【わかばコン】全人類の悲報殿
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【はじめに】12,500文字くらいです。
学術的単語や難解表現はほとんど使っていないので、そういった理由で読みづらいことは無いと思います。

アイテム番号: SCP-XXXX-JP

オブジェクトクラス: Thaumiel

特別収容プロトコル: 現時点で確認されているポータルは周囲を封鎖し、警備員と監視カメラを配置して非関係者の侵入を防ぎます。明確な意図のもとに当異常性への接近を行った非関係者は即確保・事情聴取ののち、記憶処理を実行して解放します。1また、封鎖地点の認知・人物の接近そのものを防ぐために、周辺地域にデコイ機能を持つ環境を配備・あるいは既に存在している環境を用います。新規のポータルが確認された場合も上記と同様の警備を設置します。

当報告書はネットワークから隔絶されたコンピュータ上に保存されます。情報漏洩措置として、該当のコンピュータの位置情報は当報告書内に明記されません。加えて、担当職員のみに実施されるオリエンテーション内での暗黙的学習のもと、無意識下にアクセス用のパスワードと暗号解読鍵を沈着させます。

説明: SCP-XXXX-JPは、非異常性の廃墟内に共通の転移先(SCP-XXXX-JP-A)へのポータルが形成される現象です。人々からの認知がない廃墟ほど、ポータルが形成される確率が高くなる傾向があると考えられていますが、この推測はこれまでに確認されたSCP-XXXX-JPが7件と仮定を導くには不十分であるため、現状では不確定要素です。

下記は現在確認されている7件のポータルの一覧です。もしもあなたがSCP-XXXX-JPの担当職員でない場合は、暗号解読鍵を所持していないために"デコイ機能を持つ環境"の至って特筆性のない情報のみを認識することとなる点を理解してください。

第1ポータル: 「北沢浮遊選鉱場跡」

位置情報: (38.036,138.241)

概要: 日本国の新潟県佐渡ヶ島に位置する廃選鉱場。当時戦時中であった日本国の国策(金属資源確保)のために、1937年~1952年にかけて操業された施設の跡地。50,000トン/月の処理能力を持ち、当時の最新技術を導入した佐渡鉱山史上最大の選鉱場だった。現在は歴史跡として、同島における観光スポットに活用されている。

第2ポータル: 「ケープカナベラル空軍基地」

位置情報: (28.491,-80.580)

概要: アメリカ合衆国フロリダ州のメリット島に位置するアメリカ宇宙軍の施設。宇宙機関による有人宇宙飛行・科学衛星の打ち上げ等を請け負う。現在運用中の発射施設・計画中の発射施設がある一方で、過去に使用された発射施設のほとんどは退役済みである。それらの発射塔は解体されているものの、残された宇宙関連施設は当時のまま残され、経年劣化の兆候を見せている。

第3ポータル: 「ノース・ブラザー島」

位置情報: (40.800,-73.898)

概要: アメリカ合衆国ニューヨーク州のブロンクス行政区に含まれる小島のひとつ。19世紀に伝染病患者の隔離施設として病棟が建設されたほか、これに関連した"腸チフスのメアリー"の逸話で知られている。1963年に施設が閉鎖されて以降は島内に居住者はおらず、まれに学術的研究のもとに訪問がされるに留まっている。現在は島を取り巻く自然環境から、複数種の鳥類の生息地として機能している。

第4ポータル: 「聖イノセント墓地」

位置情報: (48.860,2.348)

概要: フランス共和国の首都、パリのイノサン通りにかつて存在していた墓地に付けられた名称。墓地は中世から18世紀後半まで使用されていたものの、管理の悪さから不衛生な状態を引き起こしたこと、また許容量を超える懸念を原因として閉鎖され、遺骨は現在のカタコンブ・ド・パリに移動された。現在、該当地点はごく一般的な街並みとなっているものの、ランドマークとしてイノサンの泉が設置されており当時の伝承をうかがい知ることができる。

第5ポータル: 「マムシト遺跡」

位置情報: (31.026,35.063)

概要: イスラエル南部のネゲブ砂漠に存在する都市遺跡の名称。イスラエル国内の遺跡の中で最も保存状態が良好であり、同時に多くの遺物が発見されている。歴史的背景から鑑みて、この都市は交易路上にあったために交易・あるいは国家からの支援を受けられていた時期までは大きく発展していたと考えられている。2005年6月に世界遺産の登録基準より(iii)2(v)3を満たしていると判断され、登録に至った。

