tutuji-37-6ed4

評価: 0+x
blank.png

AK 22/08/25 (Fri) 02:10:03 #4ft4femu


私は因果など信じていません。
しかし、あるVHSテープを観て考えを改めました。

もう5年くらい前になります。私は今よりも日本語がヘタで当時はきっと苦労すると思っていましたが、それでもベトナムを出て日本に働きに行きました。私は日本のVHSが好きでコレクションをしていました。そのお陰で大使館の紹介もあり、日本のテレビ局で働けました。そこで私は仲間に恵まれ、日本語に詳しくない私にもみんなは時間をかけて仕事を教えてくれました。特にディレクターは、アシスタントになった私を大事にしてくれました。

その人は私だけでなく元々沢山の人に優しい人でした。悩みを抱えている人のために相談に乗ったり、お金がない時によくご飯を奢ってくれたりしていました。だけどその人はある日、事故で死んでしまいました。あんなに優しかったディレクターがたまたま事故で死んでしまうなんて、私はやはり因果なんてないと強く思っていました。

ディレクターが死んだ時の様子を見ていた人がテレビ局に居ました。その人はディレクターとの打ち合わせをした帰りに丁度事故が起きたと言いました。少し先を歩いていたら後からなかなか追いついてこないディレクターに気づいて後ろを振り返ったら、歩道の真ん中で頭が割れて中が出ているディレクターが街灯に照らされて倒れていたそうです。警察の人はトラックのタイヤが外れて飛んで頭に当たったと言っていました。ひどい死に方だと思います。

葬式の日に私もテレビ局で一緒に働く仲間達も呼ばれていました。葬式はとても立派でおかしいところはありません。その日、無事に葬式は終わりました。葬式の後、帰る時に仲間達に呼ばれてお酒を飲みに行きました。向かう途中でディレクターの話をしましたが、仲間達は途中から同じことしか言わなくなりました。その様子はとても普通ではなくて、女性なのに普段ならしない男性の声で喋るようになった人がいました。そして、気付けばみんなが同じ声になっていて、みんなが口々に悪口を喋っていました。その様子を今でも覚えています。「あいつが悪いよ」、「身から出た錆でしょ」と。私だけは喋るところか声が出ませんでした。

お酒を飲みにお店の前まで来ると当時の先輩が「じゃあ入ろうか」と言って、その瞬間みんながいつも通りに戻りました。怖かった私はヘタな日本語でさっきまでのみんなの様子について聞きましたが、みんな何の話か全く分からない様子でした。仕方なくそのままお酒を飲み始めましたがあまり飲めずにいました。すると隣に座っていた先輩が、鞄からVHSテープと押しボタンの小道具を取り出して私に渡してきました。突然渡されたVHSテープと押しボタンについて思わず聞くと、テレビ局にディレクターが置いていたダンボールの中身だと説明してくれました。

先輩は私がVHSが好きなのを知っていました。先輩はDVDが主流になってからはVHSテープを再生する機器をプライベートで持っていません。興味があれば代わりに中身を観てほしいと先輩は言いました。そのVHSテープがどの番組の収録を収めているのか、ディレクターは最後まで教えてくれなかったと先輩は話しました。収録された番組が分かれば、一緒に入っていた押しボタンの小道具についても分かるかもしれないと言いながら、押し付けるように私にそれらを渡してきました。興味が湧いた私はテープと小道具を預かってその日の内に観てみる事にしました。

家に帰ったあとスーツを着たまま直ぐにVHSテープを機器に差し込み再生しました。映像はテープが劣化しているのか荒れていましたが、観るのにはそれほど困りませんでした。そして、再生が始まって直ぐに映し出されたのは番組のゲストが横並びで席に座っていて、VTRで流れた内容について感想を喋っている様子でした。メインMCに最も近い席に座るゲストは私と同じく黒服のスーツを着ていてサングラスを掛けていました。ふと、その服装でディレクターの葬式にも参列していた人だと気付きました。葬式が始まる前に会場で色々な人から声を掛けられていた様子を見ていて、当時日本に来て間もない私でも有名な芸能人だというのがよく分かりました。

その男が画面の中で司会者と喋っている様子を暫く眺めていると、次のコーナーが始まりました。映像だけでなく音も劣化していて正確な内容を把握できているか分かりませんが、そのコーナーでは様々な事を検証する内容でした。テープに収められている内容では、坂の高所から様々な種類のタイヤを転がして段差を使って遠くに飛ばして、その飛距離を検証していました。タイヤの中には巨大でとても重い特殊な種類も飛ばしていて、着地した後に必死で動きを止めようとする番組スタッフの大変な様子も映像にはしっかり収められていました。VTR後、番組のスタジオに映像が戻り、サングラスをした黒服のゲストがメインMCと喋っています。

