1998Tale「旧東京、炎上（仮）」後編

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2025/6/18
12:28:29 (JST)

茨城県つくば市
AFC特別行政区設立機構本部

　あの2人から別れて墓地から戻った私は、執務室の席に腰深く座り込んで俯いていた。既にアマリアと別れを告げてから1ヶ月が経過しているが、それでも気分は晴れることなどなかった。
　そして、私はここに帰ってくるまでの間、ことさらに気になることがあったのだ。それは、私が今手に持っている紙片が全ての元凶となっている。

「2週間後、1人で来て下さい。
　私が辞めた本当の理由をおはなしします。
　36.221417, 139.111528」

　私は気がつけば、こんな事が書かれた紙片を握らされていた。いつ受け取ったのか思い返せば、すぐに心当たりのある状況にぶつかる。そう、これはついさっき、的場と握手をした時に手に渡されたものだった。
　紙片に書かれているのは、間違いなく的場が書いたであろう手書きの文字。下の数字の羅列は座標だろう。その書き文字は少しばかり粗雑で、彼女の焦りとも緊張ともつかない心境が垣間見える気がした。
　このご時世、何かしらの連絡を紙媒体を用いて行うなど、年賀状のやりとりですら失われた方法だ。それをあえて私に使ってくるということは……。

「（よほど、私に言いたいことがあるわけね）」

　私は誰にも気付かれないよう、静かにその紙片をポケットに入れて、執務室を後にした。

2025/7/2
16:51:35 (JST)

中央新都心郊外
36.221417, 139.111528

　本日の予定を全て終えた夕刻。西日が差し込む車窓を横目、新都心から離れた山の麓に位置する紙片に記されていた座標の場所に、私は足を運んでいた。
　座標入力通りに走る自動運転の車両は、いよいよ目的の地が近づいてきたことを悟ったかのように、その速力を緩めていく。
　ドアを開け、私が足を踏み入んたこの殺風景な場所は、急速に進んだ新都心の都市開発の計画が諸々追いつかずに、建設途上のまま放棄されたビル群が建ち並ぶ、実に何もないところであった。
　本当にここに、あの財団の女が待っているのかは分からない。もしかすればハッタリだったりするのかもしれない。そうでないのなら、最悪の場合……。AFCの権利保護のために活動する私という立場もあり、世間的な眼差しを考えれば、色々な可能性を考慮してしかるべきものだろう。

「遅かったですね、マダラザさん」

　何年もの間重ねられたまま放置されていたであろうブルーシートのかかるビルから、1人の黒いスーツの女性が顔を出す。そこにいたのは間違いなく、私をこの場所に呼び出したあの的場その人だった。

「遅いも何も、時間の指定すらしていないわけだが」
「ああ、すみません。そうでしたね……。あまり具体的すぎることは書けなかったので」
「……まあいい。用件は？」

　私は彼女と世間話をするためにわざわざこんな危険な場所へやってきたのではない。トウキョウ・サークルと比べればいくらかマシだが、普通の者は近寄らない場所に出向くリスクについて、彼女も全く想像できないわけではないだろう。
　そんな私の冷ややかな態度に苦笑しながら、的場は続けて私に言う。

「はい。実は、折り入って、マダラザさんにお伝えしておかなければならないことがありましたので、そのためにと」

　的場の指示の通り、私はブルーシートの向こうへと誘われる。的場は常に神妙な趣で、私に何かを伝えようと、どこか必死になっているような気がした。これが気のせいでないのなら、おそらく相当深刻な話なのかもしれない。

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