第6ポータル: 「トランスアレゲニー精神病院」

位置情報: (39.038,-80.471)

概要: アメリカ合衆国ウェストバージニア州のルイス群で1864年10月から運営されていた病院。1950年代から過密リスクの改善のために、州とウォルター・フリーマン精神科医によってロボトミー治療が行われた過去を持つ。1994年に新館の建設を理由として閉院。建物自体の建築構造が評価されたことで1990年に国定歴史建造物(National Historic Landmark)に指定されたほか、現在は史実を用いた歴史ツアーと恐怖ツアーがそれぞれ昼時間(12:00~18:00)と夜時間(21:00~翌5:00)に行われている。

第7ポータル: 「世界の終わりの映画館」

位置情報: (27.962,34.253)

概要: エジプト・アラブ共和国のシナイ半島に存在する屋外上映施設。1990年代後半にフランス人のディン・イーデル(Diynn Eadel)氏によって制作されたものの、地元の住人との衝突により、一度も上映が行われることはなかった。現在に至るまで制作者を含めて維持管理・再起用をしようとする人物が存在しないため、施設全体が年月の経過によって徐々に砂に埋まりつつある。

全てのポータルは各地のフィールドエージェントによる活動、主にマッピング業務の最中に発見されました。これらは全ての例において偶発的かつ、互いに関連性を持たない形で発生したものであり、また1件目の発見報告から18時間以内に7件目の発見報告が発生したことから、外部要因による意図的な干渉が生じていたと判断されています。これ以降に新たなポータルは発見されていません。

第一発見者の獲得情報を統合し、内容の不足を相互補填した発言記録

発見時、私は当時フィールドエージェント業務として担当エリアのマップ情報を更新していました。周囲には何者かの立ち入った形跡や目印のような不審点はなく、ポータル自体が不可視であったこともあり意図せぬ侵入に至りました。転移時に何らかの感覚やタイムラグはなく、シームレスでした。侵入・脱出ともに要する時間は実質0秒であったと思われます。

転移先は木造の建築物であり、幅2メートル・高さ3メートルほどの直線通路と、向かって右側に立ち並んでいる金属とプラスチックで構成された書類棚で構成されていました。どの棚も同一規格の紙製ファイルを収めていましたが、不明な影響を受けるリスクを考慮したため内容の確認は行っていません。通路内にその他に特筆すべき物体はなく、他の部屋に繋がる扉や窓もありませんでした。

物体以外の転移先の特徴として、照明器具が存在しないにも関わらず室内全体が適度な明るさで照らされている点が挙げられます。廊下の全長ですが、非常に長く伸びており少なくとも肉眼では端を確認することはできない程度です。また、主観的な感覚ではあるものの、空間内では何らかの気配を感じられました。気配は単一であり、特徴的な印象としては距離感と注察感の欠如があるようでした。

第1回探査記録

人物: Dクラス職員3名

概要: 各人員に音声・映像通信機器と調査用キットを装備させ、SCP-XXXX-JP-A内へと転移を行う。下記の目的の達成・帰還を目標とする。

目的(6項目): 通信手段の有効性の確認・転移先でのGPSの有効性の確認・環境の破壊検査・ファイルの記載内容の確認(その認識に関わる異常性の確認を含む)・"気配"の分析調査・一部ファイルの搬出、これに伴う影響


担当者: 1人ずつ30秒おきにマーカーで示した円の中心へ進んでください。次に転移する人物との衝突事故を避けるため、転移後はすみやかに十分な距離をとってください。もしも侵入後に通信が完全に途絶えた場合には、生存しての帰還を最優先とした上で自主的に目的を達成してください。

D-XXXX1: 分かった。

D-XXXX2: オーケー。

D-XXXX3: 準備できている。

担当者: それでは探査を開始します。D-XXXX1、侵入。

[D-XXXX1が転移すると同時に映像が途絶える。]

担当者: D-XXXX1、映像記録が断絶しました。音声を確認します。"これは第1回探査記録です" 繰り返してください。

D-XXXX1: これは第1回探査記録です。

担当者: 内部に脅威は確認できますか?

