喰らい尽くされた過去

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クレジット

タイトル: SCP-XXX-JP - 喰らい尽くされた過去
著者: ©︎crow_109
作成年: 2021

アイテム番号: XXXX

レベル2

収容クラス:

euclid

副次クラス:

{$secondary-class}

撹乱クラス:

dark

リスククラス:

notice

link to memo

インシデントXXX-JP-12が発生した渋谷スクランブル交差点。

特別収容プロトコル(2020/04/15改訂): SCP-XXX-JP-2はサイト-8159の低危険度オブジェクト収容ロッカーに保管されています。ロッカーには適切な電波遮断措置が施され、通信機器への不慮のアクセスを防止します。
現在のSCP-XXX-JP-2に対する主な研究課題は、内部に存在していると見られるSCP-XXX-JP-1の構成データの解析です。担当チームは定期的にSCP-XXX-JP-2のメンテナンスを実施し、必要に応じて分解清掃を行います。実験はレベル3クリアランスを持つ上席研究員の許可の元で実施されます。実験の内容にかかわらず、SCP-XXX-JP-2を財団イントラネットを含むネットワーク回線機器に直接接続することは厳禁とされています。

► 改訂前の特別収容プロトコルを閲覧する

アイテム番号: XXXX

レベル3

収容クラス:

keter

副次クラス:

{$secondary-class}

撹乱クラス:

ekhi

リスククラス:

caution

link to memo

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは収容不可能であるため、特別収容プロトコルはその汎社会的影響を最小限に抑制することを目的として制定されています。財団機動部隊か-1"神の庵"は東京都内のSCP-XXX-JP現象発生を24時間監視し、発生箇所の周辺には直ちにレベルI記憶処理剤を散布、処置後はカバーストーリー「大型企画広告」を流布します。SCP-XXX-JP現象への反応に応じたカバーストーリーの改訂は、財団フロント企業である株式会社Soul ComPlex¹の協力の下で行われます。同社に対して抗議や憶測の拡散を行うメディア及び個人は速やかにその活動を阻止・拘留され、必要な尋問等を行った後に記憶処理を施して解放されます。

現在、フォッカー氏の協力の下、SCP-XXX-JP-1とPOI-XXX-JPの関係調査及びSCP-XXX-JP-1との対話可能性について研究が進められています。

収容直後のSCP-XXX-JP-2。

説明: SCP-XXX-JPは、東京都内各所の屋外ディスプレイにランダムに発生する異常なデジタルサイネージ広告と、広告上に現れる人型アニメーションキャラクター（以下SCP-XXX-JP-1）の総称でした。現在、SCP-XXX-JP現象は終息したと見られており、SCP-XXX-JP-1はPOI-XXX-JPの所有物であったASUS製デスクトップパソコン（以下SCP-XXX-JP-2）内部に自己収容されていると推測されています。

SCP-XXX-JP-2は電源への接続の有無にかかわらず、一～二週間に一度活性化し、異常な電気工学的プロセスによってハードディスク内部データの書き換えを実行します。この活性化が何を目的として行われているのかは現在調査中ですが、活性化時には収容以前からSCP-XXX-JP-2内部に保存されていた非異常のゲームプログラムが実行され、また不明な手段でコンピュータ外部へのデータ送受信を実行します。如何なる非破壊的手段を用いてもこのプロセスを妨害することは出来ません。送受信されるデータの内容及び送受信先の詳細は判明していません²が、非異常のネットワーク回線への接続はSCP-XXX-JP-1の恒久的な収容違反に繋がる恐れがあるため、現在禁止されています。

SCP-XXX-JP現象: 2020年2月5日午前2時30分、東京都渋谷区の屋外ディスプレイにSCP-XXX-JP-1が突如として出現しました。SCP-XXX-JP-1はアニメーション風の背景映像とランダムに表示されるタイポグラフィを伴い、都立████高校の生徒であった田中　凌たなか りょう氏（以下POI-XXX-JP）の自殺と、その原因と見られる高校内での同級生からの継続的な暴行及びハラスメント、所謂いじめ行為を告発しました。当初は一過性の異常現象と記録され、記憶処理剤の散布と内容についての調査が実施されましたが、調査中の翌週2月12日にも同様のアニメーションが新宿区内の屋外ディスプレイに出現したこと、いじめ行為について事実の裏付けが取れたこと、SCP-XXX-JP-1と生前のPOI-XXX-JPの声紋が完全に一致したことから、正式にオブジェクトとして認定されました。以後、大凡一週間に一度、SCP-XXX-JP現象は都内の屋外ディスプレイにランダムに出現し続けていました。

