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線香の匂いだけが意識の中ではっきりしていた。その他の感覚は何もかもが白昼夢のようで、まるで自分が自分でないみたいな、そんな実感の無さがここにはあった。
念仏のせいかもしれない、なんて思った。坊さんの唱える念仏は大きく、真っ直ぐに響くものだ。脳がその音を環境音と誤解して、何も無いものと扱ってしまう。けれど鼓膜を揺り動かすこの音は確かにここに存在していると頭のどこかでは分かっていて、そのギャップが目の前の物の現実味を薄れさせている、とか。
匂いが少し強くなって考えはまとまりを失った。焼香台が俺のところに回ってきたのだ。隣から台を受け取り、一礼する。香を焚べ、合掌し、再び一礼。一瞬だけ強くなった匂いが元に戻るのを感じながら、こういう時には何か故人を想うべきだろうか、なんて考えていた。
式は滞り無く進み、そして一通りの工程が終わった。随分と呆気ないものだった。
式場の外で空を見ながら一服していると1人の男が近づいてきた。他の参列者からは少しばかり白い目で見られていた奴だ。と言うのも、彼の胸には白地に3本の黒矢印が刻まれた特徴的なバッジがある。そして俺の方はと言うと、絵描きの集団に混ざるのは気が引けた。偶然ながらどちらも中に居場所が無かった。多分向こうはそれを知っていて俺の方に来たのだろう。
「財団の。あんた、悲しくはないのか」
そう話しかけたのはそいつが俺と似たような顔をしていたからだ。鏡の向こうの俺に見た、平然とした無表情。あるべき悲しみも、苦しみも、後悔すらも忘れたような顔。その顔を見ていると自分がどうしようもない人でなしのような気分になった。だから否定してほしかった。自分は人でなしではないのだという確証をそこに求めていた。だが男は目を逸らし、寂しげに笑った。
「どうだろうな……正直悲しいって気持ちは無いかもしれない。まだ感情が追いついてないって感じで」
そいつは自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を絞り出した。それでそいつも同じ事を思っているのだと気づいた。もしかするとこいつも心を埋める言い訳を求めていたのかもしれなかった。立場が違っても人は人。そう思うと唇の端が自然と上がった。俺はタバコを取り出した。
「似た者同士、どうだ」
「……いいね」
そいつにタバコを咥えさせ、自分のから火を移す。目の前に来たそいつの腕をぼうっと眺めた。庇を作る手が僅かに震えているのが見てとれた。
それが故人への想いからなのか、それとも無感動な自分への怒りからなのか、俺にはどうにも分からなかった。ただ、そいつが人でなしではないことだけはきっと間違いないのだろう。
「どうも」
「ああ」
二人空を眺めて紫煙を吐いた。俺が人でなしではないのかは結局分からないままだった。
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任意A任意B任意C- portal:2955066 (06 Jun 2018 08:22)
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