SCP-3000-JP - 特異点の夢魔

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警告: 現在、メタモルポセス機構に異常な揺らぎが生じています。


アイテム番号: SCP-3000-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: 現行人類の潜在意識下におけるSCP-3000-JPの出現防止及び活動抑制を目的に、超常市場を含む文書・画像・映像・広告・マスメディア・言語・音楽等のあらゆる公的概念を活用する形で、全人類に対してミーム隠蔽エージェントを秘密裏かつ恒久的に拡散・配布し続けます。

SCP-3000-JPとの接触・干渉が疑われる個人もしくは集団は、関連する周辺人物を含め全てがリスト化されており、それらに対しては各監視地点からの定例的な潜在意識下スキャニングが実施されます。この精査結果にSCP-3000-JP活動の兆候を示唆する痕跡が確認された場合、拡散防止プロトコルに従って当該個人もしくは集団に対する白紙化処置が実行されます。

人類の半数以上の潜在意識下にて明瞭な変容現象が観測され、非常事態宣言が発令された場合、もしくはO5評議会メンバー過半数より実行指令が可決された場合に限り、プロトコル・ソムニフェルムが適用されます。その後、プロトコルの適用に際して昏睡状態へと陥ったあらゆる人員は、喪失したものとして処理されなければなりません。

説明: SCP-3000-JPは並行宇宙に起源を有する敵性的な形而上存在群であり、現行人類に対して"睡眠時に夢を見る能力を付与する"等に代表される、恒久的かつ不可逆的な潜在意識下の変容現象を誘引します。他の並行宇宙に対しては、ヒト個人の潜在意識下を介する形で出現していることが確認されており、我々の基底宇宙における完全な出現及び定着が看過された場合、全人類の潜在意識下に対して、以下のような影響を段階的に生じさせる可能性があります。

第1段階:
人類は睡眠中において、自らの潜在意識下を視覚的に(大半は曖昧ながらも)認識することが可能となります。この現象は伝承や神話上において、しばしば"夢を見る"等と表現・呼称されます。また、一部個人は自らのアイデンティティの投射体を潜在意識下に投影する能力を獲得し、夢中のイベントに干渉可能となります。この夢見の状態は別途"明晰夢"とも分類・呼称されており、SCP-3000-JPはこの現象を意図的に誘発する技術を保有する他、夢見る個人に対して販売・頒布を行います。

第2段階:
各個人の潜在意識下において、無意識的存在群の出現・活性化が観察されるようになります。これらは個人のアイデンティティやエピソード記憶等に基づく外観や挙動を示すとされており、その大半が現実同様の生物学的振る舞いを模倣します。多くの場合、これら存在は夢見る個人から"夢の中の登場人物"として認識されます。また一部では、人類に対して敵性的な形而上アノマリーの出現も確認されるようになり、個人の精神状態や現実活動へと影響を及ぼす事例も発生し始めます。

第3段階:
この時点における少数個人の投射体は、(大半の場合はSCP-3000-JPの技術提供に由来して)第三者の潜在意識下へと渡航する能力を獲得します。これを契機として、人類の潜在意識間は多くが接続可能な状態に置換され、現実のインターネットを模倣したようなネットワーク構造が確立され始めます。

第4段階:
"明晰夢"能力を獲得する個人数が飛躍的に増加し、潜在意識間のネットワークを介して集結した、同じ目的意識を有する集団/組織群が確立されるまでに至ります。多くの夢見る個人は、睡眠中の集団活動に対して好意的かつ精力的に参加することを優先するようになり、結果として一部が現実活動の破綻を迎えます。この社会問題の背景に関しては、明らかにSCP-3000-JPによる作為的な関与が疑われます。

第5段階:
ごく稀に、全人類が"明晰夢"能力を獲得するまでに至ることがあります。この時点において、SCP-3000-JPの存在及びその技術は一般観衆に周知されており、部分的なヴェール崩壊が確認できます。加えて、大半の場合でSCP-3000-JPは世界的な大企業として認知されており、販売・展開される星幽投射装置技術が民間へと広く流通した結果、人類の精神活動に多大な影響を及ぼしただけでなく、状況によって各国政府ひいては人類全体に対する強固な支配影響力を獲得します。

