SCP-1644-JP 改稿案

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改稿案

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アイテム番号: SCP-1644-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 民間人のSCP-1644-JPへの侵入および、SCP-1644-JP内居住者の現実空間への侵入は阻止されなければなりません。ポータルの現実空間側には財団のフロント企業施設が建設されています。SCP-1644-JP側のポータルの管理は、SCP-1644-JP内部に存在する組織「スシアカデミア」に委任されています。

財団はアカデミアとの間に、SCP-1644-JPの収容状態を維持するための条約を締結しています。現在までのところ、この組織は財団に対し友好的な態度を示していますが、警戒態勢は解除されません。アカデミアとの交渉、情報交換等の交流は、財団渉外部門及び、超常食文化研究チームによって行われます。

説明: SCP-1644-JPは東京都中央区築地に存在するポータルによってアクセス可能な小規模な余剰次元空間です。このポータルは現在、SSAIS21世界重複に分類されています。

SCP-1644-JP空間内の大部分は「スシアカデミア」と呼称される施設として利用されており、少なくとも500人以上のアカデミア関係者(生徒・教職員)を名乗る人物の居住が確認されています。これらの人物の身元は現在まで確認されていません。

スシアカデミアは超常的な寿司に関連する教育と研究を目的とした機関と推測されます。その教育カリキュラムの大部分に、食品、特に寿司に関連する異常なオブジェクトが利用されています。これにはAnomalousアイテムまたはSCPオブジェクトとして分類されているものも含まれますが、大部分は財団にとって完全に未知のアノマリーです。これらのオブジェクトの入手方法は不明です。

以下に、カリキュラムとして確認されている教科の例を示します。

sushi1.png

スシアカデミア1年次のカリキュラム(指導要領より抜粋)。2年次以降は教養科目は無く、専門科目のみの履修となる。

  • 寿司史
  • お寿司の美味しい握り方
  • 現代寿司学
  • 軍艦設計理論
  • 寿司工学
  • 「スシとアート」理論/実践
  • 「スシとオカルト」理論/実践
  • 闇の寿司に対する防衛術

その内部における異常なオブジェクトの存在と利用を除けば、その学務上の運営システムは全寮制高等専門学校のものに類似しています。生徒の修業期間は5年間であり、各学年ごとに3クラスが存在します。一方でクラス分類は一般的な専門学校と異なり、恐らく学習成績を基準として「松・竹・梅」に分類されます。このクラス分類は学期ごとに再編されます。

スシアカデミア内部で行われている研究活動は、異常な食材の取り扱い方法の開発に高度に特化しています。財団はアカデミアとの交流を通じ、これまでに15のSCPオブジェクトの特別収容プロトコルについて、その効率性・安全性の向上に応用可能な技術や知識を得ており、情報の獲得を目的とした交流は今後も継続される予定です。

補遺1: 以下は「スシアカデミア」内部の調査記録及び、取得された異常な寿司についての試験記録です。

調査記録01

担当者: 小樽博士(超常食文化研究チーム所属)

付記: 調査は、スシアカデミア側からの案内人(焼津 寿一郎氏)を同行させる形で行われました。

<記録開始>

小樽博士: では記録を開始します。まず、案内人の方、カメラに向けて自己紹介をお願いできますか。

焼津氏: はい。私はこのアカデミアで生徒会長を務めております、焼津 寿一郎と申します。本日は先生方からお客様のご案内をするようにと言われております。よろしくお願いします。

小樽博士: ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。

焼津氏: 早速ですが、まずこちらのお寿司を召し上がっていただけますか。

小樽博士: これはシメサバの握りですか。しかしなぜこのタイミングで。

焼津氏: ここスシアカデミアでは、初対面の方に対し、ご挨拶の代わりに自分の最も得意とするお寿司を握るのが礼儀とされています。

小樽博士: なるほど。ありがたく頂きます。

[小樽博士が寿司を摂食する。]

小樽博士: おお、これは美味しい。こんな美味しい寿司は初めて食べたかもしれません。

焼津氏: 恐縮です。

小樽博士: では味の感想や分析を記録しますので少々お待ちください。それと焼津さん、いくつかこの寿司について測定をさせて頂きたいのですが、よろしいですか。

焼津氏: 構いませんよ。

小樽博士: では、失礼します。

[小樽博士が測定装置を寿司に向ける。]

小樽博士: これは興味深い。焼津さん、我々が帰る前にも同じものを握っていただけますか。サンプルとして持ち帰り、より詳細に検査を行いたいので。

焼津氏: わかりました。ネタはシメサバだけで大丈夫でしょうか。

小樽博士: いや、可能な限り多い方がいいですね。ですが無理はしなくても。

焼津氏: いえ、大丈夫ですよ。そうと決まれば厨房室へ行きましょう。こちらです。

[以降、焼津氏が調理した寿司を、小樽博士が摂食し、データ測定を行う様子が記録されている。]

