親子とは 明日へ

このぺージは削除されていません。

下記ぺージは削除用カテゴリに置かれています。
draft:6546777-22-f3db

ページを完全に削除するには「オプション」から「削除」を選択し、「ページを完全に削除する」にチェックをいれてから削除してください。


親子とは決戦の続きになります。





アベルは地殻を突き破り、落下している。
地表を崩壊させ、災厄をばらまきながら、奥へと。
その衝撃で惑星に激震が走り、海が氾濫している。だが、それすらを無視するかのごとくアベルは突き進む。
無限に、奈落の底まで。
果てのない失墜。

「来たか、やっと」

落ちていくアベルを、そっと眺めるものがいた。
納得したように吐息を漏らした。

「ここまで狙いどおりの場所に落としてくれたようじゃな、ありがたいものじゃ」

それは私のお母さんであった。
優麗な銀髪。
朱色と白で構成された巫女服。
鋭い眼光には光が強く灯っている。
その隣にはお兄ちゃんが決然と立っていた。
アベルがあけた大穴のその中途、抉り抜いた地中の出っ張りのひとつに、足を落ちつけている。
すぐにでも崩れそうな、突きだした岩だ。
その真下は、暗黒の世界。
今でもアベルがつくりだしている奈落が、拓けている。
感心したように、業火に焼かれているアベルを見据え、お母さんは吐息を漏らした。

「生き残った財団が3001を利用し、改変して作り上げた地獄の入口。あらゆるものであろうと一度入ったら二度と戻ることは叶わない」

その視線の先に、奈落の底へと撃墜せんとする彦名さん達が奮戦している。
財団が選択した答えは、『財団という組織がある世界』と『財団という組織がない世界』に分け隔てること
奈落の底に、過去の世界に終末を閉じ込める。
静まりかえった空間で、お母さん達は佇む。

「これが、『財団』の選択。アベルを含めた全てのSCPオブジェクトを抱えこみ、抑え込みつづける。
我等『財団』が人類に対しての最大で最後の奇跡であり、けじめじゃ。せめてもの情けじゃ、許してくれ」

「しょうがないですよ」

応える声がある。
長身のお母さんの陰に、佇む。
こんな時なのに少し抜けている感じがする。
スーツ姿で、寂しげにお母さんを見る。
私のお兄ちゃんだ。
お兄ちゃんは、吐息をゆっくり吐く。

「それが、僕達の作戦ですから。世界の滅び、破壊の権化であるアベルさんに対しての、万策」

頭を揺すって、語る。

「『改変』に『改変』を重ね、繋ぎあわせた無限地獄の入口に、アベルさんを誘導し、世界を分別する。邪悪の権化は奈落の底へと落とし、収容する。もう二度と我等『財団』がこの世界に関わらないように」

落ちていくアベルを、寂寞とした双眸で眺める。

「禍々しきもの、邪悪なものは全て封印する。動物を逃がさないよう檻に鍵をかけるように別世界に秘する。汝一切の望みを捨て、門をくぐれ。もしかすると地獄とは元来、そういうものかもしれないのう」

瞑目する。

「アベルはリリスの生まれ変わりである深雪をどこまでも追う。殺すために、壊すために。故に我等はアベルをわざと惹き付ける。だから我等は人類と共に歩めない。人類のそばにいれば、アベルを招く恐れがあるから、我等『財団』はここで消える。『財団』は1人で生きていく」

大地の遥か向こう、夜空を見上げ、優しく微笑む。

「深雪を含めた人類は、我等が用意した新世界で、『財団』も『SCPオブジェクト』もない楽園で、幸せに暮らす。『SCP財団』の関わらない、人類自身の歴史を紡いでいく。棲み分け。それが我等のとった答え。何の恐怖も不安もないこの現代では、何ら不自由なく暮らしていける」

「それはそれで寂しいですね….」

お兄ちゃんは、少しうつむき言った。

「仕方ないことじゃ。アベルは強大すぎる、殺すことは不可能じゃが、弱らせ、永遠にこの地獄に押し留め、収容することは可能じゃ。そのために我等『財団』は全身全霊をもって頑張る」

