ディア大学卒業論文集より抜粋 - 根源元素理論を用いた携帯結界の数値解析 -

根源元素理論を用いた携帯結界の数値解析

ディア大学 魔術学部
魔法理論専攻
来夏 根喪

2021年3月30日

緒言

魔力の基本的な用途の一つに，結界の形成がある．その効率的形成方法は古くから考えられており, 特に1507年にMilesが聖水瓶で作成した携帯結界[13]が有名である. この種の携帯結界は，発動時に必要な儀式手順を持たないという特徴があり, 即時性や展開性に優れている．悪魔祓いにおいては十分な詠唱時間や儀式の構築が可能である保証はなく，こうした携帯結界の有用性は古くから認識されてきた．一方で，Milesらの携帯結界は信頼性や結界強度の問題があり，あくまで補助的な道具としての域を出ていない．Darylら[14-16]によって20世紀後期に再び携帯結界装置が作成されてから，実験や理論展開が多数行われるようになった．近年ではTodaらによる強度の改良[17], Sakuraiによる展開時間の短縮[18]など飛躍的な性能向上が報告されており，注目が集まっている．

魔力を用いた超常能力の行使においては，引き起こす現象自体をターゲットとしたいわゆる巨視的魔法素（the macroscopic magic element）の形成と出力に着目した理論が構築されてきた[[#01], [#02]]．しかし近年，それら巨視的魔法素を構築する根源的な魔法素，根源元素（the root elements），の存在が確認されている[[#03]-5]．根源元素に着目した新たな理論体系が構築されつつあり，巨視的魔法素では見られない様々な特徴や現象が確認されている[6-10]．根源元素の特徴の一つに熱魔力流（the thermal magic flow）がある [11, 12]．これは，温度勾配を与えることで根源元素が移動し，魔力の流れが生じる現象である．ヒータなどの外部熱源を用いることで比較的容易に魔力流を起こすことができる．機械部品や持続的な詠唱を必要としないため，安定性と独立性に長けた魔力機関の構築が可能である．

現時点で携帯結界の抱えている問題点は主に２点である．一点目は，製造後緩やかに蓄積魔力が減少していき，数日程度で使用不可能になること．二点目は，起動時の結界強度の個体差が顕著であることである．これらの問題点は巨視的魔法素の研究においては，前者は魔力の循環，後者は魔力の収束密度という異なる巨視的魔法素に着目して別個に対応がとられている．長時間使用可能にするために魔力の循環を優先すると収束密度が低下し，携帯結界の強度に個体差が生じるトレードオフの関係にあることが判明している．

本研究では，根源元素理論を用いた新たな携帯結界を提案する．熱源を組み込んで根源元素の熱魔術流を発生させ，魔力の循環と局所的な収束を同時に達成する．新型携帯結界の構造をモデル化し，数値シミュレーションから結界の展開時間と強度を推定する．その結果を従来装置と比較し，根源元素理論を適用した携帯結界の有用性を調査する．

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