<記録終了>

saba.jpg

焼津氏が調理した寿司(上)とアスペクト放射強度を元に着色された画像(下)。

小樽博士による測定の結果、焼津氏が調理した寿司(以下Y群)のアスペクト放射強度は約600Csp(キャスパー)~700Cspであることが判明しました。通常の寿司はバックグラウンド放射と同程度(約100Csp)か、食材が生前保持していたEVEの残渣によって少し高くなる程度であり、最大でも200Cspを超過する事はありません。この高EVE密度は、食材の鮮度保持の効果がある他、摂食による官能試験の結果は食味を向上させる効果があることを示しています。また、いくつかの寿司に関連する異常オブジェクトを用いた試験でも、その異常性の発現に際して、一般的な寿司との有意差が生じました。測定データと試験結果を以下に示します。

測定記録Y

対象: Y群の寿司

アスペクト放射強度: 平均 653Csp

色相: レモン

ピッチ: ナチュラル

試験記録Y-01

対象寿司: Y群: イクラの軍艦巻き。対照群: 一般的なイクラの軍艦巻き。

対象オブジェクト: SCP-389-JP

試験方法: 対象寿司をSCP-389-JP-1-A,Bに曝露させた。その際、対戦の様子を観察するため、Y群をSCP-389-JP-1-A、対照群をSCP-389-JP-1-Bに分けて曝露させた。

結果: 生じたSCP-389-JP-2-Aは目視可能範囲が半径2.5m程度にまで拡大し、最高速度は1.75cm/sを示した。対照群(SCP-389-JP-2-B)と戦闘を行わせた結果、破壊力、耐久力共に向上が見られた他、戦術の高度化が確認された。

試験記録Y-02

対象寿司: Y群: マグロの赤身の握り寿司。対照群: 一般的なマグロの赤身の握り寿司。

対象オブジェクト: SCP-571-JP

試験方法: 対象寿司のネタとシャリを分離した(この際にEVEの散逸がない事は確認済み)。その後、そのネタとシャリを用いて、SCP-571-JPによるプロトコル西行を実行させた。

結果: 生じたSCP-571-JP-1は、対照群と比較して運動能力が向上していた。移動速度は平均0.53cm/s 、跳躍高度は平均21.7cm上昇した。また、単純ながら知性的な行動をしている可能性が指摘された。これに関する追試験は手法確立まで保留とする。

付記: 試験中、SCP-571-JPは対象寿司について、「美味しく食べられたいという気持ちがより強くなっている」とコメントした。

試験記録Y-03

対象寿司: Y群: シメサバの握り寿司。対照群: 一般的なシメサバの握り寿司。

対象オブジェクト: SCP-1134-JP

試験方法: 対象寿司をSCP-1134-JPの店舗へ持ち込み、SCP-1134-JP-1へ変化させた上で「スシブレード」競技に使用させた。競技はDクラス職員2名(D-1892, D-1742)によって行われた。

結果: Y群を元にしたSCP-1134-JP-1は対照群に対し、75%の勝率を記録した。回転数は秒間15~20回程度増加した。

付記: SCP-1134-JP-1の名称は、対照群が「シメサバスター」だったのに対し、「シメサバスターXXダブルエックス」であった。"XX"が何を意味しているのかは不明。

Y群に関する考察

Y群の寿司は一般的な寿司と比較して、高EVEを内部に有していることが測定から分かっていた。試験対象となったオブジェクトは、いずれもなんらかの形で寿司に異常な運動をさせる効果があるものであり、寿司内部に蓄積されているEVEが運動エネルギーに変換されたと考えると(厳密な変換効率は不明なものの)、単純な数値上の強化は十分に納得できるものである。一方、一般的な奇跡論魔術において、そのアスペクト放射は術者による方向づけがなされるものであり、それが色相とピッチ(と構成)に現れる。SCP-571-JPの発言など、数値では測定が困難な知性や精神の部分に与える影響は現状不明である。異なる生徒由来のサンプルを入手し、さらなる試験を行う必要がある。

スシアカデミアの内部事情の把握と、焼津氏以外の生徒の寿司サンプルの入手を目的とし、さらなる調査が行われました。

調査記録02

担当者: 小樽博士

付記: 調査は前回同様、スシアカデミア側からの案内人(焼津 寿一郎氏)を同行させる形で行われました。

<記録開始>

小樽博士: ではこれより調査を開始します。案内人は前回調査と同じく、焼津 寿一郎さんです。よろしくお願いします。

焼津氏: よろしくお願いします。本日は私以外のお寿司のサンプルが必要なのでしたよね。

小樽博士: はい。どなたかいらっしゃいますでしょうか。

焼津氏: そうですね…では教育棟の5年生教室の方へ向かってみましょうか。今は放課後ですから誰かいるかもしれません。

小樽博士: わかりました。しかしこの学校、随分と広いですね。前に伺った時はこんなに大きいとは思いませんでした。

焼津氏: 前回は厨房室のある実習棟しか行きませんでしたからね。このアカデミアは教育棟、実習棟、研究棟、管理棟、魚の養殖や米の栽培を行っている野外エリア、学生寮のある居住エリアに分けられます。

小樽博士: どれくらいの広さがあるものなのですか。

焼津氏: そうですね…正確な数字は知りませんが、先生が東京ドーム60個分くらい…などと話しているのは聞いたことがあります。と言っても幼い頃から寿司の修行ばかりで、そのドームというのがどういうものなのか良く知らないのですが。

