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24日午前9時半ごろ、愛知県新城市鳳来寺山の中腹で身元不明の遺体が発見された。遺体は30代前後とみられる男性で、身長約172cm、中肉で短髪、頭部に損傷が見られる。警察は遺体の身元につながる情報を求めている。問い合わせは……
いつか荒木は笑いながら「俺が死んだら絵をもらってくれ」なんて言っていた。その時はまあその場のノリと言うか、とにかく本気だとは思わないから、「ああいいよ」なんて軽く返す。「お前が贈ってきたやつよりすごいのを描いてやる」みたいな事を言った気もする。随分前だし詳しい事は覚えていない。ただ、その約束を深刻に捉えたことは一度も無かった。どうせすぐに忘れるだろうし深刻に考える事もないと思っていた。
間違いに気づいたのは、私の家に大荷物が送られてきた時だ。大荷物とは言うものの、薄っぺらい、せいぜい私の身長ほどのボール箱だ。何だろうかと思って伝票を見て、首を傾げた。そこに書かれた名前は確かに覚えがあるものだったが、筆跡からすると本人ではなく荒木が書いたようだったからだ。それも勘違いで片付けて、昼食の準備をして、ラジオのニュースを聞いた時、急にストンと腑に落ちた。荒木は死んだのだ、と。
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荒木というのは、絵描きを目指していた男だ。専業作家というのは今の時代、難しいと言われている。安定した収入も無ければ、画材代も馬鹿にならない。生きて飯を食って寝るだけでも金はかかる。だからバイトをしたり、他の職に就いたりしながら製作をするのが一般的だと言われていた。その中で、荒木は専業を目指していると言っていた。
「まともな神経してないよな」などと言うと、まず「まあなんとかなるだろ」と返して、それから「それ本人の前で言う事か?」と呆れたような口を聞いた。そんな少し抜けた男だったが、将来を恐れない強さみたいなものを持っていた奴でもあった。
彼の得意は木炭画で、特にデッサンのような細密画を好んでいた。木炭ばかりで色を塗らない。それが荒木のスタイルだった。
絵に色は塗らないのかと一度尋ねた事がある。確か朝顔の絵を描いている時だったと思う。彼が描いていたのは薄い青紫の花の株だった。特に花のグラデーションや、螺旋状の色が重なった蕾が見事に表現されていて、是非とも色を塗ったものを見たかったのだ。
曰く、色は既に表現しているとの事だった。いまいち分からず詳しく聞いてみたところ、木炭の黒の具合でそれぞれの部分に固有の色を描いているのだと彼は言った。やはり私には分からなかったが、「そういうもんか」と呟いた。彼も「そういうものさ」と苦笑していた。よく分からないなりに興味が湧いて、私は荒木に絵を教わってみることにした。
彼は嫌な顔ひとつせず引き受けた。それから毎日のように絵を描いた。彼は私には鉛筆を勧めた。彼に従って描くうちに、私もそこそこ上手くなった。
4年間の大学生活が終わる日に荒木が描いた絵は、あの日と同じ朝顔だった。木炭だけで描かれたそれに鮮やかな赤紫が見えて、彼の言った事の意味が分かった気がした。
サラリーマンになって絵を描くことが少なくなった。描こうにも時間は取りづらいし、どうにも描きたいものが見つからなかった。働くというだけでここまで時間が無くなるのを知ると、荒木が専業作家を目指したのが正解だったようにさえ思えた。調べてみると荒木はぽつぽつと絵をコンクールに出しているようだったが、いつの間にかそれも途絶えた。私は新たに趣味を求める気にもなれず、ただ仕事に明け暮れた。
荒木の音信も途絶え、もう美術館に行く事すら稀になってきた頃、偶然目にした展覧会のポスターに私は彼の名前を見つけた。
ガツンと後頭部を殴られたような思いだった。その記述は長らく消息を絶っていた彼が歩み、そして辿り着いた場所、その証に他ならなかった。彼はずっと描き続けていた。
私は衝動に突き動かされるままに休みを取り、絵を描いてみようと試みた。久しぶりに手にした絵筆は重く、そして酷く不格好な形を描いた。元よりあの頃のように描けると思っていた訳ではなかった。それでも私が立ち止まっていた時間の長さを嫌でも思い知らされた。
私は失意のままに筆を置いた。
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そして今、ここに荒木の遺作がある。昼のスパゲッティを放置して私はそれに向き直った。段ボールからガムテープを剥がすと、箱は思いのほか簡単に開いて、梱包材に包まれた額縁が現れた。結束バンドを外すのに手こずり、結局ハサミで切った。さあ、いよいよ彼の絵が現れる。
だが、包みを剥がそうとした時、玄関のインターホンが鳴った。
愛知県警は24日、鳳来寺山の中腹で発見されていた遺体について、身元が判明した事を明らかにした。遺体は愛知県新城市在住の男性、早川浩二さんで、年齢は32歳。死因は転落死とのこと。早川さんは5日に行方不明となっており、捜索願が出されていた。また、早川さんに先立って、同じく愛知県に住む友人で芸術家の荒木晴一さんも行方不明になっており、県警が捜索を続けている。
床に倒れている。部屋に入り込んだ男が素早くドアを開け、荒木の遺作を見つけて手に取った。せめて、一目。
梱包材の隙間から見えた荒木の遺作は白黒で、けれど色鮮やかな朝顔だった。
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任意A任意B任意C- portal:2955066 (06 Jun 2018 08:22)
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