面談

妻子の死を思い返していた。あと数秒もすれば、ダイニングテーブルには家族3人の朝食が並ぶ筈だった。
視界の下方で揺れるネクタイを乱雑にシャツの胸ポケットへと突っ込み、少々勢いよく背後の回転椅子に腰を下ろす。さて、手を合わせよう。そう思って上げた目線の先で、笑みを向ける2つの顔が、こちらを見つめる4つの目が、歯が、頰が、同時に砕けて左方へ弾けた。
細く小柄な身体が力を失い、朱肉の様な見慣れぬ色を被ってフローリングへと崩れ落ちた。手元から零れたサラダボウルが、そこに陶器の硬く甲高い音を重ねて散らばった。ぐるりと回った椅子から顔を出す赤黒い塊に、U字と並ぶ白く小さな乳歯の列が見えた。塊はゆっくり横へ移動したかと思うと、そのまま音を立てて転げ落ちた。背もたれに隠れていたそれには、小さな胴体が付いていた。
眺めている訳でもない、ただただ硬直した視界の中で、その光景だけがゆっくりと動きを止め、

右方で半開きのカーテンは微かな風に揺れ、そこから覗く窓は割れている。そして呆然と見つめるその目の前で、何かが音を立て、空気と共に爆ぜた。

覚えているのは、そこまで。
もう、何度目になるのかもわからない。
辺りの強烈な寒さが、肌を削ぎ落とす様な痛みを薄いシャツ越しの全身に押し付けている。冷気のナイフは血液の代わりと体温を乱暴に奪い取り、雪空の下の暖かい異物を、己で塗り潰さんとしている。自分の身体が、生きているのか死んでいるのかもわからない。ただそこに重なるが如く宿っている意識は、一切の理解が届かぬ状況に打ちのめされ、朧に霞んでいる。ただ、幻を。ほんのしばらく前に目にした筈の恐ろしい光景を、何度も脳裏に繰り返し、咀嚼しようとしていた。

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