夜道 ととゆう

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暗い夜道を歩くと、いつも不安な気持ちになる。

財団に勤めてもう3年が経とうとしていた。最初は何をするにもおっかなびっくりだった私たちもそろそろ環境や立場に慣れ、自然体で、余計な緊張をせず日常を過ごせるようになってきたのだと、同期たちはこう言うだろう。私もいつもはそう思っている。無駄な緊張は動作に余計なものを産む。いつも通りの事をいつも通りにできるという事が一番大事なのだと知っている。

ただ、この道を歩くときだけは違う。

なんて事のない小道を、午後7時の暗い夜道を歩く度に、私は今にも暗がりから何かが這い出てくるのではないかと思い、響く足音に誰かに追いかけられているのではないかと思い、瞬く街灯にすら異常の前兆かと思ってしまう。

それは初めてこの道を通った時から変わらない私の臆病さの証明であり、同時に私が生を実感するためのある種のルーティーンでもあった。

どんなオブジェクトを相手取るにも、危険だとか、生物に影響するとかいう情報があればまずはラットを放ってみる。そのためのラットが財団では大量に飼育されている。最初に任された仕事がそいつらの世話をする事だった。初めの頃は死ぬためだけに生まれてくる無数のラットにしんみりとした気分になったものだが、しばらく経つとそんな考えは頭の中から消えて行った。今ではラットを使い潰す事に対してさほど抵抗は感じない。それが正常な反応だ。

だが、この道は慣れというものと無縁に思えた。どこまでも続く深い闇、どこからかこちらを見る視線、温かみというものをおよそ持たない夜風、夜の静寂に響く自分の靴音。そういうものに晒されて、この夜道を歩いている間だけは命がいかに軽いのかを考えずにはいられない。あのラットがいかに簡単に死んで行くのか、Dクラスがいかに簡単に死んで行くのか。そして、私達研究員がいかに危険な場所に身を置いているのか。そうやって自分の生きるこの世界がいかに残酷なのかを思い出す。恐怖に足を震わせながら我が家へと辿り着き、電灯のスイッチを入れた時、私は変わらぬ光景に安心し、命ある喜びを噛みしめる。世界がどんなに危なくても今ここだけは安全だ。根拠は無くてもそう信じる。そして翌日になるとそんな事はコロリと忘れて朝の明るい道を意気揚々と歩いて行くのだ。

その日は夜の道に去勢を張って歩いていた。酒を飲んでいて、少なからず酔っていたから怖くないフリをするくらいの余裕はあった。特に何事も無くあの道を過ぎて、酔っ払ったまま家に帰った。

家に帰り着いた時に違和感があった。変わった事なんて一つも無かった。部屋は朝出た時のままだ。いつもと同じ。それなのに何かが違っている。私は部屋の中心でぐるりと回って、開け放したドアに向き直った。

その瞬間、言い知れない恐怖が湧き上がった。部屋の外の影が底抜けの暗闇のようだった。薄暗い廊下に一歩踏み出す。ぺたりと足音がして、闇の中に吸い込まれて消えた。それだけの事が恐ろしく、急いで引き返してドアを閉めた。閉めたドアの向こう側から視線を感じた。窓を開けるとひんやりとした風が吹き込んで来た。その風が首を撫でる刃物のように思えて、思わず首元を手で押さえた。

夜の闇がじわりと染み出してくるのを感じた。家はもはや安心できる場所ではなかった。懐中電灯で照らしながら外に出た。部屋から廊下を通って外に出る、ただそれだけの距離も明かりがなければできなかった。

外に出ても気が休まることはなかった。私の周りだけが暗闇に包まれているかのようだった。見るもの全てを疑った。あの道を歩く時と同じように。

あの道。その考えに思い至って、私はすぐに駆け出した。

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