リサイクルコンテスト下書き「化物どもが皿の上」

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腹が減った。

研究の成果を入力し、虎屋外郎はエンターキーを押す。四角いモニターに集中していた視界が広がった。虎屋は両腕を上げて背筋を伸ばす。背もたれに自重を預けると椅子は謂れのない暴力に抗議して耳障りな音を奏でる。時計の針は午前2時30分を指していた。

(もういい加減に休んだ方がいい)

Dカードが首からぶら下げられているのだけを確認してから研究室を出た。

研究室の空調で火照った体に廊下の肌寒さは心地が良かった。出勤の際にセットしていた髪型は乱れ(狐面で髪の大部分が隠れたとしても虎屋は毎日髪の手入れをかかさなかった)、全身からじんわりと汗を滲ませていた。白衣は数時間前には脱いでいて、シャツの第二ボタンを開き喉をさらけだしていた。今人前に姿を現せば虎屋の品格を問われることは必至だった。

虎屋は食堂へ向かっていた。

日本支部の中でサイト-8181はそれなりに大きい施設だ。たくさんの研究者がここで働き、たくさんのオブジェクトが収容される。そのため昼時の食堂は混雑しやすい。しかし今は深夜。人の気配など微塵もない、たまに機械の駆動音だけが聞こえる大部屋。だというのに照明だけは明々と輝いているのだから滑稽な話である。

虎屋はその大部屋の一角に立った。食堂には残業に勤しむ職員のために惣菜自販機が設置されている。首にぶら下げたカードがあれば金など必要ない。

芯まで解凍されていないたこ焼き。見るからに油分は多いのにパサついているチャーハン。具のないポテトサラダ。

(なんて貧しい食事だろう)

だが残業終わりの人間に提供されていると考えればこの上なく適切な料理だった。空腹を勤労でごまかしてきた人間の前では栄養バランスよりも胃をどうやって満たすかが重要であって、つまるところ質よりも量が必要なのだった。

左手で仮面を剥いだ後、右手で満足感しか得ることのできない物体を口にいれようとしたとき、前から声がかけられた。

「あれ? 虎屋さんですよね?」

「えぇそうですが、って、高橋くんか。久しぶりじゃあないか」

その声の主はエージェント・高橋であった。以前あるオブジェクトを収容する際に、一緒に仕事をしたことをきっかけにして交流を深めている人物である。中肉中背の男性で性格は温厚。

「そうですね、最後に会ったのは多分半年ぐらい前ですかね?」

「半年前! いったい長い間何をしていたんだ?」

虎屋がその空白の期間について飛びつくと、高橋は一歩下がって私の隣に立って言った。

「ある要注意団体に潜入してまして。最初はヤバい案件って言われてたんですが、結果は徒労に終わったので。楽な仕事ではありましたね」

「ちなみにその要注意団体っていうのは?」

え〜、と彼は困ったようにはにかんだ笑顔を見せて、いろんな理由で言えないです、と答えた。

「そういう虎屋さんは何されてたんですか? 虎屋さんってキャリア積まれてますし、結構大変なオブジェクト任されたりするんじゃないですか?」

高橋に聞き返された虎屋は言葉に詰まった。思い返せば同じようなことの繰り返しだ。新しく発見された低危険度のオブジェクトを研究し、特別収容プロトコルを確立させることをずっと行っている。

「今までと何も変わらないさ。確保、収容、保護」

「はは、であれば良かったです」

茶化した返答は、二人の間に笑顔を生んだ。

人間を喰らい尽くすようなモンスターや、世界の根本を変えてしまうかもしれないような異常現象なんてない方がいいに決まっている。

変わらないということはこの財団で働く上で、何の悪いことでもない。

そう考えると冷凍食品を食べることも悪くないように思える。夜勤もそうだろう。人の営みの良し悪しはともかくとして、今虎屋がやっていることはとても人間らしい行為なのだから。







補遺SCP-2981
サイト-8181において新たなSCP-2981が発見されました。SCP-2981はサイト-8181の惣菜自販機で冷凍された状態で販売されており、認識災害によって虎屋博士はSCP-2981をエージェント・高橋として認識していました。


ファイルページ: 唐揚げとポテト

ソース: http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:2766408-6-b8is
ライセンス: パブリックドメイン/CC0

タイトル: 唐揚げとポテト
著作権者: G-ananas
公開年: 2021
補足: 私が撮影しました。


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  1. portal:2766408 (10 Dec 2019 00:54)
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