以下に示すのは、同年2月18日午前1時に豊島区池袋駅前の屋外ディスプレイに出現したSCP-XXX-JP現象の映像記録です。偶然付近に居合わせた財団エージェントに対して機動部隊が指示を行い、開始から終了までの一部始終を撮影することに成功しました。

► 映像記録:インシデントレポートXXX-JP-3

映像記録

---

日付: 2020/2/18
注記: 以下の記録は、財団エージェントが所持していたスマートフォンに記録された映像の内容を転写したものである。事案発生時、エージェントは大型交差点の中央付近におり、丁度屋外ディスプレイと正対できる位置だった。記録には映像に気付いた不特定多数の民衆が反応を示す様が映っている。

[記録開始]

[00:01～09]: ディスプレイには既にSCP-XXX-JP-1が出現している。SCP-XXX-JP-1はビルの屋上のようなCG映像を背景に、悲しげな表情で周囲を見渡す。

[00:10～14]: SCP-XXX-JP-1が囁くような声で「知って欲しかった」と発言する。同様のタイポグラフィが背景に出現し、丁度字幕のような役割を果たす。

[00:20～29]: SCP-XXX-JP-1が突如、日本の音楽家██████████████の楽曲「████████████████」を歌い始める。伴奏はオリジナルの楽曲からボーカルパートを除去したものだが、後の調査により、公的に配布/販売されているものではないと判明している。

[00:30～39]: SCP-XXX-JP-1の背後が砂漠のようなCG映像に変化し、砂中から巨大なシロナガスクジラに似たキャラクターが出現する。SCP-XXX-JP-1は歌い続けている。楽曲の歌詞は、映像上のタイポグラフィとして表現されている。

[00:40～01:02]: SCP-XXX-JP-1の背後をゆっくりと旋回するように浮遊していたクジラの様なキャラクターが、屋外ディスプレイの外部に飛び出し、非異常の周囲ビル群のガラス窓を飛び回る。目撃者からどよめきと感嘆の声が上がる。

[01:03～22]: SCP-XXX-JP-1は楽曲のサビにあたるパートを髪を振り乱しながら歌う。タイポグラフィの演出は誇大になり、SCP-XXX-JP-1の声は歌唱よりも叫びに近いように聞こえる。

[01:23～02:36]: 楽曲の二番に当たるパートが歌われるが、歌詞が原曲から改変されており、POI-XXX-JPの自殺と、その原因として行われた同級生達のいじめ行為が、都立████高校と加害者達の実名を交えて物語調で表現される。SCP-XXX-JP-1は険しい表情を浮かべ、加害者達への怒りと憎しみを表現しているように見える。周囲を飛び回るクジラは、徐々に巨大な赤いウツボを思わせる独特の容貌に変化し、周囲のビル群を激しく飛び回っている。

[02:37～58]: 原曲通りにサビのワンフレーズを歌った直後、SCP-XXX-JP-1は嗚咽し、膝から崩れ落ちるようにしてその場に座り込む。伴奏は止まることなく流れ続けているが、タイポグラフィの演出は中断される。周囲を飛び回るウツボが画面内に戻り、寄り添うようにしてSCP-XXX-JP-1のそばに近づく。

[02:59～03:42]: SCP-XXX-JP-1はウツボ様の生物を抱きしめるように縋り付き、カメラがSCP-XXX-JP-1の顔にズームアップする。虹色に発光する演出とともに、SCP-XXX-JP-1は周囲の背景ごと消失し始める。消失しながらも、SCP-XXX-JP-1は囁くような声で歌い続けている。

[03:43～04:33]: SCP-XXX-JP-1が完全に消失し、映像が徐々にフェードアウトして終了する。歌唱の終了後も、伴奏は最後まで流れ続けている。

[記録終了]

追記: 事案の終了後、プロトコルに従いレベルI記憶処理剤の散布とカバーストーリーの発布が行われたが、事案の内容は一週間程度散発的にSNSメディアで取り上げられ続け、必要な情報操作のために財団は多大な人的/金銭的リソースの消費を強いられた。

