酔っぱらいのタクシードライバー

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アイテム番号: XXXX-JP
レベル1
収容クラス:
esoteric
副次クラス:
uncontained
撹乱クラス:
dark
リスククラス:
caution

特別収容手順: SCP-XXXX-JPは京都府警によって勾留中です。SCP-XXXX-JPの引き渡しはJAGPATO1を通じて交渉中です。

説明: SCP-XXXX-JPは住所不定の人物として捜索対象となっていた、金島有彦という日本人男性です。SCP-XXXX-JPからは高濃度のエタノールが放出され、これによりSCP-XXXX-JPは常時酩酊状態に陥っています。しかし意識の混濁や判断力の低下等想定される症状は確認されません。

SCP-XXXX-JPは未登録の個人タクシーを運営し、主に京都府内を中心に活動しています。SCP-XXXX-JPは消失と出現を繰り返し、その足取りは未だに不明です。SCP-XXXX-JPの言動や前述のエタノールから、GoI-008("酩酊街")との関連性が疑われています。

SCP-XXXX-JPの異常性の発現には、以下の2段階を経る必要があります。

  1. SCP-XXXX-JPが運転するタクシーに任意の人物(以下対象者に指定)が乗車する。
  2. SCP-XXXX-JPと対象者が会話を行う。

これらの条件を満たすことで車内に対象者の遺失物が出現します。この遺失物が対象者が無くしたオリジナルと同一か、複製品であるかは判明していません。また出現する遺失物は、対象者が別のタクシーで無くしたものが多い傾向があります。

SCP-XXXX-JPは京都府を中心に飲酒運転をするタクシーの目撃例、並びに異常性から成る遺失物の発見例が有意な件数発生したことを発端として発見されました。以下はSCP-XXXX-JP確保計画の前段階として行われたインタビュー記録です。

インタビュー記録XXXX-JP-1


インタビュアー: エージェント・酒匂
対象: SCP-XXXX-JP


<記録開始>

[エージェント・酒匂がSCP-XXXX-JPが運転するタクシーに乗車する。車内はほのかにアルコール臭が漂っている。]

酒匂: 並河駅まで。

SCP-XXXX-JP: おおお、了解ですよ。

[タクシーが出発する。]

酒匂: 運転手さん、あの酒飲み運転の人でしょ。噂では聞いてたけどまさか乗れるなんて。

SCP-XXXX-JP: あっはっはっはぁ。そうですかそうですかぁ、私も人気者になったもんだなぁ。

酒匂: どう見ても酔ってるのに事故らないしどっちかってっといい運転するって、でも実際乗るとやっぱり不安だなあ。大丈夫?

SCP-XXXX-JP: 年寄りだと思ってぇバカにするんじゃあないよ。お客さんが生きてる時間の3倍はハンドル握ってんだからさぁ。

酒匂: おお、それは失敬。じゃあ大風呂敷ならぬ大タクシーに乗ったつもりでいさせてもらうよ。

SCP-XXXX-JP: はいよぉ、ウチは安全運転がモットーだからねぇ。

[重要度の低い箇所を割愛。]

酒匂: そういえば運転手さんはどうしてこんな酒飲みながらタクシーやってんの?

SCP-XXXX-JP: 飲んでないってぇ、これはぁこうなっちゃうんですよぉ。

酒匂: どういうこと?

SCP-XXXX-JP: おぉ、聞きたいです?

酒匂: 聞きたいなあ。

SCP-XXXX-JP: よぉしじゃあ酔いどれ有ちゃんの波乱万丈人生のお話だぁ。

酒匂: え、人生の話まで?

SCP-XXXX-JP: 時にお客さん、私の顔を見たことなぁい?

酒匂: え……あー言われて見ればある、かも。ちょっと待って……あ、金島運輸のワンマン社長!

SCP-XXXX-JP: そうそう!当たり!私ねぇ昔は社長だったんですよぉ。

酒匂: 10年くらい前かな、すごい手腕の面白社長としてテレビでよく見かけた気がする。わー懐かしいなあ。

SCP-XXXX-JP: でしょう?まぁあの頃は楽しかったなぁ。まるで自分が思うことは全部そうなるというかぁ、金も部下も大勢居てさぁ。本当に……神様かなんかだと、思ってたかもしんないですねぇ。お客さん、金島運輸がその後どうなったか、覚えてます?