小樽博士: …いえ、ありがとうございます。正確な数字は恐らくここの管理者の方々に問い合わせれば分かるでしょうから。…ところで何か変な音がしませんか。

[爆発音。気絶しているらしき生徒がカメラの方に吹き飛ばされてくる。]

小樽博士: 落ち着いて、安全確認をしてください。

[口笛と推定される音声。一般的な寿司と比べて明らかに巨大な軍艦巻きが隊列を組んで出現する。]

焼津氏: この口笛と軍艦は。

小樽博士: 知人ですか。

焼津氏: ええ。本校の風紀委員長、三崎 総司くんです。三崎くん、どうしてこんなことを。お客様も来ていらっしゃるのだから、失礼な行動は慎みたまえ。

三崎氏: おや、それは失礼いたしました。あとでお詫びに伺います。しかし今は委員会の業務中なので、少々お待ち頂きたい。…さぁ、生徒会長さん、そこの梅野郎2をこちらに引き渡しては貰えないだろうか。

焼津氏: 委員会の業務だと。一体なんの権限があって人をこんなに傷つける。寿司は人を傷つけるためにあるんじゃない。

三崎氏: …アカデミア校則第12条3だ。僕の寿司は人を守るためにある、闇寿司なんかと一緒にするな。

焼津氏: 第12条…闇寿司思想か。だが、この子のことは知っているぞ、成績こそ振るわないが、真面目で人柄のいい生徒だったと記憶している。彼が一体何をしたというんだ。

三崎氏: 梅野郎を庇い始めるとはな。…そいつはな、寮の部屋にマヨネーズを隠し持っていたんだ。そうしてそれを問い詰めると、新たな寿司の可能性の探求などと梅のくせに生意気なことを抜かしやがる。

焼津氏: 梅だの松だのは関係ないだろう。

三崎氏: いいや、能力の無いものがそれを誤魔化すために寿司の基本を疎かにし、邪道な素材に頼り始める。それが闇寿司堕ちの可能性が最も高い行為なのだ。

焼津氏: だからってそんな、こんなこと許されるはずが…。

三崎氏: こうでもしなければアカデミアは、ひいては日本の寿司界は闇に飲まれる。君の父親の様な犠牲も増えることになるぞ。…とはいえ、お客様の前でこれ以上の面倒ごとは避けたい。ここは退いてやるから、その梅野郎を医務室に運んでおけ。それと、お客様を応接室にご案内しておけ。じゃあな。

焼津氏: 三崎くん…どうして君は変わってしまったんだ…。いえ、失礼しました。お見苦しいところを見せてしまいましたね。

小樽博士: いえ、興味深い記録が取れました。気絶した生徒さんを運ぶのも手伝いますよ。

焼津氏: ありがとうございます。

[小樽博士らが応接室へ向かうと、寿司折と簡素な謝罪文が置かれていた。]

<記録終了>

記録中で確認された三崎氏の口笛にはSCP-389-JP-1に類似する効果が存在する可能性が指摘されています。また、寿司折内に確認された寿司は全て、焼津氏が調理した寿司と同様の高アスペクト放射を持っていました。

三崎氏が調理した寿司サンプル(以下M群)についての測定データ、試験結果を以下に示します。

測定記録M

対象: M群の寿司

アスペクト放射強度: 平均 669Csp

色相: レモン

ピッチ: フラット

試験記録M-01

対象寿司: M群: イクラの軍艦巻き。対照群: 一般的なイクラの軍艦巻き。

対象オブジェクト: SCP-389-JP。

試験方法: 試験記録01と同様。

結果: 生じたSCP-389-JP-2-Aは目視可能範囲が半径3.0m程度にまで拡大し、最高速度は1.95cm/sを示した。戦闘を行わせた結果、その破壊力、耐久力及び戦術性はY群由来のSCP-389-JP-2を上回っていた。また、SCP-389-JP-2以外の物体に対し、小規模ながら損害を与える破壊力を獲得した。

試験記録M-02

対象寿司: M群: マグロの赤身の握り寿司。対照群: 一般的なマグロの赤身の握り寿司。

対象オブジェクト: SCP-571-JP。

試験方法: 試験記録02と同様。

結果: 生じたSCP-571-JP-1は、対照群と比較して運動能力が向上していたものの、Y群と比較すると低下した。移動速度は平均0.37cm/s 、跳躍高度は平均16.1cm上昇した。

付記: 試験中、プロトコル西行に要する時間が、15%程度増加していることが判明した。このことについて、SCP-571-JPは「美味しく食べられたいという気持ち以外の雑味がある」とコメントした。

試験記録M-03

対象寿司: M群: ネギトロの軍艦巻き。対照群: 一般的なネギトロの軍艦巻き。

対象オブジェクト: SCP-1134-JP。

試験方法: 試験記録03と同様。

結果: M群を元にしたSCP-1134-JP-1は対照群に対し、97%の勝率を記録した。回転数は秒間20~25回程度増加した。

付記: SCP-1134-JP-1の名称は、対照群が「ネギトロイヤー」だったのに対し、「ネギトロイヤーZZダブルゼット」であった。"ZZ"が何を意味しているのかは不明。