言ってから、ふと思い出したようにお兄ちゃんは言った。

「そう言えば、今雲雀さん達はどこにいるのでしょうか?地上当たりで感知できなくなったのですが?」

「よいじゃろ、どちらにせよこれから『財団』の世界の全てが地獄と一体化する、そして閉じる。彼女等も地獄に収まるだろう。特にお前や雲雀、彦名などは深雪や他の人々と深く関わってしまったから、寂しいじゃろ。だが、『財団の人間』である以上は深雪と共に暮らすことはできない。別れじゃ」

自分たちのやることを再確認して、お母さん達は重々しく頷きあった。

「さて話は終わりじゃ、まだ全てが終わったわけじゃない。二度とアベル達がこの世界に来られないよう、これからアベルが開けた大穴を塞ぎ、完全に閉じる。….良いのかお前はこれで?」

お母さんは、我が子に問いかけた。
申し訳なさそうに。

「深雪と、お前が愛した少女と、最後の別れをしなくて良いのか?生き残った全ての『財団』はこれから地獄という別世界で、アベルをこの世界に来られないように抑制し、収容し続ける役目を負う。お前はもうこの世界には戻れない。世界は分断され、二度と交わらない。本当に良いのか?」

お母さんは少し、儚い表情になった。
たぶん、お母さんはいっぱい経験しているはずだ。
大事な人と二度と交わらない、その苦しみを、悲劇を。

「大丈夫です」

お兄ちゃんは初めて、お母さんに気恥ずかしそうに笑った。
そして、お母さんの頭にそっと手を添える。
誓うように。

「深雪さんなら、僕がいなくてもこの世界を充分歩めるはずです。深雪さんは本当に成長しました。僕は嬉しい限りですよ。それに僕にはやるべきことがありますからね」

覚悟をこめて、1人の大人として、宣言した。

「そうか、お前がそう言うならわしは何も言うまい….」

少し寂しそうに、お母さんを抱きしめ、お兄ちゃんは未だ閉じていない世界の接点を見据える、名残惜しげに。
その穴が閉じた瞬間。
『財団』と『人類』は。
『歴史』と『神話』は。
永遠に断たれる。
別れだ。

「深雪さんは絶対怒るかもしれないですね。でもそれは僕のせいです。だから僕は深雪さんの明日を、未来を、日常を守りぬいてみせます。それが僕のけじめです」

「時間じゃ….」

お母さんは息子の頬を優しく撫で、哀しみを少し肩代わりするように一粒の涙を零すと、顔をあげる。
その姿は、私が憧れた時の風格に似ている。
お母さんも役目を果たす。
財団として、1人の母親として
錫杖を叩き、門を閉じる。
『財団』との関わりが幕を引く、。
世界が終わる。
『財団』と人類は断たれ、二度と交わらない、永遠に。

「さようなら」

別れの言葉をお母さんは口にした。


























20██年、春。私の住む町に穏やかな春風が吹き、包みこむ。
そんな健やかで平和な町で、私は今日も生きていた。

「おや、深雪。ずいぶん遅いじゃないか?」

嫌味ったらしく、私の父親が言った。

「まったく、もう大人なんだから、しゃきっとしろ、しゃきっと。洗面台で顔でも洗って気合いを入れろ」

そんな小言を、垂れている。
私が住む家は、普通の一軒家だ。
どこにでもある、建て売り物件だ。
いまだ寝ぼけている私は、ゾンビみたいに「あ~」と情けない声をだしてお父さんに応える。
顔を洗い終えると、テーブルの上には焼いたばかりの食パンがお皿にのっており、別のお皿には目玉焼きがのっかっていた。
家事の大部分は、お父さんがやっている。
意外とこういうことは得意なのだ、やればできる人なのだ。
炒れたてのコーヒーが注がれたカップを私の目の前に差し出し、ため息をついた。
その年齢はもう若くはないが、見てくれはいい人なのでまるで俳優さんのような姿をしている。
痩せていて、長髪は後頭部へと結わえている。
エプロンを外し、ソファーに腰をかけ、コーヒを飲みながら朝刊を読んでいる。
その姿に威厳はない。
昔はどうだったかな?
ん?
……昔?