インシデントXXX-JP-3の発生後、財団研究チームの目的はSCP-XXX-JP現象が齎す異常拡散的性質を最大限封じ込めることに注力することで一致しました。対応の詳細は以下のレポート群を参照してください。

► POI-XXX-JP調査報告書

サマリー：POI-XXX-JP

POI-XXX-JPが作成したSCP-XXX-JP-1のイラストレーション。

POI-XXX-JPこと田中　凌氏は2002年、北アイルランドベルファストで働いていた田中 ██氏夫妻の第一子として生まれました。6歳の時に両親が離婚し、親権を得た母親とともに日本に帰国しましたが、その後も母親が仕事や男性との交際のために転居を繰り返したことで、友人の少ない孤独な幼年期を過ごしたと見られています。そのような環境も手伝ってか、同氏は次第に絵画や音楽、ウェブサブカルチャーに傾倒していくようになりました。

田中氏は高校三年時の2019年11月頃、アニメキャラクター風のアバターを用いたウェブストリーム配信者及びタレントをプロデュースする株式会社████████³の「██████████プロジェクト」新人募集オーディションに合格しており、使用を希望するアバターとして、SCP-XXX-JP-1の設定画を同社に提出していました。高校卒業後はストリーマーとして生計を立てることを計画していたと見られていますが、2020年1月中頃に同社により合格が取り消されたことで将来を悲観し、同日のうちに高校の屋上から飛び降り自殺を遂げました。

田中氏の死後、同氏の母親は遺書の内容から、警察を通じて学校側へいじめの実態調査を依頼していますが、████高校はそのような事実はなかったとして、同年2月4日に訴えを退けています。

POI-XXX-JP関係人物への対応

SCP-XXX-JP現象の情報拡散的性質から、各POI-XXX-JP関係人物に対しては同現象を異常存在として認知しないよう適切な措置を執る必要がありました。主な関係人物に対する対処は以下の通りです。

名称	POI-XXX-JPとの関係	措置の内容
都立████高校	生前にPOI-XXX-JPが通っていた都内の高校。	POI-XXX-JP及び関係人物の在籍記録を抹消させ、教師及び生徒全員に広範な記憶処理を実施。株式会社Soul ComPlexを通じてカバーストーリー「いじめ防止広告への協力」を使用し、教師及び生徒、当該地域を統括する教育委員会へと適切な情報伝達を行った。
田中　██████	POI-XXX-JPの実母。	現象の発生後、財団により一時的に拘束。必要なインタビューにより情報を引き出した後、αクラス記憶操作を実施。POI-XXX-JPの死因を事故死と認知させ、遺書の存在も忘却させた。SCP-XXX-JP-1の存在は生前から知らなかったと見られる。警察に対しては、既に財団による隠蔽処置が執られている。
藍本　██████、望月　████、白井　████、光田　██████	POI-XXX-JPへいじめ加害を行ったグループの構成員。全員がPOI-XXX-JPのクラスメートだった。	実母と同様の手段で必要な情報を引き出した後、それぞれにΔクラス記憶処理を実施。████高校への在籍記録を抹消し、全員を別の高校に転校させるとともに、偽記憶の移植により高校生活や友人関係を完全に忘却させた。また、各人の両親の記憶・情報を操作し離婚させることで姓を変更させた。主犯の藍本のみ母子家庭であったため、母親を男性のDクラス職員と結婚させる処置が執られた。
レイ・フォッカー	████高校に在籍していた米国籍の交換留学生。POI-XXX-JPの恋人。	以下のインタビュー記録及びインシデントレポートを参照。

► インタビュー記録:XXX-JP

対象: レイ・フォッカー氏

インタビュアー: エージェント・テッド

付記: POI-XXX-JPの人間関係を調査する中で、恋人であった同氏との接触に成功。インタビュアーは株式会社Soul ComPlexの社員に偽装し、幾度かの接触を重ね、対象の警戒を解くことに成功した。インタビューは、POI-XXX-JPがSCP-XXX-JP-1を創造した動機やその目的について聞き取ることを主目的として実施された。対象の言語能力に配慮して、コミュニケーションは英語で行われた。尚、対象への記憶処理措置は行われていない。

<録音開始, 2020/3/3>

(前略)