M群に関する考察

M群の寿司のピッチはY群と比較し、より破壊的であるとみなされる(フラット)。これは術者(三崎氏)による方向づけに基づき、恐らくは精神状態や寿司を調理する目的に関連すると考えられる。実際に試験結果はY群と比較し、より攻撃的な強化が見られる。SCP-571-JPの発言はどの程度信用可能か断定できないが、「調理者の精神状態と寿司の状態」についての仮説と矛盾しない。

調査記録中で確認された「闇寿司」については完全に不明です。(2019/4/28 追記) SCP-1134-JPに関連して発生した事案において、「闇寿司」の名称が確認されました。当該団体はGoI-8134に指定され、警戒度 高に分類されました。

補遺2: GoI-8134 ("闇寿司")に関し、情報収拾のための聴取が行われました。

聴取記録01

インタビュアー: 小樽博士

対象: 焼津 寿一郎氏

<記録開始>

インタビュアー: では焼津さん、よろしくお願いします。闇寿司について、あなたの知っていることを教えてください。

対象: はい。闇寿司というのは寿司職人の誇りを失い、邪道に堕ちた者の組織であると、このアカデミアでは教わります。しかし、それだけではありません。彼らは人間としての正義や倫理すらも捨て、外道に堕ちた存在です。

インタビュアー: ふむ、その様子では個人的な因縁のようなものがお有りですか。

対象: ええ、私の父は…闇寿司の奴らに。いえ、命まで取られたわけではありません。ですが、寿司職人にとっては命に匹敵する重さである、手を潰されてしまったのです。

インタビュアー: なんと、そのような事が。

対象: 闇寿司の奴らは他人の技術を奪い、そしてそれを独占するために、一切の躊躇なく人を傷つけます。寿司はそんな事のためにあるんじゃ無いのに。父の技術は寿司で人を幸せにするために生まれたものなのに。

インタビュアー: …なるほど。そう言えば、前にアカデミアに伺った際に「闇寿司思想」という言葉が出ましたね。アカデミアの内部にも闇寿司の者がいるのですか。

対象: いえ、それは無いと思います。闇寿司思想は闇に堕ちる可能性のある思想に対する指定であって、あくまでも「闇寿司予備軍」です。適切な指導が為されれば問題ないはずです。私もあの粛清は幾分厳しすぎるかと思います。

インタビュアー: ええと、三崎 総司さんでしたかね、風紀委員長の。

対象: …入学したての頃は、彼とはいい友人だったのですがね。彼は闇寿司を憎むあまり、力を追い求め過ぎている。

インタビュアー: 力ですか。力を得ようとする事には何か問題があるのでしょうか。

対象: ええ、これは闇寿司のやり方に近いのです。寿司の持つ超常性、かつて職人達はそれを美味しさへと変化させる術を磨きました。彼がやっているのは、それを無理に力に変えようとするやり方です。

インタビュアー: ふむ、寿司が何らかの超常性を持つというのはあなた方の握った寿司の分析から理解しているつもりです。しかし、映像で確認された「闇寿司」はラーメンをSC…いえ、スシブレードに変化させていました。これはどういうことでしょうか。

対象: いえ、形状や調理法が寿司であるかどうかはあまり関係ありません。より重要なのは「寿司」という概念的枠組みです。

インタビュアー: 概念的枠組み、ですか。

対象: ええ、物理的には寿司では無くとも、強固な寿司の概念を付与されているのです。しかしそれは寿司でないものを寿司と言い張るということ、己を欺くことは寿司職人の誇りを失うことと同義と言えるでしょう。

インタビュアー: なるほど、闇寿司はその、寿司の概念に干渉する能力を持つということですね。

対象: ええ、しかし行き過ぎた能力は代償も大きいと聞きます。その身すらも概念に侵されかねないとか、授業で聞いただけで実際に見た事はありませんが。

インタビュアー: いえ、十分に有用な情報です。今日はありがとうございました。

対象: …先生、僕はアカデミアを出て、職人として経験を積んで、自分の寿司をみんなに食べてもらいたい。その為にも、闇寿司を倒して、美味しいお寿司で皆が笑顔になれる世界を守ってください。お願いします。

インタビュアー: もちろん、それが我々財団の仕事です。それに、食文化の研究者として、その健全な発達を阻害するものは許せません。

対象: それに三崎も。闇寿司を憎むが故に闇に堕ちてしまうなど、あってはならないことです。闇寿司がいなくなれば彼もきっと、優しかった頃に戻ってくれる。

インタビュアー: …いつか2人で、寿司について語りあえる日が再び来ると、そう約束しますよ。

対象: ありがとうございます。

<記録終了>

現在、超常文化学研究室、形而上学研究室、異常概念学研究室の合同で、「寿司の概念」に関する研究が進められています。

補遺3: 2020/2/15、SCP-1644-JPへ接続する未知のポータルが新たに出現しました。このポータルは、SCP-1644-JP内部から、人為的に作成されたと考えられていますが、具体的な作成方法は不明です。この新ポータルの現実空間側における位置は東京都江東区豊洲です。収容は既知のポータルと同様の手順で行われます。

