夢見の理想郷を求めて

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"夢見"が主張するSCP-2606-JPの描写例。部分的に著名な版画家のデザインとの類似点も見出せる。

アイテム番号: SCP-2606-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 現時点において、SCP-2606-JPの完全な収容手法は確立されていません。そのため、財団による主要な収容活動は、新たに発生したSCP-2606-JP現象及びその経験者の発見と、以降の隠蔽・抑制工作のみに注力されます。

現象経験者の発見を目的に、専用Webクローラーは世界各国の医療機関の小児受診者情報を検索し、テンプレートと一致する症例報告の発生を監視します。新たに発見された経験者は最寄りの財団施設へと移送され、各種検査と聴取の後で記憶処理が施されます。

SCP-2606-JPと関連する可能性がある創作・探索・コミュニティ活動等は、発見され次第に財団監視下へと置かれなければなりません。最終的にそれらの大半は、事前に活動が抑制・無力化されるか、あるいは研究班の情報収集活動の一環に利用されます。

説明: SCP-2606-JPは、世界人口の推定0.0006%が10代の際に経験する異常な夢見現象です。この現象に関して、比較的裕福な家庭環境で育った人物であるか、もしくは周囲から芸術等の才能に秀でていると評される人物が経験対象になりやすいという傾向性が確認されている一方、その正確な要因と因果関係については未解明の状態です。

この夢の内容は共通して、経験者が"理想郷/夢の国"(Utopia/Dreamland)と漠然的に表現する環境描写と視覚情報の目撃から始まります。多くの場合、経験者は"理想郷"に対する未知の興奮や感嘆等の激しい感情の発露を覚えるか、あるいは神秘的・超越的等と称される新奇性のインスピレーション獲得を確信します。

そして覚醒後、経験者の一部は自身が目撃した"理想郷"の描写や獲得した閃きに強く感化・啓発されることで、以降の人生感・将来設計・活動指針へと大きな影響を受けることになります。このような影響を受けた経験者は、ある不明な時点から自らを"夢見"(Dreamer)と称するようになり、将来的に以下の3タイプに分類される活動に従事するようになります。

タイプα("伝達者"): この夢見は、自身が夢で目撃・体感した理想郷の素晴らしさを伝えることを目的と定め、夢での経験や理想郷のあらゆる情報を他者へと積極的に伝達する活動に従事します。しかしながら、それら情報の伝達による第三者への精神的影響の存在は完全に否定されています。結果的に、これら活動は後述するカルト・コミュニティ結成を誘引する切っ掛けとなります。

タイプβ("探索者"): この夢見は、自身の夢での理想郷の目撃と生活をある種の天啓と捉え、それが実在するものと信じて探索する活動に従事します。多くの場合、一般大衆から未開・禁足地と見なされている地域が探索対象となります。一方で、極稀に理想郷が異次元や余剰空間に位置するという考えに至り、儀式的ポータル作成を試みる例もあります。

タイプγ("創作者"): この夢見は、自身が理想郷の各構成要素から獲得した新奇性の閃きや感覚を基に、それに由来した作品群(文章、絵画、造形物、音楽等の多様なアート)を創作する活動に従事します。これら創作物には、デザインへと無意識的に混入された幾つかの共通した夢診断的シンボルが見受けられる他、一般大衆へと公開されることは非常に稀です。

これら夢見の大半は共通して、自身の夢での経験や登場した各構造体を、高次世界からの天啓や未知なる知識を付与する夢診断的象徴だと解釈します。そして時間経過に伴い、各自は他の夢見との接触・交流・情報交換を望むようになり、結果として多くがカルト・コミュニティを結成・加盟するに至ります。それらコミュニティは基本的に秘密主義的性質を持ち、その存在や活動内容が外部へと露見することはほとんどありません。

また、現在までに確認されているコミュニティ群の主要な活動目的は、以下の通りです。多くの場合、それらを複合的に組み合わされた内容が、コミュニティ内における活動目的として掲げられることになります。

  • 自分たちが理想郷の住人となるべく、世界中を探索して理想郷を発見する。
  • 理想郷を高次の世界と捉え、そこへと至るための儀式的・魔術的な手段を模索する。
  • 理想郷より獲得したインスピレーションに由来した芸術品の創造と、それらの品評会を開催する。

なお、記憶処理や時間経過を含む単純な忘却によって、上記のような夢見の活動性や理想郷に対する感情は容易に失われます。また、一度でもSCP-2606-JP現象を経験している場合、その人物が同現象を新たに経験することはありません。

