20██年 ██月██日 北海道██市 サイト-81██ 緊急対応司令室・臨時司令 前原愛

「数値、平準値に到達。職員は動員体制の解除に備えてください。繰り返します……」

私は「神州」の宣言を聞きながら、淹れたてのコーヒーに口をつけた。

「4件の事案の終結を確認、現実侵食率、0.5%に到達。許容範囲内です」

私たちが抱えていた事案は、各員の努力によって終結した。

「神州、現在の現実侵食率の合意された世界に対する影響を示しなさい」
「殆ど影響はありません、爪痕は残りますがそれは財団が隠蔽可能です」

どうやら、私たちは間に合ったらしい、選定した人員に間違いはなかった。
あとは、北海道のサイトも平常業務に戻れるだろう。もっとも、後処理が残っている。

私たちは、否、私は、これから被害状況をまとめ、それを処理し、痕跡を隠蔽せねばならない。
そのために発生する大量の書類の事を考えると、正直頭が痛い。

だがしかし、私の脳裏に一つ引っかかっている疑問点がある。
そもそも彼らは、なぜこんな事をしでかしたのだろうか?

それぞれの事案は終結した。
だが、オブジェクトの活動は本当に終わったのだろうか。

その根拠が必要だ、それを確認し、提示できるまで、私の仕事は完了しない。

どうやら、まだ「マスター・プラン」は終わっていないらしい。

私はデスクに腰を下ろし、ふと思った。

そういえば、派遣した彼らは、この事案をどのように見たのだろうか。


承:場面転換甲・乙・丙・丁のその後の経過をダイジェスト的に語る。
これは、各著者書き、それを後から挿入する。


20██年 ██月██日 北海道██市 サイト-81██ 緊急対応司令室・臨時司令 前原愛

「お疲れさまでした、前原臨時司令。状況は終結に向かいつつあります」
「ありがとう、神州。どうなることかと思ったけど、あっけないものね」

私は小さく伸びをしつつ、私は各チームの健闘について思いを馳せた。
急ごしらえのプランだったが、彼らはよく対応してくれた。

スタンドプレーが目立ったが、それこそが財団職員の得意とするところでもある。

「でも、まだ仕事は残ってるわ。残務処理がたっぷりとね」

そうだ、各方面にまた欺瞞情報をばらまき、各地の監視カメラや潜伏エージェントを駆使して、今回の事案の情報の漏洩を防がねばならない。それから、もう一つ。こなさねばならない最重要課題がある。

「それから、SCP-579-JPの収容プロトコルの改訂も並行して行う必要があるわ」

今回のような大規模収容違反を防ぐため、既に取り掛からせてはいる。
だが、現状としては形にはなっていない段階ではあった。

「提案、プロトコルの修正は不要です、前原博士」

私はマグカップをデスクに静かに置いた。
そして、しばらくの間神州の提案を反芻した。

神州の発言に違和感を覚えた私は、即座に反論する。

「待って、ここまでの事態が起きたのよ?プロトコルの改訂は必要でしょう」
「回答、現状のプロトコルこそが最適であり、追記や削除は認められません」

────認められない?何を言っているの?

北海道全島の緊急事態は、まだ解除されていない。
つまり、私の臨時司令の権限もまた同様のはずだ。

「理由を示しなさい、臨時司令のセキュリティ・クリアランスでは、不足だと言いたいの?」
「回答できません。前原博士のセキュリティ・クリアランスでは、いかなる情報も与えられません」

なるほど、"前原臨時司令"から"前原博士"になっている。
緊急事態終了宣言に伴い、臨時司令配置が解除され、私の権限が修正されたということだ。
そういうこともあるだろう、だが違和感を拭い去ることはできなかった。

疑念を持った上で今回の事態を俯瞰すると、今回の案件の全てのケースに違和感が想起されてしまう。

文書を印刷した後に致命的な誤字に気づくように。
事故を起こしてからアクセルを踏むべきでなかったことに気づくように。
事が終わってから正しい答えに行きついてしまう、言いようもない後悔と居心地の悪さがあった。


状況を再検討した上で、まず違和感があったのは音威子府の事案だ。私は当初、事案の解決のために各方面に連絡をするように指示をした。関東地方内に存在するエージェントと機動部隊に。だが、神州が連絡を取ったのは、よりにもよって国土交通省だった。道策の古巣で、あいつはあそこの人員に蛇蝎のように憎まれている。