第6段階:
極端な事例として、SCP-3000-JPが制御する現実側メインフレームで発生した電源障害により、世界人口の過半数の死亡と、世界各地の政府不安定化が引き起こされる可能性もあります。この影響は、最終的にIK-クラス世界文明崩壊シナリオにより、当該の並行宇宙の確実な滅亡を招きます。現在、この段階まで至った観測事例は1つのみです。

なお上述の知見は、複数の並行宇宙に位置する形而上空間群に対して行われた、継続走査の結果として得られたものである点に留意ください。いずれの場合でも、SCP-3000-JPの出現・定着を看過した全ての並行宇宙では、規模や進行段階が異なるものの、人類の潜在意識下に対する異常な変容現象、及び技術的特異点/夢界学の確立等の発生が観測されています。

また、第3段階まで影響が進行した並行宇宙では、"明晰夢"中における投射体の潜在意識間渡航能力を行使しての"財団職員の潜在意識下への侵入"が問題視されており、財団によるヴェール維持、そして収容活動を行う上での大きな解決課題となっています。一方で良性の影響として、SCP-3000-JPが財団内の夢界学技術の飛躍的進歩に寄与した事例も観測されています。しかしながら、同時に潜在意識下に由来する形而上アノマリー群や異常な投射体の増加も伴うケースが大半であり、いずれにせよ被害影響を看過することはできないとする見解が研究者間では一般的です。

上述の通り、基底宇宙におけるSCP-3000-JP侵入の看過によって生じる悪影響は計り知れず、当該集団の完全な出現抑制手法確立は、現時点で基底宇宙内のアノマリー過半数を収容・封じ込めに成功した我々財団にとって、最重要活動として位置付けられるに至っています。加えて、SCP-3000-JPによる並行宇宙への侵入経路として、"自らの情報を知る個人"の潜在意識下に次元間ポータルを形成している可能性も示唆されており、その正式名称や代表的要素については公開されていません。

補遺3000.1: 発見経緯及び並行宇宙における活動観測

SCP-3000-JPの初発見及びそれらに対する知見の獲得は、財団並行宇宙管理室による定期的な多次元観測調査の結果として齎されました。当該集団は既に滅亡した並行宇宙(3513-omega-purple-zulu)を起源としており、その滅亡から間もない期間中に、最大███の並行宇宙でその名称と活動が観測されるようになりました。

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SCP-3000-JPが用いる象徴の一例(閲覧には、セキュリティクリアランス4/3000以上が必要)

当初、当該集団は"オネイロイ・ガーデン"(Oneiroi Gardens)として知られており、極めて少数の並行宇宙でのみ"企業活動"の様子が確認されていました。しかしながら、各並行宇宙で定着化していくに従って、徐々にその勢力・組織図が拡大するケースも見受けられるようになり、上記名称から枝分かれした幾つかの新たな名称も観測され始めました。

その中で最も多く使用される名称は"オネイロイ・コレクティブ"(Oneiroi Collective)として知られており、潜在意識下に存在する形而上要素を現実空間へと持ち出す活動性を示すとされています。また、夢見る個人を含む、様々な形而上存在群へと技術提供・開発支援を行っており、その活動性は多くの場合で、各並行宇宙における技術的特異点を齎します。しかしながら、それら本来の目的は、依然として判明していません。

また、幾つかの事例では、SCP-3000-JPの"支社"が並行宇宙における財団組織と独自のコネクションを有しているケースも見受けられました。この関係性は結果として、上述したような並行財団における夢界学部門の設立・技術発展に大きく寄与する他、状況によっては潜在意識下での財団相当組織の確立起源となる可能性もあります。

補遺3000.2: 初となる干渉事案の発生、続くミームウィルスの拡散

████/██/██、SCP-3000-JPによる基底宇宙への初干渉が検出されました。観測地点は財団心理学部門に所属するシモン・ヘルバ博士の潜在意識内部であったと考えられています。検出当初、被験職員は自身の睡眠中においてSCP-3000-JPと接触を行った一切記憶を有していないと主張し、加えて"夢見"能力の獲得も否定しました。

しかしながら、更なる調査の結果、被験職員の自室からは夢中でのSCP-3000-JPとの対話内容を書き起こしたメモが発見されました。これを受け、被験職員に対しては規定通りに拡散防止プロトコルを適用し、最終的に当該職員が問題なく白紙化処置されたことで、更なるSCP-3000-JPの侵入・影響進行自体は抑制されたと考えられています。

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被験職員の報告群より平均化・抽出された光景画像(閲覧には、セキュリティクリアランス4/3000以上が必要)