また、このポータルの発見直後、SCP-1644-JP内において、スシアカデミア生徒の1人である三崎 総司氏の行方が不明になっていることが判明しました。寮の部屋には「闇寿司の親方の居場所が判明した」という旨の手紙と、マヨネーズ及び数種類の缶詰4の空き容器が存在していました。

三崎氏は現実空間に侵入したと判断され、現在捜索中です。また、ポータルの人為的作成方法及びその防止策の判明までの間、SCP-1644-JP内部の監視を強化する方針について、スシアカデミア管理者と合意が成立しています。


現行バージョン

アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 民間人のSCP-XXX-JPへの侵入および、SCP-XXX-JP内居住者の現実空間への侵入は阻止されなければなりません。双方向ポータルの現実空間側には財団のフロント企業施設が建設されています。SCP-XXX-JP側のポータルの管理は、SCP-XXX-JP内部に存在する組織「スシアカデミア」に委任されています。

財団はアカデミアとの間に、SCP-XXX-JPの収容状態を維持するための条約を締結しています。現在までのところ、この組織は財団に対し友好的な態度を示していますが、警戒態勢は解除されません。アカデミアとの交渉、情報交換等の交流は、財団渉外部門及び、超常文化学研究室 食文化専門チームによって行われます。

説明: SCP-XXX-JPは東京都中央区築地に存在する双方向ポータルによってアクセス可能な小規模な余剰次元空間です。空間内の大部分が「スシアカデミア」と呼称される施設として利用されており、少なくとも500人以上のアカデミア関係者(生徒・教職員)を名乗る人物の居住が確認されています。

スシアカデミアは超常的な寿司に関連する教育と研究を目的とした機関と推測されます。その教育カリキュラムの大部分に、食品、特に寿司に関連する異常なオブジェクトが利用されています。これにはAnomalousアイテムまたはSCPオブジェクトとして分類されているものも含まれますが、大部分は財団にとって完全に未知のアノマリーです。これらのオブジェクトの入手方法は不明です。

以下に、カリキュラムとして確認されている教科の例を示します。

sushi1.png

スシアカデミア1年次のカリキュラム(指導要領より抜粋)。2年次以降は教養科目は無く、専門科目のみの履修となる。

  • 寿司史
  • お寿司の美味しい握り方
  • 現代寿司学
  • 軍艦設計理論
  • 寿司工学
  • スシブレード概論
  • 「スシとアート」理論/実践
  • 「スシとオカルト」理論/実践
  • 闇の寿司に対する防衛術

その内部における異常なオブジェクトの存在と利用を除けば、その学務上の運営システムは全寮制高等専門学校のものに類似しています。生徒の修業期間は5年間であり、各学年ごとに3クラスが存在します。一方でクラス分類は一般的な専門学校と異なり、恐らく学習成績を基準として「松・竹・梅」に分類されます。このクラス分類は学期ごとに再編されます。

スシアカデミア内部で行われている研究活動は、異常な食材の取り扱い方法の開発に高度に特化しています。財団はアカデミアとの交流を通じ、これまでに15のSCPオブジェクトの収容プロトコルについて効率性・安全性の向上に応用可能な技術や知識を得ており、情報の獲得を目的とした交流は今後も継続される予定です。以下に初回調査の記録を示します。

調査記録01

担当者: 小樽博士(超常文化学研究室所属)

付記: 調査は、スシアカデミア側からの案内人(焼津 寿一郎氏)を同行させる形で行われました。

<記録開始>

小樽博士: では記録を開始します。まず、案内人の方、カメラに向けて自己紹介をお願いできますか。

焼津氏: はい。私はこのアカデミアで生徒会長を務めております、焼津 寿一郎と申します。本日は先生方からお客様のご案内をするようにと言われております。よろしくお願いします。

小樽博士: ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。

焼津氏: 早速ですが、まずこちらのお寿司を召し上がっていただけますか。

小樽博士: これはシメサバの握りですか。しかしなぜこのタイミングで。

焼津氏: ここスシアカデミアでは、初対面の方に対し、ご挨拶の代わりに自分の最も得意とするお寿司を握るのが礼儀とされています。

小樽博士: なるほど。ありがたく頂きます。

[小樽博士が寿司を摂食する。]

小樽博士: おお、これは美味しい。こんな美味しい寿司は初めて食べたかもしれません。

焼津氏: 恐縮です。

小樽博士: では味の感想や分析を用紙に記録しますので少々お待ちください。それと焼津さん、いくつかこの寿司について測定をさせて頂きたいのですが、よろしいですか。

焼津氏: 構いませんよ。

小樽博士: では、失礼します。

[小樽博士が測定装置を寿司に向ける。]

小樽博士: これは興味深い。焼津さん、我々が帰る前にも同じものを握っていただけますか。サンプルとして持ち帰り、より詳細に検査を行いたいので。

焼津氏: わかりました。ネタはシメサバだけで大丈夫でしょうか。

小樽博士: いや、可能な限り多い方がいいですね。ですが無理はしなくても。

焼津氏: いえ、大丈夫ですよ。そうと決まれば厨房室へ行きましょう。こちらです。

[以降、焼津氏が調理した寿司を、小樽博士が摂食し、データ測定を行う様子が記録されている。]