エージェント・テッド(以下Agt): では、田中さんとの交流は交換留学直後から始まっていたのですね？

レイ・フォッカー氏(以下対象): はい。私は昔から日本のアニメやマンガが好きで、いつか日本に行ってみたいという思いで交換留学生に応募しました。運良く選出されたはいいものの、日本語のレベルはお聞きになった通りでして……なかなかネイティブの同級生達に馴染めずにいたところ、英語で声をかけてくれたのが彼でした。

Agt: 十分お上手だと思いましたけどね。それで、次第に田中さんと仲良くなっていったと。

対象: ええ。サブカルチャーの話で意気投合して、ステイ先そっちのけで彼の家に泊めさせてもらったりとか。二人で地元の夏祭りに出かけたりもしました。そうして過ごすうちに、私と彼が深い仲になるのに、それほど時間はかかりませんでした。

Agt: 友人から恋人同士になったわけですね。

対象: あの、貴方は疑問に思われないんですか？　私と彼が、客観的に見て[間]同性愛の関係であったことについて。

Agt: 私は人種や国籍や思想や性別を理由として他人を侵害しません。この会社で一番最初に教えられたことの一つですよ。

対象: ありがとうございます。色々とご迷惑をおかけしているようですが、貴方のような方々と関われて彼も喜んでいるかもしれません。

Agt: なぜそう思ったのですか？

対象: 私も含めてですが、所謂セクシャルマイノリティ⁴にありがちな事で、彼は自分のジェンダー・アイデンティティに深刻な問題を抱えていました。心と現実の間に、簡単には埋められない大きなギャップを背負っていたんです。

Agt: それは、自身が思い描く自己の性と、客観的な性が一致しない状態ということですかね？

対象: そうですが、より複雑な状態とも言えます。ただ、この認知には彼の中でも幾分かの迷いと混乱があったようで、彼は心に合わせて不可逆的に肉体を変える試みよりも、よりバーチャルなアプローチに強く興味を引かれていたようです。

Agt: それでVRや仮想現実の世界に興味を持ったと言うことでしょうか。

対象: ええ、自分で言っていました。よく覚えています。二人でストリーム配信を見て笑いながら、この人達は自由だ、思い描いた自己を生きていると。自分もそうなりたいと、そう言っていたんです。

Agt: 11月に弊社の元請けである株式会社████████のオーディションに合格したようですが、後に合格取り消しとなった理由について、貴方はご存じですか？

対象: [沈黙]

Agt: フォッカーさん？

対象: すみません、大丈夫です。ええ、知っていますよ。あいつらのせいで、彼は夢を絶たれてしまったんです。

Agt: あいつらとは、田中さんを虐めていたグループのことでしょうか。

対象: そうです。学校も教育委員会ももみ消しましたけどね。でも、私も対処を間違えた。優しい彼が何と言おうと、あのクズどもを警察に突き出すべきだったんです。こんな事が起きる前に。

Agt: お辛いこととは思いますが、彼の身に何があったのか、具体的にお話しいただきますか？

対象: 彼は、私が言うのも何ですが、可愛い人でした。本当はよく喋るし、自己顕示欲も強いのに、人前ではそれを隠していた。他人と目を合わせて話せない、極度にシャイな性格だったんです。私が話しかけてもらえたのは奇跡みたいなものですね。自殺する前に全て消してしまったはずですが、彼のSNSアカウントを見たらきっと驚いたはずですよ。

対象: 当然のことですが、彼は私を除いて、家族や身の回りの人間に対して自身の夢を語りませんでした。お母様にさえ、高校卒業後は近所で就職すると説明して、内定も貰っていました。でも、それはストリーマーとして成功するまでのいわば保険に過ぎませんでした。彼のプランでは、来年にはある程度の貯金を作って、一人暮らしを始めるつもりだったようですから。私も、彼の成人を待って日本に再度訪れるつもりでした。

Agt: ストリーマーとしての自分に、よほど自信があったのですね。

対象: 内緒にしていたようですが、彼は中学時代から一般的なストリーマーとして経験を積んでいて、ボイストレーニング教室にも通っていました。苦手な話術も、ずいぶん勉強していたようです。何より、絵が描けて歌も歌えるというのが大きかった。今はマルチタレントが求められている時代ですから。オーディションに合格したときは信じられないという様子でしたが、私は当然の結果だと見ていました。彼には志と、それに相応しい才能があった。目標に向かって努力も積み重ねていた。輝かしい未来が彼を待っているはずでした。私も彼も、そのことを疑ってなんかいなかったのに。