発見経緯: SCP-2606-JPの存在と発生状況は、18██年に導入された異常徴候認識機構の使用を通して、世界各国で特定年代の児童のみが経験する極めて類似した夢の報告と、それら児童の一部に将来的な異常コミュニティ構成員としての活動記録が確認されたことで初めて財団に注目されました。

中でも、18██年のフランスで誕生した"夢想郷へ至る鍵団"(The Hermetic Order of the Key to Dreamland)を自称する夢見の超常コミュニティによって引き起こされた儀式的事案では、その調査に際してSCP-2606-JP及び夢見に関する重要な知見を財団が獲得する切っ掛けとなりました。各詳細については、下記付録項目群を参照ください。

付録1: 新聞広告欄の掲載文(タイプα活動事例)

以下の文書は、18██年にフランスの日刊誌"ル・フィガロ"の広告欄に掲載された内容からの転写です。当初、この文書は"流行りの奇抜な広告"の1つであると考えられていました。しかし、後に複数人による類似内容の文書掲載が続いたことで、最終的に財団の注意を引くこととなりました。

夢見の理想郷を求めて

これはワタシがまだ小さかった頃に経験した夢のお話。ワタシは自らの夢にて、輝ける理想郷の現身を目撃しました。それは幼いながらも現実で見て来た如何なる場所、空間、世界とも一致せず、それらを構成する描写や内包する概念は、より秀でたものでした。

大いなる感情の昂りと、未知なる閃きを覚えたワタシでしたが、気が付けば朝。その夢はどこかへと消え失せてしまっていました。しかしながら、未だに理想郷で覚えた熱は醒めることなく、ワタシはあたかも魘されるようにして激情のまま突き動かされるのです。

さてさて、この話に興味を示された紳士淑女方。もしくは既に理想郷を知るお坊ちゃんお嬢ちゃん方。ワタシは有意義な情報交換のため、偉大なる同胞を募集しております。どうぞ、ソコへと至るための智慧とご機会がありましたら、ワタシの集会所へとお出でくださいませ。

後発的な調査の結果、担当エージェントは"集会所"と未完成のコミュニティを発見しました。この際に財団が獲得した新たな知見は、以降の調査にて、秘密結社として形成されていた幾つかの大規模コミュニティの発見に大きく貢献しました。

付録2: 失敗した儀式に関する聴取(タイプβ活動事例)

上記の通り、18██年のフランスにて"夢想郷へ至る鍵団"による儀式的行為が実施されました。この儀式は、タイプβであった集団幹部のルイス・コンスタンティンを含む構成員12名によって"高次空間に位置する理想郷の探索・情報収集"を目的に行われた実験的な試みでした。しかしながら、その試みは結果として構成員8名の死亡と、残る4名への重篤な後遺症を引き起こしました。

対象者: ルイス・コンスタンティン

担当者: エージェント・███████

付記: 以下は、儀式時に負った怪我の治療中であった対象者と、同氏の邸宅で行われた会話記録からの抜粋です。なお、担当者は同氏の探索活動の後援者という形で接触を図っていた点に留意ください。


<記録開始>

担当者: どうも、コンスタンティンさん。お加減はいかがですか。

対象者: ムッシュ、よく来てくれた。我が神と、そして貴方と、貴方を送ってくれた方々に感謝を。

担当者: お礼には及びません、コンスタンティンさん。今回の資金援助の件も、貴方のこれまでの功績と実績に、上の者たちが強い興味と関心を、何よりも大きな期待を抱いただけのことです。

対象者: ありがとう。どうか私にできることであれば、何でも言ってくれ。

担当者: では早速ですが、貴方方結社の最近での活動内容について報告をお願いしたい。特に、貴方が大怪我を負った、件の儀式失敗について。私自身は、この投資が無駄になるような事態は起こらないはずだと信じていますが、上で取り仕切る者の中には、慎重が過ぎることを尊ぶ者も少なからずいますので。

対象者: ああ、構わないとも。では、何から話そう。

担当者: 既に研究資料はいただいていますが、儀式の目的について改めてお聞きしても?