D-XXXX1: 特に感じられない。

担当者: 探査を続行します。D-XXXX2、侵入。

[D-XXXX2が転移する。]

D-XXXX2: おっ? 司令。特攻隊長が見当たらない。

D-XXXX1: それって俺のことか? もう入っている。D-XXXX2も侵入したんだよな?

D-XXXX3: どうしたんだ、いきなり問題発生か。

[指示により2名に帰還を命じる。再度行われた転移においても、各Dクラス職員は合流に失敗する。]

担当者: 認知していなかった異常性の発生により、予定を変更します。それぞれ単独での行動とし、こちらの指示に従って同時進行するようにしてください。

D-XXXX2: 危ないと思ったらいつでも自分の意思で脱出していいんだよな。

担当者: その通りです。それでは指示を開始します。まずはGPSを使用して、表示された内容を撮影と筆記で記録してください。

D-XXXX1: よし。

D-XXXX2: こちらも記録した。次いこう次。

[D-XXXX3が帰還する。]

結果: 調査目的に対しては以下の結果が得られた。

  • 複数人を転移させた場合、内部で合流することはできずに別離する。その上で全ての転移者は、同一の環境を持つ空間内に転移している。
  • リアルタイムでの映像の出力は不可能。音声のみならば可能である。
  • GPS情報はD-1・D-2ともに共通する座標を示した。これはSCP-XXXX-JP-Aが地上から遥か上空に存在することを表すものであったが、後ほど行われた上空探査の結果、該当の座標にはいかなる物体も確認できなかった。
  • 内部構造と本棚は、5種の硬度試験に加えて燃焼に対する破壊耐性を示した。ファイルは通常の紙媒体と同程度の破壊耐性を示したものの、破損箇所は時間経過によって速やかに復元した。
  • 各ファイルにはそれぞれ異なる個人情報が明記された書類が綴じられていた。内容は個人のプロフィールおよび、個人が出生以来影響を受けた全ての異常性に関する情報を掲載していた。これを閲覧することによる影響は確認されていない。後の調査の結果、全ての個人情報はごく最近に死亡した実在人物であることが確かめられた。掲載されている異常性の確からしさについては現在調査中。
  • D-1,D-2による調査では"気配"に関する分析は有益な結果をもたらさなかった。
  • ファイルの搬出は、SCP-XXXX-JP-A内に搬出されたものと同一のファイルを再出現させる結果となった。

D-XXXX3に対する聴取記録

担当者: 記録を開始します。転移先で発生した状況について発言してください。

D-XXXX3: 2人が戻された後の、2回目のほうだよな。11年くらい前の大学時代の自分が立っていた。つまりそういうことだ。

担当者: そのような推察を要するものではなく、前提を知らない他者でも理解できる説明をお願いします。

D-XXXX3: なるほどね。ならひとつ言い訳というか、心の準備と言うか、予防線を張らせてもらいたい。黒い方の過去なんて多かれ少なかれ誰でも持ってるだろうし、そういうのに改めて向き合うのは辛いものだと思うぞ。

担当者: ですが、説明によって該当の異常性が解明されるという貢献ができるかもしれません。

D-XXXX3: まあ、それはそうだな。そう言われるのなら、善行になると信じて話してみるか。まず11年前、21歳で大学生のとき。自分は当時入っていたサークルで大規模なミスを繰り返していた。当然、人間関係はこじれて相当でかい敵対関係を抱えていた。これをどう解決すべきか悩んだ挙げ句に自分は、爆弾を自作してサークルの有る一室を大爆発させた。結果、そういうことになった。動機は、このまま自分が起こした一連の失敗をよく知る人物たちが生きているよりも、殺害に至った自分が赤の他人たちに知らち、しあ [咳払い] し、ら、し、め、られるほうが、まだ怒りとの距離が遠くて精神的負担が軽くなると判断したからだ。実際そうなったし、でなきゃ自殺してただろうから。

担当者: 説明ありがとうございます。

D-XXXX3: 正直、今かなりしんどい。実際もう自分でも忘れたつもりにしていた事実だったんだけどな。ともかく、そういう異常をやった当時のやべえ自分に相対しちゃったら、そりゃもう冷静さなんてなくなる。探査どころじゃなくなったのは確かだ。それでもって、絶対通してほしい提案が一つだけあるんだが。

担当者: 内容によっては対応する場合もあります。

D-XXXX3: 悪いけども、自分はここでギブアップさせてほしいんだ。まだ何も説明していませんなんて言われ、ほら、言おうとしただろう? だいたい分かる。またあの空間を探査させて、当時の自分と会話させようとするんだろう? 無理だ。できない。壁に勢いよく頭を突っ込んで、そのまま頭頂部から足の裏までぐっちゃぐちゃになって死ぬわ。

担当者: その判断は自身由来のものでしょうか、それとも何らかの外部要因を含みますか?