対象: [間]すみません。思い出すとつい、辛くなってしまって。ある日のことでした。連中は昼休みに、彼を根城にしていた空き教室へ閉じ込めて、執拗にリンチを加えました。何が原因だったのかは分かりませんし、おそらく原因などないのでしょう。その時、彼はスマートフォンを奪われ、指の跡から暗証を解除されてしまった。そして連中は、彼がオーディションに合格していたことを知り、SNSを使ってその情報をばら撒いたのです。彼本人のふりをして。

対象: 連中がリンチに飽きた後、彼はすぐに家に帰って情報を削除しようとしました。でも、パスワードが変更されていて、必要な処理までに時間が掛ってしまった。連中はその間も、彼のアカウントを使って秘匿すべき企業の情報をばら撒き続けました。ネットメディアが一番恐れているのは情報漏洩による炎上リスクです。必死の弁明にもかかわらず、企業はわずか半日後に、彼の合格通知を取り消すという措置を行いました。彼の絶望は、私には想像も出来ません。

対象: [嗚咽]すみません。彼との、最後のコミュニケーションはDiscordでの通話でした。パソコンからかけてきたのでしょう。既に深夜でしたし、一緒にゲームをするとき以外は使わなかったので、何かあったのかと尋ねたら、彼は子供のように泣きじゃくっていました。事情を聞いて、私は必死に彼を宥めようとしました。でも、[嗚咽]すみません。今でも思うんです。何故あの時、彼のそばに行って抱きしめてやらなかったのかと。何故あの時、生きている彼をもう見ることが出来ないと気づけなかったのかと。

対象: 翌日からのことは、記憶が混濁していて、正直よく覚えていません。お母様から電話があって、彼が飛び降り自殺をしたと。最初はひどいジョークか何かだと思いました。数日後に形だけの全校集会があって、犯人は名指されるどころか、何が起きたか説明さえされずに終わりました。私は彼の葬儀に出かけました。教師連中とクラスメートは、私以外に一人も来ませんでした。彼の従姉妹だというひとりの女性が、人目を憚らずに泣いていました。私は泣きませんでした。彼を永遠に喪ったという現実を、まだ受け入れることが出来なかったのです。

対象: 彼を喪ってからの私は、抜け殻のように日々を過ごしました。卒業までに取ろうと思っていた日本語検定も受けず、ただ帰国して両親の元に帰りたいと思っていました。日本で過ごした日々と一緒に、彼のことを忘れようとしていました。そうしなければ、きっと私も彼の後を追っていたでしょう。

Agt: しかし、彼は戻ってきました。彼は我々に、自分のことを忘れさせまいとしているように見えます。

対象: テッドさん、私に協力していただけませんか。奇妙な確信があるんです。彼を止めることができるのは私だけだと。

Agt: それは我々にとっても望むところですが、何故そう思ったのですか。

対象: 彼の好きだった歌を知っているのは、世界に私ただ一人だからです。

<録音終了, 2020/3/3>

終了報告書: インタビューの結果を受けて、財団霊的実体部門はフォッカー氏の協力の下、SCP-XXX-JP-1への直接接触を試みる実験の実施を提言しました。約一週間に及ぶ議論の末、日本支部理事会は提言を承認し、SCP-XXX-JP現象の再出現を待ってSCP-XXX-JP-1とのコミュニケーションが試みられることとなりました。実験に際しては、財団IT部門の協力並びに同部門が保有するフルダイブ型仮想現実技術が利用される予定です。

► 映像記録:インシデントレポートXXX-JP-12

映像記録

---

日付: 2020/3/12
注記: 以下の記録は、通算12回目となるSCP-XXX-JP現象発生時に行われた実験-XXX-JP-1の詳細をIT部門が映像ファイルとして保存したものである。フォッカー氏は上述のインタビュー後、より効率的な協力への条件として臨時Eクラス職員に指定され、実験に備えフルダイブ型仮想現実導入に必要なVR機器を整備したサイト内実験室の付近に待機していた。IT部門による屋外ディスプレイへのアクセスの試みは、現象発生後1分以内に実行された。

