Tale下書き「未来は闇か否か」

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スシを投げつけられた。

理由? 修行に来てまだ1年と少しの分際で隠れてスシを握る練習をしていたからだ。
残ったスシも材料も全て床にぶちまけられた。親方が怒鳴り散らして出て行ったあと、一人黙々と後片付けをする。

「せめて……」

床に落ちたシャリとネタを掴んで口に運んだ。噛むにしたがって、口に広がる味は涙の味だ。

「今は我慢だ」

そう自分に言い聞かせる。いつか一人前のスシ職人になれると信じて。

でも、考えてしまった。
いつまで俺はこんな風に隠れてスシを握る練習をしないといけないのか。
いつまで碌に教えてもらえないような環境に身を置き続けなければならないのか。
いつまでこれが続くのか。

気づいたときには、俺はスシから逃げ出していた。
実家に逃げるわけにはいかなかった。そもそもあの親方は実家のつてで紹介してもらったところだ。きっとまた元の生活に戻される。実際、以前に逃げだしたときはそうなった。

「今は辛抱だから。耐えるんだ」

唯一の理解者だと思っていた兄貴だってそうだった。どんなに現状を伝えようとも、それだけだった。
今の俺に味方はいない。
だから、遠く、遠くへと逃げた。

できればスシのない所に行きたい。

そう思ったのはスシがあるところには兄貴がいるような気がしたからだ。

気づいたら山奥にいた。どこにいるのかわからない。
逃げ続けたせいで所持金は底をついている。食べることができる山菜を口にするが、飢えは満たせない。

その日も風雨を凌ぐために、ちょっとした洞窟の中で眠ろうとしていた。それは光とともに突然現れた。

光に目がくらんだ。思わず目を閉じて、恐る恐る開けると奇妙なシルエットが立っていた。シルエットはおおよそ人間の形をしてはいるが、恐ろしく頭がでかい。少なくとも人間ではない。

「どうした坊主。迷子か?」

流暢な日本語。我が耳を疑った。
シルエットが俺に近づくにつれて、全体像をだんだん認識できるようになっていく。
俺はその姿をテレビで見た事があった。
宇宙人だ。しかも、グレイタイプとか言うやつだ。いろいろなもの、特にスシに関してはたくさん見てきたつもりだったが、未知との遭遇は初めてだった。

誰かの腹が鳴る。二回目でようやく俺のだと気づいた。
宇宙人はクックッと笑った。

「坊主、うちに来な。これでもラーメン屋なんだ。奢ってやるよ。……いや。その前に風呂だな」

これが大将、UFOラーメンというラーメン店を経営する不思議な宇宙人と、俺こと栄の出会いだ。


「スシ職人がラーメンなんて食うんじゃねえ。舌が馬鹿になる」

昔、学校から帰る途中でラーメンを食った俺を兄貴がしかりつけたときの言葉だ。
そんなラーメンが今、何の因果か俺の前に出されている。湯気とともに立ち上る醤油ベースの香りはスシでは体験できないだろう。

「早く食いな。麺が伸びる」

大将はテレビをつけた。丁度野球をやっている。人間ではない手が小さくガッツポーズしたのを俺は見逃さなかった。

「いただきます」

麺を口に運んだ。絡んだスープが口に広がる。
よく知っているはずなのに未知の味だった。
確かに醤油がこのラーメンが使われているのだろう。しかし、醤油とともに使われている何かがわからない。そして、この何かが味の奥行きを広げているのだ。

スシは一貫一貫がその板前にとっての作品である。そして、このラーメンはそれと同等の作品だった。
気づいたらどんぶりの底が見えていた。目の前では大将のでかい頭が俺を見ている。人間ではないのに、なぜかにこにこと笑っているのがわかった。

「どうだ」

「お、おいしかったです」

「そうかい。ありがとうよ」

 大将は笑った。

「それで、だ。お前さん、虐待されているのか?」

「……えっ?」

「さっき風呂に入っていた時、ついでにバイタルチェックもさせてもらった。体中、内出血が確認されたぞ。もしかして、いじめられていたりするのか? たとえば、学校のやつらとか、スシ職人の先輩とかに」