「……..?」

頭痛がして、こめかみにそっと指を添える。
昔の記憶がなくなっているのだ。
『財団』は世界を分別する直後、微細な記憶喪失を起こす薬品を散布したせいか、徐々に失っていこうとしている。
大事な人だった気が….
大切な思い出だった気が….
何とか忘れないようメモとして記録している。
そっちに集中したからか、私は就活はしていない。
自己欺瞞かもしれないが、大切なことだと、自分に言いきかせる。

「まったく、少しは成長したらどうだ。お前の友達は大手企業に就職しているんだぞ。見習え。お前は誰に似たんだか」

たぶんお父さんに似ているんだと思います。
そんな日常的?会話をしながら朝食を済ませた。

「寝癖が直ってないじゃないか、みっともない。その姿で外にでないでくれよ?」

「分かっているから、いい加減向こういってくれる?」

そう言って、私はお父さんに向かって睨んだ。

「それは叶わないな。お父さんはお前の父親であり、同棲だ。お前が隠れてあんなことやこんなことがないよう24時間監視するのが父親の役目!」

「うわぁー、きもっ」

私はお父さんに対して幻滅する。
毎日こんなのが続いてる。
その瞬間までは。

「ピンポンー」

誰かが呼び鈴を鳴らす。
ここはお父さんが行くはずだけど、今は私の服やらを洗濯していて忙しい。
仕方なく、私は玄関口を開けて呼び鈴を鳴らした人に会う。
そこにいたのは。

「久しぶりね、深雪」


「まったく、何ぼけっとしているのよ。もうちょっとリアクションしてもいいでしょう、このバカ」

開口一番、ここまで高飛車に振る舞える人物は、私は1人しかいない。
私の友人、姫城味佳枝だった。
彼女の姿は年相応に成長し、女優のような美貌である。
腰まである銀髪は、風で優麗に靡いている。
けど、その感じは過去の彼女によく似ている。

「姫城….」

何て返せばいいだろう。
私はただ立ち尽くすだけだった。
『財団』と『人類』が隔離を行い、ほとんどを忘れてしまったから。
最初は、私と姫城で暮らしていた。
当然、勝手にすべてを決めた『財団』に対して不満を抱いて、『住み分けた世界』に介入できないか研究をしていた。
私の大事な先輩、お兄ちゃんや他の人達と一緒に暮らしていくとそう考えた矢先のことだったのだから。
姫城は納得せず、異常存在がいる奇妙な世界を、取り戻そうとしている。
こんな、平穏すぎる楽園に姫城はうんざりしたのだ。
彼女は、平凡すぎる日常など求めてなかったのだ。
姫城はそのうち私に罵詈雑言をあびせるように、八つ当たりして、大喧嘩して、家を出ていった。
私だって哀しいし、先輩やお兄ちゃん、お母さんにも会いたい、けど私の無力さが分かった時には…..。
私は努力することを放棄したのだ。
せめて、先輩たちが託した『命』を無駄にはしないよう、健やかに生きていくと思ってしまったのだ。
姫城は私のことを幻滅して、どこかへ出奔した。
二度と会えないと思っていた。
けど…..。
3年半ぶりに、顔をみせたと思ったら、何をしているのだろう?

「まぁ、私はとことん諦めが悪いんでね」

女王のように傲慢に言うと、堂々と胸を張った。
そして、私に手を伸ばすように。
彼女は未来を見据えているのだろう。
自分の活力を同源として。
その生き様に寄り添い、勇気をくれたお陰で、私は何度も苦難を乗り越えられた。
私の理想の人物。
でも、『財団』の技術なしで、何ができるの?
犠牲になった先輩たちに泥を塗る行為じゃないの?

