【Qコン】往相回向

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往相回向(おうそうえこう)

仏教(浄土真宗)の教義。自らの行じた善行功徳をもって他者に及ぼし、共に阿弥陀あみだの浄土に往生できるよう願うこと。
 

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羽衣をまとい、狐にまたがった天女の像を、揺らめく松明たいまつが照らしている。あかく、赫く、禍々まがまがしく。

オン・ダキニ・ギャチ・ギャカニエイ・ソワカ──。

オン・ダキニ・サハハラキャティ・ソワカ──。

作務衣さむえのような服装の者たちが、一心不乱に真言を唱えている。病気平癒や開運成就の神として知られる、荼枳尼だきに天のものだ。だが、一般的な仏教徒がこの光景を見たら、困惑するに違いない。なぜなら、荼枳尼天の像は野獣のように牙を剥き出し、宝珠の代わりに生首を掲げているのだ。

おそらくは荼枳尼天というより、その原型になったインドの魔物ダーキニーをイメージしているのだろう。裸形で空を飛び、人間の心臓を食らう、恐ろしい鬼女だ。後に大黒天に調伏され、仏道に帰依きえしたとされるが、そうなる前はこんな姿だったのかもしれない。

その足元には黒檀の台が据えられ、うら若き乙女が寝かされている──手足を荒縄で縛り上げられて。

コーカソイドの血が混じっているのか、緩やかに波打つ金の髪と、灰色を帯びた青い瞳の持ち主だ。フランス人形のように端正な容貌は、しかし今は恐怖に強張っている。服装からすると、トレッキングの最中だったらしい。

「オン・シラ・バッタ・ニリ・ウン・ソワカ!」

儀式の指導者らしき、豪華な金襴きんらん袈裟けさを着た男が立ち上がり、短刀を抜き放つ。

「汝の心臓を捧げよ!」

刀身がぎらりと松明を照り返し、乙女は絹を裂くような悲鳴を──。

──上げなかった。

雛倉ひなくら、逃げろ!」

作務衣の一人が突如立ち上がる。まだ少年の面影さえ残す若者だ。袖から素早くスプレー缶を取り出し、空中に放り投げる。一同の視線が集まった瞬間、それはまばゆい閃光と共に破裂した。スプレー缶に偽装された閃光手榴弾だったのだ。

目を灼かれてのたうち回る作務衣たちを、若者は巧みにすり透けながら乙女に駆け寄る。彼は閃光のタイミングに合わせて、目を閉じていたのだ──彼女と同様に。

「自分で逃げられますよ、戸神とがみ先輩」

乙女を縛り上げていた荒縄が、一瞬でバラバラに切り裂かれる。彼女の服の袖と靴から、小さな刃が飛び出したのだ。その表情は冷静そのものだった。滝のように流していた冷や汗すら、ぴたりと止まっている。

「お、おのれ、何者──うげっ!?」

袈裟の男を容赦なく蹴り退け、若者と合流する。しかし、彼が差し出した手は、握り返そうとしない。

「だから反対だったんだ、わざと捕まるなんて!」

「相手は素人ですよ。ろくに武装もしていませんし」

「万が一ってこともあるだろう!」

雛倉 結愛ゆあと戸神 つかさ、二人は財団エージェントだった。

凸凹でこぼこコンビ、まるで兄妹のよう、否、年上の弟と年下の姉だ──周囲の評価は様々だが、少なくとも不仲だと評する者はいない。

鉄錆の果実教団、ですか?』

『ああ、いかにもだろ?』

山奥の村で共同生活を営む、怪しげなカルト団体の噂を聞きつけたのは、戸神だった。こうした団体はしばしば異常存在アノマリーを隠し持ち、信者集めに利用している。

とは言え、それだけでは強制捜査の根拠には薄い──日本はJAGPATOが色々とうるさいのだ──ので、まずは戸神が潜入することにした。根っからのオカルトマニアで、宗教関係にも滅法強い彼にとっては、まさに打って付けの任務だった。

高学歴のエリートだったが、醜い競争社会に嫌気が差して──と、いかにもカルトの餌食になりやすそうな経歴を捏造し、結構な額の寄付までして入団したものの、そこから先は難航した。教団は部外者のみならず、信者に対しても秘密主義だった。戸神のような新入りは、雑居房と修行場を往復させられるばかりで、ろくに出歩くことも出来ない。

それでも、信者たちの噂を辛抱強く集めた結果、教団の本尊が荼枳尼天であることや、教祖がかの神からお告げをたまわったと自称していることなどは分かったが、肝心の異常存在は影も形も見当たらない。