対象者: まず、現在までに多くの同胞たちが理想郷を求め、数多の禁足地の探索を行ってきたことは貴方方も知るところだろう。だが、近年になって我々結社はある可能性に至った。"我らが求める理想郷とは高次の世界に位置する空間であり、我ら夢見はその片鱗を、己が眠りに際して抜け出した魂を通じて認識したのだ"と。

担当者: ええ、実に興味深い話です。続けて。

対象者: その可能性の上で行ったのが、魂を肉体から高次へと引き上げる星幽体投射儀式だった。この儀式では、理想郷より奇想を授かった同胞らが制作したオブジェクトを用いる。そこに刻まれたシンボルは、理想郷と現実の我々を繋ぐ残されたパスとなり、それを通じて我々の魂は再び、かつて訪れた理想郷の元へと到達するのだ。

担当者: しかし、儀式は失敗に終わった。では、一体何が起きたのです?

対象者: おそらくは、我々は出る場所を間違えた。そして、それが異界の怪物を喚起する結果になった。

担当者: ふむ、怪物とは?

対象者: アレは、巨大な鳥のようだった。象ほどの大きさで、捻じ曲がった身体を覆う羽毛は乳白色に濁り常に淡く煌めいている。更には刃物を防ぐほどに固く、抜け落ちた羽根は魚の鱗のようで。その甲高い金切り声は、聞く者の心を焦燥感で満たした。そのような怪物が何匹も、空間へと湧いて現れたのだ。

担当者: 奇妙ですね。後から現場に訪れた同胞方は、怪物の痕跡を何も発見できなかったと聞きました。残されていたのは、壁や床に刻まれた数多の傷跡、砕かれた幾つかのドリームキャッチャーと彫像、それと何人かの死体と重傷者だけだったと。

対象者: 話はまだ終わりではない。抗戦する最中、"アレらは眠れる同胞の夢を介して、我々の現実へと喚起されている"という天啓が私の頭をよぎった。だから私は、あちらとこちらを繋ぐパスを絶つため、眠れる同胞を手に掛けた。そして目論見は当たり、怪物はその全てが元の次元へと消え去ったのだ。殺した1匹の死骸も含めて、我々生き残りが受けた手傷以外の、あらゆる痕跡を残さずに。

担当者: なるほど、事のあらましは概ね理解しました。助かりました、コンスタンティンさん。話を聞いた限り、資金援助に関しては何も問題ないと、私の口からも断言できるでしょう。

対象者: ああ、そう言ってもらえると助かる。

担当者: ところで確認ですが。貴方はまた、儀式を行われるのですね? 既に両の足を失ったというのに。

対象者: 無論だとも。理想郷へと至るためであれば、何度でも、どのような犠牲をも支払おう。

[以下、重要度の低い内容のため省略]

<記録終了>

上記聴取から3日後、ルイス・コンスタンティンを含む4名の生存者は、各自の睡眠中に未解明の睡眠麻痺症状に見舞われ、最終的に死亡が確認されました。当初、財団はSCP-2606-JP及び理想郷と称される空間の更なる情報収集を目的に、"夢想郷へ至る鍵団"を秘密裏に財団の監視・制御下に置いた上で、その探索活動を継続させるという計画案も提唱されました。しかし、組織内の重要接触者の死亡を受け、上記計画は暫時的に凍結されました。

付録3: 回収されたアート作品目録(タイプγ活動事例)

以下は、複数の夢見コミュニティへの襲撃時に発見・回収されたアート作品目録の中でも、注目すべき創作物の抜粋です。なお、一部創作物が有する異常性に関しては、その製法を完全に模倣した場合でも各現象の再現には成功していませんでした。

回収品: 無題の形而上絵画

回収日: 19██年██月██日

回収場所: イタリア ラツィオ州 ローマ市内

概要: 絵画上には、作者である夢見が目撃したと思わしき、理想郷の光景が描かれている。家屋らしき構造物は全体が乳白色で塗られており、それら角度や構図には一貫性が見受けられない。しかし、この歪みが実際に目撃された光景であったのか、もしくは形而上派の特徴に由来するものなのかは識別できない。また、電気機器や動物類、植物等は描画されていないが、特徴的な影の描写が人型の何者かの存在を示唆している。

現状: サイト-████にて保管中。

回収品: "理想郷を夢見て"と題された自費出版書籍

回収日: 20██年██月██日

回収場所: 日本 神奈川県 川崎市内

概要: 内容を確認する限り、"主人公が夢に見た理想郷を探し求めて旅をする"という内容の冒険小説であると分かる。終盤、主人公は冒険先で重傷を負って死の淵に立つが、迷うことなく探し求めた情熱と純粋な魂が神に認められたことで、晴れて理想郷の住人として迎え入れられる、という展開で物語は完結する。購入者3名は読後に希死念慮の想起を経験したが、これがこの書籍の性質によるものであったのかは証明されていない。

