1
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もし「秘教封じ込め」という言葉に心当たりが無いなら聴くのをやめろ。
およそ10秒の時が流れる。近くで窓を打つ雨音が聞こえる。
私はローウェル・ヘンリー・ピエドモント博士。財団の研究者で、異常なオブジェクトや出来事、そして場所に対しての秘教封じ込めにおける専門家だ。私は道に迷った。他に3人が一緒だ。現在SCP-914に割り当てられている、公文書管理官補佐のアリシア・コナーズ。同じくSCP-914が担当の研究助手、ジェラルド・ハンドック。マシュー・タージャーは保安エージェントで、互いの利益のために協力している。
914によって作られたSCP-316のレプリカから発せられたもの……我々はこの新たなるアイテムの光に晒された。私はここは英国じゃないかと思うんだが、それを確かめる手段は無い。我々はタージャーの提案で温室に避難した—そこは高く、他の敵対者など見えない良い眺めを提供してくれるだろう。我々は既に攻撃されている。
我々はその隣の、打ち棄てられたマナー・ハウスの居間でキャンプを張ろうとした。しかし2回目の見張りの時に銃撃で起こされたんだ。タージャーが不快な長い何かが窓ガラスを溶かすのを見た。そいつは眠っているコナーズに近づこうとした。彼は危うく見失いそうになったがどうにかそいつを撃ち、体の前側を千切れさせて窓に開いた歪な穴から追い出した。我々はすぐに場所を変えることにした。
これが私の最初の記録だ。これから帰還するための試みを記録していこうと思う。
ピエドモント博士、録音終了。1日目。弾薬を1発消費。残り71発。
録音が終わるまでの2秒弱、雨音が続いた。
2
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もし「秘教封じ込め」という言葉に心当たりが無いなら聴くのをやめろ。
およそ10秒の時が流れる。近くで水が流れ、跳ねる音が目立ち、それに混ざって落ち着いた低い男の声と、高い女の声が聞こえる。女は苦しんでいるようだ。
我々は日光が十分に内部を照らすのを待っていちかばちかマナー・ハウスに戻った。タージャーが先頭で、私が後方から他の二人をカバーした。他に虫はいなかった。この家には複数の出口があったが、力—近代的な装備は全くの皆無で、実際これほどの土地にしては備え付けの道具もかなり少なかった。絵画が掛けられているべき空間は空いていたし、家具も取り去られていた。恐らくは奪われたか捨てられたのだろう。我々は未だ元の時間に近い位置に踏みとどまっている。しかし地理的には明らかに失踪状態だ。
地図や他の役立ちそうな物は缶詰の他に見つからなかった。よく知らないブランドだ。多分郷土食。こいつを見る限り、我々は思ったより遠い場所にいるのかもしれない。固定観念に囚われるな。
我々は地下室に行くかどうかを話し合い、多数決の結果3対1で鍵を壊して探索することが決まった。地下には昨日の夜のようなやつはいないだろうと思ったのだ。我々は正しかった。
馬鹿馬鹿しいとは思うんだが、肘にある口でタージャーの肩に噛み付いたあれは人間の成れの果てではないかと思えてならない。それを確かめられるほど長くは留まらなかった。ハンドックがキッチンで鍵束を発見したのは、園芸小屋から拝借したハンマーで半分ほどの鍵を壊した後のことだ。クリーチャーがタージャーはあまり美味くないと気づいた後(奴のど真ん中を撃ってから)、我々は残った鍵を掛け直した。それで十分だと思いたい。奴の皮膚は大量の衝撃を吸収するし、奴を殺せるほどの弾は無い。傷を縛ると、タージャーはまるで2、3日で治ってしまいそうにも見えた。自我の方が癒されるにはもう少し時間がかかるだろうが。
この家は危険だが、他に行く場所も無い。明日は数時間歩くつもりだ。見晴らしのいい場所から別の行き先が見つからなければここに戻る。
これは帰還の試みを記した記録の2つ目だ。
ピエドモント博士、録音終了。2日目。弾薬を1発消費。残り70発。
録音が終わるまでの2秒弱、背後で雑音が鳴っていた。
3
