旧校舎のトイレ
評価: 0+x
blank.png

俺の母校、三年間通ってた地元の中学校はこの間取り壊されて、ちょうど今建て替えられてる途中なんだけど、その前、だから俺が通ってた当時はものすごく古い校舎だったんだよね。

それこそ戦後すぐに建てられたようなお手本みたいななオンボロ建築でさ、壁のコンクリは剥き出しでボロボロ、窓枠はどこも真っ赤に錆びてるし下駄箱なんかも酷かった。どこもかしこも傷だらけでさ。まあ想像できるだろ、どこの町内にも一つはあるような学校だ。さらにいうと、まあこれを感じてたのは俺だけだったのかもしれないけど全体的になんか無機質なんだよ。学校って一応子供が通う場所だからさ、なんていうか、多少なりとも活気っていうのが存在するだろ。けどうちは違ったんだ、古いうえに冷たいというか、生気を感じないというか。まあ長い歴史の間で色々あったんだろうけどさ、それにしたってちょっと不気味だった。そしてそれだけボロっちいのに、なぜか絶対に建て替えられないんだ。お金は、まあ俺の地元は田舎だったしそんなに沢山は無かっただろうけど、それが原因ではないと思うな。だって市内にある学校は二つとも、もっと最近になって建てられたはずなのに大きな改修工事入ってたし。あんまりひどいもんだから一部の男子の間では、何か掘り返されるとまずいものでも隠されてるんじゃないのかなんて話題にもなったりしてさ、ははは。

で、まあそういう変な学校だったんだけど、あれは確か二年の時だったかな。俺、部活の途中にどうしてもトイレ行きたくなったんだよ。水泳部だったんだけどさ、元々男子校だったのが十数年前に共学になって、だからトイレはどこも新しいとこが多かったんだけど、体育館から校舎に渡る廊下の端っこにあるトイレだけは改修されずに古いままだったんだ。小さくて、男子用しかなくて、そのうえ目立たない場所にあるから知らない子も多かったんじゃないかな。まあ案の定暗いしボロいしで誰も使いたがらなかったんだけど、俺、その時水着のままでさ、中学生なんて思春期真っ只中じゃん、だからどうにも恥ずかしくて、しょうがないから校舎に入らずにそこのトイレを使うことにしたんだよ。

入ってみるとやっぱり汚いんだ。色の剥げたタイル張りで、あちこち黒ずんでて便器も黄ばんでる。ただ不思議と匂いはしなかったな。カビ臭くはあったけど、トイレの匂いではなかった。それがなんだか不気味でもあったけど、大して気にしなかった。まあやっぱり長居はしたくないからさ、薄暗くて陰気だったし音一つしないから不安で、さっさと用を済ませて出ようと思ったんだ。

そのトイレはさ、小便器が二つとその後ろに個室が二つっていう、まあ公衆トイレとかによくある手狭な構造になってたんだけど、俺は急いでたから真っ先に手前の小便器に向かってさ、それで用を足してたんだ。しばらくして尿意も済んで、そのままちょっと一息ついてたらさ、ふと、視線っていうのかな、表現しづらいんだけどなんか背後に違和感を感じたんだ。自分以外の何かに自分が認識されてる、みたいなものかな。もちろん怖いのもあったし、なにより不思議だった、うん。さっきも言った通りこのトイレってかなり狭いんだ。手洗い場は区切られていて見えない構造になってたけど、誰かが入ってきたんなら音で絶対に気づく。俺が入った時も中に人なんていなかったし、つまり自分以外の誰かがいるっていう状況がそもそもあり得なかったんだ。

内心ビクビクだったよ、はは。やっぱり薄暗かったし、なんせ空気が変なんだ。ただただ不気味で、掴みどころの無い雰囲気。見たら絶対やばいけど自分を止められないって感じでさ。ああいうのを本能的な恐怖って言うんだろうな。

それで俺は恐る恐る振り向いたんだ。ゆっくりゆっくり、体を構えながら慎重に。

そうして視界の端に捉えた背後には

なんと

まあ

特に何もなかった。拍子抜けだった。

おい、怒るなよ。

今でもその状況は鮮明に思い出せるんだ。入った時は気づかなかったんだけど、二つある個室のドア、片方は開いて中の薄汚れた和式便所が見えていて、そしてもう片方は閉じていた。ただそれだけ。特に変な物音もしなかったし、閉まってる方の個室も人が入っているとは思えないくらい静かだった。俺はその時、なんか微妙な違和感を感じたんだけど、まあこのトイレを使う人も全くいないってことは無いだろうと思って、トイレに入る時も急いでたからさ、先に誰かいたのを気づかなかっただけだろうって感じで何も考えずそのままトイレを出たんだ。

それでプールまで歩いてる途中に、あの時感じた違和感はなんだったんだろうなってなんとなく考えてたんだけど、ふと、ある事に気付いたんだ。違和感。なんでただのトイレの個室に違和感を感じていたのかって。いいか、よく聞いてくれよ。あのトイレのドアってさ、鍵が開いていれば重みで自然と開くタイプの開き戸なんだ。俺さ、振り返った時の様子を思い返してみると、たしか、俺の記憶が正しければだよ、違和感というか、個室の鍵は二つとも青だったんだ。つまりどちらのドアも、鍵は空いていた。

なんだよそんな顔して、何も起きなくて拍子抜けだったか。まあそうだな、俺も最初はそうだった。けどさ、後から考えるたび、どんどん気持ち悪くなってくるんだよ。考えてもみろよ、誰も入りたがらない古いトイレの個室でさ、鍵は開いたままに、中から誰かがドアを押し続けるなんて、そんな事ありえると思うか?

D540C977-E83B-42A4-967D-A7BE82BE57EB.jpeg

付与予定タグ: ここに付与する予定のタグ


ページコンソール

批評ステータス

カテゴリ

SCP-JP

本投稿の際にscpタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

GoIF-JP

本投稿の際にgoi-formatタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

Tale-JP

本投稿の際にtaleタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

翻訳

翻訳作品の下書きが該当します。

その他

他のカテゴリタグのいずれにも当て嵌まらない下書きが該当します。

コンテンツマーカー

ジョーク

本投稿の際にジョークタグを付与する下書きが該当します。

アダルト

本投稿の際にアダルトタグを付与する下書きが該当します。

既存記事改稿

本投稿済みの下書きが該当します。

イベント

イベント参加予定の下書きが該当します。

フィーチャー

短編

構文を除き数千字以下の短編・掌編の下書きが該当します。

中編

短編にも長編にも満たない中編の下書きが該当します。

長編

構文を除き数万字以上の長編の下書きが該当します。

事前知識不要

特定の事前知識を求めない下書きが該当します。

フォーマットスクリュー

SCPやGoIFなどのフォーマットが一定の記事種でフォーマットを崩している下書きが該当します。


シリーズ-JP所属

JPのカノンや連作に所属しているか、JPの特定記事の続編の下書きが該当します。

シリーズ-Other所属

JPではないカノンや連作に所属しているか、JPではない特定記事の続編の下書きが該当します。

世界観用語-JP登場

JPのGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

世界観用語-Other登場

JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

ジャンル

アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史

任意

任意A任意B任意C

ERROR

The 230r's portal does not exist.


エラー: 230rのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:8238417 (23 Sep 2022 07:29)
特に明記しない限り、このページのコンテンツは次のライセンスの下にあります: Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License