「待ってください。どうしてスシ職人だと?」

「馬鹿野郎。お前の手を見てわからないわけがないだろう。あんなに汚れていても酢の匂いがわずかにしてきたぜ」

俺は思わず箸をおいて、掌を嗅いだ。
わずかではあるが酢の匂いがした。大将の言葉は本当だった。

「お前さんがどんな目にあったかは知らないが、少なくとも、その手はお前さんの努力の証だ。胸を張りな」

生まれて初めて、認められた気がした。
気づけば目から熱い何かが零れ落ちてくる。

「ありがとう、ございます」

「おいおい。泣くことはないだろ」

大将は笑っていた。
ただ、次に湧いてきた感情は不安だった。このままではあの場所に戻されるのではないか。あの場所でまた日常を繰り返すのか。
俺の興味は酢の香りがする己の掌よりも、大将の背後でぐつぐつと音を立てる鍋に向けられていた。

「大将、お願いがあります」

「何だ。言ってみろ。ついでに餃子もつけるぞ」

大将は俺が返事もしていないのに餃子を出してきた。メニューを思い出す限り、3人前だ。

「大将、ここで働かせてください」

ふり絞れるだけの勇気をふり絞った。

「おいおい。学校はどうした」

「行っていません。中学を卒業した後はずっとスシ屋で修行していました」

「そうか」

大将は考えるような素振りを見せている。帰れと言われないだけ上等だ。大将の人間ではない瞳を俺はずっと見つめた。

「……お前さんのやる気はよく分かった」

「じゃ、じゃあ」

「だがな。この店は俺一人でやっているわけじゃねえ。嫁と従業員に相談する。返事はそれからだ。いいな」

「は、はい」

「とりあえず、今日はここに泊まっていけ。服はそこにあるやつを使いな」

「はい!」

この時、俺はまだ正式に雇われたわけではない。それでも、ここで働くことができるという確信はあったのだ。


このラーメン屋は俺を除くと3人働いている。大将と女将さん、そして、先輩である兄さんだ。

「サイズ、大丈夫?」

俺の世話をすることになった兄さんが尋ねてくる。渡された服は正直なところ少し小さい。

「大丈夫です」

そう返事をしてしまった。ある種の厄介な癖だ。もっとも、兄さんは、

「わかった。きつかったら早めに言えよ」

と、言っていた。間違いなく、我慢しているのを見透かされている。

「よし。じゃあ、いくぞ。メモ帳は持ったか」

「はい」

 俺と兄さんは厨房へと向かった。

「あら。おはよう。今日はよく眠れた?」

明るい声音で出迎えてくれたのは女将さんだ。大将と同じグレイタイプの宇宙人だ。ニコニコと愛想がいい人だ。人間ではないのに、そう感じる理由は未だを俺はわからない。

女将さんに元気よく挨拶をして、俺は兄さんに表の厨房を案内された。
表の厨房からはカウンター席や座敷席がよく見えた。窓からは丁度雲海を眺めることができる。
もちろん、寿司とラーメンでは必要な料理器具が違うのだからそういった設備が違うのは当然だ。ただ、次に案内された材料の下準備を行う裏の厨房には明らかに地球の厨房には存在しないであろう装置が客席から見えないところに備えつけられていた。

「ここはまだ触っちゃだめだよ」

「わかりました。でも、何の装置何ですか?」

「いろいろだね。このUFOを見えなくしたり、迷惑な客を排除したり。かなり繊細な装置だから説明するのはかなり先になると思うよ」

「了解です」

「それと、表の方はそのうちやってもらうけど、しばらくは裏で作業してもらう。表には絶対に出てこないでね。下手したら、普通の生活に戻れなくなるから」

「わかりました」

兄さんの仰々しい言葉に思わず笑みがこぼれてしまう。表に出ただけでそんなことは普通あり得ない。

「あっ。信じてないな」

「そ、そんなわけありませんよ。兄さんの言葉は絶対です」

「いや。信じられないのも無理はない。でも、ここは普通の店じゃない。そこはわかるよね?」

「ええ。大将に出会った時点で理解と覚悟はできています」

「よろしい。とにかく、この店は普通じゃない。だから財団っていう団体がこの店を監視しているんだ。時間があったらカメラの映像を見てみな。開店から閉店まで白衣を着た人間が必ず1人はいるから」