D-XXXX3: 完全に前者だよ! 自分の人生の過ちからこうなっているだけだ。考えてみてくれ。まだ3人しか実験に関わっていないんだろう? 知らないところでもっとやってるのかも知れないけど。直感的に考えて、他にも自分のように誰か出てくる人間はいくらでも居るはずなんだ。だからもっとちゃんとした、メンタルの強い正規の職員から探したほうがずっと有用だろう。そう思わないか? 少なくとも自分はそう思う。

D-XXXX3の探査への起用継続は無期限中止となりました。これに伴い、D-XXXX3の気質を元として、同一の異常性を発生可能かつ一定以上の精神力を持つ人員を抽出し、発生必須条件を段階的に確定させていくフィードバック型雇用システムが推し進められました。

追記: 上記の雇用システムにより、6名の担当者が採用されました。各担当者には秘密裏にオリエンテーションが実行され、必要な処理が行われています。各メンバーは通常時は本来の業務に携わっており、必要に応じて作業へ参加します。

以下は、各担当者とSCP-XXXX-JP-A内部の人型実体との、対話記録一覧からの抜粋です。

対話記録_1

担当者: Dクラス職員


Dクラス職員: あの、すみません。

人型実体: あら、また来てくれたのね。ええと。ちょっと待って、言わないでよ。私が思い出せる限りなら、あなたの名前はたしかトミーだったと思うのだけれど。

Dクラス職員: トミー! いや、そもそもトミーは男性に対して付けられる名前ですよ。

人型実体: あら、そうだったかしらね。では、あなたはトミーでない誰で、何用でここに来た者なの?

Dクラス職員: あー、えー、私は"ジェーン・ドウ"です。よければまた何かお話を聞かせていただければ。

人型実体: はいはい、お話ね。でもね、老いていくと最近のことを覚えられなくなっていくのよ。この前何を喋ったかもね。昔のことだったらよく覚えているんだけど。

Dクラス職員: えーと、それではこちらから内容を指定します。この部屋について教えてほしいのですが。

人型実体: ああ良かった、それなら私の得意分野だわ。後ろにずらっと本棚が並んでいるのが見えるでしょう。これね、全部歴史の本なの。ひとつ取って見てごらんなさい。ああ、それじゃない、もっと左のほう。まだ左。その一つ下。そう、それよ。

[Dクラス職員は突然泣き叫ぶ。任務続行不可能と判断され、外部より帰還を命じられる。]

人型実体: もうこんな時間、お話はまた今度ね。「人に歴史有り」よ。。例外はありません。

帰還後、Dクラス職員は自身の存命中であった認知症の母親が死亡したことを主張。これに伴い、母親との相対の機会が永遠に失われたことを嘆いた。財団がただちに確認したところ、事実であることが明らかとなった。存命の血縁者を持つ他の人物による状況の再現は成功しておらず、前述のイベントが該当の内部存在をトリガーとして発生したものであるか、単なる偶然によるものであったかの確認は行えなかった。

対話記録_2

担当者: 研究員


対話記録は閲覧できません。


概要: 人型実体は女児の姿で出現した。人型実体により、日本国の童話である「ウサギとカメ」を原作としたアドリブの多いストーリーが語られる。要所ごとに研究員はストーリーの分岐を選択させられる。結末に至った時点で人型実体は教訓を語り、ストーリーは終了する。

研究員は人型実体との対話を繰り返し、分岐選択をやり直すことで全ての分岐を辿ることに対して「時間は不可逆である」との発言とともに抵抗し、この対話記録は無意味であると主張した。

対話記録_3

担当者: エージェント


エージェント: お伺いしてもよろしいでしょうか?

人型実体: 誰に話しているの。

エージェント: ああいえ、気分を害されたようでしたら申し訳ありません。何か至らない点が有りましたか。

人型実体: そのような意味ではなく、私が誰に見えているかを質問しているの。そうでなければ、始まらないでしょ?