現状: 作成された50冊の内、46冊が回収済み。サイト-████にて保管中。

回収品: 複数のドリームキャッチャー群

回収日: [複数の時代・場所に跨って発見されているため割愛]

回収場所: [複数の時代・場所に跨って発見されているため割愛]

概要: 使用素材に特筆すべき点はないが、デザインに共通的な夢診断的シンボルが必ず含まれている。また、その近隣で睡眠を行った人物は、一定確率で"不明な金切り声"や"激しく羽ばたく音"を夢の中で経験する。その一方、夢見の場合は"新たな叡智や閃きの象徴を夢に見た"等と全く異なった内容になることが判明している。これら夢を経験する確率は、周囲に存在するドリームキャッチャーの総数に比例して上昇する。その性質のため、一部の夢見からは理想郷を象徴するオブジェクトとして愛用されている。

現状: 研究に必要な数のみをサイト-████にて管理中。それ以外は廃棄対応済み。

回収品: 未知の二足歩行生物を象った彫像

回収日: 18██年██月██日

回収場所: アメリカ合衆国 メリーランド州 ████████

概要: そのモチーフは大型類人猿に近い身体構造を持つ未知の二足歩行生物であり、全長は約1.1m、材質は大理石であると判明している。元は碑文が刻まれた台座や用途不明な接合部があったとされるが、回収時点では紛失していた。また併せて回収された記録によると、権威主義者の夢見からは"支配"のシンボルとして扱われていた模様。しかし、歴代の所有者は眠る度に生じる、軽度の睡眠麻痺症状と不明な強迫観念に由来する悪夢に悩まされていたとされている。なお、回収後の調査で、上記異常性の存在は確認できなかった。

現状: 経年劣化により破損。残骸をサイト-████にて保管中。


付録4: 夢見コミュニティ集落跡の発見

20██年、財団はアメリカ合衆国マサチューセッツ州█████にて、当時未発見であった大規模な夢見コミュニティ"担い手たち"(Bearers)の集落跡を発見しました。しかしながら、財団による介入時点で集落は崩壊から██年以上経過しており、区域内ではコミュニティ構成員たちの白骨化遺体と、何らかの激しい抗争の発生を示唆する痕跡が多数発見されました。

その中でも特筆すべき発見として、遺体の大多数が寝具の上に横たわった状態で発見された点、集落内の全てのドリームキャッチャーが明らかに人為的に破壊されていた点、コミュニティと抗戦を行ったと思わしき勢力の痕跡が一切発見できなかった点等が挙げられますが、いずれも集落の崩壊との因果関係については調査中です。

回収された日誌や帳簿等の資料からは、コミュニティは19██年に成立し、老若男女を含む約500名程度の人員から成っていた事実が判明しました。それに加え、集落内に存在していた特徴的に歪められた建造物や装飾品等のオブジェ群は、いずれも構成員たちの手で建造・生産されたものであったこと、そして、それらには意図的に儀式的要素・性質が含有されていたことも確認されました。このような集落規模や活動性にもかかわらず、20██年まで財団や一般大衆に露見することがなかった要因については、上記儀式的性質の影響とする仮説が提唱されていますが、現時点において確証は得られていません。

また、"担い手たち"の中心人物であったオーディー・マーヴェンが記した自伝1内からは、集落の成り立ちから崩壊までの経緯について触れられた、注目すべき複数の記述が発見されました。自伝によると、当該集落は"現実に体現された理想郷"であると称されており、コミュニティ構成員たちはSCP-2606-JPを"選ばれし者の安息地となる、理想郷を創造するための天啓を与える奇跡"と解釈していたという事実が見出されました。より詳細な内容については、以下の抜粋文書を参照ください。

19██年06月12日

この地へと移住し、長き辛苦の中で気が付けば数年の月日が経過した。だが今宵、ついに我々は理想郷を体現するに至ることだろう。あの日の夢で見た威光に満ちた現身に、我々の多くは理想郷が実在し、大いなる試練を乗り越えた結果として至る場所なのだと信じて疑わなかった。だが、それは授かった啓示の間違った解釈の一例に他ならない。

再びあの日の夢を見ることは叶わないが、吊るされたシンボルたちは、未だにあの御声と閃きを受信し続けている。偉大なる天上は、我々に対して、この地上にて体現されるべき理想郷の像を御示しになられた。我々が成した地上の楽園に至る夢見だけが、過酷なる終末の日を生き延びるのだ。