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もし「秘教封じ込め」という言葉に心当たりが無いなら聴くのをやめろ。
およそ10秒の時が流れる。大火事と思われる音が聞こえる。
あのクリーチャーのことを思い出したと確信している。数ヶ月前に同僚が読ませてくれた、飲んだ者を怪物そのものへと変えてしまうウィスキーのボトルについての報告書と一致する。あの虫もひょっとすると同じように私の知っているア……アノマリーだったかもしれない。だがアリシアを殺した奴のことならはっきり分かる。どうして全く無関係の3つの……オブジェクトが……同じ場所に集まったのか、見当もつかない。
我々は遠征先の丘の上で小さな町を目にした。川を挟んで向かい側だったが、越えられる程度だった。我々は川を渡って町に入った。そこには誰もいなかった。多くの家と車があった。まだある、と言うべきか。幾つかの家の正面には酷い凹みや油シミがあったが、乗り物によってできたものではなかった。
まず間違いなく、かなり前にあの……ダメだ。言う訳にはいかない。誰がこれを見つけるか分からないからな。砂浜と呼ぶことにする。砂浜がこの街に住んでいた人々を残らず殺すか追い払うかしたんだ。もし君がこのノートを見つけたなら、湖には近づくな。砂は生きている。君は自らの足がバラバラになった事にも気付かぬまま奴らに食い殺されてしまうだろう。奴らは彼女を分解した。彼女は自分が短くなってる事に気付かないまま歩きさえしたんだ。
それは言い過ぎとしても、恐ろしい光景だった。彼女は走ろうとしたが、左足が裂けて倒れてしまった。長くは叫ばなかったな。我々は湖の周辺でキーが挿しっぱなしの車を見つけた。走っている時にキーチェーンが光っているのを発見したんだ。車が無くても逃げ切れはしただろうと思う。だがおかげで楽ができた。
ここに道路地図がある。グローブボックスにだ。我々が話せる言語では書かれていないが、あるページの角が折られていた。道路の配置はこの町と川に一致している。我々は燃料を補給して次の町に向かうつもりだ。
ここに来てから雲が晴れたことが無い。ただの1分もだ。ここではこれが普通であってほしいものだ。異常気象など真っ平御免だ。
これは帰還の試みを記した記録の3つ目だ。
ピエドモント博士、録音終了。3日目。マガジン1とサイドアームを喪失。残弾58発。食料品店から食料を得た。次はガンショップを探す。
録音が終わるまでの2秒弱、背後で雑音が鳴っていた。
4
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録音が始まる。しかしピエドモントが喋り始めるまでに間-3秒ほどの-があった。唯一聞こえた背後の音は2つの乱れた息遣いだ。
もし「秘教封じ込め」という言葉に心当たりが無いなら……聴くのをやめろ。
およそ10秒の時が流れる。雑音に3つ目の息遣いが加わる。録音機材にとても近い位置だ。
あの鏡を見つけた後、タージャーが力ずくでハンドックを鎮圧しなければならなかった。あれがどうやって収容を破ったのか分からない。あれは一つしかない物で、それを我々が持っていた。虫、クリーチャー、砂浜……これらは説明できる。鏡だけだ。ここにあるはずがないんだ、或いは我々が想像と違う場所にいるのか。今後は考えをまとめる時はタージャーと話すことにする。ハンドックはまだ議論ができる状態じゃない。
我々は侵入した質屋でスタンド付きの鏡に遭遇した。二つ目の町まで来てはみたものの、ここも最初の町と同じくらい何も無かった。数体の死体を見つけたが全て事故死だった。特に驚くべきことも無かった。だが鏡のおかげで皆イラついている。いや、イラついていた、だな。カウンターの裏で下向きに
倒してやった。何が起こっているのか聞いた後でね。
あれの言葉を信じてはいけない。あれは我々を引き止めるような事なら何でも言っただろう。タージャーは留まってしまいそうだったが私に倣った。ありがとう神よ。ハンドックは……分かってくれなかった。彼はあの報告書を読んでいなかったに違いない。あれは凄まじく大きな悲鳴を上げた。聞いていた奴がいないといいんだが。