<記録終了>

saba.jpg

焼津氏が調理した寿司(上)とアスペクト放射強度を元に着色された画像(下)。

小樽博士による測定の結果、焼津氏が調理した寿司(以下Y群)のアスペクト放射強度は約600Csp(キャスパー)~700Cspであることが判明しました。通常の寿司はバックグラウンド放射と同程度(約100Csp)か、食材が生前保持していたEVEの残渣によって少し高くなる程度であり、最大でも200Cspを超過する事はありません。この高EVE密度は、食材の鮮度保持の効果がある他、摂食による官能試験の結果は食味を向上させる効果があることを示しています。また、いくつかの寿司に関連する異常オブジェクトを用いた試験でも、その異常性の発現に際して、一般的な寿司との有意差が生じました。試験結果を以下に示します。

試験記録01

対象寿司: Y群: イクラの軍艦巻き。対照群: 一般的なイクラの軍艦巻き。

対象オブジェクト: SCP-389-JP

試験方法: 対象寿司をSCP-389-JP-1-A,Bに曝露させた。その際、対戦の様子を観察するため、Y群をSCP-389-JP-1-A、対照群をSCP-389-JP-1-Bに分けて曝露させた。

結果: 生じたSCP-389-JP-2-Aは目視可能範囲が半径2.5m程度にまで拡大し、最高速度は1.75cm/sを示した。対照群(SCP-389-JP-2-B)と戦闘を行わせた結果、破壊力、耐久力共に向上が見られた他、戦術の高度化が確認された。

試験記録02

対象寿司: Y群: マグロの赤身の握り寿司。対照群: 一般的なマグロの赤身の握り寿司。

対象オブジェクト: SCP-571-JP

試験方法: 対象寿司のネタとシャリを分離した(この際にEVEの散逸がない事は確認済み)。その後、そのネタとシャリを用いて、SCP-571-JPによるプロトコル西行を実行させた。

結果: 生じたSCP-571-JP-1は、対照群と比較して運動能力が向上していた。移動速度は平均0.53cm/s 、跳躍高度は平均21.7cm上昇した。また、単純ながら知性的な行動をしている可能性が指摘された。これに関する追試験は手法確立まで保留とする。

付記: 試験中、SCP-571-JPは対象寿司について、「美味しく食べられたいという気持ちがより強くなっている」とコメントした。

試験記録03

対象寿司: Y群: シメサバの握り寿司。対照群: 一般的なシメサバの握り寿司。

対象オブジェクト: SCP-1134-JP

試験方法: 対象寿司をSCP-1134-JPの店舗へ持ち込み、SCP-1134-JP-1へ変化させた上で「スシブレード」競技に使用させた。競技はDクラス職員2名(D-1892, D-1742)によって行われた。

結果: Y群を元にしたSCP-1134-JP-1は対照群に対し、90%の勝率を記録した。回転数は秒間15~20回程度増加した。

付記: SCP-1134-JP-1の名称は、対照群が「シメサバスター」だったのに対し、「シメサバスターXXダブルエックス」であった。"XX"が何を意味しているのかは不明。

スシアカデミアの内部事情の把握と、焼津氏以外の生徒の寿司サンプルの入手を目的とし、さらなる調査が行われました。

調査記録02

担当者: 小樽博士

付記: 調査は前回同様、スシアカデミア側からの案内人(焼津 寿一郎氏)を同行させる形で行われました。

<記録開始>

小樽博士: ではこれより調査を開始します。案内人は前回調査と同じく、焼津 寿一郎さんです。よろしくお願いします。

焼津氏: よろしくお願いします。本日は私以外のお寿司のサンプルが必要なのでしたよね。

小樽博士: はい。誰かいらっしゃいますでしょうか。

焼津氏: そうですね…では教育棟の5年生教室の方へ向かってみましょうか。今は放課後ですから誰かいるかもしれません。

小樽博士: しかしこの学校、随分と広いですね。前に伺った時はこんなに大きいとは思いませんでした。

焼津氏: 前回は厨房室のある実習棟しか行きませんでしたからね。このアカデミアは教育棟、実習棟、研究棟、管理棟、魚の養殖や米の栽培を行っている野外エリア、学生寮のある居住エリアに分けられます。

小樽博士: どれくらいの広さがあるものなのですか。

焼津氏: そうですね…正確な数字は知りませんが、先生が東京ドーム50か60個くらい…などと話しているのは聞いたことがあります。と言っても幼い頃から寿司の修行ばかりで、東京ドームというのがどういうものなのか良く知らないのですが。

小樽博士: いえ、ありがとうございます。正確な数字は恐らくここの管理者の方々に問い合わせれば分かるでしょうから。…ところで何か変な音がしませんか。

[爆発音。気絶しているらしき生徒がカメラの方に吹き飛ばされてくる。]

小樽博士: 落ち着いて、安全確認をしてください。

[口笛と推定される音声。一般的な寿司と比べて明らかに巨大な軍艦巻きが隊列を組んで出現する。]

