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「それで、このあとはどうするつもり?」
向かいの席に座る先輩はナポリタンをすすりながら聞いてくる。なかなかに行儀が悪い。午後の日差しが食堂に差し込み自分に深い陰をつくるのがわかる。大学時代からの付き合いということで未だに彼を先輩と呼んでいる。研究員になった自分と違い、先輩はFAとして財団に勤めているので先輩と呼び続ける必要はない。だけどいつの間にか惰性で先輩と呼んでいる自分がいる。
担当していたオブジェクトの異常性喪失を先輩に話したのはこのもやっとした気分を解消してくれるかと思ったからだ。
「どうするといわれても。上が新しい配属先を教えてくれるのでそれ次第ですね」
「え、上が決めてくれるの?」
知らなかったらしい。
「でもなんか名残惜しいな、だって財団入ってからずっと担当してたオブジェクトでしょ。」
痛いところをつかれた、と思う。周りが変人しかいない分、特定の分野に特化することで個性を出していた、いままでは。しかし財団に入ってからずっと担当していたオブジェクトが異常性を喪失した今、置いていかれたような気もする。
「でも仕方ないですよ、まぁ新しい配属先でも頑張ってみます。」
そう答えるしかない、ないのだ。
その後は少し雑談をしてランチを終える。先輩はこの後重要な任務があるとかですぐに食堂を出て行ってしまった。
シーン2
新しいオブジェクトは前と同じ現実性に関わるものだった。当たり前だ。だけども少しほっとしている自分もいる。以前からこのオブジェクトに関わっていた人に追いつこうと報告書をよく読み込んでいたおかげだろうか。ここにもすぐになれることができた。
シーン3
先輩が死んだらしい。まだ実感はわかない。
先週の葬儀で自分は泣けなかった。最後にあったとき、先輩を引き留めていたら自分は少しましになれただろうか。
「それで、このあとはどうするつもり?」
先輩の声がリフレインする。自分はどうすればよかったのだろう。インクの染みが広がっていく。
確かにあのときまで感じていた劣等感は消えた。新しい友人だってできた慣れない配属先でも頑張っている。それは幸せではないのか。
それだけ?胸が締め付けられるような感覚。
あのとき先輩に聞いて欲しかったことはそんなことじゃない。今思うべきこともそんなことじゃない。
大学のときから先輩とは仲が良かった、なんとなく苦しいときでも先輩が現場で頑張っていると自分を元気づけた。最後にあったランチタイムだってそうだった。
だったらなんで先輩の死に何も感じない。
違うのかもしれない。大学を出てすぐに財団に入った。周りはみんな自分の信念を持っていて、先輩もその一人だった。自分はここにいてはいけない。ある種燃えるような気持ちは一つのオブジェクトを担当し続けることで抑えた。でもそのオブジェクトが異常性を失ったとき自分はどうした。
自分は最後に先輩に会ったとき、どんな気持ちでいたか、自分が先輩の死に何も感じないのは今あるものに、先輩に、目を背け続けたからだ。
元から自分の中に先輩はいなかったらしい。
血の気が引いていく気がした。そう思いたかっただけかもしれない。
瞼を閉じる。少しでも早くこのことを忘れたくてデスクの上の書類を整理する。
六畳一間のこのアパートは壁が薄い。右隣の部屋から賑やかなテレビの音が聞こえてくる。テレビなんて退職金で買える、がそんな気分にはなれなかった。数年間勤めていた企業を急にやめた理由は自分にすら分からない。なんとなく、と形容するのが一番正しい気もする。だからといっていままで住んでいたマンションを出ていってこんなボロアパートに住む必要もなかったけど。
あらためて周りを見渡すと食べ掛けのポテチやら捨て忘れたごみ袋やらが散らかっている。以前の自分ならすぐにでも整理しただろう。
電気もつけずに自分は何をしているのだ。数少ない所持品のうち最も大きいであろう布団に、掛け布団の上から体を埋める。今夜はこのまま寝てしまおうか。
いつの間にか朝になっていたらしい。階段の軋む音で目が覚めた。右隣に住む人とはどことなく違う足音だ。自分の部屋の前で足音が止まる。誰だろう?
「初めまして。私、今度隣に越してくる高木というものです。」
瞼を開ける。その声に聞き覚えはない。だけど
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