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[記録開始]
どこから話せばいい?最初?じゃあ死んだところから始めよう。それが最初ってのもおかしな話だと思うけど。
そうだな。まず、俺は死んだ。それだけは覚えている。いや嘘だ。それからの事も全部はっきり覚えている。意識が無くなって、そしてなぜだか失った意識を取り戻したってのが最初に起こった事だと言えるだろう。あの時はびっくりした。所謂植物状態みたいになったんだと思ったからどうにかして動けないか試したし、俺を火葬しようとする奴らに生きてるって伝えようと必死になった。結局何もできずに焼かれて、灰になりながら俺は自分は死んでるんだってようやく認めた。往生際が悪いと思うか?きっと誰だってそんなもんさ。
そこからは地獄だった。自分の体に起こることの全てが感じられたからだ。神経が無い場所も全部……かは分からないが、様々な場所の感覚があった。例えば手、足、血管の内側の壁、タールで詰まった肺胞。そういうもの全部に感覚があった。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。本当は分かるはずのない場所でも全部。とはいえ複数の場所から同時に様々なものが見える感覚に慣れるまでは痛み以外ほとんど何も分からなかったが。
それでも痛みと苦しみは明瞭だった。腕が痒くて掻こうとしたら痒い場所は腕の内側だった、なんて経験はあるか?それの痒みが痛みになったようなもんだ。言い得て妙だろ?体の全てが腕の内側だった事以外はそっくりだ。痛みと苦しみは常に新しくなり続けた。慣れる事はなく、思考を止める事すらも許されない。
常に感じるそれらとは別の苦痛もあった。例えば、時たま俺の体は鳥や魚や虫に食われて他の生き物の一部になった。だけどそれでも感覚は消えない。生き物の体の一部でありながら俺はその生き物とは別に感覚を持っていた。すると神経細胞の一部になっちまったらどうなるか。痛みの信号を受け取った部分が俺だと俺まで痛くなっちまう訳だ。とりわけ最悪なのは脳細胞になる事だ。感覚全てが同時に痛みにもなるからな。目で見る景色も心安らぐ音楽も、全て痛みと隣り合わせだ。植物ならそういう事は少ないが、発展途上国の耕作地にたどり着いた時は嫌になったな。運よく収穫される部分に紛れ込むまで何度でも焼き畑されて引かない熱に悶え苦しむ羽目になるんだ。まあ詳しくは言わないさ。
重要なのは、俺は俺としての感覚を保ったまま別の生き物の感覚も同時に得る事ができたって事だ。俺は俺であり、俺を取り込んだ生き物の一部でもあった。となるとだ。もしも何かの偶然で俺の体が大量に何かの生き物の脳細胞になっちまったら、とりわけそれが意識を司るような部分だったらどうなると思う?
そういう事さ。俺はここにいるこの俺であり、そして同時に今まで通りの俺でもあった。運良くってレベルの話じゃない。何百年、何千年と待って二度と無いだろう奇跡だよ。生前の行いが良かったのかもな。
ともかく俺は生まれ直し、再び体を手に入れた。自分で動かせる体をだ。動く事ができるだけで俺は救われたように感じた。胎盤に繋がれていた頃から歓喜の叫びを上げようとしたし、申し訳ない事だが興奮のあまり暴れて腹を蹴ったりもした。その代わりって訳じゃないが多分産声を上げるのは世界一上手かったんじゃないかと思う。そうやって俺は生まれ、育ち、自分の足でまた歩けた。本当に幸運だった。もちろん俺はまだ地獄の中だ。この二つの目とは別に元の体の他の部分でもいろんな景色が見えているし、何を食おうとも、何を食わずとも口の中はぐちゃぐちゃだ。それでいて個々の味や臭いも分かるからいつだってゲロ吐きそうな具合だったさ。それでも、繰り返しになるが俺は十分に救われたんだ。毎日が楽しかった!新しい人生を精一杯に生きて、生きて、悔いが残らないように必死になって!
で、またもや俺は死んだ訳だ。
そりゃそうだろ。生きてりゃ死ぬさ。それは仕方ない。だけど2度目の体でも同じ事になるとは思わないだろ。追加で体1つ分の感覚まで感じるようになっちまった。倍だぜ。たまったもんじゃない。
そこから何年が経ったのかもう考えたくもない。何度リスや狸になったのか、鰻の稚魚や鯨の骨に住まう固着生物になったのか。『何百年、何千年と待って二度と無いだろう奇跡』が一体何度起きたのか!数え切れない苦痛と共にうんざりするような生活を送った。心の支えは散らばった俺から見える景色くらいさ。
例えば今日本に台風が来てるな。あれは俺だ。嵐の目の中に差す光が俺には見える。嵐の中じゃ腐った雨樋に穴が開いたよ。日本までの道中で海に降らせた雨粒からは海底に住まうシーラカンスの開けた大口がよく見える。
そういう景色の一つ一つが俺を俺のままでいさせてくれた。何度繰り返したか分からない死が俺を苦痛と絶望の塊に変えるのを防いでくれていた訳だ。全部見たぜ!もうこの地球に俺の見たことが無い場所なんてどこにも無いんだ。なんならたまに宇宙に打ち上げられて地球の外までちょっとは見てるくらいに全部。
だからさ、そろそろやめにしようと思うんだよ。
馬鹿みたいだ。誰に見せられる訳でもないのにみんなを演じて。俺が俺を馬鹿にして笑って、俺が一緒になって笑って。泣きだした俺を俺が慰めて抱きしめるんだ。三文芝居が流行るような時代じゃない。
だけどどうしたらいいと思う。全部やめたって俺が消えて無くなる訳じゃないしさ。そのうち動かせる体も無くなるだろ。そうなった後、俺は何をどうしたらいいんだろうな。
……なんてお前に言っても仕方がないか。
どうせお前も俺なんだしな。
[記録終了]
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アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:2955066 (06 Jun 2018 08:22)
なんとなく思っていた疑問の答えになるような内容で、その怖さをうまく書いているので印象はいいです。
ですがやはりここまでちゃんと書かれていると「もっと前から、何なら生物が誕生してからずっとこうでは?」という疑問は無視出来ません。
もしどこかのタイミングで突然27182が発生したのならこれでもいいのですが、何か想定している考えはありますでしょうか。
ありがとうございます。
すみません。ちゃんと書いてたんですけど無限Posting now…に飲まれて元気無くしたのでひとまずざっくり書きます。
書いてる最中の考えで言うと、生命の発生時点で既に2718があったとは思っていましたが、どちらかと言うと高々7億年しかない脳を持つ生命の歴史の中で全生命自分化まで行ってる方に違和感があるかなと思っていました。死んだ人間が種としての人間が滅ぶ前に人間に生まれ直しが発生したり、何度も人間になったりしてるのがあり得ないだろうなと。人間であれば「そこそこでかい」「めちゃくちゃ多い」「よく死ぬ」「年中発情期」「なんでも食う」など好条件ですが、他の生き物はそうでもないので人間以外だと尚更無さそうだと考えています。
体が小さい生き物は1体当たりの絶対的な質量が少なくていつまで経っても他の生き物を乗っ取れなかったでしょうし、逆にでかい生き物は死にづらかったり繁殖スパンが長かったりしてあまり試行回数が増えなかっただろうなとは思っています。その辺りで人間以外は中々全部乗っ取るまでは行けず、初めてその状態まで到達したのは人間となったという考えです。