19██年06月16日

嫌な夢を見た。夢の中、身体は麻痺したように動かず、気が付けば私は一枚の面に展開されている。そんな私の内側へと何者かが触れるの感じた直後、静かに声が響く。ただ"明け渡せ"と。視線を向ければ、その影はヒトのものではない。我々と同じ二足歩行だが、その外観は背の高い歪んだ猿、それは名状し難き幻獣であった。

驚くことに、この奇妙な悪夢を経験していたのは私だけではなかったようで、夢見たちの間で騒ぎが生じていた。皆は口々に、悪しき不信者もしくは邪悪なる化身が、我々が成した理想郷を奪い取ろうとしているのではないか、と噂している。

あるいは、これも試練なのだろうか。真なる理想郷を体現するため、我々の信仰心により悪魔を払い除けろと仰るつもりか。しかし、どちらにせよ我々の見解は一致している。我々は、我々の成した理想郷を守護する。そのためにも、皆には戦いに備えるよう指示を出しておかねばなるまい。

19██年06月23日

我々は真夜中に突然の襲撃を受けた。敵は悪魔の眷属であった。歪み白濁する怪鳥を思わせる眷属の群れは、驚くべきことに司祭長の部屋より解き放たれたのだ。目撃した彼の妻によると、眷属どもは眠れる彼の枕元に"いつの間にか"立っていたとのことだった。嗚呼、それを聞いて即座に理解した。あれら眷属は、彼の眠りの底より飛来したに違いない。

何匹殺せども湧き続ける群れに、何人もが犠牲になった(その正確な数は、騒動が終わってから知ることとなるだろう。それまでは同じ墓穴へと投げ込まざるを得なかったことを許してくれと祈る)。だが、日が昇るとともに、まるで何事もなかったかのような静けさがやって来た。眷属どもは一斉に消え去ったのだ。

しかし、これは我々の信仰心の勝利というわけではない。ただ、司祭長が目を覚ましただけのことだ。そして悲劇的なことに、目を覚ました彼は直後にその頭蓋を啄まれた。

19██年06月27日

眠れぬ日々が続く。これも、我々の眠りが悪魔の眷属を喚起するためだ。しかし、覚醒の中に在りながらも意識の白濁を覚え、幻聴を耳にする。"明け渡せ"。不愉快な、略奪者の声だった。夢を介してもいないのに、どうやって我々に声を受信させているというのだ。

奴らは、本当は何者なのか? ただ単に、我々の信仰心が試されているだけなのか? 嗚呼、酷く恐ろしい考えが脳裏に浮かぶ。まさか、我々は騙されていたのではあるまいか? では、我々がかつて目にした像とは、奴らが描いた、下らない完成予想図だったとでも言うのか。

全てが嘘だったとしたら。もしも本当に、我々は自らのための理想郷ではなく、あの猿どものための理想郷を造らされていたのだとしたら。考えただけで吐き気がする。奴らは、我々の成果物を略奪し、低次の基地局とでもするつもりか。嗚呼、意識が希薄な今では、何も分からない。

19██年06月28日

もはや眠りを遠ざけ続けることは不可能だった。猿どもの眷属が今夜にもやって来るだろう。しかし、我々はこの理想郷を決して立ち退かない。偽りに気付いたにもかかわらずそう思えるのは、精神を拘束し続ける何かの呪縛のせいか、単にこれまでの人生で費やした時と労力が惜しいからか。

どちらでもいいことだ。我々こそが、真に理想郷の住人となる。理想郷を手にするのは、設計図を描いただけの奴らの方ではない。そのためにも、手を考えなければ。

19██年06月29日

我々は勝利した。眷属どもと、それを差し向けた猿どもは、我々が天上より御声を授かる儀式具と思い込んでいたシンボルを利用していたのだ。それらを踏み砕き、我々は勝利に酔い痴れる。これで、理想郷は真に我々のものとなった。さあ、次は同胞たちに、偽られた理想郷の真実を知らしめねば。奴らが夢枕で囁いた嘘言を暴露し、我々の真なる理想郷へと彼/彼女らを招き入れよう。

だがその前に、我々は休息に就く必要がある。ようやく、何事もない静穏な夢の世界に戻ることができるのだから。嗚呼、酷く眠い。今は眠ろう、目が覚めるまで。




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