焼津氏: この口笛と軍艦は。

小樽博士: 知人ですか。

焼津氏: ええ。本校の風紀委員長、三崎 総司くんです。三崎くん、どうしてこんなことを。お客様も来ていらっしゃるのだから、失礼な行動は慎みたまえ。

三崎氏: おや、それは失礼いたしました。あとでお詫びに伺います。しかし今は委員会の業務中なので、少々お待ち頂きたい。…さぁ、生徒会長さん、そこの梅野郎5をこちらに引き渡しては貰えないだろうか。

焼津氏: 委員会の業務だと。一体なんの権限があって人をこんなに傷つける。寿司は人を傷つけるためにあるんじゃない。

三崎氏: …アカデミア校則第12条6だ。僕の寿司は人を守るためにある、闇寿司なんかと一緒にするな。

焼津氏: 第12条…闇寿司思想か。だが、この子のことは知っているぞ、成績こそ振るわないが、真面目で人柄のいい生徒だったと記憶している。彼が一体何をしたというんだ。

三崎氏: 梅野郎を庇い始めるとはな。…そいつはな、寮の部屋にマヨネーズを隠し持っていたんだ。そうしてそれを問い詰めると、新たな寿司の可能性の探求などと梅のくせに生意気なことを抜かしやがる。

焼津氏: 梅だの松だのは関係ないだろう。

三崎氏: いいや、能力の無いものがそれを誤魔化すために寿司の基本を疎かにし、邪道な素材に頼り始める。それが闇寿司堕ちの可能性が最も高い行為なのだ。

焼津氏: だからってそんな、こんなこと許されるはずが…。

三崎氏: こうでもしなければアカデミアは、ひいては日本の超常寿司界は闇に飲まれる。君の父親の様な犠牲も増えることになるぞ。…とはいえ、お客様の前でこれ以上の面倒ごとは避けたい。ここは退いてやるから、その梅野郎を医務室に運んでおけ。それと、お客様を応接室にご案内しておけ。じゃあな。

焼津氏: 三崎くん…どうして君は変わってしまったんだ…。いえ、失礼しました。お見苦しいところを見せてしまいましたね。

小樽博士: いえ、興味深い記録が取れました。気絶した生徒さんを運ぶのも手伝いますよ。

焼津氏: ありがとうございます。

[小樽博士らが応接室へ向かうと、寿司折と簡素な謝罪文が置かれていた。]

<記録終了>

記録中で確認された三崎氏の口笛にはSCP-389-JP-1に類似する効果が存在する可能性が指摘されています。また、寿司折内に確認された寿司は全て、焼津氏が調理した寿司と同様の高アスペクト放射を持っていました。

三崎氏が調理した寿司サンプル(以下M群)についての試験結果を以下に示します。

試験記録04

対象寿司: M群: イクラの軍艦巻き。対照群: 一般的なイクラの軍艦巻き。

対象オブジェクト: SCP-389-JP。

試験方法: 試験記録01と同様。

結果: 生じたSCP-389-JP-2-Aは目視可能範囲が半径3.0m程度にまで拡大し、最高速度は1.95cm/sを示した。対照群(SCP-389-JP-2-B)と戦闘を行わせた結果、その破壊力、耐久力及び戦術性はY群由来のSCP-389-JP-2を上回っていた。また、SCP-389-JP-2以外の物体に対し、小規模ながら損害を与える破壊力を獲得した。

試験記録05

対象寿司: M群: マグロの赤身の握り寿司。対照群: 一般的なマグロの赤身の握り寿司。

対象オブジェクト: SCP-571-JP。

試験方法: 試験記録02と同様。

結果: 生じたSCP-571-JP-1は、対照群と比較して運動能力が向上していたものの、Y群と比較すると低下した。移動速度は平均0.37cm/s 、跳躍高度は平均16.1cm上昇した。

付記: 試験中、プロトコル西行に要する時間が、15%程度増加していることが判明した。このことについて、SCP-571-JPは「美味しく食べられたいという気持ち以外の雑味がある」とコメントした。

試験記録06

対象寿司: M群: ネギトロの軍艦巻き。対照群: 一般的なネギトロの軍艦巻き。

対象オブジェクト: SCP-1134-JP。

試験方法: 試験記録03と同様。

結果: M群を元にしたSCP-1134-JP-1は対照群に対し、97%の勝率を記録した。回転数は秒間20~25回程度増加した。

付記: SCP-1134-JP-1の名称は、対照群が「ネギトロイヤー」だったのに対し、「ネギトロイヤーZZダブルゼット」であった。"ZZ"が何を意味しているのかは不明。

調査記録中で確認された「闇寿司」については完全に不明です。(2019/4/28 追記) SCP-1134-JPに関連して発生した事案において、「闇寿司」の名称が確認されました。「闇寿司」はGoI-8144に指定され、警戒度 高に分類されました。以下はGoI-8144に関する情報収拾のための聴取の記録です。

聴取記録01

インタビュアー: 小樽博士

対象: 焼津 寿一郎氏

<記録開始>

インタビュアー: では焼津さん、よろしくお願いします。闇寿司について、あなたの知っていることを教えてください。

対象: はい。闇寿司というのは寿司職人の誇りを失い、邪道に堕ちた者の組織であると、このアカデミアでは教わります。しかし、それだけではありません。彼らは人間としての正義や倫理すらも捨て、外道に堕ちた存在です。