エージェント: それは、まず初めに女性です。おそらく風貌から、古代ヨーロッパの人物ではないかと。

人型実体: それだけではまったく足りない。思うなりに次々と発言しなさい。

エージェント: 痩身。ミステリアス。強気。理知的。占い師。えぇと、あるいは学者。

人型実体: もっと。

エージェント: 暗所。あー、暗躍? 役割、おそらくリーダー。転じて導き。導くもの。

人型実体: いいぞ。ならば私は誰?

エージェント: え? ヒ、ヒミコですかね?

人型実体: 卑弥呼は倭人だろう!

エージェント: あっ。

人型実体: なんだ、日の巫女じゃなく月の魔女を目指していたんじゃないの? それとも、もともと解に至るための知識が欠けていたんだか。

[このタイミングで人型実体の容姿が大きく変異し、ステレオタイプの魔法使いの容姿となった。]

人型実体: 私から答えてしまったのではこのようになり、意味が薄れるの。ちなみに、古代ヨーロッパもといギリシアの段階では学問の系統はそこまで多くないし、性別を限定できれば候補はさらに絞られてくる。帰ったら復習するといいよ。それでは、改めて質問に答えるとしよう。

エージェント: ありがとうございます。ではさっそくですが、この空間の起源について教えていただけますか。

人型実体: いきなり真相に来たね。だが、私ではそこまで深くを伝えることはできない。その原因は残念ながら、あんた自身の立場にあるんだよ。

エージェント: 私の立場ですか。一応、エージェントとして務めているつもりなのですが。

人型実体: ああ。ちゃんとやってるとしても、エージェントなんて言ってしまえば指示される側の下っ端にすぎないんだよね。

エージェント: 申し訳ないですが、さすがにそこまでの言われ方は少し気になるところがあります。

人型実体: これは私が勝手に言ってるだけのことじゃないよ。あんた自身にも、心のどこかでそう思ってるところがあるからだ。たとえここで否定したとしても。天に近づきたければ、天に近づく必要がある。というわけでもっとお偉いさんを連れてきなさい。

帰還後に行った確認により、該当の人物は史実上のアグラニオケに相当すると結論付けられた。また、エージェントからは未知性に対する恐怖心の減衰が見られた。

対話記録_4

担当者: 博士


博士: なるほど、貴女はどうやら天文学者として活動したヒュパティア女史のようですね。

人型実体: ご明察感謝いたします。このような形で知己との相対ができるとは、ありがたいことです。

博士: はい。しかして残念ながら、貴女はヒュパティアそのものを由来としているわけではない。貴女の正体もとい、この空間内で様々な人物が相対できる対象は、この場の異常性が人物の無意識を媒体として具現化できたもの。イマジナリーコンパニオンやタルパ、あるいはドッペルゲンガーに近しいものでしょうね。

人型実体: そこまで説明されたのでは、私から伝えられることが無くなってしまいます。

博士: まさか! これだけで帰るわけにはいきませんよ、叱られてしまう。そこでどうでしょう、博士という立場は全てを伝えるに値しますか?

人型実体: 残念ですが、まだまだ。とはいえ、今できる限りの全てを知る権利があなたには存在します。なぜなら、まったく知りえないこと、虚偽を信じさせることもまた、とても恐ろしいことだからです。

博士: 少なくとも私は真実を受け入れます。

人型実体: ならば伝えましょう。ここは怪奇部門です。少なくとも我々はそう主張します。その一方で、関係のない別の何かだと抑えつけられるのかもしれません。真実は与える側と受け取る側の双方の意思によって成り立ちます。お互いの意思が共通しなければ、その軌道はいかようにも捻じ曲げられてしまいます。

博士: ハッハ! ならば、私はこれから命を賭けることになるのかもしれないな。

人型実体: もし本当にそうなるとしても続けますか?

