあげる。」

エディットは顔がすっぽり隠せそうな帽子を弄りながら軽い調子で私に言う。少なくともSS2個小隊が詰める古い屋敷が近くにあり、アーネンエルベの魔術師を含む魔術戦力がここで聖杯の移送準備をしている……らしい。

ド・ゴールみたいな愛国心が振り切ってる奴は信用に足るとは思っているが……

「それで、2個小隊60人をどうやってぶちのめすんだ?俺たちは10名の軽歩兵とレジスタンス20人少し、航空支援なし、砲支援なし、行けるか?」

「いいえ、違うわ。10人の稀人と20人の騎士団、支援術式あり、霊脈確保済。優勢なのは私たちね。」

「それならお手並み拝見……といこうか、古臭い騎士団のやり方っていうのを見せてもらう。」


5時間後


我々はレジスタンスのトラックに分乗してカポネ近郊のワイン畑に移動していた。目標となる屋敷は簡易的な要塞とも言えるようなありさまで2つの機関銃陣地と1門のPaK361によって現状に防御されており、2階建ての窓には銃眼のようにバリケードが積んであるように見えた。我々はワイン畑の外れ、崩れかけた納屋の中で蝋燭の小さな明かりを頼りに打ち合わせを行った。ゆらゆらと揺れる明かりが私の不安を表しているように見え、作戦前だというのに気分は萎えるばかりだった。

「おい、本当に大丈夫なのか?機関銃陣地に砲、あの様子じゃハーフトラック位はありそうだぞ。」

「たかが、対戦車砲と機関銃陣地でしょう?こっちは第6次オカルト大戦仕込みの騎士団よ、この程度なら問題ないわ。」

魔術刻印が刻まれた58口径のマスケットに”弾丸”を装填するエディットに呆れ顔で聞いてみると彼女は意外そうな顔で言い返してくる。私はラングドンとリンチに一個分隊ずつ任せて攻撃位置を指示しレジスタンスの

「私と部下のリンチはあくまで諜報員の為の仕込みしかされてないにわか仕込みの奇跡術使い手でね、他の101の空挺兵も最低限の知識はあってもどちらかというと狙撃や砲撃で防御を抜く方法は知っていても専門家には程遠いんだ、どうやって攻撃するか指南いただけるかい?本来は戦術担当のお抱え魔術師が同行するはずだったんだが降下ののちにはぐれたままなのさ。」

「そうなの?てっきりあなたがアメリカのウィザード様だと思ってたのだけどね。あなたのライフルに巻いてあるそれ、聖骸布でしょ?模造品か本物かはわからないけど私の眼鏡ごしに微かだけどオーラが放射されているのがわかるわよ?」

「培養品だ、簡単な空中歩行と貫通術式が埋め込まれている以外は大して役に立たない代物だよ。リンチは破壊用に別のものを持ってるがTNTを使うのとどっこいさ。」

M1カービンの聖骸布に編み込まれた魔術刻印を見せながら出来ることを手短に説明する。どうせにわか仕込みの魔術使いだ、隠すようなこともない。

「そう……まあいいわ。私たちはパラケルスス由来錬金術と悪魔工学、それにキリスト神秘主義とカバラを組み合わせて使ういわゆる何でも屋集団よ。今回の攻撃ではカバラの数秘術で座標計算して空間を破砕させるか、無理な術式を使って指定位置でバックラッシュを起こす予定だけど……」

私はラングドンとリンチを呼び寄せて攻撃位置の指示をする。10人を二個分隊に分けて二人の士官に任せる。30口径の機関銃とBAR2が一丁ずつあるきりで特筆するような重装備はなかったが、士気だけは完璧な状態に見えた。

「大丈夫だ、何をするかがわかればこっちも対応できる。」

「そう、なら私たちがあの機関銃陣地を潰したらそれに合わせて進んで。私とルネ、それに攻撃隊の数人以外は指定位置を奪還後に脱出手段の確保の為に移動する。素早く攻撃して混乱している間に聖杯を奪還して脱出。奴らが大勢を立て直す前に全部終わらせる。」

「オーライ、運命を相棒にランデブーと行こう。」

それが、私が初めて行う魔術師たちとの共闘だった。我々は攻撃位置につき、作戦の開始をまった。二人の魔術師がタペストリーの上に魔方陣を描き、それにボトルに入った何かを垂らしてマーキングしながら詠唱を行う。ギリシャ語とラテン語の輪唱で行われたそれは魂と星々について語っているようだったが、にもかかわらず複数の矛盾をはらみ、まるで不協和音のようにあたりに響き渡った。

そして、破壊が始まった。最初に被害を受けたのはサーチライトで周囲を照らし警戒を続ける木製の監視塔だった。監視塔の足が一瞬、歪んだかと思うとそのままメキメキと音を立ててまるでねじれるように崩れていった。それと同時に屋敷の一口をまもる機関銃陣地が燃え上がった。違う。機関銃陣地にいた人だけが燃え上がった。すぐさま4人のバーンドマンのローストヒューマンが出来上がり、それを合図に我々は突撃した。

BARと30口径機関銃の制圧射撃を頼りに屋敷の正面にしつらられた噴水の陰に滑り込むと被害を受けずに残ったPaK36に対してぴったり1秒に2発の感覚で10秒間射撃を加えて仲間が前進する為の隙を作る。

「進め!進め!リンチ!お前は文体と突入して聖杯を奪還しろ!ラングドンの分隊はPak36の陣地を奪って逆用してやれ!GO!GO!」

同じ感覚で射撃を続けながら叫ぶ。旺盛な銃声が指示にこたえるように鳴り響き、それとほぼ同じタイミングでもう一つの機関銃陣地が空間ごと破砕される。ここまでは予定通りであった。しかし、予想外のことが起きた。それは噴水の陰で弾の切れたマガジンを交換し、新しい15発の弾薬を銃に叩き込んだ直後の事だった。