もしや、異常存在とは関わりのない、“非異常の”カルトなのか? 悩む戸神に、雛倉は提案した。迷い込んだ登山客の振りをして、わざと教団に捕まると。状況が変われば、彼らが尻尾を出すかもしれない。危険だと反対する戸神に、雛倉はきっぱりと言い返した。

『私はあなたのパートナーです。守って欲しい訳ではありません』

お役に立ちたいんです──とまでは言えなかった。一応先輩とは言え、職歴も年齢も数ヶ月しか違わない癖に、未だに自分を半人前扱いする戸神に、つい腹が立って。

「結局、異常存在は見つかりませんでしたね」

うずくまる作務衣たち──教団の信者を飛び越えながら呟く。先輩と喧嘩までしたのに──とまでは、これまた言えない雛倉であった。ああ、いつもこんな風に一言足りないから、可愛くない奴とか言われるのだ。幸い、当の戸神はそれどころではなかったが。

「だからって、こんな連中を放ってはおけないだろう! 殺されかけたんだぞ」

(まあ、確かに)

監禁は覚悟していたが、まさか生贄にされるとは。強制捜査の理由には十分だろう。実を言うと、それが狙いでもあった。異常存在が見つかることを祈ろう、出世欲旺盛な戸神のためにも。

『目標? 勿論、O5になることさ!』

(とか大口叩いてる癖に、てんでお人好しなんだから──私に対しては、特に)

「おのれ、不信心者どもめ!」

袈裟の男──教祖が何やら喚いている。無視してドアを蹴り開けようとした二人だったが。

「荼枳尼天よ、奴らに天罰を下し給え!」

その言葉に、思わず振り返ってしまった。教祖の声に、はったりではない真の狂気を感じて。

「オン・ダキニ・ギャチ・ギャカニエイ・ソワカ──」

教祖の真言に続くかのような──。

「オン・ダキニ・サハハラキャティ・ソワカ──」

男とも女とも付かないひずんだ声による真言は、確かに荼枳尼天の頭部あたりから聞こえてきた。

(まさか、異常存在!?)

荼枳尼天の吊り上がった双眸そうぼう爛々らんらんと輝き──。
 


デデッデデーン♪ おどけたSEを響かせ、びろーんと舌を突き出した。一目でゴム製と分かる、雑な造形の。

(──え?)

げらげらげら、大勢の笑い声が後に続く。老若男女様々な、しかし明るさの裏の、隠しきれない陰湿さだけは共通の。雛倉は嫌と言うぐらい聞き覚えがあった。何せ、今でも夢で見る程だ。

「いやあ、面白かったよ」「その顔が見たかったんだ」「もう少し続けたかったけど、何か警察にバレちゃったみたいだしなぁ」「あ、お巡りさんですか? こいつら犯罪者ですよ~」「そんな訳で、ちゃんと償いはしろよ? まあ、確実に死刑だろうけど」「じゃあ、バイバ~イ」

好き勝手に喋って、一方的に沈黙してしまう。残された教祖と信者たちは、舌を突き出したままの荼枳尼天を呆然と見上げている。何が起きているのかも分からずに。

──あの時の自分のように。

「雛倉!?」

ぐにゃり、視界が歪む。よろめいた雛倉を、戸神が咄嗟とっさに支えた。

「と、とにかく、立花さんに連絡を──」
 

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雛倉の半生は偽りだった。

誘拐したか、買ったか。いずれにせよ、不法に彼女を手に入れた者たちを、家族だと思い込まされていた。彼らは幼い雛倉を外界から隔絶した場所に監禁し、“お前は地上最後の王国の王女にして、炎の魔術師だ”と吹き込み続けた。ご丁寧にも、監禁場所の一角に、火炎の噴出機構を備えた“魔法陣”まで用意して。

全ては、彼女の十四歳の誕生日、こう告げて反応を楽しむために。

ドッキリ大成功!!!