しかし、突然映像は途切れて青一色の画面になりました。しばらく青い画面がただ続いていましたが、また映像が切り替わりました。すると、先程と同じ内容のVTRが流れました。スタッフが高速で迫るタイヤを必死で止めて、カメラマンとアシスタントが脇に避難する様子も流れます。ですが今度はスタジオに映像が戻ることはなく、途切れてまた青い画面に切り替わりました。

同様に私はまた映像が切り替わるのではないかと思い、画面を眺めていると予想通りに同じ内容のVTRが流れ、アシスタントが非難するタイミングで青い画面に戻りました。繰り返しその状態が続きましたが、その様子をVHSラックの不調だと思った私は、無理にVHSラックから取り出す操作をすると壊れるのではないかと考えて黙って観ていました。映像は段々と青い画面に切り替わる間隔を狭めていました。やがて、避難するカメラマンとアシスタントの様子しか繰り返さなくなった映像を観ていて私は思いました。

なんとなく、「ディレクターが映っている。このアシスタントはディレクターだ」と思いました。

映像は間違いなく荒れていて画質は悪いのにずっと同じ場面ばかりを観ていて、本当になんとなくVTRに映るこのアシスタントが若い日のディレクターだと私は思ったのです。またその時、ああそういうことかと私は思ったのです。

その瞬間、画面がスタジオに戻りました。メインMCやゲストがいない無人のスタジオがテレビ画面に映りました。一瞬、ノイズが走ると1人だけゲストが座っていました。サングラスを掛けたあの男です。彼はメインMCに話しかけていますが、彼以外はやはりスタジオにいません。その彼の声はノイズで殆ど聞こえません。私は上手く聞き取ろうとリモコンで音を上げ、画面に耳を傾けました。

「いやぁ……自業自得だよねぇ」

思わず驚いた私は画面から飛び退いて映像を観ていると、男はこちらを見ているようにカメラ目線のままボタンを連打し始めました。その様子を観て、テープと一緒に預かったボタンが映像の中で男が押している物と同じ小道具だと気付きました。すると映像の中で男は席から立ち上がると、カメラのあるこちらの方にゆっくりと歩き始めました。その間もボタンが押されて鳴る効果音は鳴り止まず、テレビから流れてきます。カメラに近づいた男は、テレビ画面全体にアップになる形で顔を近づけると、めり込むような硬い音を出しながらカメラに顔を擦り付け始めました。

恐ろしくなった私はテレビの電源を落とそうとしますが、身体が動かなくなっていました。すると男は画面を超えて顔から身体、足の先というようにこちらへ這い出てきました。出てきた男は私に向かってノイズの掛かった声で怒鳴りつづけました。ノイズで聞き取れないままの私に向かって男は床に転がった小道具の押しボタンを指差して怒鳴っていることに気付きました。その途端に男の声からノイズが無くなり、

「押せよ‼︎」

という怒号を発しました。私はそこからその日の記憶がありません。

その後、気づいたら私はソファで目覚めていました。時計を見ると朝の7時を回っていて、急いでテレビ局に仕事をしに向かいました。テープは直ぐに先輩に返して事情を説明すると、何度か心霊番組で関わりのある関係者に供養をしてもらうことになりました。

私はあのVHSテープを観た事でディレクターが生前に語っていた話を思い出しました。ディレクターは駆け出しのアシスタントだった頃、ある番組で危険な企画をする事になり、現場を見て怖くなってわざと役割を果たさなかった事があったというのを、自分でも何故か分からないけれど後悔して執着していると言って、お酒の席で話していました。それは、後悔しない仕事をしろという教訓として語ってくれていた話でした。

VTR観ている最中にその話を思い出した途端、私の中で点と点が繋がったような気がして、ディレクターの死に方を思い出しました。だからとはいえ、そんな事でディレクターが死んだとは考えたくないと私は思います。でも、因果というのはあるのかもしれないと思うようになりました。

それに、何かの拍子で後から聞いた話で実はあのVHSテープに収められた番組のコーナーで、タイヤの飛距離を検証してもらう変わった企画のハガキを出した視聴者は、私にVHSテープを渡した先輩でした。当時の番組放送時点ではまだ学生で、番組の視聴者だった時に出したものだと聞きました。

ERROR

The tutuji's portal does not exist.


エラー: tutujiのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:2206092 ( 02 Nov 2019 13:23 )
layoutsupporter.png
特に明記しない限り、このページのコンテンツは次のライセンスの下にあります: Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License