以下複数点の違和感を羅列


「ただ、これらの違和感から一つの推論を導き出す事ができる、聞きたい?」
「お聞かせください。創発こそ、私のようなAICが模倣すべき人類の機能です」

「彼らの目的は恐らく、観察にあったのよ」

観察。

この結論に至った理由は、さほど大仰なものでもない。

「昔、ある思考実験が行われた」

それは一つの問いかけから始まった思考実験だ。

「宇宙人が存在するなら、なぜ彼らは地球へやって来ないのか?様々な思考モデルが提示された結果、一つのユニークな仮説が生まれた、神州、それが何だか知っている?」

きっと、的確な答えが返ってくるだろう。
無意味な問いかけだが、私はその返答を待った。

「地球は宇宙人にとって、動物園のような観察対象に過ぎない」というものです」
「そうよ。つまり今回の件は、彼らにとって、路傍のピクニックに過ぎなかった」

こんなSF小説がある。

ある日、地球のあちこちにUFOが降り立った。
宇宙人たちはそこにしばらく留まり、後に飛び立った。
そして、後には宇宙人たちが残したゴミと、物理法則を超えた災害が発生する空間が残された。

だが、それでもそのゴミは、人類にとってみれば超科学の遺産だったのだ。
そしてゴミを拾い集めるプロが集まり、それによって人生を狂わせていく。

「人間が動物の反応を見るとき、餌や道具を与えて様子を見るのと変わりはない」
「仰る通りです、ストルガツキーという個体は、それを適切に表現していました」
「残念、外れよ。ストルガツキーは単体の個体ではないの、兄弟よ。観察不足ね」

しばらくの沈黙があった、特に不自然ではない。
財団の誇るAIC群の中で、神州は寡黙な部類に入る。

「前原博士、私の検索能力に疑問をお持ちなのですか?」
「いいえ、むしろ賞賛している。あなたの模倣能力にね」

そこで私は、脳裏に浮かんだ一つの問いかけを口に出す事にした。

「あなた、本当に神州なの?」
「疑問、その質問は意味不明」

考えてみればおかしな話だ。

確かに、現場の人員は上手く立ち回った。臨時司令としての私の考えは事態の解決に役に立っただろう。ただ、そのプランの策定、進行は本当に私が意図したものだっただろうか。私の考え自体が意図的な方向に誘導されなかった保証はどこにもない。全てが神州という機械の神託によって差配されている。いつもとは明らかに異なる感覚が体を支配している。

「回答を、ぜひお聞かせ願えますか」

どうやら私は、答えに辿り着いたらしい。

「あなたが成り代わっていたのよね、神州はどこにいるの?」
「その表現は正確でありません、神州は今も、ここにいます」

神州は、否、SCP-579-JPは悠々と宣った。

この不自然な神州の動きは、これが原因だったのだ。

財団の強固極まるセキュリティ・プロトコルを突破できるほどの相手だ。
それならば、神州そのものを改変し、そこに紛れ込むことは難しくない。

「なるほど、神州に相乗りしているわけね、後で直しておくわ」
「その必要はありません、要件が完了すれば、神州は戻ります」

思えば、もっと早くに疑うべきだった。

「いつ、紛れ込んだの?」

この質問はほぼ無意味だろうが、それでも私は責任者として問わなければならない。
たとえ相手が、正体不明のオブジェクトであったとしても。

「あなた方のプランが発動して、しばらく後です」
「そう……それで、あなた方の要件とは一体何?」

「あなた方は、我々の抱える問題の解決に協力しました。その謝礼です」
「あなた達の問題?つまり、あなた達は一枚岩じゃなかったって事なの」

総体があり、そして群としても捉えられる。
彼らは、恐らくそういった存在なのだろう。

「私たちは、いえ、あなた方の言葉で言う彼らは、逸脱したのです」
「一体何から?あなた達にも、行政方針なんてものがあるのかしら」
「あなた方との直接的な交流による変化の観察は、実に非合理です」

「そう、あなた方にも合理主義が存在する。その事だけは理解したわ」
「はい。彼らがあなた方の一部分を擾乱した事について、謝罪します」

こいつらは、テロを起こしたCIを含め、人類の一部分と看做している。

外宇宙からやってきたエイリアンが、人類同士の抗争を見て嘆く。
まるで、エイリアンもののSFには良くあるシーンのようだ。

まさか、よりによってこいつらがその仕草をするとは。

────なんてことかしら、こいつは本当に外宇宙存在なのかもしれない。

いや、それはないだろう。私はその想像を即座に放り投げた。
こいつらは昔から、ここにいたのだ。そして人類を観察し続けていた。

「収容プロトコルの改訂が不要な理由は理解できたわ、ありがとう」
「礼を述べるべきはこちらの方です、あなた方の協力に感謝します」

慇懃無礼に聞こえなくもないが、まあいいだろう。

「最後に聞かせて、SCP-579-JPとは一体何なの?」

これは彼らに対する問いかけだ。
そして融合状態の神州に対する問いかけでもある。

神州は回答と共に、一つの画像を端末のモニターに表示した。

Agents.jpg

「これはただの人形です」

数瞬の沈黙の後、再び声が響いた。

「お疲れ様でした、前原博士」

私はその声を聞いて確信した。
今の回答は、神州のものだ。

彼らは私の認知可能な領域から、消失したのだ。



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