『あれは夢です、夢に決まっています』

用済みになって捨てられた雛倉は、廃人のように呟き続けていたという。

「これは夢だ、夢に決まっておる」

──そう、きっと、モニターに映し出されている、尋問室の教祖そっくりに。

サイトに帰還した雛倉は、無表情にその様子を見つめている。隣の戸神の気遣わしげな視線には、あえて気付かない振りをして。

「──了解、ご苦労様」

作戦指揮官の立花たちばな──雛倉の指導教官でもある──は、警官に偽装中のエージェントとの通信を終えて、戸神と雛倉に向き直った。

「結論から言えば、異常存在は発見されなかったわ。ただ、あなたたちの報告にあった、荼枳尼天の像──まだ調査中だけど、スピーカーやカメラらしきものが仕込まれていたそうよ」

そう、教祖はあの像を通して、荼枳尼天のお告げをたまわっているつもりだったのだ。おそらくは何年間も。雛倉を生贄にしようとしたのも、“お告げ”の指示だったらしい。しかも──。

「お告げと信じて、心臓を捧げ続けたのに──それでは、我は何のために──」

これが初めてではなかったらしい。そう、声は言っていた。「確実に死刑」と。教祖が絶叫して暴れ始め、尋問官の雨霧あめぎりが鎮静剤を投与している。地獄が実在するなら、こんな感じかもしれない。

「彼らは騙されていたんですね──その、何者かに」

言い難そうな戸神に間髪入れず、雛倉は続けた。

「はっきり仰って下さい。私を騙していた連中に、でしょう」

「ま、まだそうと決まった訳じゃ」

「確かに、手口は似ているわね」

さすがに立花は指導教官、教え子がはぐらかしを好まないことは理解わかっている──戸神とて、彼女と組んでそれなりに経つはずだが。

「個人を騙すのに飽きて、今度は団体を丸ごと騙し始めたのかしら。全く、救い難い連中ね」

「映像の送信先は?」

「解析班が頑張っているけど、突き止めるのは難しいかもしれないわね。奴らも用心しているでしょうし」

師と相棒を余所よそに、雛倉は無言でどす黒いものをたぎらせている。ドッキリ大成功──いやあ、面白かったよ──その顔が見たかったんだ──げらげらげら──。

雛倉の家族──否、飼い主たちは財団に確保され、相応の罰を受けた。しかし、彼らの尋問記録によれば、他にも仲間がいるらしい。その遊びに付き合わされている犠牲者たちも。全てを自分の手で終わらせるために、彼女は財団エージェントになったのだ。青春の全てを、鍛錬に捧げて。

その努力が、一部とは言え報われたのに──雛倉は喜べなかった。

「そ、それでも十分収穫ですよ。まあ、全くの偶然なのは、エージェントとしては複雑ですが──」

「偶然ですって?」

がん、自分の拳が机をへこませた音だと、雛倉は後から気付いた。

「こんな偶然ある訳ない! 奴らは、私が来ることを分かっていたんだわ。きっと今頃、笑い転げてる!」

トラウマをほじくり返されて、子供のように泣きじゃくっていると、勝手に想像して──実際の雛倉は、あの日以来、一度も泣いたことがないと言うのに。

「お、落ち着けよ。そんなこと、予想できる訳ないじゃないか」

「できますよ。財団に内通者が居れば」

(いけない、これ以上は)

理性の一端がとがめている。しかし、口は止まってくれない。激情が出口を求めて溢れ出す。

「そう言えば、教団を見つけたのは先輩でしたよね」

戸神が弾かれたように、雛倉から離れる。猟師を睨み付ける狼のような目付きで。彼がこんな顔をできることを、雛倉は初めて知った。

「僕を疑っているのか?」

呼吸するように嘘を吐き、家族もあざむかねばならないエージェントだからこそ、同僚への信頼は全ての前提だ。その否定は「お前はスパイ、証拠はこれから集める」という宣告に等しい。

「僕はずっと、君をパートナーとして信頼してきたつもりだぞ。なのに、僕は君から、その程度の信頼しか得られなかったのか?」

「二人共、やめなさい」

立花が割って入る。そうしてくれなかったら、どうなっていたのだろう。

「今日はもう休みなさい、いいわね?」

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サイトの多目的ホールで、雛倉は先輩エージェントたちに囲まれていた。

『人類は恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りしてはならない──』

壇上では、立花が財団の標語を読み上げている。この光景、どこかで見たような──ああ、そうか。

(エージェントの叙任式──私の)

先輩エージェントたちのように、世界や人類のためになる訳ではないとは言え、やはり誇らしさは込み上げる。少なくとも、自分はもう、守られるばかりの子供ではないのだ。

『──確保、収容、保護。財団諜報局日本支局は登録名、雛倉 結愛を本日付でフィールドエージェントに任命する』

先輩エージェントたちが拍手を響かせる。彼女の目的を知りながら、それでも歓迎してくれている。

『おめでとう、結愛ちゃん。今日から同僚ね』

立花が差し出した真新しい職員証を、雛倉はうやうやしく受け取ろうと──。

──ひょいと引っ込められた。

(え)

