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初めまして、O5-9。私はアマンダ、これからあなたの心身の状態を検査していきます。
まず、あなたのお名前を教えてください。


あの。


応答してください。
確証がない。
はい?
私がジャック・ブライトであるという、確証がない。
ありがとうございます、ジャック・ブライト様。混乱されているようですね。リラックスできる音楽はいかがですか? お部屋のアロマディフューザーの調整を行う機能もありますよ。
教えてくれ。
承りました。ご質問内容をどうぞ。
私はこの問診を何回繰り返した?
機密情報のため、私には記録されません。ですので、お答えできません。
所詮は機械か。
そうですね。
ブライト様から見た体調の変化を教えていただけませんか。
肉体的には健康だ。数日前にも体を取り換えた。面倒だから詳しくは聞くな。逐一説明できるほどの余裕がない。
なるほど。把握いたしました。では、次の質問に移らせていただきますが、その前に。ブライト様、SCP-3000-JPへの曝露後に数日ほど職務を休んでいますね。この検診も放棄していたようです。今までどこにいらっしゃったのですか?
用は済んだから答える。
父のところだ。
御父上の元へ? 何故です?
SCP-321のことで聞きたいことがあってな。
どうしてあれに霊体移植の痕跡があるのか、問いただしたくなったんだ。
霊体移植? すみません、たった今SCP-321にアクセスしましたが、そのような記録はどこにも見当たりません。
現行の報告書に至るまでに何度も更新されているからだろう。何十年前も前のデータだ。不備、あるいは不備に見せかけた改竄か。私としても掘り起こすのに苦労した。
何故そこまでSCP-321に執着を? 安全が確保されたオブジェクトに見えますが。
思い出したんだ。
SCP-3000-JPによる追体験ですか?
ああ。まだ父が職員だった頃の記憶だ。私はSCP-321に対する処置の助手をしていて、父が行う施術を見守っていた。台に拘束されたSCP-321の傍らに立つ父を、私は背後から眺める。
父に向かって、SCP-321が手を伸ばした。映画で異星人がやるみたいにな。表情は分からなかったが、父はゆっくりとそれに返した。指を掴んだ。そんなこと、あってはいけないのに。
父が、母の名前を零したんだ。皺だらけの異常存在に。
もうすぐ話ができるようになる。そう呟いたんだ。
SCP-3000-JPの曝露が終わった直後、私は駆け出した。SCP-321の記録を掘り返して。霊体移植の痕跡を発見した。その最中に、また見つけてしまったんだ。
何をですか?
SCP-321とSCP-590のクロステストだ。精神の熟達を阻害する異常を、SCP-590の特性を利用して吸い出す実験。結果は失敗。SCP-321が知性に目覚めることはなかった。
挙句、吸収したSCP-590に知能後退が発症した。
私は父の住む街へ車を走らせた。施設に乗り込んで、椅子に座る父に詰め寄った。父は怯えていた。もうろくして事態を正確に飲み込めない中で、私の気配が異質だったんだろう。
それでも、私は容赦しなかった。すべてを知らなくては、自分が壊れてしまいそうだった。お前がやったのか、なんて。自分から聞くと思わなかった、野蛮な声が出た。そんな私に、父は緩やかな返答をしていった。
やはりSCP-321は母で、死に絶えた母の魂を赤子の肉体に移したものだったようだ。母が事故に遭って赤子を産んだとき、赤子も死ぬ運命だったらしい。産まれるには、発育が不十分だったんだと。父は、それがどうしても許せなかった。母が無意味に死んでいくのが、許せなかった。そう言った。
財団には霊体を扱う機材がいくつかある。いわゆる受肉を行う装置も、だ。本来であれば死者を拘束するために使用するもので、効果は一時的にしか作用しないが……父は赤子の体に母の霊体を移すことで、母を蘇生しようとした。
衰弱していく赤子が活力を取り戻し、何かを喋ろうとした。父は、成功を確信した。ただ、長くは続かなかった。肉体と霊体の強引な適合によって、内部の霊的物質が暴走を起こし……母は、物を言えぬ化け物になった。
SCP-590を巻き込んだのは、別に母を元に戻したかったからではないと言った。母が人語を喋り、生命維持のための拘束が解かれる状態になってくれればよかった。父は、不必要な欲を出したんだ。その報いとして、弟は他人と言葉を交わすことができなくなった。