酒匂: いやぁそこまではちょっと。

SCP-XXXX-JP: 潰れたんですよ、跡形もなくねぇ。

酒匂: あ、そうだったんだ……。

SCP-XXXX-JP: 今思えば、傍若無人に振る舞い続けた罰だったのかなぁと。会社が無くなった途端に湯水の如く使った金、振り回し続けた部下たち、愛なんて無かった若すぎる妻、みぃんなどっかにいっちまいましたよ。そして残ったのはこの醜い身ぃ1つだけ。私は社長からたった1日でホームレスですよぉ。

酒匂: 絵に描いたような転落だあ。

SCP-XXXX-JP: そうでしょうそうでしょう、いやぁ今思っても笑っちまうぐらいの落ちっぷりですよ。最初は辛かったなぁ、肉肉肉の日々から明日の食事もあるか分からない生活ですもの。夏は暑いし冬は寒い、そんな当たり前のことですら、私にとっては耐え難い苦痛でねぇ。正直何度も死のうとしたんですが……最後の最後で勇気が出なくて、何だかんだずっと生きていたんですねぇ。

SCP-XXXX-JP: そうして何となく生きていたら、ふと知らないところに迷い込んでいたんですよ。突然すぎると思うでしょう?でも私にとっても突然だからこういうしか無いんですね。ある日起きたら雪降る知らない町、電柱とか色んなとこに酩酊街って書いてんですけどまあ聞いたことないですし。でもね、不思議と寒くはないんですよ。いや寒いことには寒いけど……心はね、温かかったといいますか。それまでの人生で感じたことの無いような、満たされた気持ちになりましてねぇ。

SCP-XXXX-JP: そこでの生活は、いやぁ楽しかった。毎日毎日酒を呑んで、呑んで呑んで、呑んで呑んで……今考えりゃあそれだけだったなぁ。でも酒呑んでりゃ楽しいんだから、ずっと楽しいことに変わりは無いしねぇ。だからまぁ、満足はしてましたよ、えぇ…….。

酒匂: 何か含みがあるようだけど。

SCP-XXXX-JP: いやーなんかね、やっぱ思っちゃうんですよね。このままじゃあダメだよなぁって。ほら、こう見えても元社長なんで自分を律することが出来るんですよ。そりゃあ酒呑んでるだけでいいなら、それに越したことはないけど。よくよく考えりゃおかしいじゃないですか。どんな生活だよって。まあなんでとりあえずここから出ようってことで歩いてたらタクシーが通りがかったんで乗ったんですよ。で、ここからが不思議な話でそのまま乗ってたら、ちょうど雪から雨になったぐらいで何故か、何故かね…….私が運転席に乗ってたんです。ご丁寧にちゃんとハンドル握ってアクセル踏んでる状態でね。

SCP-XXXX-JP: ひとまず道端に止めてここからどうしようと思ってたんですけど、やっぱタクシーだったせいで乗せてくださいって言われちゃったんですよ。多分二十歳かそこそこぐらいのお兄さんです。彼は私の見るなりギョッとしました。当然です、何せ私は酔っ払って顔を赤くしていたんですから。なのでまあ相当悩んでましたよ、まあ悩まれても困るんですが。で、しばらくしたら決意をしたかのように乗り込んできちゃって。ここでちゃんと追い返せばよかったんですがね、いかんせん酔ってるからうまいこと言い返せなくて。なし崩し的にお兄さんを送ることになったんですよ。

SCP-XXXX-JP: しばらく走ってるとお兄さんの顔から、段々緊張の色が抜けてきました。その頃合いを見計らって話しかけたんですよ。だって気になりますからね、雨の山奥に一人でいるなんて。それで聞いてみたらまあその、そりゃあそうよとしか言えないもんで。何でも彼女さんと遊びに来たけどそこで大喧嘩。彼女さんは帰ったけど、お兄さんは意地張ってここに居続けたらいつの間にかってね。その喧嘩の内容もお兄さんが財布落としただ携帯忘れただってことらしくて、ありがちな話ですけど普段からこうみたいで。それの積み重ねですよね。

