ステゴロコン「汝、その名の通りあれ」

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破壊試験・実弾射撃が行われた箇所を示す。

アイテム番号: SCP-2742-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-2742-JPは、大型自航式浮きドックFDD-150に収容されています。対象は、浮きドックへの収容に際し、次の通り処置を行っています。
1)主砲身の取り外しと陸揚げ保管。
2)主砲塔を除く兵器の撤去並びに撤去後開口部の閉塞。
3)重油燃焼缶の内、半数のみ稼働状態を維持。
4)主舵の可動範囲を制限。
5)レーダーおよび通信設備の撤去。通信設備は代替としてコンテナ可搬式を設置。
6)艦内にびらん剤散布路と付属設備を新設。

浮きドックFDD-150は、《表示制限》に設置された財団管理下の港湾施設に停泊しています。収容対象は、大西洋広域哨戒プログラムによる間接護衛対象として指定されます。

SCP-2742-JPへの敵対的組織による奪取が行われた場合、当直職員は浮きドックを自沈させ、びらん剤散布装置を作動させて艦内を汚染してください。また、指定された箇所の電路と燃料供給装置を遮断してください。浮きドックが自沈すると同時に大西洋上の警戒グループへ通報が行われます。対処チームは侵入者を排除し、代替の浮きドックか曳船到着まで現場を維持してください。

説明: SCP-2742-JPは、1916年から1946年にかけてイギリス海軍及びオランダ海軍で就役していた超ド級戦艦HMS Impregnableです。同艦はオランダ海軍の発注により建造されましたが、当時の情勢から就役期間の大半をイギリス海軍所属していました。

SCP-2742-JPは、原理が解明されていない異常な破壊耐性を有しています。HMS Impregnableは、Queen Elizabeth級戦艦に準じて設計されていますが、設計の想定範囲を超える攻撃を受けても装甲・非装甲区画を問わず損傷を与えることができません。また、乗組員も外部からの攻撃より完全に保護されるため、SCP-2742-JPの構成物と見做されると考えられます。ただし、外部からの攻撃に依らない負傷、及び疾病から保護されないことは就役期間中の記録と収容後の実験から確認することができます。

別添資料では、HMS Impregnableの艦歴と主たる被弾状況を示しています。被弾状況は各種記録と照合を行い、確実と考えれれる記録のみを計上しています。不確定な事例も含める場合、被弾数は2倍ないし3倍となります。

破壊耐性には、既知の異常技術の介入や空間異常の発生は認められていません。異常性の起源については、構成部品起因説と特定人物起因説の2つが提唱されています。各説について、肯定または否定できる決定的な証拠は発見されていません。

(1)構成部品起因説
艦を構成する特定の部品によって、破壊耐性がもたらされていると主張する仮説です。HMS Impregnableは、整備や近代化改装、収容時の措置などによって取り外された構成部品が多数現存しており、それらに対して破壊試験や実弾射撃が行われましたが、異常な破壊耐性は確認されませんでした。異常性の原因となる部品が極めて小型、または取り外しての検証が困難な構造部材、あるいは複数の組み合わせに依る異常性発現が考えられます。

(2)特定人物起因説
異常な破壊耐性の原因が、特定の人物に依ると主張する説です。しかしながら、HMS Impregnableの建造から除籍までの全期間に渡って関与できた人物は発見されておらず、2019年に乗組員最後の生存者であったAlistair Douglas McCutchan氏の死去後も破壊耐性に変化が無かったことから、特定人物についての再調査が必要となります。1920年代に行われた近代化改装時に、装甲と船体の隙間から建造時に行方不明となっていた工員と思われる白骨死体が発見されましたが、遺体の撤去後も破壊耐性に影響がないため無関係と考えられます。

SCP-2742-JPは、関連する人物と記録が多岐に亘るため、隠蔽手順「正しい歴史」が適用されます。段階的に対象の記録の差し替え、出版広報による事実の矮小化が行われています。


別添資料:HMS Impregnableの艦歴と主たる被弾状況


補遺:「忘れ去られる軍艦史」におけるAlistair Douglas McCutchan氏の回想欄

以下の文章は、隠蔽手順「正しい歴史」により編集・出版された「忘れ去られる軍艦史」に掲載が予定されていましたが、出版前にAlistair Douglas McCutchan氏が死去したため、オブジェクトの記録を縮小すべきとの判断から削除されました。

私がImpregnableに配属されたのは、彼女がH部隊に配属された時期とほぼ同じでした。1943年の4月に一度配置換えになりましたが、今度は東洋艦隊への編入と同時に出戻って来たわけです。その後は1945年の、確か2月だったしょうか、食中毒になってしまって艦を降りたのです。

艦を離れるときは、それはもう心細くてたまりませんでした。どんなに酷い戦場に放り込まれても、彼女なら絶対に我々を連れて帰ってくれるはずという奇妙な信頼があったわけですから。私は幸運にも生き延びましたが、艦を降りてから戦死してしまった友人を何人も知っています。上は艦長から下は水兵まで、転属を言い渡された時はみんな本当にがっかりしていましたね。

私は、ずっとポンポン砲やエリコン機銃の装填手をしていたので、敵が良く見えました。本当に怖かった。でも、不思議なことに沈むと思ったことは一度もありませんでしたね。ただの一度もです。

乗組員の間では、もっぱら名前とモットーの組み合わせが良かったんだろうと話をしていました。モットーは、今でも一字一句間違えずに覚えています。忘れるわけがありません。軍艦旗や部屋のハンモック、食堂やトイレにまで掲げてあったのですから。

彼女に掲げられていたモットーは、Nomen est omenです。

退役するまで、彼女はその名の通り難攻不落だったわけです。

注記: 文章中のモットーに関する箇所について、収容時の艦内調査では該当する遺留物は発見されませんでした。


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