「わかりました。でも、どうやって応対するんですか?」

「店長が知り合いに頼んで栄君を認識させない装置を追加してもらうって言っていた」

「そんな都合のいいことができるんですか」

「都合がよくなかったら、この店はやっていけてないよ」

兄さんは笑った。


それからの生活は大変だったが、それ以上に楽しかった。

仕事を覚え、接客もした。叱られもしたし、褒められたりもした。

大将からはラーメンの作り方を教わった。餃子も、チャーシューも。逆に、俺がスシ屋で学んだ作り方を教えることもあった。

女将さんからは会計を学んだ。材料費や施設の維持費の大切さ。何より、税金の計算を教えてくれた。あと、女将さんの趣味もあって、芸能界の話を自然と覚えていた。

兄さんからは接客を学んだ。お客さん一人一人の顔を覚えたし、いろんな宇宙人の対処の仕方も教わった。ただ、兄さんみたいに六か国語を完全にマスターすることはできなかった。最終的には簡単な会話くらいは何とかなるようになったが。

日々、増えていくメモ帳の数。それがスシ屋の時よりも多くなるのにはそう時間はかからなかった。
そして、このラーメン屋で作ったメモの内容はほとんど教えられたことだった。スシ屋時代のように、俺が目で見て盗んだものではない。
それに気づいたとき、俺は一人泣いた。