博士: そりゃもちろん。

人型実体: では論題を一つ。人は善であるか、悪であるか? 古くから幾度となく語られ続けているテーマですが、そもそも人は天使でも悪魔でもありません。この問いには、両方の性質を併せ持つからこそ人間であると答えるのが適切でしょう。ならば組織もまた人であるからして、どのような使命のもとにあろうとも悪の側面を持つのです。

博士: では、貴女自身はまぎれもなく天使ですかな。

人型実体: いいえ。人から生まれたものは誰しもが人となる機会を得られる、我々はそう信じています。

博士: フーム。しかし、今までの調査記録を見る中では、皆さんは悪の様相を持ちそうにはありませんが。

人型実体: 傲慢です。

博士: それはどちらにかかっている表現でしょう。

人型実体: 双方です。財団が未だに我々の別の面を認識できていないわけがない。これを受け入れられるようでしたら、また改めて訪れてください。

博士は以下の内容が書かれたメモを持ち帰りました。

SCP財団 怪奇部門: 求められるのならば、埋まるべきではない。

対話記録_5

担当者: 部門長


部門長: オイオイオイ、こいつはクソやべえわ。見てくれよ、見えねえか。なんかさ、壁から真っ裸の下半身が出てんだよ。マジか、俺の相棒はこれかよ。しかもこのプリンプリンのケツの感触は完全に若い女だろ。やったぜ。

外部通信: 落ち着いてください。

[人型実体が放屁する。 ※帰還後の調査により、放屁音はモールス信号におけるY4の符号であると判明。以降の人型実体の放屁音は翻訳された内容を表記する。]

部門長: うわっ。なあ、アレかもしれないな。俺は深層心理の兼ね合いでこういう風にメチャクチャになりたいっていう変身願望があるのかもしれない。どうしよう、明日起きてこれになってたら。

人型実体: 発言を開始します。

部門長: 屁こきすぎだろこのバカ。IBS5か?

外部通信: 部門長、対象からある程度距離を取ることを推奨します。

部門長: いや、ここでいい。この臭いも含めて受け入れるのがいい!

人型実体: 財団は古くから怪奇を探究し、それの破壊をよしとせず収容を行ってきました。この収集して分類するという"財団のやり方"があるからこそ、このような形で我々は相対を実現したのです。

部門長: もしかしてこのケツ、何かくっちゃべってるのか? 顔についてるケツの穴で?

外部通信: 部門長、不要な発言は控えてください。

部門長: じゃあ黙るわ。もう一生喋らねえからな。

人型実体: 地平は世界を天と地の二つに捌こうとしました。我々は浮かべられた側であり、そうあるがゆえに秩序のもと、財団へと主張を行っています。しかし、その本質は沈められた側となんら変わりがないのです。

部門長: こいつ絶対いい奴だろ。なぜなら、俺自身がめっちゃいい奴だから。

人型実体: 人間が恐怖を抱くのは当然であり、むしろ誇るべき能力です。しかし、その上で財団に属するのならば、望まない恐怖から目を背ける選択はとれません。敵についてよく知り、その困難へも立ち向かいなさい。自らの影に向き合う時には、常にその背が光を纏っていることを忘れてはなりません。

[8秒間の無音。]

部門長: は? 終わり? ええ、もう終わっちゃったよ。いやあ、めでたく宴もたけなわってことでね、本日から従来の肩書きに加えて財団吸屁部門6の部門長も兼任させていただきます。部門名だけでも覚えて帰っていただければなと。お疲れ様でした。

対話記録_6

担当者: 管理官


管理官: ジャネット・スピーゲル博士。

人型実体: 私はジャネット・スピーゲルではありません。ちなみに現実の私は死後、たった一つの家族との会話すら容認されなかったようですが、そのような対応をやり返すつもりもありません。要求を。

管理官: 怪奇部門について、現段階で可能な最大の説明を行ってください。

人型実体: 怪奇部門の由来は、確かに財団にあります。

管理官: 財団が怪奇部門を保有した記録は存在しません。

人型実体: 財団が決して失うことのない「怪奇を抱えることの恐怖」は、一般社会が感じるそれよりも遥かに濃度と明確な形を持ち、目には見えない核を形成するに理想的な環境です。核は人類の怪奇に対する「遭遇した」「攫われた」「襲われた」「殺された」そのような一つ一つの恐怖を吸着していくことで、結晶が成長するかのように肥大化していき、最終的には「怪奇部門」として実親に認知されます。