SCP-XXXX-JP: お兄さんの話聞いてると段々ムカッ腹沸いてきましてね、まあぶっちゃけ最初からイライラしてたんで。なんだフラフラブラブラだらしない、それでも男かって、言っちゃったんですよ。お兄さんもまさかタクシー運転手からそんなこと言われるなんて思ってないんで、なんだそれが客への言い草かって。財布持ってないやつのどこが客かって話ですよね。そっからはもうひどい口喧嘩、初対面同士で言えそうな悪口は全部言いましたよ。

SCP-XXXX-JP: えーこっからどうなったんだっけな。ああそうだ、それでお兄さんが町へ出る少し前ぐらいでもう降ろせって言ったんですよ。こっちも清々してね、あー降りろ降りろ、金はいらねーし二度と面見せるなって言い返してやりましたよ。そんでお兄さんがぷりぷり怒りながら降りようとした時、痛って言ったんです。何だ何だと思ったらちょうど手を着いた位置にペンダントがあったらしく、しかもそれ見てお兄さんなんかワナワナし始めたんですよ。ジジイ、俺このタクシー乗ったことあるかって。そんなわきゃない、さっき初めて走らせた車です。何だって聞いてみたらどうもそのペンダント、前に無くした彼女さんとの写真が入ったロケットだそうで。なんかもう、呆れますよね。そんなものまで無くしてんのかお前はって。こっちは早く出てってほしかったから、それもってさっさと仲直りしてこいって言ったんですよ。そしたらお兄さんすっごい笑顔でね、サンキュージジイそうするよって。

SCP-XXXX-JP: という感じで私の初仕事?は終わりました。何だかよく分からないでしょ、私も分かんないんですよ。分かんないから辞めたかったんですけど、何故か車を走らせると乗りたい人が現れて、その人を降ろすといつの間にかまたあの酩酊街に戻ってて。大いなる力が私にずっとタクシー運転手をやれって言うんですよ。何とかしようとしたんですが、その度に色んな人を乗っけて、そして毎度毎度その人の無くしものが出てくる。色んなものがありましたよ。ぬいぐるみ、書類、現ナマで1000万、拳銃が出た時はさすがに肝冷やしましたね。

SCP-XXXX-JP: まあ結局今も自分が何してるのかはよく分かんないんですけどね、何度もやってると不思議と慣れてきてね、これがなかなか楽しくなってくるんですよ。大体無くしたものが出た時って人は最高の笑顔になるんですよ。さっき言った拳銃の時だってそうですよ?えっぐい入れ墨歪ませて、ありがとうなってね。いやあ良からぬことをしてないように祈りますよ。

酒匂: おお……すごい話を聞いたなあ。

SCP-XXXX-JP: いやいや、長々と年寄りの話をすみませんねぇ。

酒匂: いやもう、面白い話だったよ。でもそういうことなら俺もなんか無くしたもの見つかるのかな。思い当たるもの無いけど。

SCP-XXXX-JP: 無くしものなんて大抵忘れてるもんですよ。それを変わりに見つけるのが私の仕事、さてそろそろ並河に着きますね。お客さん、シートに手を突っ込んで見てくださいよ。何かあるかもしれない。

[エージェント・酒匂はシートに手を突っ込む。再度出したときにはペン型の携行記憶処理装置を手に持っていた。]

酒匂: ……あったわ。

SCP-XXXX-JP: お、良かったですねぇ。じゃあここで止めますね。3200円になります。

酒匂: ……あ、ありがとう。

SCP-XXXX-JP: いえいえこちらこそ、またご贔屓にぃ。

[エージェント・酒匂が下車し、SCP-XXXX-JPは再出発する。]

<記録終了>

追記(20██/██/██): SCP-XXXX-JPの再出現時に別件によって行われていた検問に遭遇しました。その際明らかな酩酊状態であったために、呼気検査が行われそのまま勾留されました。その後の捜査によりSCP-XXXX-JPは以下の内容で起訴されることが決定しました。

  • 酒気帯び運転
  • 公文書偽造2並びに無免許運転
  • 道路運送車両法違反3
  • 道路運送法違反4
  • 電子計算機使用詐欺罪5

財団はSCP-XXXX-JPの早急な確保を計画しています。しかしSCP-XXXX-JPの社会的知名度の高さと、報道による大衆からの注目度の増加により難航しています。現段階では穏当な手段のメイン計画、強硬策のサブ計画を並行して検討中です。

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