ある日の前日

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秋のはじめ、財団がその敗北を認めざるを得なくなった頃、タイプライターを叩いていたO5-8は死んだ友人から届いた荷物のことを思い出した。

彼は画家をやっている男だった。細密デッサンを得意としていてそこそこ売れていたのだが、去年の夏、絵を描きに行った山で足を滑らせてしまったのだ。

その彼から荷物が届いた。A2ほどの大きさの、厚い板のようなボール箱で、見た目より少し重さがあった。検査を通った物とは言え胡散臭いと思ったのだが、気になったので中身を確かめることにした。

荷物の正体は一枚の絵だった。いつものように黒一色で描かれた青空は、彼らしい質素な額縁に入っていた。

一目見て空を描いたのだと分かったのは、雲があるからでも、端の方に木の葉のついた枝を見たからでもない。透き通るような、どこまでも落ちていくような空の青が、黒と白のグラデーションでもって見事に表現されていたからだった。灰色の中に確かに青という色を湛える空は、全霊を込めて描いたのだろうと感じさせる品だった。

ああ、しかし悲しいかな、今や色という色は極彩色よりも毒々しい異形のそれへと変貌した。赤が赤く、青が青く、黄が黄色かった時代は終わりを迎えた。彼の描いた空の青は、もはやこの世に存在しない。そしてもうすぐ人々の記憶の中からも消えるのだ。そうなった時、あの絵を、彼を本当の意味で評価する者はいないだろう。

タイプライターを叩く手を休め、O5-8は椅子の背もたれに体を預けた。考えれば考えるほど余計な考えが湧いてきた。

見えるものが変わっていて、その関係性が変わっていて、どうして受け取り手がかつてと同じく在れるだろう。今より未来を生きる人は、今までの人とは違った道を歩む違った生き物になってしまうのではなかろうか。

けれど、たとえそうだとしても。

これはやり遂げられねばならない。

そう打ち込んで、O5-8は窓を見た。見上げた空は、悲しいほどに青かった。

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  1. portal:2955066 ( 06 Jun 2018 08:22 )
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