別れに相応しい挨拶

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別れの挨拶というものが、どうにも苦手だ。

畏まった空気の中で何を言えば良いのか、ずっとわからないままに生きている。それは俺が愛らしき紅顔のクソガキだった頃から幾つもの別れを経験した財団のエージェントとなった今に至るまで、ずっと変わらない。

まあ、今回は別れの中では気楽な方だ。何しろ誰も死んでいないし狂ってもいないし何かが破綻した訳でもない。ただ収容オブジェクトの保護のために一人の研究員がサイトを異動するというそれだけの話だ。だからぶっつけ本番でも何とかなるだろう、俺は土壇場でも決められるタイプのエージェントだ……と思っていた。何で思ってしまったんだろう。

「そういうわけで、仕方なしに応えたら」
「」

そう、俺は今、何故か塚原さんのデスクの前で挨拶を切り出すタイミングを失った結果、業務中に下ネタを振ってくる(本当に勘弁して欲しい)先輩のエピソードを晒す羽目に陥っている。こんな筈じゃなかった。最後くらいもっと真面目にやらなければならなかったのに。誰か笑ってくれ。……ああ、いや、無理に笑わなくていい。逆に惨めになりそうだ。おい、既に惨めとか言うんじゃない。俺だって傷つく。

「」「」

……まあ、塚原さんが笑ってくれているのがせめてもの救いだろうか。俺としては面白くないが、先輩のエピソードは大体笑いが取れて便利だ。俺としてはああなりたくないなと思っているが。仮の話ではあるが、もし俺の名が知られることになるとしたら、その時はもっと真面目に有能な人間として知られたい。「“あの”桜庭」みたいな。ま、夢の話だけど。

……そういえば、なんでこんな事になっているか、状況を何も説明してなかったな。ちゃんと真面目な雰囲気に戻しがてら説明するとしよう。まず、俺は駆け出しのエージェント、桜庭茂武。実務に就いてからは二年程度。今後スゴいエージェントになる予定だが、今のところ誰も信じていない。俺も含めて。まあ宣言しておくのは大事なことだ。そして、俺の目の前で今荷物をまとめているのが塚原上級研究員。手際はいいのに、作業が終わる気配がない。なぜなら。

「それにしても物、多いですね。間に合うんですか? 来週には向こうでしょ?」
「これでも大分みなさんに手伝ってもらって減らしたんだけどね。桜庭君ももうちょっと持って行っていいんだよ」
「といっても結構もらっちゃいましたからねえ」

サイト異動が決まった研究員は大抵そそくさと荷物を纏めて消えてしまう事が多い。しかし、この人の場合は私物が多く、しかも職員たちに懐かれているせいで俺たちが形見分けに入れ替わりここに訪れているという訳だ。物を大事にする性質の人に対して、フィールドエージェントたちが自分の生きた証とばかりに土産(潜入先のノベルティとか、そういうの)をここに置いていくとこういう事態が発生する。まあ俺もその一員なんだが。

最初に借り出された緊急事態で関わった人、ということもあって俺はわりとこの部屋に出入りしている。激怒した女の子から逃げようとしてここに駆け込んだのも二度や三度ではない。塚原さんは公平なので、他の連中と違って問答無用で俺を突き出したりはしないのだ。まず話を聞いてくれて、俺に非がないとわかれば匿ってもくれる。ちなみに匿ってくれたのは十回中一回だ。……まあ、俺に非があるという判決が降りたとしても、忙しくなければとりなしてくれるという。ちなみにここに逃げ込む時、大抵塚原さんは忙しそうにしているし、珍しくそうでない時も俺の顔を見ると急に忙しそうになる。仕事熱心で何よりなことだ。

「いやあ、これからは君が追いかけられてここに逃げ込んでくることもなくなるって思うと寂しくなるね。もう匿えないから程々にするんだよ」
「言っても塚原さん、わりと俺のこと放り出してませんでした?」
「いや、この前のはどう考えても君が悪かっただろう」
「はい」

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