月影におちる夜
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 必要なのは、少しの勇気と心の平穏。口に放り込んだイチゴキャンディが溶けていくにつれて、それらは徐々に満たされていく。
 部屋のカーペットは片付けてある。白い床が蛍光灯の光を反射して目に眩しい。日常は床に置いてある書類の山は整頓してデスクの上に載せてある。これで明日、職員が訪れた際に見つけやすいだろう。
 彼女の喉は乾き、潤いを求めていた。冷蔵庫を開けば未開封のグレープジュースがあるのだが、彼女の手によって冷蔵庫が開かれることはないだろう。飲みたくとも、飲むわけにはいかなかったのである。
 電気のスイッチを消すと、カーテンの隙間から冷たくも柔らかい月明かりが漏れ、床はぼぅっと青白く光る。溶けてしまいそうな光の筋は、真っ直ぐ彼女へ向かって伸びていた。光に照らされる彼女の髪には一段と煌めく糸が紛れている。見て見ぬ振りをしていた彼女がか細い糸に目を向けることはないだろう。
 椅子に上り、カーテンレールにビニール紐を結びつける。あらかじめ作っておいた輪は思い通りの位置についたらしい。彼女は満足そうに微笑むと、その輪に首を通した。
 息苦しさ、圧迫感、感じたことのない感覚に、戻すことのない吐き気が押し寄せる。この先の不可視な道に思いを馳せつつ、彼女は痛みに耐えていた。

 あぁ、熱い。
 じくじくと、名状し難い熱が脳を犯してゆく。徐々に手足は遠のき、消えてゆく。
 もはや、彼女の視界は蕩けていた。暗闇が、光が、全てが混ざり合う。目蓋は重く、重力に負けつつある。彼女の世界は徐々に閉じられ、そして───



「何してんの!!」

 暗闇の中、少女の声が響き渡る。どれくらい経ったのだろう。彼女は重い目蓋を開ける。自身の作る影の中、月明かりを避けるように、それは確かにそこにいた。
 ここは津軽みのりの自宅である。津軽しかいない、そのはずなのに。「あぁ、だめだったか」と、口が聞けたならば呟いたことだろう。視界に反して嫌に明瞭な意識の中、津軽は少女をただ見下ろし続けた。


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