青空が終わる日

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青空には夢が詰まっている。それは人が普段触れるものの中で最も遠い存在だ。ビルよりも遠く、雲よりも遠く、どこまでもどこまでも続いて行く。故にか、空は古くより人を惹きつけ、空を目指す人の営みは様々な発展をもたらした。

子供の頃、見上げた空の深みに圧倒され、吸い込まれるような感覚を覚えた。自分もあそこに行ける日が来るのだろうかと夢想した。宇宙の本を読み漁って、空中遊泳する夢を見さえした。私はあの青空が好きだった。


冷たい日の光を受けながら、半開きの口を閉じた。気づけば辺りはもう明るく、小鳥が甲高い声で囀っている。まだ目覚ましの時間よりもだいぶ早いが、頭を回したからか二度寝できるほどの眠気も無い。仕方なしに体を起こした。

水はいつもより冷たく、温まるまで少しばかり時間がかかった。ぼんやりと顔を洗いながら目の奥の鈍痛を感じていた。

水気を拭うのもそこそこに私は鏡に目を向けた。肌は健康的な肌色で、しかし頰は少しばかりこけている。慣れ親しんだ自分の顔だ。その顔がやけにくたびれて見えたのは、きっと目の下の隈のせいだろう。

あの日からあまり眠れていない。

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その日も始業前には朝礼があった。朝礼と言っても、点呼と連絡事項の確認だけの簡単なものだ。いつもと同じで大した連絡も無かったが、いつもと違ったのはその後だった。

「あ、今日は上から連絡があるそうなのでこのままモニターの前で待機してください。他の所も同じだそうなので慌てなくていいですよ」

なんだそれ、と思ったが、そう言った主任もよく分かっていない様子だった。上というのはどのくらい上なのか、全員に通達されるべき事項とは一体何なのか。そわそわとし始めた私をよそに、モニターは突然光を放った。

『O5 COUNCIL』

驚く間もなく声が告げた。諸君、我々は成功した、と。


あるオブジェクトの収容の目処が立ったのだと言う。

かつて財団はそれを世界から引き剥がすことに失敗した。だから人間の方を変えたのだ。人間を守護する財団が、人間の在り方を歪めてしまった。それは間違いなく敗北だった。

だが、財団はかつての敗北を取り返した。不断の努力の成果が今この時に結実した。世界はかつての姿を取り戻し、人はかつての人へと戻る。財団はそのための手段を手に入れた。

内容は要約すればこんなところだ。

財団が何かを成し遂げたのだと、その事を喜んだ者もいた。いずれ起こる事に今から興味津々な者もいた。いずれにせよ、財団の進歩、財団の成功、財団の勝利。その言葉を良く思わない者は多くなかった。

私は彼らが騒ぐ姿をどこか遠くに感じていた。

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憂鬱な気分が治まらない。

反発があった。デモがあった。けれど、撤回はついに無かった。どうやら上は何としてでもあの空を収容したいらしい。

どうして今更。

寝ても覚めてもそればかりを考えた。本当に必要なことなのかと自問自答を繰り返した。もう何十年も世界は今の姿のままで、それでちゃんと回っていた。不都合なんて無かったはずだ。なのに、どうして。

どうして慣れ親しんできた色が奪われなくてはならないのか。いや、その奪われるという感覚も、そこに感じる嫌悪感も、かつてを知らない人間の身勝手な思い込みなのだろうか。そうだとしても、どうしてあの青空が無くならなければならないのか。頭の中を同じ問いばかりがぐるぐると回り続けている。

窓を開けると涼やかな風が湿った匂いを運んできた。確かどこかの国ではペトリコールと言うのだったか。そう思って見上げた先は一面の曇り空だった。もうあの青空を見る事は無いのだと思い出して私は窓を固く閉めた。曇り空を見上げていてもただ懐かしさが募るばかりだ。

もうすぐこの街に雨が降る。雨が上がり、晴れ間が見えたその時には、あの青空を誰も覚えていないだろう。

雲の先の今日で終わりの青空に寂寥の念を抱いて泣いた。

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