あれはここにあるはずがない物だ。だがある。我々は元の場所にはいない。ここはどこか別の場所だ。戻る方法を見つけてやる。オブジェクトがひとところにこんなに集まってるんだぞ?まだまだあるはずだ。
我々が間違った道を選ばないことを祈る。
これは帰還の試みを記した記録の4つ目だ。コナーズの死から数えると1つ目だ。
ピエドモント博士、録音終了。4日目。リボルバー1、ライフル1、ショットガン1を発見した。全て装填済みだ。予備弾は無い。残弾74発。
録音が終わるまでの2秒弱、背後で雑音が鳴っていた。
5
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もし「秘教封じ込め」という言葉に心当たりが無いなら聴くのをやめろ。
およそ10秒の時が流れる。背後では男2人が落ち着いた声で会話している。金属の擦れるかすかな音が聞こえる。
我々はペルーにはいない。あれがいるはずがない。アノマリーに関する限りでは、イナゴはそんなに酷いもんじゃない。事故—店にたどり着く前に何度も見かけた—についてもそれで納得がいった。食料品店をキャンプ地に選んで良かった。ここなら落ち着くまで待っていられる。タージャーだが、あれを見てしまったので今は拘束している—あれを見た彼を丸め込んで冷凍庫の扉に手錠で繋ぐのはそれほど難しくなかった。ハンドックと私は彼に食物を与え、必要であればトイレに連れて行く。店頭の窓には背を向けている。言うまでもないことだが、当分彼の銃は没収だ。
一応後ろを向く時には予め彼に後ろに何が見えるか教えてもらっている。我々は大丈夫だと思う。
別のアノマリーだ。我々は再び深刻な危険に出くわす前にここで何が起こっているのか解明しなくてはならない。全てを対策するにはオブジェクトが多すぎる。
これは帰還の試みを記した記録の5つ目だ。
ピエドモント博士、録音終了。5日目。残弾74発。暫くここに滞在する。
録音が終わるまでの2秒弱、背後で雑音が鳴っていた。
6
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もし「秘教封じ込め」という言葉に心当たりが無いなら聴くのをやめろ。
およそ10秒の時が流れる。2つの吐息、1つは眠っている人間のものと思われるものが背後で聞こえる。
我々は幸運に恵まれた。再びだ。もしもハンドックが最初の暴露者であったなら、彼はかなりそいつに手を焼いていたに違いない。だが実際にはそれはイナゴへの暴露が終わろうというタイミングでタージャーを捕まえた。彼は全く動じなかった。近くにいるのは気味が悪いが我々はそれに慣れつつある。そいつはタージャーに「襲撃」の構えが通じないと見るや、彼の真似をし始めた。それが何よりハンドックをイラつかせた。このサプライズは私にも及んだが、少なくとも二次災害に手を焼くことは無かった。私はあれが面白がっているのかもしれないと思うのだが—洒落を言うのを許してくれ、私はあれのユーモアに皮肉にも「ブラックな」センスが欠けている事を喜ばしく思う。ひょっとすると—そういうものも結果的には役立つのかもしれない。
ピエドモント博士、録音終了。未だ5日目。6つ目の記録だ。最初に撃つ分を入れずに73発。
ハンドックが頭に平手打ちを食らったのは自業自得だ。タージャーにビールを持っていくとするよ。
寝息が続く。それとは別の小さな笑い声はタージャーのものだろう。ピエドモントがそこに加わる。およそ1秒後、録音は終了した。
7
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もし「秘教封じ込め」という言葉に心当たりが無いなら聴くのをやめろ。
およそ10秒の時が流れる。背後にモーターの音が聞こえる。
もう少しであの家に入るところだった。母なる間違いでは、
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任意A任意B任意C- portal:2955066 (06 Jun 2018 08:22)
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