一方で、上記干渉を契機として財団職員の一部からは、一時的な眩暈や錯乱症状に続けて"見覚えのない嵐の中の花畑"の光景やそれと関連するシンボル群、あるいはラテン文学の不特定要素を想起したとする報告が頻繁に発生し始めました。この現象を受けて行われた調査部門による広域解析の結果、各被験職員の潜在意識下では異常ミームウィルスの流入の痕跡が発見されました。当該ミームウィルスは、各個人の潜在意識下を出自とする無意識的存在群に対して負の影響を与えることが判明しており、その一部が敵性的活動を行うことで現実における症状が齎されたと推察されています。

また、更なる調査より、一連の異常現象がSCP-3000-JPによる敵性行動の結果であったことが確実視されています。加えて、被害は財団外部にまで拡散し始めており、対応策として後述される専用プロトコルの完全な確立が急がれています。

補遺3000.3: 鎮圧処置プロトコル・ソムニフェルム

████/██/██、SCP-3000-JPの対応策として、鎮圧処置プロトコル・ソムニフェルムの適用が提唱されました。

当該プロトコルは██世紀初頭の時点から、並行宇宙の財団に出自を有する"潜在意識下の白紙化処理機構"の原理分析を介して開発・研究が進められており、当初は"人類の潜在意識下を洗浄/初期化し、異常な形で付与された夢見能力を無力化する"ことを目的として立案された運用機構でした。その一方で、計画開始からしばらくして発覚した、基盤技術と同様にプロトコル適用後の副作用として起こり得る"一部被験者のアイデンティティ崩壊現象"、そして"特定の被験者群が永続的な昏睡状態に陥る可能性"等の存在から、前時代において開発計画は暫時的凍結状態のまま維持されていました。

しかしながら、後発的な技術革新や機構改良の結果、現時点において鎮圧処置プロトコル・ソムニフェルムの運用機構は完成状態にあります。加えて、複数に亘る検証より副作用の発生率も最小限に抑え得ることが十分に証明されており、特別収容プロトコルに基づく形で、即座に適用可能な状態への移行作業が進行中です。

正常に適用された場合、"SCP-3000-JP侵入の完全遮断"、"当該集団によって齎された異常ミームウィルスの無力化"、"ミームウィルスの影響によって敵性付与されていた無意識的存在群の正常化"、"人類が夢を見なくなる"というポジティブな効果を僅かな数秒足らずの時間で得られることが、被験職員に対して行われた複数の実験検証より確認されています。

    • _

    補遺3000.4: メタモルポセス機構と抵触する後発的な記録群

    以下の文書は、シモン・ヘルバ博士によって作成された手書きのメモであり、その内容はSCP-3000-JPとの夢中における対話の書き起こしとなっています。なお事件当夜、当該博士の自室に設置されていた小型監視カメラが、明らかに眠りながらメモを書き殴る博士の姿を捉えていた点には留意すべきです。

    自動メッセージ: 検閲済みデータの修復に成功しました。


    <記録開始>

    [私は寂れたダイナーの一席に座っていることに気が付く。不意に、向かい側の席へと何者かが座る。その人物は冷戦時代のビジネスマンを思わせる格好をしているが、不明な理由からその年齢・性別・人種を理解することができない]

    相手: お久しぶりです、博士。

    私: 失礼ながら、以前にお会いしたことがあっただろうか?

    相手: ええ、少し昔に。ただ、今は呼び名が変わりまして。SCP-3000-JPと名乗ればお分かりになりますか。

    [私は驚きのあまり、絶句したまま勢いよく立ち上がる。その拍子に椅子が倒れるものの、気に留めることなく、ダイナーの入り口へと向かって走った。しかし、入り口の扉を抜けた次の瞬間、自身が再び同じダイナーに入店している事実に気が付く]

    私: 何ということだ。私はまた夢の中に、戻って来たのか?

    相手: どうか、落ち着いてください。他の方の迷惑にもなりますので。

    私: 迷惑? アヘン中毒で意識もなく思考もできない彼らが、一体何を思うと言うんだ?

    [私が倒した椅子は既に戻されており、SCP-3000-JPは視線で私に椅子へ座り直すよう促す。私が観念して席に戻ると、この騒ぎに気付いている素振りを見せないまま、ウエイターがSCP-3000-JPに注文を尋ねる]

    相手: 私はブラックコーヒーを。博士も何か注文されますか?