[記録開始]

[00:01～01:05]: (従来の現象発生時と同様のため割愛)

[01:06～16]: アクセスの試みが成功し、フォッカー氏を模した3Dアバターがディスプレイに投影される。SCP-XXX-JP-1は明らかな動揺を見せ、歌唱を中断する。伴奏は変わらず流れ続けている。

[01:17～37]: フォッカー氏は自身が本人であり、SCP-XXX-JP-1ことPOI-XXX-JPの行為を止めるためにやってきたと説明する⁵。SCP-XXX-JP-1は頭を抱えて首を振るような所作を見せる。

[00:38～47]: SCP-XXX-JP-1の背後から突如として巨大なウツボ様のキャラクターアバターが出現する。過去の現象と異なり、風景は都市風のまま維持され、ウツボはビル街を薙ぎ倒して飛翔したように描写される。フォッカー氏は動揺し、よろけてその場で尻餅をつく。

[01:48～03:14]: SCP-XXX-JP-1は再び歌唱を再開する。伴奏はスローのバラード調へ変化している。歌詞の内容にはフォッカー氏に向けたと思われる、「もう戻ることは出来ない」「自分は過去を呪っている」「貴方にはさよならを言った」などという原曲にないフレーズが挿入される。ウツボは暴れ回りながら現実世界のビル街へ飛び出し、投影されたガラス窓を不明な原理で破壊する。機動部隊により、聴衆の緊急的な避難が開始される。

[03:15～23]: 実験責任者の崔博士により、実験の継続が正式に命令される。フォッカー氏は体勢を整え直し立ち上がる。SCP-XXX-JP-1は歌唱を中断し、号泣しているように見える。

[03:24～04:01]: SCP-XXX-JP-1が歌唱を再開するが、フォッカー氏は息を合わせて合唱を試みる。二人の歌はラスサビに当たるパートに向かっていく。SCP-XXX-JP-1は驚きながらも、やや柔和な表情へと変化し、歌声も次第にお互いへ囁きかけるようなものになっていく。ウツボは暴れるのをやめ、SCP-XXX-JP-1の元へ戻ろうとする。野次馬の避難は大半が完了したと機動部隊より報告が上がる。

[04:02～24]: SCP-XXX-JP-1とフォッカー氏はラスサビに当たるパートを歌い上げる。⁶

[04:25～40]: SCP-XXX-JP-1はその場に泣き崩れそうになるも、フォッカー氏に体を支えられる。ウツボは元の画面内に戻り、空中から二人を見守っているように観測される。

[04:41～55]: フォッカー氏がSCP-XXX-JP-1を抱擁し、接吻する。SCP-XXX-JP-1はフォッカー氏を抱擁し返す。背景に太陽が昇り、風景が明るく照らされる。

[04:56～05:06]: ウツボが地上に降り、口を開けて二人のアバターを丸呑みにする。同時に、現実世界のフォッカー氏の肉体が消失する。曲の終了に伴い、伴奏が停止する。

[05:07～30]: ウツボがいた空中に、虹に似たアニメーション風のオブジェクトが現れ、ウツボがそれに向けて飛び立っていく。崔博士の指示により、予備として用意されていたDクラス職員がディスプレイへのアクセスを試みるが、不明な原因により失敗する。

[05:31～45]: ウツボが空へと消えていくのと同時に、画面が徐々に暗転し、完全に消失する。

[記録終了]

終了報告書: その後のDクラスを用いたアクセスの試みは何れも失敗に終わり、SCP-XXX-JP現象そのものが収束してしまったことから、フォッカー氏のサルベージは事実上不可能であると結論づけられました。実験責任者は一般研究員へと降格処分されましたが、後の調査でSCP-XXX-JP-2が発見されたことにより、フォッカー氏がまだオブジェクト内で生存している可能性が示唆されたこと、並びにSCP-XXX-JP現象による異常の拡散を防止した実績が評価され、一ヶ月後に処分取り消しとなっています。同時に、オブジェクトクラス及び収容プロトコルは現在のものに改訂され、研究はSCP-XXX-JP-1及びフォッカー氏の状態を調査することが主要な目的となっています。