こんな日々がずっと続けばいい。そんな風に思っていた。

けれども、スシは、スシブレードは俺を逃そうとはしないのだ。


UFOラーメンで働いていると身の程を知らない客というのはだいたいわかってくる。

まず、その客は地球出身、つまりは人類であるということ。
2つ目は、だいたい人類しかいないと思われるときにそいつらは暴れるということ。

その時もこの条件を満たしていた。
客は2人。両方とも男。その顔に笑顔はないが、嫌悪を隠そうとする気配はある。

「ラーメンを2つ」

2人はカウンター席に座るや否や、メニューを見もせず注文をした。そんなことをするのは常連ぐらいではあるが、2人とも初めて見る客だ。

何より、2人の掌からは酢の匂いがした。

注文を通し、大将が調理を始める。俺は他のお客さんの相手をしていた。

「あの客変だよ」

常連さんの一人が俺に囁いてくる。地球人を驚かせてはいけないという理由で、人間に擬態している方だ。

「変?」

「ああ。懐にスシを仕込んでやがる。気をつけな」

「はあ……」

我ながら要領を得ない返事ではあった。常連さんがどうしてそんなに警戒しているのかわからなかったからだ。
だが、脳裏をよぎる言葉がある。

スシブレーダー。

かくいう俺もスシブレーダーだ。そして、スシブレーダーならば嫌でも耳に入る話がある。

スシブレーダーには闇に落ちた者たちがいる。

「まさかな」

考えすぎかもしれない。しかし、警戒するに越したことはない。細心の注意を払って、大将のラーメンをその2人に運んだ。

「UFOラーメン、お待ち!」

2人は表情一つ変えない。

彼らは無表情のままラーメンの丼ぶりを手に取った。

丼ぶりはくるりと下に向き、スープと麺が重力に従い床に落ちていく。

何が起こったのか。

目の前の客は大将が作ったラーメンを捨てたのだ。

理解と同時に、どうしようもない感情が俺の中で暴れ狂う。
客に手が伸びる直前、大将が俺の肩を掴んだ。

「落ち着きな。他のお客さんが見てるだろ」

「で、でも」

大将は無言で頷く。その瞳に宿る感情は今の俺と同じだ。

「お客さん、これはどういうおつもりで?」

「そのままの意味だ。宇宙人では難しかったかな?」

男は笑う。心の底から俺たちを見下しながら。

「ラーメンなんぞ食う価値もない。歴史もなければ、健康に良くもない。恥ずかしいと思わんか。このような神や宇宙人が集う場所でこのような料理を振舞うなど」

「はあ。つまり、神様や宇宙人のお客様へ料理を出すために品性を捨てろ、ということですかな?」

「ふん。良いだろう。スシブレードで決着をつけようじゃないか」

「上等だ」

あまりにもあっさりと大将は承諾した。止める暇など俺にはなかった。

「俺たちが賭けるのはこの店。じゃあ、そっちは何を賭ける?」

「俺の店、というのはどうだ? お前には上等だろう」

「支店の計画はないんだがねえ。で、ルールはどうする」

「二対二のタッグバトル。と、言うのはどうだ? そちらの小僧も回せるのだろう?」

男は俺を見た。スシブレーダーだと見抜かれている。

「いいだろう。それで合意だ」

「逃げるんじゃないぞ」

「そっちこそ」

火花を散らしながら大将と男は笑う。二人とも、勝てると確信しているのだろう。だが、現実はどちらかが店を捨てることになる。

「さて。準備がいるな。栄、やれるな」

大将が俺の名前を呼ぶ。期待しているのだ。俺を。

「はい」

大将の期待に応えるべく、俺は厨房へと向かった。

「何もねえ……」

米はある。酢はある。つまり、シャリはできる。
問題はネタだ。兄さんが買い出しに行っているから薄々気づいてはいたが、何もない。刺身もなければ、卵もない。
思考がぐちゃぐちゃになっていく。
もし、このまま俺が何もできなかったらこの店は終わりだ。大将はおそらくスシブレードを料理対決か何かだと思っている。それだとあいつらの不戦勝だ。

あいつらに、戦わずして負けるのか? 大将を、大将のラーメンを侮辱したあいつらに。

「できるわけない」

だが、現実は壁にぶち当たっている。

何かが床に落ちた。
メモ帳だ。俺がスシ屋で働いていた頃のものと、今のもの。
今の俺を作っているのはスシ屋での経験だ。つまり、シャリだ。なら、今のネタは……。
俺は作るものを決めた。


「遅いな。尻尾を巻いて逃げ出したか?」

「そう焦るな。良い料理には時間をかけるもんだ」

そんな会話が聞こえると同時に、俺は表の厨房に飛び出した。

「お待たせしました」

「遅いぞ。何分待たせるつもりだ」

「ゲン担ぎってやつでさあ。かの宮本武蔵も遅刻しましたので」

大将が俺の隣で噴出していた。灰色の掌で俺の背中を思いっきり叩く。

「言うようになったなあ。おい。よし。役者もそろったところだ。勝負と行こうじゃないか。始めてくれ」

「はーい」

女将さんの声が聞こえたかと思うと、景色が厨房から巨大なスシブレード用のリングへと切り替わる。
男たちも何が起こったのかわかっていないようだ。この現象を理解しているのは大将ただひとりのみ。

「大将、あなた、もしかして……」

「話は後だ。まずはこいつらを倒すぞ」

「わかりました」

俺は己のスシブレードを取り出した。

「スシのモナド」という言葉がある。簡単に言ってしまえば、己の中にあるスシの定義だ。
じゃあ、俺にとってのスシとは何か。それは俺の手で生み出される料理の全て。
だから、俺は俺が作ったラーメンをスシブレードとすることとした。

俺はラーメンを構える。敵は笑っているが気にはしない。 

「どうした?」

大将が不思議そうに尋ねてくる。

「何がです?」

「笑ってたぞ」

「ああ。我ながらとんだ邪道に染まったものだと思いまして」

「邪道? それがか? 料理で邪道か正道かなんて決めるのは俺たちじゃないさ。それに――」

大将のスシブレードは俺と同じでラーメンだった。

俺は念のためもう一度視線を外してから大将のスシブレードを確認した。

大将のスシブレードは俺と同じでラーメンだった。

「大将も、ですか?」

「まあな。お互い、スシとは程遠いな」

「大将に似たんですよ」

「言うじゃねえか。さあ、やるぞ。俺のスシブレードなんてどうでもいい。今は俺たちのラーメンを笑っている奴らをぶちのめそう」

「はい!」

俺たちは構えた。

「行くぞ」

「はい」

「「「「3、2、1、へいらっしゃい!」」」」

2貫と2杯のスシブレードが舞台に飛び出した。

俺は祈る。

神様、いるのでしたらどうかお願いします。どうか、どうかこの一戦だけはラーメンをスシの仲間にしてください。あの、大将のラーメンを侮辱した奴らを見返すチャンスをください。

2杯のスシブレードは地面に到達する。同時に、右回転で勢いよく回り始めるのである。

「嘘だろ。回るのか」

この言葉だけに関しては、不本意ではあるがあの2人と同じ気持ちである。

勝負の結果?
走ってくる子供二人と時速120kmで走ってくる10トントラック2台が正面衝突したらどうなるか。
常識の範疇で考えれば自ずとわかるはずだ。


勝負の後、俺と大将は居間で机越しに向き合っていた。あんなことがあったのだ。女将さんと帰ってきた兄さん、一部の常連さんが気を利かせてくれた。

あの2人はどうなったのかわからない。ただ、常連さんが処遇についていろいろ言い合っていた。

イエスさん、ブッダさん、ニャルさん、イオンの兄さん、緋色のおやっさん、ヤルオダさん。

そう呼ばれている常連の神様たちも話し合いに参加しているのだ。悪いようにはならないだろう。財団の博士も話し合いに加わらずにラーメンを食べていることから、全幅の信頼を置いているようだ。

