何者でもない tale

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男はノートパソコンを開いて、何もせずにそのまま閉じた。ボタンを押し、パスワードを打ち込んで、お気に入りのゲームやらネットサーフィンやらに没頭するという未来も確かにあった。そうすればいつも通りに時は流れ、腹は減り、ある種の多幸感がやって来ただろう。けれど何度も繰り返した問題の先延ばしが、なんだかやけに馬鹿らしかった。

彼は運の無い男だった。サッカーをすればボールが顔に当たり、街を歩けばスリに遭い、電車に乗れば痴漢と間違えられた。いつからというような時期は無く、気づけば既にそうなっていた。初めは一々困惑していた彼も当然とばかりに不運が続けば慣れてくる。正しいボールの蹴り方を学び、スられない財布の持ち方を学び、痴漢と間違いようのない吊り革の掴み方を学んだ。それでも予期せぬ不運が度々訪れることはある。急に天気が悪化して旅行先から帰れなくなる事もあったし、同僚が転んでぶつかったばかりに仕事のデータが丸ごと飛んだ事もあった。どう頑張ってもストレスは無くなるものではなかった。

彼は日常の不運で溜まったストレスの捌け口を人間関係に求めた。周りに溶け込んでそこそこ愛想良くすれば悪意を向けられることは無く、不運ではあるが総合的に見ればそこそこ充実した生活が送れるようになった。それで良かった。あの日も彼は確かな充足感の中で髭を剃り、顔を洗い、しっかりと髪型を整えた。それでいつも通りの日常がやってくると、そう思い込んでいた。


その日起きた事が何だったのか、彼にはもう思い出せない。ただ一つ言えるのは、誰が悪かったわけでもないということだ。


彼は床に横たわっていた。ぼうっとしていると頭がズキズキと痛み、それをきっかけに身体中が次々と痛みを訴えだした。ふらつきながら体を起こして上を見ると、ロープの切れ端が引っ掛かったフックが見えた。4巻き目のロープだった。

彼はゆっくりと目を閉じて、深く息を吐いた。子供のはしゃぐ声が聞こえた。

彼はあの暖かな日々を憶えている。

彼はあの奪われた日常を憶えている。

彼は、日常がただ零れ落ちたに過ぎないのだと分かっている。けれど。

「これじゃあ、あまりにも惨めじゃないか」

男は静かに立ち上がると、灰色の外套に袖を通した。

何者もいなくなった部屋の中でロープの切れ端が揺れていた。


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  1. portal:2955066 (06 Jun 2018 08:22)
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