Not, Neutralized

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墓守、ねぇ。

書類をめくる手をふと止めて、山月監視員は呟く。
新人エージェント達にサイト-81NNを案内した時に、彼らの一人が呟いた言葉が頭の中にじわりと浮かび上がる。
まるで墓守みたいですね。
気にはしていない、とはいえその一言は彼の仕事を的確に言い表しているように思えた。

サイト-81NNは日本支部の中でも特殊な立ち位置にある。
人は少なく施設は広大、そして扱うオブジェクトはNeutralizedのみ。
かつて異常だったオブジェクト達が終の棲家としてやってくる墓場こそがサイト-81NNだった。
山月は極度の異常恐怖症保持者であり、発生した異常にいち早く気付くことが出来る。
その能力を買われて、彼はこのサイトでNeutralizedオブジェクトの再活性化を監視する業務に就いている。

自分の努力じゃなくて、持って生まれた良く解らない恐怖症のおかげで飯を食ってるんだよなぁ。

山月は自嘲気味に笑う。
もう厳格な収容の必要が無くなったオブジェクト達は無造作に金庫に格納され、
壁一面ずらりと並んだ金庫はさながら集団墓地のようだ。
終わったオブジェクトを見守るだけの、終わってる職員。
再活性化の兆候が無いか、中身が記録と正しいか。
決まった時間に金庫を開けて、閉める日々。

気分が落ち込んでいるのは、新人の心無い言葉のせいだけでは無かった。
この日は毎年そうなのだ。
12月29日。ある老人の命日であり、木製のずっしりした壁かけ時計――今取り出している――の針が止まった日。
老人と共に時を刻んだこの時計は、彼が寝たきりになってからは時間毎に様々な異常現象を起こす時計だった、らしい。
帰って来ない孫が玄関を開けて帰ってくる音。死んだ妻が淹れていたお茶の匂い。
そういった記憶が、再現されていたそうだ。

新人時代、親しいエージェントがその時計についてやるせなさそうに話していたせいで、山月はいつの間にか老人に、時計に共感してしまったようで。
老人の死と共にその時計が彼の職場に運び込まれて以来、山月は老人の死亡時刻にその動かない時計を眺めてることを習慣にしていた。もしも再活性化した時の為に。そしてほとんどは、名も知らぬ老人の死を悼むために。

「辛気臭い面してんなぁ、山月」

「うわっ、脅かさないで下さいよ」

背後からいきなり声をかけられて、山月は慌ててそちらを振り向いた。

「あー、時計の日か。悪い」

「いえ、まぁ監視スケジュール通りですけど。この日にやるのは趣味みたいなもんですし」

同じサイトに所属する、技術者の桜戸。
静かなこの環境では、彼のようなうるさい人物に何かと助けられる事もある。

「いやぁ、新人さんに、墓守みたい、って言われちゃいまして。確かに閑職ですしね、私も職員としてはNeutralizedみたいなもんだって思っちゃって」

思わず愚痴ってしまった。
桜戸はぽかんとして、それから椅子を引きずって来て乱暴に隣に座る。

「そんなことで落ち込んでんのかよ？」

まぁ、そうでしょうね、はい。

山月の独白
役割と財団での立ち位置
境界
境界を超えるモノ

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