もしかしたら暗黒寿司のような裏のスシブレーダーがこれからもこの店を襲撃してくるかもしれない。
そんなことを防ぐためにも誰かが裏のスシブレーダーを支配しなければいけないのかもしれない。
その誰かになるのは――。

大将がお茶をすする。それで俺は現実に引き戻された。

「どうした? 飲まないのか?」

「いえ。そんな気分ではないので」

「勝利の美酒、いや、勝利のお茶か。うまいぞ。隠しておいた高級茶葉を使っているからな」

「それ、あとで女将さんに言っておきますね」

「やめてくれ」

大将は本当にうろたえていた。

「大将、スシを回せたんですね。いや。ラーメンか」

「まあな。俺の前職は知っていたっけ?」

「確か、惑星調査員、でしたか」

「そうだ。そういう仕事をしているとな、不思議なことがある。その一つがスシだ。スシというのはどういうわけかいろいろな惑星で確認される料理だ。もちろん、その星の食文化ごとに形態は変わるが、基本的にはシャリと呼ばれるものに、ネタと呼ばれるものが乗っている。奇妙な話だがな」

大将の視線が俺の手元に落ちる。

「これで共犯だ」

大将が微笑んだ。俺はどうやら大将がいつの間にか注いでいたお茶を飲んでいたようだ。

「続けてください。女将さんには言いませんから」

「そう来なくちゃ。で、だ。こんな話もある。世界は全て一貫の寿司から始まった。眉唾だけど、信じている奴もいる」

「それ、大将が寿司を回せる話と関係ありませんよね?」

「そうだった、そうだった。最近年を取ったせいだな。話を戻すと、惑星の調査員という仕事はいろいろと厄介ごとがある。だからこそ、スシは回せた方が何かと便利なのさ。さすがに相棒は惑星ごとに変えるがね」

大将と目が合った。地球人よりもずっと大きい瞳は俺の心を見透かしているようだ。

「栄、そう気負うんじゃない。世界は広いんだ。なりたいようになればいい。寿司屋にでも、ラーメン屋にでも。他の仕事でもいい。なんなら惑星調査員でも良い。紹介しよう。だから、自分から闇に落ちるようなことはするんじゃない」
 
大将は立ち上がり、厨房へと向かう。その途中で、軽く俺の肩を叩いていった。

「ありがとう、ございます」

俺はまた一人泣いた。


あの戦いから何日も経った。
UFOラーメンでの日々は相変わらず忙しく、己の未熟さを痛感させられる毎日だ。それでも、スシ屋で働いていた頃よりも楽しい日々だ。
俺は今日も寝る前に厨房に立っていた。店はもう閉まっているのだが、試作をするために貸してもらっているのだ。
時折、大将や、女将さん、そして、兄さんがのぞき込んできて、アドバイスをもらっていた

「栄くーん」

振り返ると、兄さんが入口に立っていた。

「はーい。少し待ってください」

そう返事をしたところで、兄さんは俺のすぐ横に立っていた。

「今日の試作は寿司か」

「ええ。ちょっと、手こずっていますが」

「食べていい?」

「もちろん。その代わり感想をお願いしますね」

兄さんはスシを素手でつかむと、口に運んだ。

「うん。美味しい。でも、どういうのを想定してるのかわからないけど、ラーメンと一緒に出すものじゃないね。主役を食ってしまうよ、これ」

「ええ。だからもう少し抑えていこうと思っています」

「なんだ。わかってるのか。でもこれ以上のアドバイスはできないよ。そういうのは向いてないんだ」

「わかってますよ」

「おい」

兄さんは軽く俺の頭を小突いてきた。

「で、やっぱりあいつらの店をもらうの?」

「いえ。正直なところまだ決めてません。スシ屋にするか、ラーメン屋にするかも。お店だって、この星でなくてもいいですから」

「そうか。でも、たまには帰ってきてくれよ。寂しいから」

「ええ。もちろん」

「じゃあ、俺は戻るぜ」

兄さんは自然な手つきで試作品が乗った皿を持っていく。

「まったくもう」

でも悪い気はしない。

「さて。次で最後にしますかな」

俺は米を掌で握り始めた。
きっとそれが俺の未来で役に立つと信じて。


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