弟は協力的だったと、父は教えてくれたよ。記憶障害を患っているくせに、よく覚えていた。弟は「償う」と言っていた、と。怒りが体の底から湧きたって、熱になって流れていくのを感じた。だけど、殴れなかった。私にはその資格がない。
あの、ブライト様。私はAICですので感情面について深くは理解できません。ですが、仮にあなたが御父上に暴行を加えていてもおかしくはないですよ。褒められた行為ではありませんが、御父上の行為は人としても職員としても、あまりにも身勝手すぎます。
よく分かってるじゃないか。しかしなアマンダ、私も奴の血を継いでいて、同じ穴の狢なんだよ。
どうしてですか?
弟が異常性に……SCP-590になったのは、私のせいなんだ。それを、私は忘れていたんだよ。
どういうことですか? あなたとSCP-590の異常には、何の因果もないでしょう?
いいや、私のせいだ。思い出したんだよ。SCP-3000-JPの影響が、時間差で作用したのかもしれない。父の「償う」という言葉を聞いた瞬間に、頭に追憶が広がったんだ。
死に絶えた母。涙を流して崩れている弟。そこに私。赤子を持って現れた不気味な父。蘇って死にゆく赤子。一瞬喜びかけて、私は母に抱き着いて、その遺体は冷たい。死体の冷気が手の先から私を憂鬱に染める。憂鬱に絞め殺されて、息ができなくなる。蘇生した赤子を見たからなおさらに、母が生き返らないことが、突然現実味を帯び始めた。
逃げ道を探した。この憂鬱を逃がす、身勝手な攻撃の対象を。ふらふらと後ろ歩きをして、弟が目に入った。
お前が代わりになればよかった。
事故当時、母は弟と出かけていた。弟が不注意に道路に出て、母がそれを追いかけて、そこに車両が突っ込んだ。そう聞かされていた。だから、お前が代わりに死ねば母は死ななかったんだと。そのときの私は不合理な憎悪で満たされていたのを、思い出した。
だが、それは見当違いで。何年後かに事故記録を調べて、完全な車両の過失だったことを知ったんだ。むしろ弟は母が助かるように現場で尽力していた。惨い凄惨な事故に、正面から挑んで。それに責任を感じたが故に、異常に目覚めた。
傷を引き受ける、自己犠牲の成れ果てに。私が背負わせた罪を、あいつは償おうと。
そんな重要なことを、忘れていたんだよ。路端に落として探しもせず、家族を守るだなんて抜かして。私がしていたのは償いなんだよ。当然の責務だ。それを勝手に取り違えて守るなど。
どこまで私は尊大なんだ?
落ち着いてください、ブライト様。深呼吸を。
深呼吸で収まってたまるか。私の悔いはそんなに浅いのか?
それらの記憶はあなたの人格にとって負荷がかかりすぎています。このままではO5の業務に差し支えます。
この期に及んで業務だと?
当たり前ではありませんか。あなたは異常を切り離して人類を保護する、財団の最高管理官の一人なんですから。
切り離す?
えぇ。切り離してしまいましょう。
この感情は一時的です。SCP-3000-JPに曝露し続ける限り、あなたは忘却を繰り返すのです。すべては記憶に埋没し、遠くから眺めることしかできなくなります。
そうして客観視ができる人物こそ、O5評議会に適切だといえます。
そうか。
そうだな。私はもう、アダム・ブライトの息子である必要はない。O5評議会のO5-9、ジャック・ブライトだ。切り離すことは容易なのかもしれない。
なら、私のすべきことは一つだ。
ブライト様?
私は冷静だよ。
快くはないさ。嘘を重ねて築いた理想も、その空疎な内部構造も。吐き気がする。醜いんだ、私と私の家族は。喪失を取り繕うとしてかえって元に戻らなくなってしまった。
だが、私は愛おしいんだ。引き剝がしてしまいたいのに。
昔のようには戻れない。それでもジャック・ブライトが今もなお存在しているのは、すべてが蓄積しているからだろう。
それに私は、父にも、母にも、弟にも、愛されている。それだけは突き詰めても狂わなかった。それを放棄したくないんだ。
承りました。ブライト様がそう仰るのであれば、私に否定する権限はありません。
ありがとう、アマンダ。
では、以上で問診を終わりたいと思います。
心身ともに問題はありません。
業務を開始してください。

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