『ドッキリ大成功!!!』

立花がびろーんと舌を突き出した。一目でゴム製と分かる、雑な造形の。

げらげらげら、会場が爆笑に包まれる。先輩エージェントたちが、自分を指さしながら笑い転げている。その中には、ああ、あの時は居なかったはずの、戸神の姿も──。

『いやあ、面白かったよ』『その顔が見たかったんだ』『お前みたいな小娘が、エージェントになれる訳ないだろぉ?』『騙されてやんの、バ~カ、バ~カ!』『お前の人生は未来永劫、俺たちの玩具なんだよおおおおおお』

(い──)
 

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「いやあああ!」

ベッドから飛び起き、叙任式の会場から逃げ出す。それとも、十四歳の誕生日パーティーから? いや──。

(馬鹿、落ち着きなさい)

洗面所の鏡に向き合い、ようやくここがサイトの仮眠室であることを思い出す。顔を洗い、落ち着きは取り戻したが、今度は自己嫌悪が沸き上がってくる。古傷からじくじくと流れ出すうみのように。

『そう言えば、教団を見つけたのは先輩でしたよね』

(どうして、信じてあげられなかったんだろう──財団はともかく、先輩たちだけでも)

決まっている。信じて、再び裏切られるのが怖かったからだ。そんなことは有り得ないと、分かっていても。

──自分は何も変われていない。財団エージェントという肩書きで刺々しく武装しても、鎧の中身の時間は止まったままだ。十四歳の誕生日から。

呼び鈴が鳴った。時計を見ると、朝にはまだ遠い時刻だった。こんな時間に誰が? ドア前のモニターを見ると、強張った表情の戸神が睨んでいた。

「先輩?」

「こんな時間にすまない、ちょっと話がある」

即座にドアを開けると、少し意外そうな顔をされた。もっと警戒されると思っていたのだろう。

「コーヒーでも淹れますか?」

「要らない、すぐ終わる」

(話って何だろう)

もう、お前とは組めないと言われるのだろうか。言われても仕方ない。自分は戸神を信じてやれなかったのだから。永遠のような一瞬のような静寂を挟み──。

「ボイスレコーダーは持ってるか」

戸神は予想外のことを訊いてきた。

「え? ありますけど」

「これから僕が言うことを録音してくれ」

「──どういうことですか」

「早くしろ!」

珍しくぴしりとした戸神の口調に、雛倉は慌ててライター型ボイスレコーダーの録音ボタンを押す。戸神は深呼吸してから、淡々と語り始めた。

「僕は財団を恨んでいる」

思いもかけない告白。禁断の魔道書だの魔法陣に封じられた悪魔だのに出くわすと、子供のようにはしゃぐ戸神。本物を間近で見られるなんて、エージェントの特典だと笑っていた戸神が──財団を恨む?

戸神は淡々と語り続ける。幼い頃、両親を亡くし、祖父に育てられたこと。祖父は文化人類学の研究者であり、特に西洋魔術では世界的な権威だったこと。いつしか自分も、同じ道を志すようになっていたこと。勉学に励み、大学を首席で卒業するまでになり──ついに、財団が彼を迎えに来た。

「そして、僕は知った。魔術が実在することを──」

そこで初めて、戸神の声が震えた。

「──財団に騙されていたことを」

十年以上も、“正常性“という名の偽書を読まされ、虚構を学ばされていた。いや、自分はまだいい。これから学び直すこともできる。だが、祖父はどうなる? 魔術の研究に、それこそ生涯を捧げていたのに、ついに真実を知らないまま逝ってしまった。研究者に対して、これ以上残酷な仕打ちがあるだろうか。

許せなかった。正常性を守るためには、やむを得なかったのだとしても。

(先輩も同じだったの?)