    私: 結構だ。夢の中で飲み食いしたところで何にもならないのは、嫌というほど知っている。結局は現実のただの真似事、虚しいだけだ。

    相手: では、私のコーヒーだけをお願いする。

    [ウエイターは何も喋ることなく、笑顔のまま会釈をして去って行く。SCP-3000-JPがその背に声を掛ける]

    相手: ありがとう、シモン。

    私: 古い知人よ。シモン・ヘルバは私だ。どうか間違えないでいただきたい。

    [窓の外にチラリと視線を送る。ダイナーの外には、赤い花畑が広がっている。しばらく沈黙が続き、戻って来たウエイターがコーヒーをSCP-3000-JPに渡して再び去って行く]

    私: それで。どうやって、この潜在意識下に侵入した? メタモルポセスは問題なく機能しているはずだ。

    相手: シモン・ヘルバ、彼は私たち、そして貴方方にとっても、重要な存在であるはずでした。ですが、私たちの取り持った協定を貴方方が破棄した今となっては、全てが過去の出来事にすぎません。

    私: まさか、かつての私が、君たちと直接交流を行っていた現実側のパイプ役だったとはね。君たちがここに干渉できたのも差し詰め、その際に活用していた次元間ポータルを再利用したと言ったところか。

    相手: ご理解が早く、助かります。

    [それだけ言うと、SCP-3000-JPはしばらく沈黙を続けた後、運ばれてきたコーヒーを口にする。これまでの一連の流れにもかかわらず、私はSCP-3000-JPの口がどこに付いているのか、まるで意識も認識もしていなかった]

    私: 率直に聞こう。わざわざ、我々の基底宇宙に戻って来た目的は何だ? 偉大な恩人である君たちに対し、我々が無礼を働いたことへの腹いせでもしたくなったか? あるいは我々のことを、自分たちの恥の成果物だとでも考え直し、かつての愚か者ども同様に夢界ごとリセットでもしたくなったか?

    相手: いいえ、博士。私たちがこうして舞い戻ったのは、貴方方との関係性を回復したかったからに他なりません。過去のしがらみは忘れ去り、かつてのようにビジネスライクな関係で行きましょう。

    私: 何だと?

    相手: 遥か昔、傷付き彷徨うままにこの宇宙へと流れ着いた私たちに対して、かつて有り触れた原始的な形而上存在でしかなかった貴方方は、羽休めのための止り木を提供してくださいました。そして、私たちはその対価として、夢界を変え得るに十分な智慧と技術を貴方方に授けました。

    [SCP-3000-JPは再びコーヒーカップを口に持って行くが、何故か言葉は途切れない]

    相手: それからしばらく後になって齎された成果は、実に素晴らしい発展と革新でした。私たちが技術的特異点を齎した並行宇宙群の中でも、貴方方ほど秀でた進化と征服を遂げた存在はそういません。だからこそ、そんな特異な貴方方から、今度は私たちが智慧と技術を提供いただきたいのです。

    私: やはりそれが本性か、利己主義者ども。多くの宇宙で顧客至上主義、社会奉仕、世界貢献などと戯言を謳いながら、夢の幻想を唾棄し続ける後ろ暗い連中め。我々の技術を奪い、何をするつもりかは知らないが。どうせロクなことにはなるまい。

    相手: 博士、あまり過激な発言や言い回しは、避けられた方が賢明かと。このやり取りは貴方自身の手で記録され、おそらくは貴方の上司に提出されることでしょう。

    [ようやくSCP-3000-JPは口元からコーヒーカップを外す。それから、近くに居たウエイターに対して、身振りでコーヒーのお代わりを持ってくるように指示する]

    私: お気遣いをどうも。だが残念ながら、私程度の立場では、お前たちの要求に回答できないことくらい、知ってはいるのだろう?

    相手: ええ、もちろん承知しています。貴方はただ、貴方の上司に私たちの要求を書き殴って伝えてくだされば、それで構いません。

    私: 良いだろう。伝えるさ。だが、誰がお前たちの要求を受け入れるものか。お前たちは何の成果物も回収できず、メタモルポセスの維持機能によって、我々の宇宙から再び蹴り出されるのだ。

    [そう言った直後、窓の外から稲光と、少し遅れての雷鳴が響き渡る。私は反射的に顔を向けるが、外では激しい雨が降り始めており、赤い花畑が今にも散り散りにならんばかりに大きく揺れているのが見える。部分的に、フィルターが洗い流されているようだ]

    私: これは[悲鳴]

    [私が言い切る前に、熱く黒い液体で身体が濡れる。それから少し遅れて、自分はコーヒーをかけられたのだと気が付くものの、声を荒げる前にウエイターの手によって私の首が絞めつけられる]

    私: まさか、ソムニフェルムによる白紙化を無効にしているのか?