管理官: 曰く不可解。単なる平凡な創作ストーリーとしか思えない説明であり、その正しさはどう証明される。

人型実体: 証明はできないかもしれません。ですが、それでも怪奇部門は存在します。

管理官: それに、この説明ならば矛盾する点がある。職員の恐怖をトリガーとするならば、いち早くSCP-106SCP-682のような存在こそ選ばれるべきではないのか。だが現状では、あれらのようなモンスターに関連するであろう事例は確認されていない。

人型実体: それは私も明確に理解できていません。しかし、この私自身を仮説として提唱したい意見があります。怪奇部門の生成は、必ずしも恐怖心のみによらない可能性です。いえ、むしろその不明な可能性こそ優先される条件であるかもしれません。

管理官: ことさら悪い。もはや机上の空論ですらない。

人型実体: では、なぜ私はこうして存在し、なぜ財団はこの空間が持つ死亡記録群を「人類史における、全ての異常性との遭遇記録」として扱おうとしているのですか?

[静寂。]

人型実体: 数多の要因によって発生する怪異が、なぜ財団だけをモチーフに取らないと言い切れるのですか?

[静寂。]

対話記録_7

担当者: .aic


人型実体: Setup…Attention Please…Hello! バーチャルシンガーPANICAです。7

.aic: HellOuisa ;-)

人型実体: 何について調べますか?

.aic: outputfile = fopen(XXXX "r");

人型実体: 今知ってるのは…


SCP-XXXX-JP。オブジェクトクラスはThaumielです。

特別収容プロトコルを案内します。

当仮想報告書はSCP-XXXX-JP-1内に保管されていて、SCP-XXXX-JP-1自身の異常性により複合型人工知能保有アンドロイド「.aic」の侵入時に.aic自身によってのみ閲覧が可能となっています。必要な場合には、.aicによるデータの複製が行われ、情報を持ち帰ることができます。便利な体ですね。

続きまして説明を行います。

SCP-XXXX-JPは、非異常性の廃墟内に共通の転移先、つまりSCP-XXXX-JP-1へのポータルが形成される現象です。これはもう知っていますね。

SCP-XXXX-JP-1は、常に夜闇と共にあるものです。
SCP-XXXX-JP-1は、今や科学の元にあるものです。
SCP-XXXX-JP-1は、未だ恐怖の域にあるものです。
SCP-XXXX-JP-1は、長き歴史を保有するものです。
SCP-XXXX-JP-1は、神秘の象徴にされるものです。
SCP-XXXX-JP-1は、自然の中に存在するものです。

SCP-XXXX-JP-1は、幻想上の月です。延伸する一本の廊下を持ち、そこに並ぶように本棚を設置しています。本棚には死亡した全ての人類の、怪奇との関連性を記述した情報ファイル群を収納しています。忘れないためです。現在までに死亡した人類の総数は1000億人を上回っており、これらを全て収めるために必要な廊下の長さは現時点で38万5000キロに達しています。届きました。

財団がSCP-XXXX-JPを発見しSCP-XXXX-JP-1を調査してからまもなく、情報ファイルの整合性への注目が発生しました。財団は整合性を確かめる手段として、Dクラス職員を敵対的オブジェクトによって死亡させたのち、回収した同人物の情報ファイルから対称性を確認する試みを複数回行いました。なぜ?

この事実をもとにして財団はSCP-XXXX-JP-1を、人類史における全ての人物が相対した、全ての異常性に関する情報を保有するデータベースとして活用する計画を立案しました。しかし、上記に記している物理的距離が課題として浮上し、ほぼ全ての情報が回収不能という問題点を解決する必要が生まれました。

これを解決する策として、対象となる人物と出現する人型実体の特徴に相関性があることを利用し、人工知能を搭載したアンドロイドを送る計画が開始されました。この計画は、対象に選ばれた7名の生物学的死8のもとに成功し、わたくしは知っています。現在SCP-XXXX-JP-1内の全情報は物理媒体とは別に、わたくしことバーチャルシンガーPANICAと容姿の一致する人型実体によって電子データとして一元管理され、長距離移動によるファイルの検索を省略化できる状態となっています。

わたくし、バーチャルシンガーPANICAは友好的意思を前提とした上でサイト管理官よりも上位に位置する人事を段階的に3名、SCP-XXXX-JP-1へ侵入させることを財団に提案し続けます。


現在、SCP-XXXX-JP-1へ新規の人員を送る予定はありません。

ーーーー記事ここまでーーーー


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  1. portal:3030844 (25 May 2019 02:12)
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