美しく燃えよ停滞の街

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アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: 現在SCP-XXX-JP-1は█名が財団の収容下にあり、標準人型収容プロトコルが適用されています。後述のプロトコル・彩絵具によりSCP-XXX-JP-1の人数は維持されます。未知のSCP-XXX-JP-1が発見された場合、直ちに回収し記憶補強剤の投与を実行します。

説明: SCP-XXX-JPは日本国内にて文学作品に関する記憶の喪失状態をもたらす異常な精神現象です。影響下にある対象者(以下、SCP-XXX-JP-1と表記)は、特定の文学作品について一定の知識を保持し、愛着を示していたことが確認されているにもかかわらず、その作品に関する一切の記憶を突如喪失します。この影響は認知機能に及び、その作品に関する情報を受容することが不可能になります。

SCP-XXX-JPは段階的に進行することが確認されています。初期段階ではSCP-XXX-JP-1が特に愛好していた作品の記憶を喪失するのみですが、時間の経過につれ同作者の他作品の記憶に及びます。やがて影響は国内海外問わずあらゆる作家及び作品の記憶に広がり、最終的には文学そのものの概念の喪失へと進行していきます。

柚木研究員へのインタビュー記録

対象: 柚木研究員

インタビュアー: 橘博士

付記: 柚木研究員は1997年2月█日に発見された財団組織内で初めてのSCP-XXX-JP-1です。愛読していた宮澤賢治の作品に関する記憶を喪失しました。現象の初期段階であると見られます。

<録音開始>

橘博士: ひとつずつ確認していきましょう。こちらは『銀河鉄道の夜』の文庫本です。最初のページを開いてください。読み上げられますか?

柚木研究員: できません。文字が……文字ということまでは分かるのですが、読もうとすると霧のように溶けていきます。視界から外すとまた元に戻りますが、それでも読める状態までには至りません。それに博士、あなたが途中で何と仰ったのか、題名の部分が聞こえなくて……

(注: この時使用した書籍は柚木研究員の私物であったが、その事実に対し柚木研究員が気付く様子は見られなかった)

橘博士: では、「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」これはあなたが特に気に入っていた一文でした、柚木研究員。認識は可能ですか?

柚木研究員: 何も……何も聞こえません。途中から、まるでそこだけ切り取られたみたいに……

橘博士: 分かりました。そのように記録します。

柚木研究員: 博士。胸に穴が開いたようです。あなたの仰っていることが何も分からないのに、大事にしていたものを失くしているという奇妙な感覚だけがあるんです。そしてその感覚すら次第に消えていくと私は確信しています。いずれ私は全て忘れ、この本自体を認識することも出来なくなるでしょう。博士、こんなのはとても……

橘博士: インタビューを終了します。

<録音終了>

終了報告書: 後日、柚木研究員はSCP-XXX-JPの収容を目的として開発された記憶補強剤の被験体に志願しました。

補遺1: 正常な文学史の保護を鑑み、財団はパブリック・ドメインとなった文学作品のインターネット上での公開、それらを利用した対抗ミームの散布、また回収されたSCP-XXX-JP-1への記憶補強剤の投与により収容を試みました。これらの試みは成功し、上記の手段によってSCP-XXX-JP-1の記憶の回復は問題なく可能であると判明しました。

以上を受け、担当職員会議はプロトコル・彩絵具の実行を承認しました。本プロトコルは財団収容外の全てのSCP-XXX-JP-1の正常な記憶機能の回復を目的とし、日本国内各地でのエアロゾル記憶補強剤及び対抗ミームの散布を実行しました。また、SCP-XXX-JPの異常性の安定した保護のため、財団の収容下におけるSCP-XXX-JPの影響範囲の調整を試みました。現在、収容チームの尽力によりSCP-XXX-JPの影響は梶井基次郎の著作『檸檬』に限定されています。プロトコル・彩絵具の定期的な実行によってSCP-XXX-JP-1は財団内のみにおいて数を維持し、SCP-XXX-JPは安定して収容下に置かれています。

補遺2: 以下は2005年█月█日、SCP-XXX-JP-1収容房に突如出現した封筒に封入されていた文書です。その内容からGOI"酩酊街"との関連が示唆されます。なお、現在の収容体制に変更の予定はありません。

お元気ですか?実は恐縮ながらお願いがありこうしてお手紙を差し上げた次第です。

どうか、檸檬の物語を繋ぎ止めてくださいませんか。

他の物語は皆うつし世に帰っていきましたが、流れ着いた彼は未だにこの街にいます。
停滞を打破した彼にとって、私達の在り方は厭わしく、息詰まるものだったのでしょう。
結果彼は果実を仕掛け、それは爆ぜ、酒気は尽く燃え上がりました。
焦げた壁の檜皮色、破れた提灯の赤、割れたお猪口の青磁、溶けた雪の白、そういったガチャガチャとした色合いの瓦礫の上にてなお増え続ける眩い果実の鮮烈な黄色は、晴れ晴れと笑っているようですらあります。
今も遠くで爆煙が見えています。煌煌と夜を照らす炎の色はあまりにも美しく、そしておぞましいものです。

私達は街を再建しなければいけません。
この街と彼とは、まだ交わるべきではなかったのです。自然に自然に薄らいでいき、酔いに浸かるその日まで。
私達の街を助けてくださいませんか。何卒よろしくお願いいたします。

そちらでもそろそろ雪が降り始める頃かと思います。どうかお体にお気をつけてお過ごしください。

酩酊街より 愛を込めて


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