インタビュアー: ふむ、その様子では個人的な因縁のようなものがお有りですか。

対象: ええ、私の父は…闇寿司の奴らに。いえ、命まで取られたわけではありません。ですが、寿司職人にとっては命に匹敵する重さである、手を潰されてしまったのです。

インタビュアー: なんと、そのような事が。

対象: 闇寿司の奴らは他人の技術を奪い、そしてそれを独占するために、一切の躊躇なく人を傷つけます。寿司はそんな事のためにあるんじゃ無いのに。父の技術は寿司で人を幸せにするために生まれたものなのに。

インタビュアー: …なるほど。そう言えば、前にアカデミアに伺った際に「闇寿司思想」という言葉が出ましたね。アカデミアの内部にも闇寿司の者がいるのですか。

対象: いえ、それは無いと思います。闇寿司思想は闇に堕ちる可能性のある思想に対する指定であって、あくまでも「闇寿司予備軍」です。適切な指導が為されれば問題ないはずです。私もあの粛清は幾分厳しすぎるかと思います。

インタビュアー: ええと、三崎 総司さんでしたかね、風紀委員長の。

対象: …入学したての頃は、彼とはいい友人だったのですがね。恐らくは父親の影響で変わってしまったのです。彼の父親は協会の幹部ですから。

インタビュアー: 協会とは何ですか。

対象: 「回らない寿司協会」です。かつては「江戸前寿司協会」と名乗っていましたが、80年代から90年代にかけての日本社会での寿司のあり方の変容によって今の形になったと聞いています。

インタビュアー: 寿司のあり方の変容…もしや回転寿司の全国展開ですか。

対象: ええ、元々寿司は他の食べ物と比較して超常現象に縁のある物らしいのです。それを管理していたのが江戸前寿司協会でした。言わば食の正常性維持機関ですね。

インタビュアー: 食の正常性維持機関ですか…。いえ、続けてください。

対象: はい。しかし、回転寿司の全国展開に伴う寿司産業人口の増加は、異常な寿司の発生を加速させました。協会も規模を拡大せざるを得なくなり、回転寿司に対抗するという意図を込め「回らない寿司協会」と名を変えたそうです。財団の皆様が収容されている異常な寿司も、本格江戸前寿司というよりは回転寿司屋で発見されたことが多いのではないですか。

インタビュアー: ふむ、確かにそうかも知れません7。協会の設立はいつ頃なのですか。

対象: 江戸末期から明治の頃…と習います。しかし、重要な内容は恐らく意図的に、寿司史の教科書には載せられていません。

インタビュアー: ありがとうございます。次に、寿司が超常現象に縁のある食べ物という点についてもお聞きしたいです。寿司の形や握り方に何らかの関係があるのでしょうか。

対象: いえ、物理的な形状はあまり関係ありません。より重要なのは「寿司」という概念的枠組みです。

インタビュアー: 概念的枠組み、ですか。

対象: はい。闇寿司の人間が寿司以外の食べ物を使っているところを見たことがありませんか。あれは物理的には寿司ではありませんが、強固な寿司の概念を付与されているのです。しかしそれは寿司でないものを寿司と言い張るということ、己を欺くことは寿司職人の誇りを失うことと同義なのです。

インタビュアー: これは…なかなか珍しい事例ですね。非常に興味深い。

対象: と言いますと、寿司以外の食べ物ではそう言ったことはあまり無いのでしょうか。寿司以外の食べ物には詳しくないものですから…。お恥ずかしい。

インタビュアー: そうですね、多くの超常的な食文化においては、食材を用いた「見立て」による原始的な魔術が中核をなしていることが多いものです。今回のケースのような、概念に踏み込むというのは珍しいケースですね。詳しく説明すれば長くなってしまいますが…。

対象: 先生は本当に食について経験を積まれているのですね。僕は寿司のことばかりで、未熟さを思い知りました。

インタビュアー: いえ、一つの事を極めると言うのも立派な事だと思いますよ。

対象: …先生、僕はアカデミアを出て、広い世界を見てみたい。そして、職人として経験を積んで、自分の寿司をみんなに食べてもらいたい。その為にも、闇寿司を倒して、美味しいお寿司で皆が笑顔になれる世界を守ってください。お願いします。

インタビュアー: もちろん、それが我々財団の仕事です。それに、食文化の研究者として、その健全な発達を阻害するものは許せません。

対象: それに三崎も。闇寿司を憎むが故に闇に堕ちてしまうなど、あってはならないことです。闇寿司がいなくなれば彼もきっと、優しかった頃に戻ってくれる。

インタビュアー: …いつか2人で、寿司について語りあえる日が再び来ると、そう約束しますよ。

対象: ありがとうございます。

<記録終了>

現在、超常文化学研究室、形而上学研究室、異常概念学研究室の合同で、「寿司の概念」に関する研究が進められています。しかしながら、GoI-8144に繋がる有力な手がかりは得られていません。


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  1. portal:2081491 (20 Nov 2018 12:13)
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