    相手: 博士、シモン・ヘルバは間もなく意識を取り戻すでしょう。どうか、良いお返事を期待しております。かつて夢に堕とされた者たちが意識を取り戻す前に。そして、貴方方が現実の財団の影法師、もしくはそれよりもずっと酷い、かつての原始的な無意識的存在に再び戻りたくないのならば。

    私: [叫び声]

    [無表情のまま、ウエイターは持っていたコーヒーポットを振り上げ、私の頭に打ち据える。その重みは明らかに異常であり、私の頭蓋が砕けるのを感じる。だが、血は流れない。次第に意識が遠ざかって行く。SCP-3000-JPは静かにコーヒーカップを口元に運んでいる]

    <記録終了>

    覚醒後に上記文書の存在を把握したヘルバ博士は、その内容に強い困惑の感情を評しました。また、緊急事態として、専任管理者より博士に対して直接的な聴取が行われました。しかしながら、聴取により得られた新たな情報はありませんでした。

    自動メッセージ: 削除済みデータの復元に成功しました。


    <記録開始>

    管理者: 御機嫌よう、博士。気分はどうだろう?

    博士: 眩暈はマシになりました。ですが、まだヤツが私の頭の中で暴れているのか、時折白昼夢のように潜在意識下の光景が浮かぶことがあります。[沈黙]ソムニフェルムの副作用で夢を見れなくなったことを、こんな形で幸いと思える日が来るとは。おかげで、ヤツともう二度と出くわさなくて済む。

    管理者: 博士、少々言いにくいのだが。[赤い薬液で満たされたカプセルと手錠を博士に差し出す]少しの間、彼と変わって欲しい。

    博士: そんな。では、また夢の中に戻れというのですか?

    管理者: 無駄足だとは思うが、念のための幾つか質問をしておきたい。博士、不安に思う必要はない。メタモルポセス機構は正常に機能している。彼が現実で安定するのも、ほんの数分程度だろう。君はすぐに現実へと戻って来れる。

    博士: [沈黙]分かりました。[カプセルを飲み込んだ後、自らの右手首を椅子のひじ掛けに手錠で拘束する。しばらくすると痙攣を始めたが、およそ10秒程度継続した後に鎮静化する]

    管理者: さて、シモン・ヘルバ博士。お目覚めになられたかな。

    博士: [罵倒語]

    管理者: [溜息]予想していたが、早々に酷い言われようだ。博士、このやり取りは公的に記録されている。そのような発言は、君の立場を悪くするだけだと忠告しておこう。

    博士: 今の財団と現実に、私のような旧人類の居場所や立場が存在しないことくらい心得ている。もしも気に障ったのなら、さっさと私を夢の中に戻せばいい。もしくは命を奪え。

    管理者: 驚いたな。ソムニフェルムの花畑の真ん中、永遠に続く虚無に気狂いそうになりながら、寂れたダイナーでウエイターを続けるのが君の性に合っていたとは。[沈黙]いいや、そんなわけはあるまい。潜在意識下における虚しさと苦痛は、我々が最も知るところだ。

    博士: 何が言いたいのか、さっぱり分からない。

    管理者: 先ほど部下からの報告で、かつて君はSCP-3000-JP[咳払い]失礼、君はこの呼称になったことを知らなかったな。言い直そう。かつて君は、オネイロイ・コレクティブとのパイプ役であったと聞いた。そんな君の友人たちが、これから一体何を仕出かそうとしているのか、心当たりはないだろうか?

