三々夏

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初夏の章

 ━━ガッ、ガー━━
 唐突に厭なノイズが耳を障った。
 ああもう、やかましい。こっちは眠たいんだ……いや待てよ。これは、何処かで聞き覚えのある……なんの音だったろう……。
 思い出そうにも頭はうまく回ってはくれない。まさに鈍化したというにふさわしい有様である。しかし直後、これまた厭なアナウンスが耳の奥を叩きつけた。
 ━━録音を開始します━━
 もしかすると俺の愚図な頭は古いブラウン管テレビと同じ仕様なのかもしれない。瞬間ストンと、その合成音声の正体が落ちてきた。
 そうか! 思い出したぞ! 何かと思えば、あのクソッタレどもの寄越した厭にデカい録音機の駆動音じゃないか。いくらメモリ容量が足りないからといって、無理矢理いくつもメモリを増設するのは頭が悪過ぎる。お前らは頭を使うのが仕事だろうとあれほど……。
 ━━あの……お客様━━
 ふと、今度は聞き覚えのない声がした。合成音声ではない。くだらない講釈を繰り広げた頭はすっかり眠気など霧散している。恐る恐る目を開くも、光が目を刺すことはなかった。
「あっ起こしてしまってすみません。こちらの機械が勝手に動いてしまっていて……」
 こちらを見下ろすようにして女が立っていた。その困り顔をした女、いやそれだけではない。視界の全てが古い洋画かのように色褪せて見えるのだ。ついに目がイカれたかと思った俺は目を擦ろうとして、またもや驚いた。もたげた袖はオレンジの蛍光色を放っていた。
 ゆっくりと起き上がった。自分を支えるソファを含め、天井も、壁も、その女も、全てが色褪せている。けれどもやはり、自分の身に纏ったジャンプスーツは同じ蛍光色で。手も、件の録音機も、鮮やかな色だ。よかった、俺は正常だ。そう胸を撫で下ろす。いやしかし。セピア色の視界の中、今の自分の姿はあまりにケミカル甚だしい。すると厭なことが思い立った。もしかするとこの空間こそが正常で、異常なのはむしろ自分の方ではないのか。それは不思議と胸にこびり付いて、そして早々に取り払われることになった。
「お客様……? 大丈夫ですか?」

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