ずっと、世界に騙されて、それまでの人生を否定されて──どくん、どくん、雛倉は何故か、鼓動の高まりを感じた。

「だから、僕はO5を目指すことにした。どんな手を使ってでも。そして、財団が秘匿ひとくする、全ての魔術の奥義を知り尽くす。それが、僕の財団への復讐だ」

語り終えた戸神が、疲れたように肩を落とす。初めてだったのだろう、誰かに話したのは。何のために──まだ悟れない程、雛倉は鈍くない。

「──以上。どうしても僕のことが信じられないなら、それを監査部にでも渡せばいい」

少年のように澄んだ瞳で、真っ直ぐに雛倉を見つめ──ぼっと顔を赤らめる。急に恥ずかしくなったらしい。くるりと背を向け、「じゃあ、お休み」と出ていこうとする。

「待って、先輩」

戸神は振り返らない。だが、足は止まった。止めておきながら、雛倉は言い淀んで、それでも問い掛けた。

「どうして、そこまでして、私と──私なんかと?」

どんな手を使ってでも、O5になると言ったではないか。それなのに、こんな禍根を残していいのか。雛倉に背中を向けたまま、戸神は答えた。

「──パートナーの信頼も得られないで、O5になんかなれる訳ないじゃないか」

戸神が出て行った後、雛倉はそっとボイスレコーダーを再生してみた。

『僕は財団を恨んでる』

控えめに彼の声で語るボイスレコーダーは、微かな熱を帯びている。

どくん、どくん、鼓動はまだ鎮まらない。
 

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ベッドに戻った雛倉は、再び夢を見た。

蓮の花が咲き乱れる池の畔で、戸神と向き合っている。二人共、インドの神々のような薄絹の衣装を纏い、黄金の装身具を身に付けている。

戸神は雛倉に様々な品を贈ろうとする。真珠を連ねた髪飾り、見事な牙を生やした白象、果ては百人の奴隷付きの宮殿まで──しかし、彼女は頑なに受け取ろうとしない。

ついには、戸神は短刀を抜き放ち、自らの胸に突き立てる。そして、どくどくと脈打つ心臓を取り出し、雛倉に差し出す。彼女はようやく微笑みを返し、鮮血で濡れた戸神の心臓を受け取った。

そっと口付けると、世にも甘美な味が広がり──。
 

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翌朝。

「結愛ちゃん、ちょっといいかしら」

「あ、はい」

サイトの食堂で朝食を摂っていたら、立花に声を掛けられた。ひどく思いつめた顔で。

「これを受け取って欲しいの──」

そう言って彼女が差し出したのは、古びたノートだった。その表紙には、ビーズや色紙がべたべたと貼り付けられている。

あるページを開いてみると、黒い翼が生えた少女の絵が描かれていた。あまり上手い絵ではない。顔はそこそこ丁寧に描かれているのに、棒のような手足のせいでかえって稚拙に見えるのだ。その下には、ニョロニョロした書体でこう書かれている。

奈落の悪鬼、黒き翼の堕天使アイスヴァイン──何ですか、これ?」

「ぬあああ!」

突如、悶え苦しみ始める立花。何事かと立ち上がる雛倉を、半泣きで押し止める。

「うう、私の黒歴史ノートよぉ。これを人質に渡すから、私のことは信じてくれない?」

思わず苦笑する雛倉。エージェントという人種は、まったくもって──簡単に心臓を捧げすぎだ。

(──私なんかのために)

「お、おはよう、雛倉──ん、何を見てるんだ?」

「ぎゃー! 結愛ちゃん、しまってしまって!」

  • tale
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  • qコン22
  • scp-014-jp-j
  • scp-014-jp-ex-1
  • エージェント・戸神

◆選択Qワード

Quarrel=口論、口喧嘩

◆心配な点

1. 面白いでしょうか? 売りは冒頭のアクションシーン、雛倉さんの「信じたいのに信じられない」葛藤、戸神の「秘密を打ち明けて、無理にでも信頼させる」という曲芸話術、恋愛と捉えられなくもない雰囲気、アイスヴァイン立花さんによるオチ、といったところですかね。

2. 戸神や雛倉さんを知らない方にも、楽しんで頂けるでしょうか?

3. 説明不足な箇所がないでしょうか? なるべく文字数を抑える方針なのですが、もう少し盛るくらいなら大丈夫です。

4. ストーリー展開に無理がないでしょうか? カルト宗教団体とは言え、大の大人がこんなに簡単に騙されるかなって気もするんですよね。やられ役の鉄錆の果実教団にすることで、少しでも説得力を持たせているつもりなのですが……。あと、雛倉の「わざと捕まって尻尾を出させる」作戦もご都合主義な印象がないでしょうか?

5. テーマは伝わっているでしょうか? 往相回向、要約すれば「誰かを救うには、別人の人生が必要」という感じですかね。

他にもお気になる点がございましたら、遠慮なくご指摘下さい。可能なら、代案もご提示頂ければ助かります。

◆画像出典

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ソース: Pixabay
ライセンス: CC0
タイトル: 不明
著作権者: una0214
公開年: 2016
補足: 2019/01/09のライセンス変更前にCC0で公開されていた素材です。

ファイルページ: 梵字
ソース: Pixabay
ライセンス: CC0
タイトル: 不明
著作権者: WikimediaImages
公開年: 2015
補足: 2019/01/09のライセンス変更前にCC0で公開されていた素材です。



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