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ソース: 自作
ライセンス: CC BY-SA 3.0タイトル: 暗い海の底に沈む.jpg
著作権者:AMADAI
公開年: 2020
補足: 自分で撮影したものを加工しました。
海洋系オブジェクト収容、研究のため設置されたサイト-81HT。廊下を歩く日和研究員はつい3ヶ月前にここに配属された。
少しばかり海洋恐怖症であった彼はここへの移動が確定した時しばし動きが止まり、そして嘔吐した。どこまで深いか分からない恐怖と、何が潜んでいるか分からない恐怖が彼を押しつぶそうとしていた。先輩研究員は口をそろえて言う。
『俺たちが収用しているものに比べれば海なんてちっぽけなもんだよ。』
言いたい事はわからなくもない。いやそうなのかもしれない。好物のお菓子で脳をいい塩梅に幸せな状態にして何度も自分に言い聞かせた。そうして今の自分はここにいる。
「日和さん日和さん。」
声を掛けられ、振り返るとそこには白髪の男性が立っていた。三島博士である。
「ちょっとばかり上に行ってほしい。」
「通信機が故障してしまったみたいでね、サイト-81GHだったりの海底サイトとかは連絡が取れるんだけども。」
「陸上サイトと連絡ができない。この資料を持っていくついでにその事も伝えてほしいんだ。」
「私はちょっと、緊急の会議が入ってしまったのでね。」
「まったく、上の連中はいつもこうだ。自分達の時はうるさい癖に――」
博士の長話が始まりだしたので日和は了解です、と呟き博士から資料を受け取ってエレベーターホールへ歩き出した。陸に出れるならまあ雑用も引き受けよう。
「あ、言い忘れてた。エレベーターもなんか調子が悪いみたいなんだ。」
「海底調査艦動かして上に行けるように手配しておいたから、3番出入り口に谷垣君いると思うからよろしく。」
そんな。結構遠いのでめんどくさいな。いやでも引き受けたからにはやるしかない。750m先にある調査艦用出入り口を目指して再び歩き出した。三島は鳴りだした携帯端末を取り出して応答する。
「ええ。一応万が一の事態に備えて調査艦もサイトも耐圧面の強化はしてあります。」
「お、来たな日和。」
日和よりも20cmほどデカい男が立っていた。エージェント・谷垣である。暇なのは俺とお前だけみたいだな。さっさと終わらせようぜ。喋りながら彼は調査艦に乗り込んでいく。
乗り込んでから数分、調査艦は浮上を開始した。窓の外には暗い海が広がっているばかりなので耐えれず日和は目をつぶる。
「まあ、怖いって考えもわかるよ」
「俺も結構怖かったんだ。誰しも恐怖の対象はある。逃げ隠れしていた時代に戻っちゃいけないなんて言われてるが、それで心を壊してしまったらどうしようもないもんな。」
「先輩からもし艦が浮上できなかったらどうする?なんて話をされた翌日に調査艦がエラーで止まった時はやばかったよ。」
この会話から暫くの間静寂が続いた。静寂を打ち破ったのは海面接近を知らせるブザー音。
「ちょっと待て。」
「まだ海面なんかじゃねえぞ」
「まだ全然暗くて――」
調査艦のライトは、沈んだサイト-8190を照らし出した。何が起こったのかをうっすらと悟る。
海面は実際の3000m上になっていた。わずかな山々が頭を出しているだけでそれ以外に残ったものなど瓦礫だけである。
「ん、着きましたか?」
浅い眠りから目が覚めた日和は谷垣に声をかけた。
「あー、落ち着いて聞いてくれ。」
谷垣の話を聞いても信じられなかった。信じたくもなかった。ただそこに浮かんでいる瓦礫がそれが事実であることを物語っていた。
「サイト-8181は?サイト-8195はどうだ、サイト-81KNは――」
谷垣はどこか連絡はとれないものか、と必死に通信機を操作しているが、それが無駄だとわかるのも時間の問題だった。もはや他の海底サイト以外に連絡を取れるサイトは存在しない。視界に映る青と黒がぐちゃぐちゃに混ざり合って、日和は海の底を考えた時のような吐き気を感じる。

その日世界は沈んだ。取り払われたヴェールの中を視認する人も殆ど居なくなり、かつての俺達の故郷の上に、ある意味俺達のもう一つの故郷が覆いかぶさって、俺達の故郷は二重になった。
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任意A任意B任意C- portal:2768562 (02 Jun 2018 15:16)
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