自分たちの後方、我々に支援砲撃がごとき術式を叩き込んでいた二人組がいた場所から上がった火柱だった。続けてまるで迫撃砲をがむしゃらにぶっ放すように周囲の空間がはじけ飛んだ。私は何処からともなく現出した大理石の炸裂に噴水の陰放り出されながら、エディットたちが叫ぶ声を聴いた。

「カウンターマジック!」

「オブスクラが来る!奴らの術式を完成させるな!」

私は震える視界を無理やり覚醒させながらPak36に到達していたラングドンの元へと潜り込むと見たこともないその光景のすべてを刻み付けるかのように魔術師たちの戦いにのめりこんだ。屋敷の窓からクウォータースタッフが付きだされ、聞いたこともない異形の叫びが聞こえたような気がした。


それはバックラッシュの応酬だった。代償に代償を重ね押し付けあうことでお互いを攻撃する太古の魔術戦。鉛の雨を浴びせ、鉄の制圧を行う遥か昔から行われていた魔術師たちの戦いがそこで行われていた。空間がさく裂し、凍結し、破砕する。今の代償を操作し臨んだ結果をぶつける奇蹟術の前身となった魔術の戦い……私は、少なくとも私はその戦いをそこで初めて見た。恐らく……おそらく私はその光景に魅了されていたのだろう。ラングドンにほほを叩かれ支持を求められるその時まで、私は全く動けなかった。

「中尉!中尉!ここにいては危険です!支持を、支持をください!」

私はその声になんとか残った正気を総動員して意識を戦闘に引き戻した。

「ラングドン!反時計回りに奴らの車両を探せ。このPak36をけん引してきたハーフトラックなりジープなりがあるはずだ。奪還して脱出に備えろ。リンチが聖杯を奪還次第撤退だ。」

「ルネ!奴らを最大限かく乱しろ!リンチが戻り次第撤退だ!さっさと撤退するぞ。」

私は窓にありったけの弾薬を叩き込みながら叫ぶ。館の中からはリンチ少尉のサブマシンガンと101のBARの銃声が幾度も聞こえ、彼らが少なくとも生きて攻撃を続行している事を確信すると。自分も脱出に備えて魔術合戦を続けるエディットの元へと駆け寄る。

私がその見えているのか見えていないのかわからない大きさの大きな帽子の場所までたどり着くのと、彼女が短い魔法名とともに二回のクウォータースタッフを吹き飛ばすのはほぼ同時だった。

「エディット!リンチが聖杯を奪還次第脱出だ。準備を!」

「ダコール!十字団!聞いたわね!撤退準備よ!壁を置く準備を!」

「お嬢!壁の触媒はさっきルネと一緒に吹き飛びました!豚の血が足りません!」

「その辺のSSの血でも使えばいいでしょう!火の壁を作るくらいなら十分よ!」

そんなやり取りがなされる。何処からともなく警報が鳴り響き、リンチ少尉ともう2人、5人中3人だけが屋敷から飛び出してきた。大きな木製のケースを抱えており。後ろから何か青いエネルギーの放射が彼らを追いかけてくるのが見えた。彼らはすかさずPak36の置かれていた陣地に飛び込みエネルギー放射を辛うじてやり過ごす。続くようにライトが瞬きラングドンたちがワーゲンをドリフトさせ私の前に急停止させる。

「パーシヴァルは目標に到達しましたよ!逃げましょう!」

「撤退だ!さっさとずらかるぞ!司令部に成果を届けるんだ!」

ほぼ同じタイミングで車を回してきたラングドンのワーゲンに乗り込み。我々はこのくそったれな屋敷を後にした。恐らくだが、私が大戦で経験してきた中でも5本指に入るような強烈な戦いだったと思う。私は、ワーゲンが能動を爆走し、奴らの屋敷から撤退する最中、そんなことを考えていた。

我々はその後、サント=メール=エグリーズに架設された空挺師団の司令部にリンチの持ち帰った聖杯を届けた。聖杯はイギリスに空輸され、分析されることになった。

結局のところ我々が回収した聖杯は本物ではなかったが、この成功に上層部は味を占め、我々はその後数十年続く薔薇十字団との聖杯回収任務のきっかけとなるとは、私は露ほども想像していないかった。


**OSS/OWI聖杯回収記録 **

担当官: フィリップ・ウォーターズ OWI(戦争情報局)調整官/中尉

参加部隊: 101空挺師団、特別探索小隊『パルチヴァール』

作戦区域: ノルマンディー / サント=メール=エグリーズ

日時: 1944年6月6日


北西ヨーロッパへの侵攻作戦『ネプチューン』に伴い発令された付属特殊作戦である第一次聖杯回収任務は連合国オカルトイニシアチブに所属する魔術結社『薔薇十字団』と第101空挺師団貴下の特別探索小隊『パルチヴァール』によって部分的な成功を収めました。『パルチヴァール』は第82、第101空挺師団による大規模降下作戦に参加、101空挺師団のサント=メール=エグリーズの制圧を支援後、アーネンエルベ及び貴下のオブスクラ軍団による模造聖杯を用いた反攻作戦を撃退、カポネに保管されていた模造聖杯を奪還、無事回収に成功しました。一方で大規模降下作戦に伴う混乱に『パルチヴァール』の所属隊員はノルマンディー全土へと拡散、第二次回収作戦の実施は大きく遅延し、結果として多くの模造聖杯がドイツ本国へと回収される結果となりました。

叫ぶ鷲と暗闇へ 前編


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  1. portal:3073138 (01 Nov 2019 04:49)
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