また、本事案の発生直後、SCP-XXX-JP-2のデスクトップ画像が以下のものに変更されていることが調査により明らかとなっています。画像はPOI-XXX-JPが自身とフォッカー氏を描写したものと見られていますが、生成方法は現在のところ不明です。

SCP-XXX-JP-2の現在のデスクトップ画像。

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  Squila Godarni 29 Mar 2021 04:16

  ↑間違って投稿してしまいました…

  最後の編集 29 Mar 2021 11:22 by Squila Godarni さらに表示

  uv予定

  Squila Godarni 29 Mar 2021 04:18

  SCP-XXX-JP-2の現在のデスクトップ画像。

  　画像が表示されません、本文が気に入っただけに気になる。それと撹乱クラス・リスククラスのアイコンも。

  最後の編集 31 Mar 2021 05:37 by Squila Godarni さらに表示

  UVです

  WasLaiD 29 Mar 2021 05:57

  ふたりはこれからも…と想像の余地があるオチが綺麗でした。

  因みにメタタイトルや特異性から連想したのですが、某楽曲がモデルになっているのでしょうか？間違っていたら申し訳ないです。

  crow_109 29 Mar 2021 13:46

  Squila Godarniさん、kazefukiさん、ご感想ありがとうございます。

  画像が表示されません、本文が気に入っただけに気になる。それと撹乱クラス・リスククラスのアイコンも。

  すみません、画像が未完成だったためです。画像を追加し「未完」を外しました。あとリスククラスのアイコンは私の構文が間違っていたので、修正致しました。

  ichinasi234 29 Mar 2021 15:35

  私個人の意見としましては、現時点でも完成度が高くこのまま投稿されてもUVすると思います。重箱の隅をつつく様になってしまいますが、いくつか指摘するならば

  彼は子供のように泣きじゃぐっていました。

  こちら、

  彼は子供のように泣きじゃくっていました。

  の誤字でしょうか？

  また、完全に個人的な趣味ですが

  彼の幼なじみだというひとりの女性が、人目を憚らずに泣いていました。

  幼い頃から転居を繰り返していた、と言うならば幼なじみもできないのでは無いかと思いました。ここは個人の感覚によると思うので微妙な感じです。

  一つ不安なのが、私は気になりませんでしたが、異常性の一因が｢いじめ｣なので、一部の方からはそこが陳腐なように思われてしまうかもしれません。杞憂かもしれませんし、こうした方が良いとは言えないのですが……
  　

  最後に、先程も書いたように完成度が高く、読み終わって気持ちの良い記事でした。投稿を心待ちにしております。

  crow_109 30 Mar 2021 12:50

  ＞ichinasi234さん
  ご批評ありがとうございます。誤字脱字は修正致しました。

  幼い頃から転居を繰り返していた、と言うならば幼なじみもできないのでは無いかと思いました

  確かにその通りですね……設定の矛盾に気付いてませんでした。従姉妹に訂正させて頂きました。

  異常性の一因が｢いじめ｣なので、一部の方からはそこが陳腐なように思われてしまうかもしれません

  自殺や復讐に至る動機としてよくあるネタなのは否めないですね。
  ただ、現状良い代替案が無いこと、SCP-050-KOのように「いじめそれ自体」をテーマとしたオブジェクトでは無いこと、「平凡な学生」にありそうな悲劇としては一番可能性が高そうなことから、当面はそのままとさせていただきます。

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利用ガイド

1. portal:2999720 (15 Jul 2018 03:34)

Footnotes

1. 2018年、国内のウェブメディアに関係した異常現象の収容の為設立された。後述する株式会社████████の下請けとして、主に広告代理店活動を行っている

2. 財団による調査の結果、あらゆる非異常のネットワークメディアについてSCP-XXX-JP-2からのアクセスは現在確認されていない

3. 本事案を受けて財団の徹底的な調査が行われたが、会社組織は全員が非異常の一般人で構成されており、また既知の要注意団体とも関係はないと証明された

4. 同性愛者や性別移行者等、男性／女性の区別や異性愛規範に当てはまらない性的指向を持つ人々の総称

5. 説得に際し、いじめグループの構成員が全員退学処分になった旨の欺瞞情報を事前にフォッカー氏に伝えている

6. 歌詞の内容は原曲通りだが、「人生を前向きに生きていくことについてのメッセージが込められている」と一部批評家に評されるものである