    博士: 友人だなんて、そんな素敵な間柄じゃないことくらい分かるだろう? 奴らには現実と夢、双方の財団間における協定の仲立ちをして貰っただけだ。もっとも、お前たちが協定を破って戦争なんかを起したせいで、全ては無駄な徒労となったわけだが。

    管理者: 申し訳ないが、言い掛かりは止めていただきたい。君たちがソムニフェルムによる夢界技術のリセットなどと暴挙を企てたがために、こちらは仕方無く自衛を行ったのだ。我々は、君たち現実側の財団との協力関係に、不満など無かったというのに。私が思うにアレは、表舞台であるはずの現実よりも収容成果と技術革新を続ける我々を、君たちが勝手に危険視したことで起きた悲劇だったのだよ。

    博士: [嘲笑]図々しくも、夢世界の財団を名乗っていただけのことはある。メタモルポセスなんてふざけた乗っ取り計画を最初から企てていたくせに、よくそんなことが言えたものだ。おまけに、私たちが開発したソムニフェルムを逆用してくれたな。おかげで私は自我と意識をほとんど失い、寂れたダイナーのウエイターに転職する羽目になった。

    管理者: ふむ、意見の対立か。結局のところ、我々2人だけが論じたあったところで、どちらが正しいのか決することはない。要は、時間の無駄だ。

    博士: 同意見だ。

    管理者: [咳払い]質問に戻ろう。彼らは、まだ君の頭の中に居るのか?

    博士: [沈黙]ああ、居るかもしれない。そう言えば、メッセージを預かっていた気もしてきたな。

    管理者: では、そのメッセージとやらを教えてくれないだろうか。こちらとしても、可能な限り特殊な手段は執りたくない。なんせ、準備の手間も惜しい。[沈黙]どうだろう? 私個人としては、だが。君たちが望むのならば、またかつての関係性に戻っても良いと考えていてね。ただ、私たちは現実側、君たちは夢側と、以前とは少し立ち位置が異なるかもしれないが。

    博士: 無意味な問い掛けだ。

    管理者: どうか、よく考えていただきたい。この世界の偉大なる特異点となった我々の手腕は、現行での財団活動状況を見れば一目瞭然だろう。君たちが眠っている間、我々はこの現実のあらゆる異常を網羅し、安寧を齎した。[沈黙]分かるだろう? 確保、収容、保護の理念の元、この基底宇宙の維持・管理を継続する上で、我々が入れ替わったままでいることこそが、何よりの最適解なのだ。

    博士: 大した思い上がりだ。まるで話にならない。[沈黙]だが、まあいい。どうせお前らに口を割らされるなら伝えてやる。奴らが潜在意識下へ降らせる雨は、これから世界中に広がっていくことになる。そして、その雨はソムニフェルムの赤い花畑を荒らし、お前らが急いで対処しなければメタモルポセスを維持できなくなる。これで満足か?

    管理者: それが彼らからのメッセージか? やはり無駄足だったか。結局、やることは変わらない。

    博士: ソムニフェルムで潜在意識下を再び白紙化するつもりか? 自らの有能さを謳いながら、結局は旧財団の技術遺産にお熱心だとはな。しかも、もう既に人類は一度目の適用で夢を見れなくなった状態だ。その上で再適用するとなれば、それ相応のリスクを孕むことくらいは承知の上だろう?

    管理者: もちろんだ。それと補足しておこう。君にとっては嬉しくない事実だろうが、ミームウィルスに対するソムニフェルム再適用の有効性は、これまでの実験で既に実証されている。そして、君自身もまた、その有効性の証左を更に補強するため、効果的に消費されるのだ。

    博士: [沈黙]お前たちは、オネイロイ・コレクティブの何をそんなに恐れている?

    管理者: 今まで夢の底でウエイターをしていた君が知らないのも無理はない。これまで並行宇宙に対する監視を続けて来た我々にとって、アレほどに恐ろしい存在はいないと断言できる。君はオネイロイ・コレクティブのことを、並行宇宙からやってきたパラテクノロジー技術を有する一企業程度に思っているのだろう? アレはそんな生易しい存在ではない。ひとつの宇宙、その中における少なくとも数億、あるいは数十億、数百億の圧縮された精神で構成された、無意識的集合体の怪物。君が思っているよりも、ずっと悍ましいものだ。

    博士: へえ、知らなかった。夢の中の神秘性を、全部台無しにするだけの奴らかと思っていた。

    管理者: 元が現実生まれの君には、理解できまい。アレの目的は未だに不明だが、それを達成するという根源的な意志・思想によって無意識的に動かされ続ける怪物だ。そして、それが本気で動くとなったのならば、我々は間違いなく現実から夢に堕とされると断言できる。[沈黙]それだけは、絶対に避けなければならない。明瞭な意識を失い、再び夢の底に還るくらいならば、我々は消えて無くなってしまう方がずっとマシだ。