「はぁー、まったく。しけた面見せないでよね。一応ライバルなんだから」

この天国では、空虚な言葉を、姫城ははっきりと言った。
もう大人だよ。
夢物語みたいなことを言っても意味ないんだよ。
神も奇跡もない。
退屈で平和な世界で、私たちは生きるんだ。
項垂れて何も発しない私を、姫城は苛々と見ていた。
そして、私の目の前に数枚の用紙を誇らしげに見せた。

「これは私の手元にあった『財団』の技術レポートよ。懸命に復元したのよ!」

どうよ、と見せびらかす。

「私の周りの人達は『財団』のことは知らなかったけど、私の研究を手伝って、実験を進めて完成した。3年半かかったわよ、あー、青春楽しみたかったなぁ」

それはどんなに壮絶な努力だろうか。
私が諦め、泣き暮らしている中で、姫城は、意地になって抗ったのだ。
勝手に決めた平和な世界を、真っ向から否定したのだ。
それは姫城らしい生き様だった。

「理論上、三次元空間を発生させ、並行世界へ飛べる装置を完成できるはずよ!」

「もちろん、どんなトラブルがあるか分からない、並行世界に飛んだ瞬間に、現実性がなくなって私たちの体はバラバラになるかもしれない!でも諦めるほど私は物わかりがよくないのよ!」

姫城は何もかも気に食わないような表情で、私を睨みつける。

「深雪は、どうなのよ?」

そして、問う。
昔の『財団』の頃のように。

「これで良いと思うの?こんな結末でいいの?みんな幸せになりました、めでたし、めでたしって冗談じゃないわよ!」

そう言うと姫城は、顔を真っ赤にして怒鳴ったのだ。

「私は絶対に、許せない!認めない!こんな結末糞くらえよ!みんな幸せになりましたってのはあの人達も含めたことを指すのよ!これは、こんな結末じゃないは!」

そうだ。
私はあの人達と一緒に暮らしていたかった。
笑顔で一緒にいてほしかった。
それがハッピーエンド、私もそう思うよ。
でも、納得するしかない。
前向きに生きていくことが、私にできるすべてなんだ。
姫城は、ただ私を見ている。
結論を、待っているんだ。
自分で選ばなくちゃ。

「私は、これで良いと思うよ」

私は姫城のほうへ、歩みだす。
『財団』という組織に未練を残した、友のもとへ。
無限に広がる過酷で摩訶不思議な世界へと。
平穏な世界で、自分で歩む。

「私たちは、平和にこの世界で暮らしていく。それが私たちを支えてくれた人達が望んだこと。命を懸けてつくりあげた平和な未来。それは素直に受け入れるべきなんだ。私たちがそれを否定したら、あの人達の犠牲が無駄になるだけ。だから納得するしかないんだ」

けど。
私は全力で、心の本音をぶちまけた。

「そんなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

私は必死で主張した。
泣き叫び、駄々をこねる。

「こんなのこと、納得できるわけがないじゃん!こんなのハッピーエンドなんかじゃない!██さん、雲雀さん、彦名さん、巴、お母さん、お兄ちゃん!みんなに会いたいよ!一緒に楽しく暮らして生きたいよ!こんなのおせっかいだよ!平和も、幸福も、安寧も、全部いらない!寂しいよ….!」

姫城は、優しく微笑んで、抱きしめてくれた。

「そう….それでこそ、深雪よ」

姫城はそのまま、私をどこかへと導いてくれる。
もう少し、頑張ってみよう。
すべての未練を、鬱屈を晴らすために。
私たちは、再び物語を始める。
定められた幸せの道筋を外れ、平和な世界から旅立とう。
その先に、未来はないかもしれない。
けど、みんなのために。
明日のために。
本当のトゥルーエンドを迎えるために。
私は『財団』に進む。

特に明記しない限り、このページのコンテンツは次のライセンスの下にあります: Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License