ある飼育員の詩と日記

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彼の毛並みに触れるたび 君の事を思い出す

僕を置いていく程に 元気にそこらを駆け回る 少し土っぽい君の毛並みを

 
彼女を撫でてやるたびに 君の事を思い出す

何度も空へ飛び上がり 一生懸命に振り回す 喜色に満ちた君の尻尾を

 
彼を叱りつけるたび 君の事を思い出す

最期の日まで変わらずに 僕の人生を導いた 優しく暖かな君のわがまま

 
彼女の寝顔を眺めるたびに 君の事を思い出す

僕から奪った緑の毛布に 自分の匂いを擦り付けて 安らかに眠る君の顔を

 
彼のいないケージを見るたび 君の事を思い出す

 


 

違う。

違う、嘘だ。それは嘘だ。

彼らと触れ合う間、俺はすっかりあの子の事を忘れてるんだ。

彼らのヤンチャさに頭を抱えたり、彼らの健気さに励まされたり、彼らの賢明さに驚かされたりする時、俺の頭には彼らの事しかないんだ。

全てが一段落して、手持ち無沙汰になった時に、ようやくあの子の事が頭をよぎって、俺は、"あの子を忘れていた事を忘れていた"って気付くんだ。

俺は、怖い。あの子を忘れたくないからここで必死になって働いてるのに、そうしてる間俺はあの子を忘れてる。その内、俺は目の前の彼らに夢中になって、もうあの子を思い出せないんじゃないかって、そしてそんな事に気付きもしないんじゃないかって。

それとも、俺はもう、幾つも忘れた後なのか?

怖い。

 

確かめなくちゃならない。あの子に会わなくちゃならない。

 


 

あの子に会った。冷凍庫の奥で、真空パックされた、腐りかけのあの子の身体に。

何も変わらなかった。俺は何も得られなかったし、何も失わなかった。

魔法は2度は起こらなかった。

どうして俺はこんな事の為に必死になったのか、今となっては自分でも分からない。あんなに必死になった事なんて、久しく無かった

違う

俺は、俺なりに仕事と真剣に向き合ってるつもりだ。いつだって、賢いんだかバカなんだか分からないアイツらの世話に必死だ。同僚に教えを請うのだって、億劫なのを精一杯堪えてる。ずっと

そうだ、あの日からずっとだ。あの日があったから俺は

 

今日はもう寝る。明日は早い。

 


 

君の事を想いながら 彼の毛並みを温める

君よりずっと臆病で 大きな身体をおののかせる 彼の心と触れ合う為に

 
君の事を想いながら 彼女の喉を撫でてやる

君より幾分ささやかに 揺れる尻尾に込められた 彼女の心を汲み取る為に

 
君の事を想いながら 彼に何度も言い聞かす

君を彷彿させるほど 気難しくて寂しがりな 彼の心に寄り添う為に

 
君の事を想いながら 彼女の寝息に耳を澄ます

君よりずっと遠慮がちで まだまだ人目を気にしてしまう 彼女の心が安らぐように

 
君の事を想いながら 彼のいないケージと向き合う

君と同じ所へ まるで魔法のように 思い出の中にしか残らない

君と同じ様に 思い出もいつかは解け 記憶の底に埋もれるだろう

 
それでも消えはしない

君と過ごした日々無しに 今の僕などあり得ぬ様に

彼と過ごした日々もまた 欠けば僕は僕たり得ない

決して 魔法なんかじゃない 彼は確かにここに居た

僕が僕である限り あの子は 彼はここにある

 
皆の事を想いながら 彼らと今日を歩んでいく

皆の作ってくれた僕で 彼らと今日の記憶を綴る 明日の僕へと繋げる為に

それはまるで 皆と僕の人生が 手を取り 踊り巡る様でいて

ワルツィング・マチルダ 一緒に踊ろう

僕のある限り




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