後任の管理者である君へ、これを送る。
以下は███-███-JP発見時の音声記録である。
日付: 20██年█月█日
対象: エージェント・水野、神瀬研究員
担当: エージェント・安樂
<記録開始>
安樂: こちら、エージェント・安樂。通信が受け取り次第、返答と現状報告を求む。どうぞ。
水野: はい、こちらエージェント・水野。最深部には箱がありました。対象が何故ここに保管されていたかは不明。どうぞ。
安樂: 了解した。では、本通信に切り替える。引き続き、明細な特徴と予想される異常性の報告を。
水野: 対象は木製の小型の箱です。箱自体に損傷はなく、施錠もされておりません。既に他の罠は全て解除しました。いつでも動けます。
安樂: 開封を許可する。
水野: 了解。
(複数の足音。後に、木箱が小さく軋む音が反響する)
水野: 報告します。中身は空です。
安樂: 空? そんなことがあるのか?
(幾人かがフレーズを交わし合うのと同時に、金属音が収録される)
神瀬: こちら、研究員の神瀬です。現場での検査を完了しましたが、本当に何もありません。何の異常性も感知できない、ただの木箱のようです。精神汚染を疑うことも難しいかと。
水野: 代わりました、エージェント・水野です。私も同様の見解です。恐らく、SCiPである可能性は低い、あるいは過去に異常性を喪失したものと考えられます。
安樂: 既にGOCが破壊済ということか。
水野: よって、以上の見解により、最寄のサイト-81██に機動部隊の緊急出動と対象の速やかな収容を要請します。
安樂: 待て、お前らは何を言っているんだ。……詳しい話は後程聞く。よって、先程の要請を受理する。機動部隊の到着後、対象と共に当サイトへ速やかに帰還せよ。
水野: 了解。
<記録終了>
まだ就任したての君は、この情報に困惑することだろう。
然し、以上に合わせて、オブジェクトの分析を担当した清松研究員が、私に提出した報告書の引用を見て欲しい。
オブジェクト認定は元より、Anomalousアイテムに指定することも憚られる品です。何故これを機動部隊を緊急出動させてまで収容する必要があったのか、理解に苦しみます。対象は直ちにSCPオブジェクトとして認定し、他のオブジェクトにも勝る厳重な収容体制下に置くべきであると、強く上申します。 - 清松研究員
財団職員にあるまじき支離滅裂な言動に、音声記録にも表れた異常性。
私の推測だが、明確にアレの実体や名称を認識し、本当は"宝箱”ではなく、ただの"████"だと気付くことが精神汚染のトリガーとなっている。
恐らく、アレにはGOCすらも翻弄されたのだろう。
ましてや、「収容」を主軸に置く財団がアレに関われば、それこそ致命的な特攻となる。中身の真相に気付くことを恐れるように、或いは"宝箱"に触れた者を喰い殺すべく、このような精神異常へと変貌する。
だが、逆説的にだが、音声記録のみの認識であれば汚染から逃れることができるかもしれない。
決して、アレの報告書や本体を見てはいけない。一覧もだ。
そう気付かせるギミックが既にアレによって仕組まれている。
一刻も早く対象を"正しく"収容しなければならない。
もし君がダメだった場合、次に就任する誰かなど、これから初めて対象に "触れる" 者へ頼みたい。