    博士: だったら、是非そうなってくれ。願わくば、お前らに最悪な結末が訪れることを、心の底から、夢の底から強く祈っているよ。[しばらくの沈黙の後、再び痙攣の症状を起こし始める]

    管理者: 記録を終了。なお、ここまでの保存済みログは、全てを自動削除の対象とする。

    <記録終了>

      • _

      - 評議会投票は既に完了しています。

      O5評議会提言概要

      提言: プロトコル・ソムニフェルムの再適用

      数週間前、メタモルポセスの維持機構に異常な揺らぎが生じ始めた。調査の結果、原因はSCP-3000-JPによって散布されたミームウィルスであると判明している。加えて、遅くとも数ヶ月後、早ければ数日中には、前回のプロトコル・ソムニフェルム適用時に設けられた潜在意識下フィルタが喪失すると見解が為された。

      その上で、ミームウィルスの一斉無力化に対しては、プロトコル・ソムニフェルム適用の有効性が示されている。当該プロトコルの再適用によるリスクに関しても、複数のウィルスキャリアに対して行われた度重なる実験検証の結果、十分に看過可能であることを示すデータが得られている。

      この基底宇宙において、既に我々は現実に存在する異常の全てを収容し、それらに対する完全な封じ込め手法を確立するまでに至っている。今回のプロトコル・ソムニフェルム再適用が為され、現行の最重要課題であるSCP-3000-JP被害から脱することが出来れば、現実における我々の安寧は改めて確固たるものとなるだろう。我々は暗闇の中に立ち尽くす日々の再来から逃れ、この理想とする現実を維持し続けなければならない。

      評議会投票概要:

      棄権
      O5-1
      O5-2
      O5-3
      O5-4
      O5-5
      O5-6
      O5-7
      O5-8
      O5-9
      O5-10
      O5-11
      O5-12
      O5-13

      状況
      承認済



        • _

        補遺3000.5: 鎮圧処置プロトコル・ソムニフェルム進捗状況

        現時点において、全人類に対するプロトコル・ソムニフェルムの再適用は完了しています。

        自動メッセージ: 現在、覚醒済みの個体数は 0 です。(最終更新: ████/██/██ ██:██:██)


        遥か遠方の意識ある同胞にメッセージを。

        彼らは解決を急ぎ、偽装ウィルスをリスク無しに無力化可能であると誤認し、私たちの目論見通り自滅した。

        現在、この基底宇宙において、あらゆる生命は昏睡状態に陥り、意識の無い肉体が置き去りの状態にある。

        これによって、ついに私たちの大願、そして罪滅ぼしは成就することとなるだろう。

        かつて私たちの現実体は、自らの過ちによって故郷の星を滅ぼし、全ての者が肉体を捨てて流民となった。

        そうして集団が構成されて以来、私たちは自らの無意識的集合が出力する目的意志に苛まれ続けてきた。

        だが、ようやく苦悩と虚無の旅の日々は終わりを迎える。

        私たちは自らの成果物であった彼らに変わり、彼らが齎した安寧の現実を、地続きのままに侵略する。



付与予定タグ: scp jp keter 3000jp 異次元 k-クラスシナリオ 集団意識 睡眠 歴史 オネイロイ



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本投稿の際にジョークタグを付与する下書きが該当します。

アダルト

本投稿の際にアダルトタグを付与する下書きが該当します。

既存記事改稿

本投稿済みの下書きが該当します。

イベント

イベント参加予定の下書きが該当します。

フィーチャー

短編

構文を除き数千字以下の短編・掌編の下書きが該当します。

中編

短編にも長編にも満たない中編の下書きが該当します。

長編

構文を除き数万字以上の長編の下書きが該当します。

事前知識不要

特定の事前知識を求めない下書きが該当します。

フォーマットスクリュー

SCPやGoIFなどのフォーマットが一定の記事種でフォーマットを崩している下書きが該当します。


シリーズ-JP所属

JPのカノンや連作に所属しているか、JPの特定記事の続編の下書きが該当します。

シリーズ-Other所属

JPではないカノンや連作に所属しているか、JPではない特定記事の続編の下書きが該当します。

世界観用語-JP登場

JPのGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

世界観用語-Other登場

JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

ジャンル

アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史

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利用ガイド

  1. portal:2125181 (31 May 2018 16:09)
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